仮面ライダーエクシズ   作:八咫ノ烏

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Twitterで「多分割と早く次回を投稿できると思います~」などと宣ってから一か月が経ちました。
いやもうホントにすいません。GW中に書きあがるやろ~と高を括っていたんですが、想像以上に筆が進まなくてですね。
結局いつものような間隔での更新になりました。反省はしてます。

あと今更ですが英語の部分は全部DeepLとかいう翻訳サイト使ってます。文法おかしくても気にしないでください。


ep.6 襲来せし者達

 レグルスの幹部たちが普段集まる部屋。そこで幹部一人とリーダーが向き合って話をしていた。

 

「は? ライダーを倒す計画?」

「そう。もう実行する直前だからアズが何を言おうが止められない」

 

 内容は数日前に決まったライダーを倒すという計画について。今にも殺し合いが始まるのではないかと思わせるほどに場の雰囲気は悪い。なにせアズにその情報は知らされておらず、そしてリーダー曰く決行日は今日なのだという。

 そのうえ彼らが立てた計画は稚拙そのもの。そんな状態で本当に仮面ライダーを倒せると思っているのか、という疑問が沸いてくるのも仕方がないだろう。

 

 アズは深い溜め息を吐き、

 

「何考えてんの? そんな行き当たりばったりなのが成功するわけないでしょ」

 

 と言い放つ。計画した三人は至って大真面目な計画なのだが、彼女からしてみれば仮面ライダーの力を舐めているとしか思えないようだ。

 呆れから手で顏を覆い、もう一度溜め息を吐き出すと顔を横に振った。

 

「ホントにあんたたちはもう……」

 

 もう何を言ってもどうにもならないことを理解したのか、問い詰めることをやめてただ呆れるだけ。

 アズのそんな様子を見てリーダーは不満げに鼻を鳴らして口を開いた。

 

「何もしないよりは良い。違う?」

「やるのは良いけどもう少しやり様があるでしょうに」

 

 アズはそう言いつつスマホを弄り出す。スマホの画面には他の幹部二人の現在地とギアの使用状況が表示されており、まだギアを使用していないことから戦闘に突入してはいないらしい。

 若干の安堵に胸を撫で下ろし、今ならまだやめさせることができるかもという考えがアズの脳裏に過ぎる。だがそれを察したリーダーはゆっくりと首を横に振って彼女をけん制した。

 

「言ったでしょ、無駄だって」

「はいはいわかってますよ。もう帰るわ」

 

 はぁ、と溜め息を一つ吐いてアズは部屋から出て行った。その背には苦労人特有の哀愁が漂っていた。

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 アストライア本部の談話室。そこではいつも以上に賑やかい状態であった。

 

「というわけでようやく新型ギアが完成したんだよ。いや~疲れた疲れた」

 

 理由は雪村が述べた通り、新型ギアの開発が完了したことである。数年かけてようやく終わったということもあり、雪村の顔は誇らしげな表情を浮かべていた。つい先ほどまで開発が完了するまでの紆余曲折を饒舌に語っていたほど、気分が高揚しているらしい。

 件のギアはアタッシュケースの中に納められた状態でテーブルの上に置かれていた。

 

「このギア、なんて名前にするんすか?」

 

 霧峰が頃合いを見計らって雪村に尋ねる。先ほどまで饒舌に語りまくっていた雪村だが、彼女は一度もギアの名前を呼んでおらず、ずっと新型ギアと言っていたため気になるのも当たり前だろう。

 それに続く形で篠崎が

 

「どのような武装があるんだ。そこも教えろ」

 

 と言う。語っていたのは開発の苦労話だけで、肝心なことを何も話していないのだ。

 それに気が付いた雪村はあぁ、と声を出す。話すのをすっかり忘れていたのだろう。にやりと口角を上げると新型ギアの名を彼らに告げる。

 

「アカツキギア。それがこのギアの名前。武装は……まあ、概ね中近距離戦に強いものになってるよ」

「詳細は教えてくれないのか」

「今言ってもどうしようもないでしょ。使える人いなけりゃ意味無いし」

 

 篠崎の言葉をばっさりと切ってギアとカードをケースから取り出した。雪村が触ってもカードに反応はなし。資格者二人に触らせてもうんともすんとも言わない。

 雪村は次いで篠崎に渡そうとしたが、彼は受け取ることを拒否した。認められないのが目に見えてわかっているからやっても無意味だと言う。

 

