そしてずっと書きたかった話が書けました。わ~い(二度目)。
てな感じで最新話です。どうぞ〜。
唐突な話だけれど、僕には紅羽という六歳年上の姉さんがいる。誕生日は今から四ヶ月後の九月。まだだいぶ先の事だ。
どうして突然こんな話をしたのか。全ての理由は、今僕の隣に立っている好青年にある。
「すみませんね、プレゼント選びに付き合ってもらって」
「いえ、僕も暇を持て余していたので」
適当に言葉を返し、颯貴さんの顔を見る。彼の表情はとても穏やかで、このショッピングを楽しんでいるように見えた。
そう。僕は今、颯貴さんの頼みで姉さんの誕生日プレゼント選びに付き合っているのだ。別にショッピングくらいならいくらでも付き合うが、なぜ四ヶ月も先なのに姉さんの誕生日プレゼントを選ぼうと思っているのだろうか。その疑問は誘われたときに解消された。
曰く、
「日が迫っているからと適当に選んだ物を渡すより、前々から買ってあった物を渡した方が誠実でしょう? 大事なゼミ仲間ですから、そういうところはしっかりとしておきたいんです」
との事だ。なんともしっかり者の颯貴さんらしい理由である。どこぞの伊月とかいうバカ野郎とは大違いだ。
そうなれば僕に断る理由はなく──そもそも最初から断る気はなかったが──その頼みを快諾し、今に至るというわけだ。
「蒼樹くんも何か欲しいものがあれば買ってあげますから。お昼も私が奢りますし」
「いいですよそんな……。お昼くらい自分で払いますよ」
「付き合っていただいているんですからこれくらいはさせてください」
暖簾に腕押しとはこのことだろうか。なんとしてでもお金を払ってやるという硬い意思を感じる。正直ありがたいと思っている自分がいるのも確かだけれど、少し申し訳なさを感じてしまう。
多分何を言っても無駄だろう。そう判断した僕は、早いところプレゼントを選びましょうと話題を強引に変えることで乗り切った。
とはいえ、僕も人にプレゼントを贈るときにどういった物を選べばいいのかわからない。相手が姉だとしても、今まで贈ったプレゼントらしいプレゼントなんて思い返しても「おめでとう」の言葉くらいな気がする。逆も然りで、僕ら姉弟には互いにプレゼントを贈る慣習など存在していないのだ。
好みはざっくり把握しているとはいえ、少し不安ではある。
そうして内心大丈夫だろうかと心配する僕を横目に、颯貴さんはショッピングモールにある店の一覧を眺めながら提案する。
「ネックレスはどうでしょう? それなりにおしゃれなものを渡せば喜んでいただけるかと思うのですが」
「う~ん……どうだろう……」
微妙な反応を返す。何かネックレスを渡す行為に含まれた意味があった気がしなくもないが、そこは問題じゃない。問題は値段である。あまり高すぎるものを渡しても、余計な気を使わせてしまうだけな気がする。
「値段にもよると思います。あまり高すぎるものを渡しても気を使わせるだけだろうし……」
「ふむ……、それも一理ありますね。服は好みもサイズも知りませんしファッション系は無しですか」
「いや、無しとまでは言いませんけど……。ネックレスとかピアスみたいな小物ならともかく、服とかはやめておくのが安牌なんじゃないかなって」
ファッション以外だと何があるだろうか。安直だけどコップだとかペンのような、日常生活で使う物が良いんじゃないだろうか。値段的にもそこまで高くないものばかりだろうし、気を使わせることもない。
そう提案すると颯貴さんはふんわりと笑いながら
「ではゆっくりと見て回りましょう。幸い時間はありますから」
と言って歩き出す。僕はその背を追って少しだけ走った。
▽▽▽▽▽
そんな調子でショッピングモールを一周した。無しだと判断した服も結局は見に行ったし、コップやペンなども見に行った。
正直かなり楽しかった。どこかのバカと違って急に走り出すこともなければ、迷子になることもないから無駄に気を張らなくて済むというのもありがたい。
