世界の終わりのその先で   作:デスイーター

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立ち向かい、相対する

「…………っ! これは…………!」

種別猟犬型(タイプ・ハウンド)群響(ハウル)、ある意味一番厄介なのが来たな…………っ!」

 

 地上に出たフィーア達が見たのは、砂漠を覆う灰色の霧と視界の先に蠢く数百体の灰響だった。

 

 体躯は、数メートルほど。

 

 犬、というよりも狼に近しいフォルムに、眼のない虚ろな貌。

 

 種別猟犬型(タイプ・ハウンド)

 

 ()()()()に特化した、ある意味最も多くの被害を齎して来た灰響(エコー)である。

 

 そのサイズこそ灰響の中では小型ではあるが、こいつの場合はその()()()こそが厄介な点でもある。

 

 たとえば、巨人型に街が襲われた場合建物は全て灰塵と帰し、如何なる大都市だろうが無に帰する。

 

 だが、巨人型の対人索敵能力はそう高くはない。

 

 地下や物陰に隠れ続ければ、襲撃をやり過ごす事自体は不可能ではないのだ。

 

 無論済む家も暮らしていた街も何もかもなくなるので気休めでしかないが、人間の()()()だけで言うなら巨人型に襲われた街はまだマシな方だ。

 

 だが、猟犬型はそうはいかない。

 

 猟犬型のサイズは、凡そ数メートル。

 

 中には十数メートルの巨体を持つ個体もいるが、概ねのサイズは10メートルを超えない。

 

 故に、地下等の閉所への()()が容易なのが猟犬型の特徴だ。

 

 加えて、猟犬の名の通りその対人索敵能力は恐ろしく高い。

 

 隠れたところで嗅ぎ当てられ、根こそぎその餌食となる。

 

 故に、灰の日食当時猟犬型に襲われた都市の者達の生存率はほぼ0に近いとされている。

 

 そして。

 

 それ故に、この猟犬型に防衛能力の無いコロニーが襲われれば全滅は必至だ。

 

 猟犬型一体一体の戦闘能力は、ある程度手慣れた灰猟者ならば油断しなければ後れを取る事は早々無い。

 

 だが、数が集まるとなれば話は別だ。

 

 これだけの数の猟犬型相手では、たった数名の灰猟者だけでは厳しいものがある。

 

「────────────────臆するな。我らが此処で退けば、あの街は壊滅する。それを心せよ」

「「「「了解」」」」

 

 されど、手持ちの戦力でどうにかする他ない事も事実。

 

 日本刀を掲げた土方を先頭に、フォンはハルバートを、フィーアは大鎌を、ゼクスは西洋剣を、そして後方に配置されたアリエルは狙撃銃をそれぞれ構えた。

 

 そして。

 

 土方の踏み込みと共に、戦闘が開始された。

 

「ハァ…………ッ!」

 

 目の前にいた土方が、消える。

 

 否、消えたように移動した。

 

 一瞬にして猟犬型の群れの前へ踏み込んだ土方は、そのまま太刀を一閃。

 

 数体の灰響(エコー)を、一息で斬り裂く。

 

 だが、それだけでは終わらない。

 

 まるで舞うように刃を滑らせ、土方は次々と猟犬型を斬り捨てていく。

 

 それはまるで、剣舞のよう。

 

 流麗な舞いのような動きで、土方は猟犬型を殲滅していく。

 

「うらぁ…………っ!」

 

 それに続いて、フォンが突貫する。

 

 フォンは身の丈以上ある大斧槍(ハルバート)を振り回し、数体纏めて猟犬型を薙ぎ払う。

 

 そのまま奥に踏み込み、更に一閃。

 

 巨大なハルバートの一撃で、竜巻でも起きたかのように猟犬型が斬り裂かれていく。

 

 その扱いは刃というよりも、巨大な鈍器のよう。

 

 武器のリーチを最大限に利用し、高効率で敵を殲滅する。

 

 それが、ハルバート使いフォンの戦い方。

 

 大柄な肉体と、長柄の武器。

 