 そんな彼の様子に若干の気まずさを覚えた雪村はわざとらしく声を張り、

 

「いや~相変わらず私を認めてくれないね。これでも結構運動もできるし強い方ではあると思うんだけど」

 

 認められる条件は強さじゃないんだろうね、と続けてカードを見つめる。条件がわからないというのは、資格者を探す上でやはり面倒極まりない。これは蒼樹だけでなく霧峰もそうなのだが、資格者を見つけることが出来たのは全て偶然に過ぎない。

 

 蒼樹はたまたまエクシズギアが手元に渡ってきたから。霧峰も似たような状況で判明した。

 ならアカツキギアはどうだろうか。

 

「二度あることは三度あるとは言うけど……」

「見つかる保証などどこにもない。むしろ三度目の正直というやつで見つからないパターンかもしれないぞ」

「やめてよ縁起でもない!」

 

 雪村は珍しく冗談を言った篠崎の背中を叩く。だが篠崎の言うことも間違いではない。むしろこの二人を見つけ出せたことの方がおかしいのだ。

 それを重々承知している雪村はそれ以上篠崎を責めることはなく、

 

「ん~、誰に持っててもらおうかな」

 

 と話を戻す。一旦はアストライアの職員に回すことになるのだが、その後どうするかという問題だ。今までは襲われる確率が低く、一般人との接触が比較的多い医療班に託していた。だが一度レグルスの構成員にバレている以上その手はもう使えない。

 

 しかし、だからといって本部に保管しておいても意味がない。

 

「どうしようかなぁ~」

「そんなことは後で考えたら良いだろう」

 

 冷静にそう返す篠崎に雪村は少し苦笑した。確かに彼の言う通りではあるのだが、面倒なことは早めに決めておくに越したことはない。

 ふむ、と顎に手を当てて彼女は再び思案を巡らせ始めた。その様子を見て篠崎はしばらく放置することを決心したが、時計を見るやその決心はゴミ箱行きになる。

 

「雪村、お前そろそろ時間がマズいんじゃないか?」

「あれま、ホントだ」

「相手は警察のえらいさんと知事なんだからしっかりしてくれ。遅れようものなら資金が底をつくことだってあり得るんだぞ」

 

 てへぺろ、などと言いそうな雪村に対して注意する篠崎。その言葉に蒼樹は一つの疑問を頭に浮かべて首を捻った。

 

「警察はともかく、知事と会って何するんですか?」

 

 警察はまだわかる。篠崎が留置場に行っていたり、撃破したトレイターの中身を引き渡したりとそれなりに関係があるし会う理由もある。だが、恵九味市の知事と会って何をするのか想像がつかない。

 その問いに雪村は端的に答えを返す。

 

「ん~、一言で言うなら資金調達かな」

「資金調達……」

 

 オウム返しした蒼樹に頷き、雪村は話を続ける。

 

「ここのお給料とか研究費、私のポケットマネーからだしてるわけじゃなくて国から出てるんだよ。国を巻き込んで存在を秘匿してるだけで、うちって一応公共事業みたいな感じだからさ」

「それでこれにいくつ費やした、だとか人件費だとかを知事に報告してその分の資金をもらう。そのために知事に会わなくてはならないんだ」

 

 篠崎の補足説明に納得して首を縦に振る蒼樹。まさか活動費が国から出ていたとは思ってもいなかったのだろう。少し目を見開いている。

 それを見た雪村は満足そうに頷くと、椅子にかけてあった純白のコートを羽織って椅子から立ち上がった。

 

「じゃ、そういうわけだから私いない間は頼んだよ篠崎」

「言われなくともわかっている」

「そう言うと思ったよ」

 

 手をひらりと振って部屋から出て行った。篠崎はそれを横目で見送ると、ギアの入ったケースを手に取ってゆっくりと立ち上がる。職員へギアを回すつもりなのだろう。

 

 しかしそんな彼の思惑は邪魔されることになる。

 

「……トレイターが出たっぽいすね」

 

 鳴り響く警報音。出鼻を挫かれた形になった篠崎は少し肩を落とす。彼はこういうときにいつも邪魔をしてくる、と言いたくなるのを必死に堪え、

 

「……さっさと向かうとしようか」

 