「たまには体に悪いものを食べるのも悪くはないですね」
ハンバーガーを頬張りながらそんなことを宣う颯貴さん。今は時間がそこそこ良い時間になったから、フードコートに寄って昼ご飯を食べているところだ。
しかしハンバーガーを食べるだけでそんなしみじみと言うようなものなのだろうか。
「ハンバーガーでそんなこと言うって普段何食べてるんです?」
「まあ栄養バランスの良い食事を……。伊月の弁当は母が作ったものなので知りませんけれどね」
伊月の弁当を思い出す。言われてみれば確かに、実際にはどうだかわからないけれどバランスの良さそうなメニューが多かった。となればこんな食べ物を食べる機会が少ないのだろう。
「それにしても良い買い物をしましたね」
そう言いながら紅羽姉さんへのプレゼントに視線を向ける。結局颯貴さんが買ったのは、最初に僕が止めておいた方が良いと言ったネックレスだった。
「出費はそこそこ痛いですが一応は予算の範疇に収まっていますし、デザインも悪くない。きっと喜んでいただけることでしょう」
買ったのは可愛らしい羽の根本の部分に赤い宝石のような何かが埋め込まれているだけの、割りとシンプルなデザインのものだった。選んだ理由としては赤い石と羽根で紅羽さんにぴったりではないですか、とのことらしい。
颯貴さんがニコニコと笑顔を浮かべながら会計をしている間にネックレスをプレゼントする意味を調べたところ、「あなたと一緒にいたい」だとか「あなたは私だけのもの」だとかそういう方面のものばかり出てきてしまった。
多分颯貴さんも姉さんもそんなことを知らないだろうから黙っていても問題はないだろう。というか言ったら選び直す羽目になりそうだ。そう思って黙っていることにした。
僕がそんなことを考えているとは知らないだろう颯貴さんは、口元についたケチャップを手で拭うとこんなことを言い出した。
「そういえば伊月は学校でどうしていますか? あまり迷惑をかけているようでしたら私から言っておきますので遠慮なく教えてください」
兄としてちゃんとしておきたい、という考えが見て取れる。しっかり者の颯貴さんらしい。
しかし颯貴さんが危惧しているほど、迷惑しているという感覚はない。
「どうって言われてもまあ普通に授業受けてたまにバカやってるくらいで、迷惑だとは思いませんよ。ちっちゃい頃からの付き合いだし今更でしょう」
迷惑らしい迷惑と言ってもときたま伊月がバカをやって僕がそれに巻き込まれる程度で、基本的には常識がある奴だから本気で絶交してやろうかと思ったことはない。一緒にいて楽しいし、何より退屈しないから友人としてはかなり好感度が高い。それはそれとしてムカつくことも多々あるけど。
そう颯貴さんに伝えると、彼は嬉しそうに顔を綻ばせながら
「あんなバカと仲良くしていただけて兄としては嬉しい限りです」
と言ってハンバーガーの残りを一気に口へと放り込んだ。そこからしばらく無言のまま、口を動かす。
先に口を開き、静寂を破ったのは颯貴さんだった。
「最近伊月が変なことを言っていまして」
「変なこと?」
「えぇ」
短く肯定し、小さく息を吐いて僕の方を見る。あいつが言いそうな変なこと、と言えば噂話だろうか。誰と誰が好きだ、みたいな。颯貴さん関係だと思いつくのは颯貴さんと姉さんの間に恋愛的な関係がある、とかだろうか。
颯貴さんから出た答えは、そんな僕の予想とは全く違うものだった。
「なんでも膝を怪我したのは化け物に襲われたから、なのだとか」
「そう、なんですね」
ぎこちない返事になっていないだろうか。少し不安になりながらポテトを二本、口に放り込んだ。
そういえば、久留家で襲われたときのことをあれこれと言いふらしている可能性をすっかり忘れていた。あいつにとっては真実だとしても、事情を知らない颯貴さんたち家族からしてみれば妄言をあれこれと言っているだけに過ぎないように感じるだろう。