 己の持つアドバンテージを最大限に活かした、効率的な戦い方である。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………ッ!」

 

 フィーアもまた、戦い方はフォンに近い。

 

 リーチの長い大鎌を振るい、敵を数体纏めて斬り払う。

 

 土方のそれが剣舞ならば、彼女のそれは格式高い円舞曲(ワルツ)のよう。

 

 流麗な動きで、扱い難い大鎌という武器を用いた斬撃を放ち次から次へと敵を殲滅。

 

 一度も足を止める事なく、灰響(エコー)を斬り払っていく。

 

「────────」

 

 対して、アリエルの攻撃は静かなものだった。

 

 彼女の獲物は、狙撃銃。

 

 近距離武器の使い手が集まるセンダイ支部の戦士の中でも貴重な、遠距離武具の使用者。

 

 故に、その仕事は恐ろしく淡々で、機械じみていた。

 

 常の彼女が放っている陽気な空気は、今は鳴りを潜めている。

 

 アリエルは一切の表情を消し、引き金を引く度にスコープの先の猟犬型の頭部を吹き飛ばす。

 

 通常の狙撃銃であれば再装填(リロード)に時間がかかる為連射など不可能だが、アリエルのそれは違う。

 

 これは銃の形をしているが、彼女の力で生成された灰装(インストルメント)だ。

 

 銘は、月煌弓(セレーネ)

 

 センダイ支部狙撃手、アリエルが操る正確無比な必殺の鏃。

 

 月女神の名を冠する、アリエルの上位灰装(ハイ・インストルメント)である。

 

 経験を積んだ灰猟者の灰装は、灰奏(ゾーロ)と呼ばれる特殊な能力を発現し飛躍的にその戦闘能力を向上させる。

 

「吹き飛ばせ、月煌弓(セレーネ)

 

 能力の発動条件は、その銘を口にする事。

 

 銘の宣告によって上位灰装は本格的に励起を開始し、その異能を発現させる。

 

 アリエルの上位灰装、月煌弓(セレーネ)の能力は────────────────特殊弾頭の、装填。

 

 様々な特殊効果を備えた弾頭を生成し、それを狙撃銃へ装填する。

 

 言ってしまえばこれだけだが、その効果は強力無比。

 

 特殊弾頭────────────────爆裂弾(バースト)を装填した狙撃銃が、火を噴く。

 

 月煌弓から放たれた弾丸が、猟犬型の群れへ着弾。

 

 同時に、周囲数十メートルを吹き飛ばす巨大な爆発が発生。

 

 それに巻き込まれた猟犬型、凡そ100体ほどが跡形もなく吹き飛ばされた。

 

「────────────────数が多過ぎる。爆裂弾(これ)、消耗激しいってのに」

 

 だが、今回は相手の数が多過ぎた。

 

 今の一撃で一気に撃破数(キルスコア)は稼げたが、まだ全体の一割ほどを撃破したに過ぎない。

 

 それに、今回の敵は群響(ハウル)なのだ。

 

 正直、今放った一撃は多少の時間稼ぎにしかならない。

 

 何故なら、群響は灰響の群れ────────────────というワケではないのだ。

 

 灰響が群れを成すのはあくまでも群響の()()であり、本質ではない。

 

 群響(ハウル)

 

 それは即ち、特定領域内の灰響の()()()()()()だ。

 

 突如として一定の領域を灰色の霧で包み込み、その領域内に一定間隔で灰響を出現させ続ける。

 

 それが、群響と呼ばれる()()

 

 今このコロニーを襲っている、致死の脅威である。

 

 この群響の厄介なところは、文字通り()()に灰響が出現し続ける事だ。

 

 幾ら倒しても一定間隔で補充される灰響と、延々に戦い続けなければならない。

 

 当然いちいち灰核を回収している余裕はなく、群響が終わるかその領域を出るまで延々と戦闘を繰り返すハメになる。

 

 だからこそ砂漠での群響(ハウル)の遭遇は致死の危険とされており、誰しもが避けたがる最悪の現象なのだ。

 