 と言ってケースを手に提げたまま部屋から飛び出していく。その背を追って霧峰と蒼樹の二人も部屋を後にした。

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 今日はなんとか平和に終わってほしかったが、どうやらそうもいかないらしい。今は車に揺られて現場へ向かっている最中だ。

 通報の内容はというと、概ね中学生くらいの男の子が刀を持った化け物に襲われている、というものだった。十中八九トレイターの仕業だろうし、そうでなくともアストライアに回された以上は対応しなくてはならない。

 

 隣に座る霧峰さんはどうやらそこに少し不満があるようで、にしても、と呟くと口を尖らせた。

 

「もしこれがただの刀持っただけの一般人とかだったらクソ怖くないすか? もしそうなら相手する義理もないし俺帰りたいんすけど」

 

 霧峰さんの言う通り、アストライアはトレイターに対抗するためだけに設立された組織であり、ただの人間を相手する義理などどこにもない。

 しかし、一つ気になるところがある。

 

「そんなもんよりよっぽど怖い連中と戦ってきてるのに何をいまさら一般人を怖がってるんだ」

 

 僕の気持ちを篠崎さんが代弁してくれた。トレイターと一般人どちらが怖いかと聞かれれば、僕は迷わずに前者を選ぶ。幸い僕には対抗手段があるとはいえ、とてもこの世の物とは思えない姿をした化け物はいつ見ても命の危機を感じる。

 

 しかし霧峰さんはそうではないようで、コーヒーをグイっと飲み下すと口を開いた。

 

「だって一般人相手に変身してぶっ飛ばすとかやったらマズいじゃないすか。嫌っすよ生身でそんな気の狂った人の相手するの」

「……確かに」

 

 思わず納得して首を縦に振ってしまった。トレイターであれば変身して容赦なく叩きのめすことができる。だが相手がただの一般人であれば変身することを許されないだろう。

 見た目からして強そうな篠崎さんや戦い慣れている霧峰さんはともかく、僕が生身で戦おうものならあっさりと殺されて終わりだ。そう考えると一般人の方が怖い気がしてきた。

 

「喜べ霧峰。目の前にいるのは一般人じゃなくてトレイターだぞ」

 

 おもむろに篠崎さんがそんなことを言ってブレーキを踏み始めた。車の先をよく見ると刀を持った化け物と、それに怯えているように見える少年の姿があった。

 通報通りの様子だ。そんなことを考えながらギアを取り出してカードを先に挿入する。

 

《EXCEED system stand by!!》

 

 数日振りに聞く音声。この間は到着する前に全部終わってしまっていたから、今回こそはちゃんと役に立ちたい。

 そんな決意を胸に秘めて、停止した車内から外へ飛び出す。まだ少年は襲われていなかったようで、トレイターの前に震えて蹲っていた。

 

「やめなよ。そんないたいけない子を襲うなんて大人げない」

 

 今まで聞いたことのないくらい低い声を出してトレイターを諫める霧峰さん。チラリとその横顔を見て僕は確信した。

 確実に怒っている。それもガチギレと言われる類の怒り方だ。

 

「俺が何しようと勝手だろうがよ。殺されたくなきゃ引っ込んでな」

 

 トレイターはその怒りを煽るように手を払い、僕らに失せるようジェスチャーした。そんなことをされて僕らが引き下がるわけもなく、霧峰さんは一歩前に踏み出して

 

「お前みたいな外道の言うことを聞く道理なんてどこにもないね」

 

 と言い返し、ギアを腰に当てる。絶対に許さない、と言い出しそうな雰囲気すらある彼は、今まで聞いてきた中で一番大きな声で、いつもの二文字を叫ぶ。

 

「変身ッ!!」

《Ok! Drive The EXCEED system! Its bullets pierce even the darkness》

 

 黒い装甲を身に纏い、地面を蹴るとトレイターに殴り掛かった。トレイターの標的は少年からグリントに移ったようで、刀を構えるとすぐさまそれを横一文字に振り払った。

 少年と少しだけ距離が離れた。その隙を狙って僕は少年の元に駆け寄り、彼の手を取って車の方へ走る。

 

「大丈夫? 怪我してない?」

 

 そんなことを言いながら体の状態を目視で確認する。どうやら傷一つないようで、血が出ているところも打撲した箇所も見受けられなかった。ひとまず安心、と行きたかった。

 