だとすれば、確かに颯貴さんからしたら変なことを言っているとなるのも仕方ない。誰だって化け物に襲われて怪我したという話なんて信じないだろう。
「確かあの日はここで爆発騒ぎがあったはずですし、私たちに余計な心配をかけないためにそんなくだらないことを言っているのかと思っていたのですが……。しかし伊月の様子を見ていると、どうも嘘を吐いているようには見えないんですよね」
そこで言葉を切って僕を見つめてくる。その視線はやはりいつもの軟らかく優しいもののはずなのにどこか鋭さが感じられる。何か詰め寄られているような、そんな感覚すらする。
どうしてそう感じるのだろうかと内心で首を捻る僕に、颯貴さんは再び口を開いた。
「あぁ、そういえば最近近所の公園で爆発騒ぎがありましたね」
「みたいですね。ゆっくり昼寝してたのに起こされちゃいましたよ」
慎重に言葉を選び、違和感を抱かせないよう紡ぐ。どうして伊月の話からいきなり前の爆発……というよりトレイター騒ぎの話に話題を変えたのだろうか。
なんだろう。妙に嫌な予感がする。
背筋に冷や汗を垂らしている僕に、颯貴さんはとんでもないことを言い放った。
「おかしいですね……。蒼樹くんはあの時間、公園にいたはずですよね?」
ぞわりと全身の毛が逆立つような感覚がした。
まさか見られていたのだろうか。よりにもよって颯貴さんに。もしかして今日僕を誘った本当の目的は僕とその爆発騒ぎの関係を聞き出すためだったりするのだろうか。
だとすれば、その誘いに乗った時点で僕の立場はあまりにも悪い。しかし、だからといって素直にはいそうです戦ってたんです、なんてことを言うわけにはいかない。なんとかして誤魔化さなければ。
「気のせいじゃないですか?」
なんとか声を震わせることなくそう言った。しかし颯貴さんはそれをあっさりと否定してみせる。
「まさか。付き合いの浅いゼミ仲間ならともかく、小さい頃から知っている蒼樹くんを見知らぬ誰かと見違えるわけがないでしょう?」
説得力の塊だ。僕だってまさか颯貴さんが僕や伊月を見知らぬ誰かと見間違えるなんて思えない。そう言いたくなるのを我慢し、
「人は間違える生き物ですよ。たまには間違えることだってあるでしょう」
と、それっぽい言葉を返す。しかし颯貴さんは驚くべき事に僕の姉さんから証言を得ていたらしい。
「紅羽さんから爆発が起こる前に家を飛び出していったという話を聞いていますが、彼女の言ったことは嘘だったというわけですかね?」
なんてことを言ってきた。僕は思わず項垂れてしまう。
あぁ、もうダメだ。僕が言いそうな嘘を暴くための材料を颯貴さんは持っている。何を言っても彼に嘘であると看破され、余計に懐疑心を抱かせてしまうだけ。用意周到が過ぎる。
いっそ諦めて全て話してしまおうか。彼なら周りに言い触らすことはしないだろうし、事情も理解してくれることだろう。
「もう誤魔化そうとしなくとも良いでしょう。あれは一体何なのか、君が一体何を隠しているのか、教えてくれませんか?」
僕に降参するよう、優しく述べる。僕は逡巡し、視線を彷徨わせて少し溜め息を吐いた。
「降参です。話しますよ」
僕の取った選択肢は諦めだった。ジュースを口に含み、気持ちを落ち着かせる。一体どんな反応をされるだろうか。
あまり無茶なことは言ってこないだろうけど、それにしても怖い。アストライアに入ってから一か月近く経ち、その間家族にすら隠していたことを話すのだから当たり前なのかもしれないけれど。
そんな僕の不安を読み取ったのか、颯貴さんは優しく笑みを浮かべて
「蒼樹くんが危険なことをしているのではないか、と私は不安に思っています。ですがどうしても話せない事情があるのでしたら……」
話さなくてもいいですよ、と言ってくれた。それに甘えて僕は話さないことを選ぼうとした。話さなくて済むのならそれが一番良い。
