常磐ソウゴは魔王である 作:ぬんぬん
「よっ…ほっ…」
ザク ザク と土を耕す音が響く。常磐ソウゴが諏訪で目覚めてから約二ヶ月が経った。それだけあれば初対面の時点で気の会った歌野だけでなく、人見知りである水都とも普通に話せるようになった。
そんなソウゴだが、いくら王様をめざしているとはいえ、世話になっている諏訪でニートをするつもりはなく、歌野に勧められるまま農業の手伝いをすることになった。
「ふぅ…腰痛くなるなぁ…」
「お疲れ様、ソウゴくん。うたのんがごめんね?」
「あ、水都ありがと。ううん、良いよ。どうせやること無くて暇だしね」
汗を拭いながら腰の痛みに顔を顰めつつ伸びをしていると、水都が歩いてきて水を渡してくれる。その水を感謝しつつ飲むと、周りを見渡すソウゴ。
「うーん、大分みんなも協力してくれるようになったね」
「そうだね…うたのんとソウゴくんのおかげかな?」
「うーん、殆ど歌野のおかげな気がするけど」
ソウゴが見渡した先には、協力して畑を耕し、楽しげに笑う人々の姿。
無論、前を向いて諦めない白鳥歌野の姿を見て感化されたものや、常磐ソウゴの周囲の人間を鼓舞する王の素質によって前を向いた人間も多い。…なのだが。
(多分、あの時からだよね。みんなが協力し始めたのは…)
水都の脳裏に過ぎる一ヶ月ほど前に起こった事件。…事件と言うには、少し笑い話に近いのだが。
時は一ヶ月ほど前に戻る。ソウゴがなんとか諏訪に馴染んできた頃、ソウゴが何か諏訪のために出来ることは無いかと歌野に相談し、少し諏訪を見て回ることになった日の話。
「なんか、暗い雰囲気だね」
「そう、ね…空からバーテックスが現れてあまり日も経っていないから…でも、ノープロブレム!いつかはみんなも乗り越えてくれるわ!」
「そっか…そうだね。なんか、行ける気がする!」
周囲の雰囲気が暗く、どんよりしていることに少し悲しげに目を細めたソウゴに歌野が笑って前向きな意見を述べる。それを聞いてソウゴも笑顔で返すと2人は顔を見合わせて笑う。そんな時だった。
「てめぇ!何しやがる!」
「はあ!?何もしてねぇだろ!」
幅の広い川のような水路にかかった橋の上で喧嘩をする二人の男性。肩やガタイのいい作業服を来た男、もう片方は恐らく学生くらいの年齢であろう青年。事情は分からないが、明らかに二人は不穏な雰囲気を醸し出していた。
「何かしら…」
「喧嘩、かな?ちょっと行ってくる!」
「ち、ちょっとソウゴ!?」
不穏な雰囲気を感じ取った歌野は不安そうに眉を潜めるが、少し首を傾げたソウゴは歌野に一言断りを入れて走ってその二人の男性の元へと向かう。
二人の男性の周りには少しづつ野次馬が集まりだしていたが、それを掻き分けて二人の男の間に割り込むソウゴ。
「ストップ!ストーップ!落ち着いて二人とも」
「邪魔すんな!誰だよお前!」
「俺?俺は常磐ソウゴ。よろしく」
「バカにしてんのか!?」
平然と自己紹介をして、握手すら求めるソウゴの様子に怒鳴る作業服の男。そんな作業服の男の様子に笑顔を浮かべながら話しかけるソウゴ。
「まあまあ、落ち着いてよ。なんでそんなに怒ってるの?」
「てめぇには関係ねぇよ!」
「あるよ」
「は?」
「俺はいつか王様になりたいんだ。王様は民の相談に乗るもの、そうでしょ?」
「…バカにしやがって!」
「うわっ!?」
ソウゴがそう笑って告げた瞬間、カッとなったのか作業服の男がソウゴを水路に突き落とす。
そこまでやって作業服の男は怒りが納まったのか青年に怒鳴って悪かったと告げて立ち去る。青年も怒鳴り返して悪かった!と言って謝る。そんなタイミングでソウゴが川から上がって橋に戻ってくる。
「あ、喧嘩終わってるじゃん!良かった~」
「…アンタ、水路に突き落とされといてまだ人の心配してんのかよ」
「俺も別に怪我してないし良いかな~って!」
水路に突き落とされてなお喧嘩の心配をしているソウゴの様子に諏訪の住民が呆れたように笑う。そこから程なくして、ソウゴの周囲には笑顔が溢れるようになって行った。
(これが王様の器ってやつなのかな?)
「水都?黙り込んでどうしたの?」
「う、ううん!大丈夫だよ!…っ」
「水都?」
「ソウゴくん、うたのんを呼んできて」
「…わかった。ちょっと待ってて!」
苦笑いを零していたソウゴがスっと真剣な表情になる。水都にソウゴと歌野が呼び出されるということ、それはつまり──
「うたのん、ソウゴくん、バーテックスが来る」
──そういうことである。