 だが、一つ違和感が引っ掛かってそうもいかなかった。

 

「傷一つない……」

 

 襲われたにしては体が綺麗すぎる。打ち身やら擦り傷やら、なにか一つくらいはあって当然だ。

 おかしい。絶対におかしい。何か嫌な予感がする。

 

「お前、エクシズだな?」

「え?」

 

 少年の問いかけに驚いて体を硬直させる。

 なぜ彼がエクシズの存在を知っているんだ。困惑と疑問に満ちた僕の頭。どうして彼が知っているのだろうと推察しようとしたとき、急な衝撃が僕の鳩尾を襲った。

 

「グゥッ……!?」

 

 視線を反射的に鳩尾にやると、少年の握り拳が突き刺さっていた。それを見た瞬間に彼がエクシズを知っている理由がわかった。

 

「君、もしかして……ッ!!」

 

 そう言うのと同時に少年を力の限り突き飛ばす。あのまま密着させていたら殺されていたかもしれない。

 少年は数回地面を転がると、僕を鋭く睨みつけてきた。

 

「僕から自由を奪うようなやつなんか死んじまえ!!」

 

 憎悪と憤怒がごちゃ混ぜになったような目。あんな幼い子が──僕とそこまで歳は変わらないだろうけれどそれは置いておいて──どういう風に過ごせばこんな目をするようになるんだろうか。

 そんなことを考えつつ彼の行動を注視していると、彼は懐から何かギアのような物を取り出した。僕の思考は間違っていなかったらしい。

 

「トレイターか……!!」

「違う!! あんな格下の雑魚と同じにするな!!」

 

 否定されてしまった。トレイターを雑魚呼ばわりするということは、まさか。嫌な方にばかり思考が向く。

 どうかその悪い考えの方でないことをいるのかどうかわからない神に祈ったが、残念なことに今回はその残念な方で合っていたようだ。

 

「僕はレグルス幹部が一人、ロバストだ!! 壊崩(かいほう)!!」

《Drive RESONANCE System》

 

 歪んだ音声が辺りに響き、ギアからどす黒い鎖のようなものが何本も出現して少年の体に巻き付いていく。

 

《The one who has been freed from every spell. It is a robust giant who seeks freedom》

 

 やがて全身が鎖に覆われ、それが破壊されることで彼の装甲が露わになった。

 

「巨人だ……」

 

 正しく巨人。その全身が血管が浮き出た筋肉のような見た目をした赤黒い鎧に覆われている。背丈も元の少年の1.5倍ほどまで伸びている。大体200㎝くらいだろうか。

 

「……もしかしてこの前のハンマー使いって」

 

 特徴となる大きなハンマーこそ持っていないが、以前三人で探し回ったトレイターの情報と酷似している。随分と時間が経ったけれど、見つけることが出来て良かった。

 問題は僕が勝てるかどうか。なんとなくだが少年が言っていた通り、普通のトレイターとは格が違う気がする。下手をすれば勝てない可能性すらある。

 

 それでも。

 

「ここで逃げるわけにはいかないんだ」

 

 そう自分に言い聞かせてギアを腰に当て、ベルトが巻き付くや否や変身シークエンスを実行する。

 

「変身!!」

《Ok! Drive The EXCEED system! Defeat the enemy and open a path of life》

 

 白い光が僕に纏わりつき、装甲と化した。少し息を吐き、拳を握り締める。

 

 巨人が僕に接近してきたのを皮切りに、僕と巨人の戦闘は幕を開けた。

 先手必勝。心の中でそう呟いて拳を握り締め、力の限りその巨人の胸板に叩き付けた。

 

 硬い。効いている気が全くしない。動揺が走ったがそれで攻撃の手を止めてはいけないと本能が叫び、それに従って何度も何度も殴りつける。

 

 しかし巨人は微動だにしなかった。サァっと血の気が引いていくのがわかる。

 

「こんなくらいなんだ、エクシズって。今までビビッて手を出さなかったのがバカみたいに思えてきた」

 

 巨人は僕を見下ろすとそう吐き捨てた。明らかにヤバい状況に置かれている。

 あの言い方からして全く攻撃が通用していないと考えるのが自然だろう。つまり、今の僕に反撃能力は皆無。

 