だが、どうやら神は僕を見放したらしい。モールの一階の方から誰かの叫び声が聞こえてきた。嫌な予感をヒシヒシと感じ、残っていたポテト数本を口に放り込んでから僕は椅子から立ち上がって走り出す。
どうかこれが杞憂でありますように。その祈りも虚しく、吹き抜けから一階を覗き見ると、そこには元気に暴れているトレイターが三人。見た目的にカマキリとハチ、あとはトラだろうか。
「タイミングが最悪すぎる……」
「あれが伊月が言っていた化け物、ですか……」
よりによってなんで誤魔化せる絶好のタイミングでなんで現れたんだ、と僕は溜め息を吐き、颯貴さんは興味深そうに息を吐く。
いくら今変身したら誤魔化しが効かなくなるとはいえ、見過ごすわけにもいかない。僕は急いでエスカレーターに向かった。
「颯貴さんは逃げてください!! 守り切れる保証がないので!!」
僕の背を追いかけてくる颯貴さんにそう言ってからエスカレーターを駆け降りる。彼を守りながら三人相手に勝てるとは思えない。
颯貴さんならきっと僕の言う通りにしてくれるだろう。まさか僕に付いて来るとは思えないし。
そんなことを考えつつ逃げ惑う人混みを割り、トレイターの目の前に立つ。
「さて、お仕事の時間……!!」
普段ならひとまずは会話して止めようとするけれど、今日は早く終わらせたいから省略することにした。
ギアを取り出してカードを挿入し、そのまま腰に当てる。
ベルトが自動で腰に巻き付き……。
《Authentication Failed》
「は? なんで?」
おかしなことに認証失敗を知らせる旨の音声が響き、ベルトが巻き付かない。故障でもしたのだろうかと首を捻りつつギアを見ると、僕が手にしていたのはエクシズギアではなくアカツキギアだった。
「噓でしょ間違え……うわっとぉ!?」
取り間違えたことに動揺している僕に、トレイターは容赦なく拳を振るった。ギリギリのところで避けたが、手に持っていたギアが後方へ吹っ飛ばされてしまう。
やらかした、と言いそうになったが今はそんなことを言っている場合ではない。後で回収しよう、などと考えながら急いでエクシズギアを取り出し、諸々の動作をして腰に当てる。今度こそベルトが僕の腰に自動で巻き付いた。
故障していなかったことに安堵して胸を撫で下ろし、気を取り直していつもの二文字を叫ぶ。
「変身!!」
《Ok! Drive The EXCEED system!! Defeat the enemy and open a path of life》
白い光が体に張り付いていき、装甲と化す。僕のその姿を見て、トレイター三人衆は一様に「うわ」だの「マジかよ」だのと面倒なやつが来たとでも言いたげな反応をしてきた。こっちのセリフなんだけど、と言いたくなるのを何とか堪えて腰の筒を引き抜き剣を構える。
少しの間睨み合いが続いた。その間に周囲の人たちの避難は済んだらしく、静寂が辺りを支配する。
「たかが一人で三人相手に勝てるわけねえだろ!!」
先に動いたのはトレイター側だった。馬鹿正直に突進してくるトラトレイターの攻撃をなんとか躱し、後から追うように迫って来た二体のトレイターを斬る。
こうして颯貴さんの目の前で、戦闘が始まった。
▽▽▽▽▽
久留颯貴は少し離れた場所からエクシズの戦いを見守っていた。
「私が出るだけ無駄でしょうね、これは」
冷静に場を分析し、自身の無力を痛感する。出来ることなら今すぐにでも助けに行きたいが、しかしこの状態で戦いに割り込めば足を引っ張るどころか殺されてしまう可能性だってある。
それをよく理解しているために、彼は物陰に隠れているのだ。
「しかしもどかしいですね……。どうにか出来ないものでしょうか」
本来であれば守られるべきは蒼樹であり、戦うべきなのは自分である。だが今はそれとは真逆の立ち位置に置かれており、ただ安全圏から眺めていることしか出来ない。
