──あの戦闘訓練の翌日、
「なんだか皆さんに避けられているような気がします。心当たりは特に無いのですが…」
「あれだけ好き放題したのに心当たりがないってのもヤバいよ⁉︎」
有り体に言えば、俺は友達がいなかった。
いや、訂正しよう。
今俺と話している耳郎と、あの後マシンガンのように質問しまくってきた尾白とは仲がいい…と思う。
俺はもちろん避けられている原因や皆が俺に対して抱いている印象は理解しているが、まあ任務に支障が出るほどでなければ問題ないだろう。ここには爆豪とかいう俺よりよっぽど敵っぽいのがいるわけだし。
「ありがとうございますジロウ…貴女が話し相手になってくれるので本当に助かってます…
貴女は本当にいい子ですね…!」
「〜ッ!ちょっ…いい子って!
…はぁ、早く食べないと伸びるよ!」
…赤面してるな、可愛い。
イヤホンジャックが指のように俺のラーメンを指しているので、大人しく昼飯を食べ始めることにする。
今日はいつもより急いで食べた方が良い。
なぜなら、今日こそが例の作戦の結構日だからだ。死柄木はもうスタンバってるし、彼が動き始めるのに俺も合わせなくてはいけない。
周囲に怪しまれない程度に急いでラーメンを啜り、スープを残して食べたところで、死柄木が仕掛けた。
セキュリティが突破されたことで警報が校内に鳴り響く。
周りの生徒達はざわめきながらもすぐに立ち上がり避難を開始するが、人が多すぎて動線が確保しきれず若干パニックの様相を呈していた。
うまいこと作戦通りになっていることに内心ほくそ笑みつつ人混みに紛れていると、いきなり後ろから飯田が飛んできて、バゴンと音を立てて非常口にぶつかった。
(まさかパニックを鎮める気か⁉ いや、ここは飯田を利用してリカバリーする!)
「皆さん…
大丈ー夫!
ただのマスコミです!なにもパニックになることはありません
大丈ー夫‼
ここは雄英‼最高峰の人間にふさわしい行動をとりましょう‼」
「皆さん落ち着いて下さい!今先生方が対応してくださっています!落ち着いて避難してください‼︎」
と言いつつ職員室のそばを通らない避難ルートを指し示す。
パニックは治ったようで、ぞろぞろと出口へ向かっていく生徒達の中に耳郎を見つけて合流した。
「あ、センスじゃん。どこ行ってたの?」
「ちょっとはぐれちゃいました」
そう言うと耳郎はため息をついて愚痴を言う。
「それにしても原因はマスコミかー…ホンット人騒がせな人達だよね、そりゃマスゴミなんて言われるのもわかるわ。」
俺も彼らには思うところがある。利用しておいて言うのもなんだが、もう少し節操というか落ち着いた判断力というものを身につけた方が良いのではないだろうか?
「オールマイトのケツ追っかけることしか頭にない低脳なマザーファッカーどもめ…」
「……いや口悪すぎじゃない⁉︎日本語の時と別人みたいな口調になってんだけど?」
「…こっちが素だ。つーか英語わかるのか。」
初耳だ、今のところこっちに来てからはプレゼントマイク先生と八百万としか英語で喋ってない。
「まあ、ウチは洋楽とか結構聴く方だから、それなりには。」
「じゃあ、これからは2人の時には英語で話してもいいか?」
「いいけど、あんま難しいのはわかんないからね。」
「大丈夫だ、ありがとう。」
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「首尾はどうでした?」
いつもの敵連合のbarにて、帰宅後すぐに連れてこられた俺は作戦の結果について質問した。
「とても有意義なものが手に入りました。教師用のカリキュラムです。」
黒霧さんが資料を俺の座るカウンターに転送してくる。
「それによると、明日のヒーロー基礎学はUSJなる施設でのレスキュー訓練になるらしいのですが、A組だけの授業かつ教師はオールマイトと13号だけという襲撃にはもってこいの授業のようです。」
「だから、明日すぐに襲撃だ。」
(急だな)
「まあ構いませんが、手下は集まってますか?」
「問題ない、既にA組の人数を上回る人間を集めた。
いつにも増してボスの情緒が不安定だ。
正直チンピラを80人ぐらい集めてもA組の奴らには敵いそうにないが、あくまでメインタスクはオールマイト殺害だ、寄せ集めは捨て駒でも良いだろう。
「では襲撃メンバーは死柄木をリーダーに黒霧さん、招集したチンピラ集団でよろしいですか?」
「いや、お前にも来てもらう。それから先生が対オールマイト用の脳無をくれるってさ。」
俺もか?どのタイミングで彼らから離脱すれば良いのだろうか。
『脳無は弔、君の声に従うように設定してある。上手く使ってくれ。オールマイトへの嫌がらせには十分なスペックだ、楽しんできなよ。』
テレビから巨悪が声を発する。個性の範囲内にはいないようだが、声音からオールマイトを殺せそうにないと考えているのがわかる。
(本当に食えない男だ…)
「襲撃と同時に生徒たちをできるだけ散らばらせ、同じく散開して転送した手下達で嬲り殺します。センスさんはその転送のタイミングで離脱、このbarでコスチュームを着替えてからもう一度転送します。撤退の際も同じようにこちらで着替えて下さい。」
なるほど、それならば身バレの心配もないわけだ。
「了解しました。そういえば、以前ドクターは『個性』を複製できると言っていましたよね?」
テレビに向かって話しかけると、オールフォーワンが映っていた映像が切り替わり、ゴーグルのようなメガネをかけた小柄な老人が映る。
「そうじゃ!どうかしたかの?」
ビジネスチャンスだ。
「13号や、その他生徒の生捕りもしくは個性器官の標本を持ってきたら、追加の報酬をいただけませんか?」
「…良いじゃろう‼︎しかし値段は鑑定してからでなくては決めかねるわい。」
「ありがとうございます。」
(良おぉし!ボーナスもらえるかも!)