 群響の()()()()は、凡そ2時間から3時間。

 

 その間は、領域内に無尽蔵に灰響が出現し続ける。

 

 加えて最悪なのが、群響は()()する事だ。

 

 群響によって出現した灰響は、領域が消えれば共に消滅する。

 

 だが、領域内のみしか()()出来ないワケではない。

 

 あくまでの領域の外側付近に限るが、出現した灰響は外へと()()出来る。

 

 そして群響によって生まれた灰響が一定数────────────────凡そ10体以上が数分以上滞在した区画は、領域に()()()()()()

 

 結果、その浸食域も群響の()()として扱われ、無尽蔵に灰響が湧き出るようになる。

 

 もし、猟犬型にコロニーに侵入されでもすればコロニー内部が群響の影響下と化す。

 

 そうなれば、終わりだ。

 

 コロニー内の何処にでも灰響が湧き出るようになってしまい、逃げ場など万に一つもない。

 

 閉塞した地下区画でそんな事態に陥れば、今度こそセンダイコロニーは壊滅するだろう。

 

 同じような経緯で壊滅したコロニーは、過去幾つもある。

 

 特に、小規模なコロニーが滅び去るケースはまさにこれだ。

 

 規模が小さい故に充分な戦力を用意出来ず、結果としてコロニーそのものが群響に飲み込まれて壊滅する。

 

 もし此処でこの群響を防衛し切れなければ、センダイコロニーには悲惨な結果しか待ち受けてはいない。

 

 故に、消耗すると分かっていながら加減は出来ない。

 

 ただひたすら、向かって来る敵を殲滅する以外にコロニーが生き延びる道はない。

 

 凡そ3時間。

 

 その間、コロニーへの灰響(エコー)侵入を阻止し続ける。

 

 それが、今このコロニーを守る唯一の道。

 

 センダイ支部の精鋭達の力を以てしても難解極まる、最高クラスの防衛依頼(クエスト)だ。

 

「さあ、休んでいる暇は無いわ。三時間、粘り切るわよ」

 

 

 

 

「────────!」

 

 ゼクスが、西洋剣を振るう。

 

 標的となる猟犬型との距離は、10数メートル。

 

 どう考えても、剣の届く距離ではない。

 

 あくまでも、()()()剣であれば。

 

 ゼクスの剣が、()()()

 

 正確には、形を変えた。

 

 ごく普通の西洋剣から、ワイヤーで連結された特殊な刀身────────────────蛇腹剣へと。

 

 ワイヤーブレードに変化し一気に射程を伸ばしたゼクスの剣が、向かって来る猟犬型を十数体纏めて斬り裂く。

 

 派手に見えるが、これはあくまで刀身の()()である為使用する灰血は少量で済む燃費重視の武具だ。

 

 だからこそ、これまで戦い続けられたとも言える。

 

「まだ、終わらないのか」

 

 ()()()()

 

 それが、彼等の戦闘継続時間だった。

 

 有り得ない。

 

 群響(ハウル)の展開時間は、最大でも三時間。

 

 この法則は今までの統計からしてもまず間違いなく、平均して2時間半程度で消え去るのが普通の群響だ。

 

 だが、この群響は明らかに通常の展開時間を超えて持続し続けている。

 

「ち、流石にキツイな…………っ!」

「こっちも、そろそろ弾切れが近いわ…………っ!」

「く…………!」

 

 当然、そんな長時間に渡って戦闘を継続して来たセンダイ支部の灰猟者達の消耗は深刻だ。

 

 普通の灰猟者ならば、全開戦闘が継続可能な時間は2時間が限度。

 

 そう思えば良く保った方だと言えるが、それでも流石に限界が見えている。

 

 被弾が未だ0とはいえ、体力も灰血も無限ではない。

 

 幾ら異人種(アルター)となって身体機能が大幅に強化されたとはいえ、不眠で戦い続けられるような超人ではないのだ。

 

 当然疲労も溜まるし、精神集中にも限界がある。

 

 特に、遠距離型のアリエルは目に見えて深刻だ。

 