改めて自身が無力であることを実感し、軽く歯を食いしばって素早く周囲に視線を走らせる。何か武器になり得るものはないだろうか。そうでなくとも、どうにかして蒼樹を助けられるものは。
「……あれは」
神は蒼樹の祈りを見放したが、しかし颯貴の切羽詰まった願いは聞き入れたらしい。颯貴の視線が床に転がっている何かに止まった。
その物の名はアカツキギア。
「まさか今の蒼樹くんの力の源と同種の……」
大した情報もなく、事情など何も知らないのに彼は聡明な頭ですぐに理解した。それが人に超常的な力を与える何かであることを。
颯貴は導かれるようにアカツキギアの元へ向かい、それを拾い上げる。
「颯貴さん一体何を……!?」
視界の端に映ったのだろう。エクシズが顏を少しだけ彼の方へ向け、驚愕の声を上げた。颯貴はそれを横目にアカツキギアを眺める。彼にとっては未知のもの。使えるのは資格を持つ者だけという制約など知るはずもない。
「何かカードがありますね……。取り出せるでしょうか」
当てずっぽうでボタンを押し、なんとかギアからカードを取り出した。彼はそれを手に取り、マジマジと眺める。
「カードキー、ですか……」
一瞬にしてそのカードの概要を察し、再びギアへと目を落とす。
先程蒼樹がこれを使おうとして失敗していたのを見るに、おそらく使うのに何らかの条件があるのだろう。そして彼はそれを達成していなかったから使用できなかった。
なら自分はどうなのだろうか。その条件がわからない以上、いるかどうかもわからない神に祈るしかない。もし認められなければ、目の前で蒼樹が敗北して殺されそうになっていたとしても何の手助けも出来やしないだろう。
颯貴にはそれが耐えられなかった。自分の弟同然の蒼樹を助けるためならば、喜んで自身の手を汚そう。喜んで命を差し出そう。
颯貴にはその覚悟があった。だがそれらは全て力があって初めて出来ることである。力の無い者がそれを言ったとて、ただのはったりにしかなりえない。
だから、祈りを込めて呟く。
「蒼樹くんを助けるために、今この瞬間だけでも良いので力を貸してくれませんか?」
と。
その瞬間。
「っ……!?」
カードが眩い光を発し始めた。颯貴は目を細め、思わずカードから目を逸らす。
その光を見た瞬間、エクシズもとい蒼樹は何が起きたのか理解した。
颯貴が、アカツキギアに選ばれたのだということを。彼がアカツキになる資格を有していたのだと。
当の本人がそれを理解したのは、カードの光が収まった時であった。手に持っていたカードに認証成功を示す旨の文字が浮かんでいるのを見てギアを使う許可が出たものと判断し、彼はトレイターの前に一歩足を踏み出す。
《EXCEED system stand by!!》
「蒼樹くん、これが終わったら是が非でも事情を説明してもらいますよ」
《Make some noize!! Are you ready!!》
先ほどの蒼樹の行動を真似て、彼はギアを腰に当てた。ベルトが腰に巻き付き、それに少々驚きながら彼は鋭い視線をトレイターたちに送る。
「さて、伊月と蒼樹くんに手を出したことを後悔させてあげます。一切容赦はしませんので覚悟してください」
負けることを全く考えていない宣戦布告をして、彼はギアを操作した。
《OK!! Drive the EXCEED system!!》
「変身、ですかね」
彼がそう呟くと、ギアから赤い楓のような見た目をした光が溢れ出した。無数の楓は颯貴の体の周りを囲むように舞い、やがてそれらは彼の体に張り付いて装甲と化していく。
《It breaks the night and heralds the dawn》
光が収まり、そこに現れたのはアカツキの名を冠する新たな仮面ライダー。どこか江戸時代辺りの侍を想起させる装いをしており、腰には機械的な見た目をした一本の刀が提げられている。