 どうすればいい。どうすれば相手に有効打を与えることができるだろうか。

 

「クソッ……!!」

 

 悪態をつきながら剣を抜き、即座に巨人に斬撃を加える。派手に火花が飛び散り、しかし効いているようには見えない。

 本当にマズい。でもまだ手はある。

 

《OK!! Exceeds!! OverDrive!!》

「これで……ッ!!」

 

 一縷の望みに賭け、眩い光を発した剣を全力で振り抜いた。いくら普通の攻撃が効かずとも、この攻撃は流石に通用するだろう。

 

 そんな僕の浅い考えを砕くかのように、剣が砕け散った。エネルギーの塊なのに砕け散ることがあるかはわからないが、そう表現する他なかった。

 

「ねえ、もう良い?」

 

 心底鬱陶しそうな声で僕に告げ、巨人はその拳を握り締める。

 それを見て理性と本能がここから逃げろと一気に騒ぎ立てた。殴られたらただでは済まない、と。勝てるわけがないと。

 

 久々に感じた命の危険。逃げるか否か、その判断に迷ったせいでわずかに固まってしまった。

 

 どうやらそれが命取りらしかったことに気が付くのは、戦いが終わった後の話だった。

 

「死んで」

 

 冷酷な言葉と共に繰り出されたパンチを、僕はもろに食らってしまった。一瞬視界が歪み、遅れて痛みが僕の体を襲ってくる。

 それに耐えられず、思わず体を二つに折り空気を求めて喘ぐ。先の一撃で肺にあった空気をかなり吐き出してしまったようだ。

 

 そんな僕を巨人は睥睨し、ガシッと胸元を掴むと僕を持ち上げた。顏を近づけて威圧しながら、彼は口を開く。

 

「そんなので僕を倒せるわけないだろ。言ったろ、雑魚と一緒にするなって」

「君、は……なんでレグルスなんかに……」

 

 なんとか言葉を絞り出した。どうしてこんな子供がレグルスに、それも幹部なんかをやっているんだ。想像することすらできない。

 どうやら彼は僕の質問に答える気はないらしく、鼻を鳴らしてから膝蹴りを食らわせて僕を吹っ飛ばした。

 

 受け身をろくに取ることもできずに地面に激突し、何度か地面を転がる。止まったところでなんとか立ちあがることができたのは良いが、限界が近いせいか膝が笑ってしまっている。

 変身が解除されていないのは幸いだ。しかしこれもいつまで保ってくれるかわからない。

 

 逃げなければ。

 

 脳裏にその一言が浮かび、必死に逃げようと試みる。だが、当然のことながら膝が笑っているやつが歩くよりも普通に歩くことができるやつの方が早い。

 鎧の擦れる音を発しながら巨人は僕に近づいてくる。その肩には巨大なハンマーを担いでいた。やはりこの間のハンマー使いというのはこの巨人のことだったようだ。

 

「これで終わらせてやる!!」

 

 その巨人はハンマーを腰だめに構え、一歩力強く踏み込むとそれを僕に向けて振るってきた。体の左側に凄まじい衝撃を感じた直後、近くにあった民家の塀に激突。

 変身が解け、ギアが地面に転がるのを視界の端に捉えたのを最後に、僕は限界を迎えて意識を手放した。

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 想定していた中で最も最悪の事態だ。車の中で篠崎はそう呟いて戦いの様子を見つめていた。

 

 エクシズの攻撃は通じておらず、グリントもなんとか食らいついているがそれもいつ崩れてしまうかわからない。

 それでいて向こうの攻撃の威力は強大だ。一発一発が命取りになる危険性を秘めている。

 

「クソッ……なぜ俺は何もできないんだ……!!」

 

 苛立ちのあまり拳を強く握り締め、それを衝動的にハンドルにぶつけた。あの二人が必死に戦っているというのに、今の彼には車から飛び出して巨人と刀を持ったトレイターと戦う、なんてことはできない。そんなことをすれば一瞬で殺されてしまうことだろう。

 

 彼らをこの戦いに巻き込んだというのに、自分は安全地帯から眺めることしかできない。

 その事実に対する自責の念と苛立ちに苛まれている彼の耳に、凄まじい轟音が届いた。

 

 何事かと音がした方向へ目を向けると、土煙が舞っていた。その手前にはハンマーを振り抜いた姿勢で残心する巨人の姿が。

 