明日使う装備の手入れをしてから、俺は家で眠りについた。
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──翌日
「うっま!和食うっま!」
「肉じゃがでテンション上がりすぎでしょ…つーか和食ってより家庭料理じゃん」
ランチラッシュは今日も絶好調のようだ、量と質と値段の全てが最高クラスの学食がありがたい。
「腹が減っては戦はできぬ」とはよく言ったものだ。
「あんまりこういうのは食ったことないんだ。こっちに来てからも自炊中心だと洋食になりがちだしな。」
「あ、そうなんだ…忘れがちだったけどアンタやっぱ外国人なんだよね。」
「そ。ご馳走様でした。」
耳郎の一足先に食べ終えて、教室に向かう。
登校してから分かったことだが、今日の授業はイレイザーヘッドも加わって3人体制で見るようだ。まあ1人増えただけならなんとかなるだろう。それに『個性を使用不可にする個性』など鑑定額も高そうではないか。
そんなことを考えているうちに準備が始まった。
コスチュームの着用は各自の判断に任せると言われたので、俺は前回の野戦服とナイフ数本と信号弾を入れたグレネードランチャーを持って会場までのバスに向かう。
「バスの席順でスムーズにいくよう番号順に2列で並ぼう。」
さっそく飯田が委員長として仕事をしているが、
「こういうタイプだった!くそう‼︎」
バスが前後で席の向きが変わるタイプだったので意味がなかった。
ドンマイ
俺の席は八百万の隣になった。
バスが出てすぐに蛙吹さんが緑谷に話しかける。
「私思ったことをなんでも言っちゃうの緑谷ちゃん」
「あ⁉︎ハイ⁉︎蛙吹さん‼︎」
「梅雨ちゃんと呼んで。」
キョドりすぎだろ緑谷
「あなたの『個性』オールマイトに似てる。」
「そそそそそうかな⁉︎いやでも僕はそのえー」
さらにキョドるな緑谷
「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトはケガしねえぞ似て非なるアレだぜ
しかし増強型のシンプルな『個性』はいいな!
派手で出来る事が多い!
俺の『硬化』は対人じゃ強えけどいかんせん地味なんだよなー」
切島が慌てる緑谷に助け舟を出す。
こんな探り合いじみた会話も一切の悪意なく出来る彼らの精神性は本当に凄いと思う。まさにヒーローになるべき善性の持ち主達だろう。
「いやー私から見れば皆さん立派な個性ですよ!持ってるだけで凄い事なんですから!」
俺が発言した途端、皆が押し黙る。
「…その…なんだ、気に障ったならごめんな!」
「…彼は冗談のセンスが本当にひどいんですわ。気になさらなくて結構です。」
「「「今の冗談だったの(かよ)⁉︎」」」
「え、ハイ」
「心臓に悪いわノージアちゃん。」
「…ごめんなさい」
「いやでも切島くんの『個性』すごくかっこいいと思うよ。プロにも十分通用する個性だよ!」
緑谷が場の雰囲気を変えようと声を上げると、プロとして通用しそうな個性の話になり、そのうち切島がこんなことを言った。
「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だな。」
あ、おい蛙吹お前
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」
「んだとコラ出すわ‼︎」
「ホラ」
思わず笑いが溢れる
「この付き合いの浅さて既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ。」
「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ‼︎」
上鳴お前w
「性格まで
「お前の性格とジョークセンスも大概だけどな!」
「
「低俗な会話ですこと!」
隣で八百万がぼやく。というかガッツリ俺に非難の視線を浴びせてくる。
そんなに怒るなよ…
「でもこういうの好きだ私」
後ろの席で麗日が朗らかに笑いながら言ってくる。
「もう着くぞ、いい加減にしとけよ…」
「「「「ハイ‼︎」」」」
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到着した施設はさまざまな災害現場を再現したテーマパークのような場所だった。
宇宙服を着たヒーロー、13号が現れてイレイザーヘッドと話しているが、一瞬彼らからオールマイトを非難するような気配が上がった。
少々気になるが、俺はもうすぐ始まる作戦に備えて体をほぐしておくことにする。
「えー始める前にお小言を一つ二つ…三つ…四つ…」
(((増える…)))
「皆さんご存知だとは思いますが
僕の『個性』は『ブラックホール』
どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます。」
緑谷から彼の災害救助系ヒーローとしての個性の活躍が語られ、麗日がコクコクと頷くが、彼は全員を見渡して静かに口を開く。
「ええ…しかし簡単に人を殺せる力です。
皆の中にもそういう『個性』がいるでしょう。
超人社会は『個性』の使用を資格制にし厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。
しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる"いきすぎた個性"を個々が持っていることを忘れないで下さい。
相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、
オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体感したかと思います。
この授業では…心機一転!人命のために『個性』をどう活用するかを学んでいきましょう。
君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。救ける為にあるのだと心得て帰って下さいな。
以上!ご静聴ありがとうございました。」
周囲から歓声が上がる。
俺も素晴らしいスピーチだと思う。理路整然としていてわかりやすく、彼の人柄やヒーローとしての魅力がわかる。
しかし、それでも金を受け取ったからには俺は敵として活動する。
ようこそ雄英へ、敵連合諸君。
悪意の奔流がなだれ込んでくる。
イレイザーヘッドも気づいたようだが、もうワープゲートは広がっている。
「動くなあれは
悪いな先生、死んでくれ。
次回、ほぼ戦闘パートです。