颯貴改めアカツキは自身の体を興味深そうに眺めた後、鞘から刀を引き抜いた。刀身はやはりエクシズの剣と同じく発光しており、しかしエクシズの西洋風の両刃ではなくアカツキのそれは日本刀に酷似した見た目であった。
「ビームサーベルですか……。どういう理論で動いているのでしょう?」
ギアに込められた未知なる技術に対し感嘆の息を漏らしつつ、何度か刀を軽く振った。
悪くない。そんな感想を胸に秘めつつ、再びトレイターたちへと視線を送る。何が起きていたのか未だに理解できず固まっていたトレイター三人は、その視線に思わず飛び上がった。
「あとは実践するのみ、といったところですかね」
酷く冷淡な声音。エクシズはその声に思わず背筋を震わせた。
久留颯貴という人間は元来柔和な人間である。普段から滅多に怒ることはなく、怒ったとしてもその相手は伊月であることがほとんどだ。しかしその伊月に対してでもこれほどまでに冷たい声音で叱ったことなどない。どこか彼との言い合いを楽しんでいるような、明るい物言いである。
しかし今はそれとは対照的に、冷たい声音である。初めて聞いたそんな声に、若干の驚愕と恐怖を感じたのである。
エクシズがそんな感情を抱いているとはつゆ知らず、アカツキはエクシズに対してこう言い放つ。
「蒼樹くん。少し下がっていただけますか?」
「え……」
「どれだけ通用するか確かめたいので。そこに誰かの手助けがあっては意味がないでしょう?」
最もらしいことを言うアカツキ。だがこれは建前である。本音を言うならエクシズもとい蒼樹に危険なことをさせたくない、という思考だ。幼い頃から彼を見守ってきた者として、どういう経緯であれ彼に戦わせるのは忍びない。
エクシズはそれをぼんやりと読み取り、渋々といった様子で引き下がった。それと入れ替わる形でアカツキは前に踏み出し、刀を構えトレイターたちと対峙する。
「では、いざ参ります」
ポツリと呟き、彼は動いた。
一番彼に近い位置にいたトラトレイターとの距離を素早く詰め、がら空きの胸元を一文字に斬り捨てる。さらにトレイターの脇腹に蹴りを入れ、それを横に飛ばした。
他のトレイターはハッとして、急いでそれぞれが持つ武器を振りかざしてアカツキへと襲い掛かる。
アカツキは冷静に一歩下がって勢いよく振り下ろされたそれらを難なく避けた。次いで鞘を腰から引き抜き、片方のハチトレイターには斬撃を。もう片方のカマキリには鞘での殴打をお見舞いする。
さらにカマキリの足を払って地面に倒し、喉元に鞘を押し付けこれを制圧。
「武装を解かないというのであれば、その首を斬り飛ばします」
淡々と告げるアカツキ。カマキリトレイターは恐怖のあまり変身を解除しようとしたが、そこに仲間の助けが入った。
ハチトレイターが背後から手に持っていたレイピアで刺突攻撃を試みたのだ。完全に死角からの急襲である。
にも関わらず、アカツキはこれを体を斜めに倒すだけで避けて見せた。
「まさかその程度の刺突を喰らうわけがないでしょう?」
言外に遅いと言って振り向いてハチトレイターを袈裟斬りにし、刀の柄の部分で顔面をぶん殴った。
ついでにカマキリの腹に刀を突き立て、それをグリグリと動かし痛みを与えて彼の戦意を削いでいく。
「ほら、早く解除してください。渋れば渋るほど痛くなるだけですよ」
痛みに悶えるカマキリトレイター。思わず変身を解除し、両手を上げて降参の意を示した。エクシズが急いで彼の身柄を確保し、そこからずるずると引きずって安全な場所へと運ばれていく。
アカツキはすでにハチとトラへと歩を進めており、ハチはレイピアを持つ手を震わせながら彼へと襲い掛かった。
次々に繰り出される刺突。アカツキはそれを冷静に刀で捌いていく。やがてハチはレイピアでは勝ち目がないと悟ったのか、レイピアを投げ捨てると拳を握り締めてアカツキへと殴り掛かった。
しかしそれで状況が逆転するわけもない。
「戦いの場で冷静さを失えばろくな事になりませんよ」