「……まさか」

 

 彼の頭に浮かぶ悪い想像。それが外れていることを祈りながら土煙が晴れるのを待つ。

 しかし彼の祈りは届くことはなく。土煙が晴れた中に、変身が解かれた状態の蒼樹が力なく横たわっていた。

 

「月宮!!」

 

 思わず叫び、勢いのままに車から飛び出そうとした。ドアを開ける直前で、彼の理性が今ここで行っても犠牲が一人増えるだけだと訴えかけたために未遂で終わったが。

 

 グリントも蒼樹が気絶していることに気が付いたのか、巨人に銃撃を加えて彼の気を引く。

 時間稼ぎをしている間に回収してくれ。視線でそう訴えられたように感じた篠崎は、車から出るタイミングを見計らう。

 

「……そういえば忘れていたな」

 

 アカツキギアを持ってきたことをすっかり失念していたらしい。自分が認められるとは思っていないが、状況が状況だ。試す価値は十二分にあるだろう。

 その考えに至った瞬間に彼はケースの鍵を開け、ギアとカードを手に取った。

 

 無情にも全く反応しなかったが。

 

「なぜだ……!!」

 

 この瞬間だけでもいいから使わせてくれ。そう言いたくなったが、しかし認めてくれなかったのは事実。これ以上何をやっても変わることがないことをよく知っている彼はその言葉をなんとか押し留める。

 

 今の彼に出来るのは、なんとかして蒼樹を車に乗せて離脱すること。少しのミスが命取りになるこの状況で、余計な事など考えている暇などないのだ。

 気付かれないよう静かにドアを開け、車からそろりと降りると素早く蒼樹の元へ駆け寄った。

 

「……単に気絶しただけなのが救いだな」

 

 蒼樹の口元に手をやり、息があることに安堵したのか篠崎は胸を撫で下ろした。そのまま急いで彼を担ぎ上げ、近くに転がっていたギアを回収すると急いで車の方へと戻っていく。

 

「撤退するぞ霧峰!!」

 

 蒼樹を車に放り込み、運転席へと座ると霧峰に向けて叫ぶ。もはや彼らに勝機などなく、これ以上戦わせても無意味であることがわかりきっている。

 それを理解している霧峰は首を縦に振ると、手早くギアを操作する。

 

《OK!! Glint!! OverDrive!!》

「じゃ、待たね!!」

 

 銃口を地面に向けて引き金を引く。超高出力エネルギーが地面に激突し、先ほどの比にならないほどの土煙が辺り一帯を覆う。

 

 巨人と刀持ちのトレイターは土煙の中で蒼樹とグリントの姿を探すが、それらが晴れる頃にはライダー二人の姿はなくなっていた。

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 ふらふらとした足取りで家に向かう。あの後、気が付いたらアストライアの医務室で寝かされていた。篠崎さんと霧峰さんが体を張って僕を助けてくれたらしい。

 あまり目立った外傷がないこと、軽く検査したけれど内臓の損傷などもないことから入院する羽目にはならなかったのが救いだろうか。ギアも手元に戻ってきたし、一応はまだ戦える。

 

「……全く歯が立たなかったな」

 

 今思い出しても寒気がする。あそこまで攻撃が通らないなんて思ってもいなかった。そのことを雪村さんに話すと、ギアの調整をしなければならないかもと言っていた。

 曰く、今のギアの出力はかなり抑えている状態なんだという。数値で言い表すのなら10%くらいらしい。なんで出力を抑えたのかはわからないが、きっと何か理由があるはずだ。そう思って理由を聞くことはしなかった。

 

「にしてもあの子どこかで見たことある気がするんだけど……」

 

 どこで見たんだったか。まるで思い出せないが、確実にどこかで見たことがあるはずだ。それは篠崎さんたちも同じようで、少し調べてみるとのことだった。貧弱な僕の頭の記憶から探すよりもあの人たちに任せた方が早いからその通りにしたが、それにしても気になる。

 

 家の鍵を開け、中に入る。難しいことを考えるのはもう止めよう。疲れたし、ちゃんと休憩したい。

 

「……ただいま、姉さん」

「あ~いおかえり~」

 