 遠距離型の灰装の持ち主は近接型と比べて遠距離攻撃を少ない灰血消費で撃てるが、逆に言えば攻撃に必ず一定の灰血を使用するという事でもある。

 

 故に、近接攻撃のみに絞る事で()()が可能な近接型と異なり、長時間の戦闘になれば遠距離型は文字通りの()()()となる。

 

 そうなると自衛すらおぼつかなくなる為、遠距離型の寿命は短いと言われている程なのだ。

 

 どの道、これ程の長時間戦闘となれば近接型も遠距離型も消耗度合いではそう変わらないのだが。

 

 そんな現状の悪さをとっくに認識しているフィーアは、思わず舌打ちする。

 

 いくら何でもこれは、異常だ。

 

「なんで、まだ群響(ハウル)がなくならないのよ…………? もうとっくに、展開時間は過ぎて────────────────まさか」

 

 そこで、彼女は一つの()()に思い至る。

 

 出来れば当たって欲しくはない。

 

 そして。

 

 考え得る限り最悪の、()()に。

 

「────────────────ああ、どうやらその()()と当たってしまったらしいな」

「嘘、でしょ…………」

 

 その答えは、視界の先に提示された。

 

 猟犬型の群れ、その中央。

 

 そこに、()()がある。

 

 ボロボロのマントに、引きずるように携えている長柄の武器。

 

 遠目から見れば同業者にも見えるが、違う。

 

 アレは断じて、人間などではない。

 

 否。

 

 ()()人間ではない、と言うべきか。

 

灰堕ち(ヴァンピーア)────────────────いや、種別灰血鬼(タイプ・クドラク)…………っ!」

 

 灰に呑まれ、正気を失った灰猟者────────────────灰堕ち(ヴァンピーア)

 

 それが完全に灰響と堕し、異形の力を得た存在。

 

 種別灰血鬼(タイプ・クドラク)

 

 灰響の中でも、ある意味最悪の存在。

 

 ()()()()能力を持つ、灰響達の媒介者(キャリアー)である。

 

 灰血鬼は単騎でも恐るべき力を持つが、真の脅威は群響(ハウル)()()した時にある。

 

 通常は長くても三時間程度で消える群響だが、この灰血鬼が領域の支配権を手に入れた場合。

 

 群響は、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『あ、アァ、アァァァアァァァ、アァァァァァァァ…………ッ!!』

 

 ローブの影が、否────────────────灰血鬼が。

 

 怨嗟の声が如き、雄たけびをあげる。

 

 その、刹那。

 

「な…………?」

「あれは、あの槍は…………!」

 

 その影の持つ武器────────────────黒く染まった長槍。

 

 それを見て、二人が────────────────フォンと土方が、固まった。

 

 奇しくも、それと同時に。

 

 灰血鬼が被っていたフードが風でまくれ上がり、その顔が露となる。

 

 赤く染まった虚ろな眼窩に、瘦せこけた頬。

 

 口元からは灰色の体液が流れ出し、口元に除く犬歯は吸血鬼のように伸びている。

 

 元は黒かったのであろう髪はほぼ真っ白に染まり、その口からは絶え間なく苦悶の声を漏らしていた。

 

 その光景を、その末期を見て。

 

 土方は拳を握り締め、声を張り上げた。

 

「戻って、戻ってきちまったか────────────────この、馬鹿息子が…………っ!」

「…………!」

 

 土方の辛酸を呑み込むような言葉で、フィーアとゼクスの二人は敵の()()に思い至る。

 

「まさか、あの人は────────」

「ああ、そうだ。あいつは三年前の事件で灰堕ちになり、このセンダイコロニーに甚大な被害を与えた元灰猟者」

 

 フォンはその疑問に答えるべく、告げる。

 

「────────────────土方龍雅(ひじかたりゅうが)。当時のA級灰猟者(ディリゲント)のトップで、土方さんの息子だ」

 

 三年の月日の後、帰って来てしまった。

 

 灰血鬼と成り果てた、一人の人間の名を。

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