どこか宥めるように言ってハチの拳を容易く受け止め、驚愕による隙を狙って胸板に蹴りを叩き込む。
少々後退ったハチに、アカツキは刀を上段に構えてゆっくりと詰め寄っていく。
「颯貴さん!! ギアのボタン押して!!」
エクシズは叫ぶ。このまま放っておいてもアカツキはトレイター二人を難なく討伐することだろう。しかしどうせ倒すのであれば、無用な痛みなど与えない方が良い。
その意図を読み取ったアカツキはギアに目を落とし、ボタンを押し込んだ。
《Ok!! Akatsuki!! OverDrive!!》
ショッピングモールに響く音声。刀が一層眩く光り出し、辺りを明るく照らし出す。
それを見てあれに当たればマズい、と直感が囁いたのかハチトレイターは急いでアカツキに背を向けて逃げ出した。
が。
「逃がすわけがないでしょう?」
そう言ってから彼は地面を強く蹴り、一瞬にしてハチとの距離を詰める。
無防備を晒すその背中に、刀を横に一つ、縦へ一つ斬撃を加え十文字に切り裂いた。
その攻撃によってハチは爆発を起こし、ギアを破壊されて素体となった男が転がり出る。
次はトラ、お前の番だ。アカツキはそう言いたげにゆっくりと棒立ちしていたトラへと視線を向ける。
目と目が合い、今にもアカツキが駆け出さんとしたときにトラトレイターは必死に叫んだ。
「こ、降参!! 降参だ!!」
仲間が成す術なく倒されたのを見て戦意喪失したのだろう。トラトレイターは変身を解除し、両手を挙げた。
アカツキはそれを見て構えを解き、刀を横に振り払ってから鞘へと納める。
「……興が醒めますね。まあ無駄な被害が出るよりはマシ、なのでしょうが」
ある意味、伊月に大怪我させたことに対する復讐の意味合いもあったのだろう。はぁ、と軽く溜め息を吐いてから彼は変身を解除した。
「颯貴さん、怪我は……」
「大丈夫です。それほど軟な人間ではありませんから。それより……」
颯貴に駆け寄り怪我の心配をする蒼樹を安心させつつ、颯貴はモールの入り口の方へと目をやった。
ぞろぞろと入ってくる、プロテクターを身に着けた人物たち。アストライアの実動隊だ。それの先頭を張る霧峰は蒼樹の姿を認めるや、手を挙げて小走りで駆け寄ってくる。
「連絡がつかないからもしかしたらと思っていたけど、まさか本当にいたなんて。助かったよ」
てっきり蒼樹が倒したものと思い込んでいる霧峰はいつもの調子で蒼樹を労うが、しかし倒したのは蒼樹ではなく颯貴である。
それもあって蒼樹が居心地を悪そうにしているのだが霧峰はそれに気付くことなく、見知らぬ人物である颯貴へと目を向けた。アストライアの人間でないことだけは確かで、その状態で今現在蒼樹の隣に立っているということは蒼樹が戦うところを見てしまったのだろう。ついでに言えば十中八九蒼樹の知り合いである、というところまで推測した霧峰は頭を掻きつつ口を開く。
「あ〜、お兄さんこの後予定とかあったりするかな?」
アストライア本部へ連れていき、事情を説明する必要がある。そう判断した彼はまるでナンパをするチャラ男のような発言をした。
これは事態を正確に把握出来ていない。それを察した蒼樹はおずおずと口を開く。
「あの、霧峰さん。颯貴さ……いや、この人、新しい仮面ライダーです」
「えっ嘘」
「嘘言ってどうするんですか。ほらアカツキギアを手に持ってるでしょう?」
蒼樹の言葉で颯貴の手を見た霧峰。颯貴の手がアカツキギアを握っているのを認めた瞬間、彼はあんぐりと口を開け颯貴の目を見る。
颯貴は軽く頭を下げ、
「初めまして。久留颯貴と申します。どうやら蒼樹くんの言う通り、新しい仮面ライダーというものに選ばれたようでして。蒼樹くんの代わりに化け物三人を倒させていただきました」
と自己紹介をする。霧峰が我慢の限界を迎えるのに、その一言は十分過ぎるものであった。
「嘘ォ!?」
霧峰が挙げた情けない声は、吹き抜けになっているせいかよく響いた。
次回→躊躇いなき刃