 ソファに横になる気満々だったけれど、紅羽姉さんが横になっているのを見て諦めた。どいてくれと言ってどいてくれるような人じゃないのは今までの経験でよくわかっている。

 姉さんはチラリと僕を見ると、一瞬だけ苦々しい表情を浮かべた。どうしてそんな表情を浮かべたのかを聞く前にその表情は引っ込んでいって、いつも浮かべている気だるげな表情へ戻っていく。

 

「母さんは?」

 

 代わりにそんな疑問を口にする。そういえば玄関に靴がなく、車もなかった。どこに行ったのだろうか。

 

「買い物に行ってるっぽい」

「昨日行ったばっかなのに?」

「なんか色々買い忘れてたのが出たーとか言ってたよ。よくわかんないけど」

 

 あまり似ていない声真似をして肩を竦める。なんともまあ母さんらしい理由だ。

 そんなことを考えながら椅子に座り込んで一息つく。本当に疲れた。戦った後は大抵とても疲れるし体がキツいけれど、今回はその比ではない。

 

 久々に感じた死の恐怖も相まって肉体的にも精神的にも、凄まじく疲弊している気がする。これが何日も尾を引かなければいいのだが。

 精神的なものはともかく、肉体的な疲弊が尾を引くと支障しかない。

 

 色々と考え事をしていると、耳にいきなり雑音が入ってきた。なんだと思い目を上げると、さっきまでついていなかったテレビが光と音を発していた。どうやら姉がつけたらしい。

 僕もその画面をぽけーっと眺める。別に好きなテレビ番組があるわけでもないし、今姉が見ているのはニュース番組だから面白みなんて全くない。けど暗いことを考えるよりは断然良いように思えた。

 

『次のニュースです。数年前に行方不明となった……』

「まだ見つかってなかったんだ」

 

 思わずそう呟いた。数年前、この市に住んでいた小学生の男の子が行方不明になったとして大きな騒ぎになったことがあるのだ。それも一年か二年も経てばそんな事件もあったね、くらいに落ち着いてしまったのだが。

 まさかまだ見つかっていなかったとは思わなかった。

 

「これだけ見つからないってことは、もう……」

 

 死んでいるんじゃないか。そう言おうとして口を噤む。家族の方がまだ必死に探しているのを知っているのにそんなことを言ってしまえるほど、僕は無遠慮な人間じゃない。

 

『悠真くんは当時小学五年生で……』

「……ん?」

 

 画面に映された悠真くんという子の写真を見て、僕は強い既視感を覚える。街中での張り紙や配布されたチラシなど、既視感を覚える要因は多分にあったがおそらくそれではない。

 

「この顔って、もしかして……」

「どしたの急に。もしかしてどっかで会った?」

 

 鋭い姉の指摘。僕はそれを苦しい言い逃れでなんとか躱し、友人と電話をするという体で自室に逃げ込んだ。

 

 あの顔。ついさっき見たばかりだ。

 

「巨人の子なんじゃ……」

 

 僕をボコボコにしてきたあの子。他人の空似というには顔つきがあまりにも似すぎている。

 そして僕の考えを遮るかのように、篠崎さんから電話がかかってきた。急いで電話に出て、そのことを話そうと口を開く。

 

『あの巨人もどきの正体がわかった。ついでにあの刀使いの正体も』

「刀使いの方も!?」

 

 思わず驚いて大きな声を出してしまった。姉さんに聞かれていないといいが、なんてことを考えている僕に篠崎さんは巨人の正体を告げる。

 

『巨人の方は清水悠真。知っているだろうが数年前に行方不明となった子供だ』

「やっぱり……」

『気付いていたのか?』

 

 篠崎さんの言葉に僕は首を横に振り、ニュースでたまたま悠真くんのことをやっていたと伝える。首を横に振ったとしても向こうに伝わらないことを思い出すのはもう少し後の話。

 篠崎さんはその返事にふむ、とだけ返してきた。きっとそんな偶然もあるのか、なんてことを考えているのだろう。

 

『それで刀使いの方だが、奴は五十嵐恭一。こちらも聞き覚えがあるかもしれんが、全国あちこちで人を惨殺している指名手配犯だ』

 

 その名を聞いて僕は気が遠くなるのを感じた。

 どうやら、レグルスという組織は思っていた数倍はとんでもない組織らしかった。




Chapter0《Tempestuous Prelude》完

次回→積もる疑問 Next Chapter《Grievous Desire》開幕
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