艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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ベトナムから帰還しまして更新です。

それでは、抜錨!


SEQUEL002 だから馬鹿なんだよ

 

 

 

 あんたか、アイツの話を聞きたいってのは。

 

 なに、嫌なわけではないからいいけどな、直接赴くにしてはもう少し早く連絡を取ってほしかった。少々時間に不自由している所があってね、電嬢の紹介じゃなきゃ会わなかっただろうし会えなかっただろう。――――――煙草を吸っても?

 

 で、何を聞きたいんだ? とりあえずなんでもと言われるのが一番めんどくさいんだよなぁ。まぁいいけど、あんたはどこまで知ってる?

 

 ……ふん。表向きの情報は一通り漁った、そして電嬢からもある程度の話を聞いたってところだな。

 

 第50太平洋即応打撃群の初出撃については聞いたか? そうだ、駆逐棲姫迎撃戦のことだ。俺にとっては指示通りに引き金を引くだけの簡単な作戦だった。アイツがトップならまずおかしなことにはならないから。

 あ? アイツのことか? そうだなぁ。俺にとってはただのヘタレた馬鹿野郎だよ。頭の回転の速い馬鹿。相手にすると一番面倒なタイプだ。笑わなくてもいいだろう? 俺から見たアイツの姿を率直に語っているだけだ。

 

 話が逸れたな。とりあえずあの迎撃戦の時は……というより迎撃戦の後が大変だったんだ。駆逐棲姫に成り果てた艦娘の僚艦の艦娘たちを見て、電嬢が塞ぎこんだ。助けられたかもしれない、もっと早くああしていれば、私がもっと強ければ……とかな。アイツはそれを認め、痛みを共有することで電を支えようとした。

 

 俺から見れば実にくだらない。―――――薄情か?

 

 違うね。あの時の感情は“後悔”だ。“反省”じゃない。覆水盆に返らず、後悔先に立たず。起きたことを悔やんでも仕方がない。その現状を認めたうえで今から何ができるか。それを見極めなければならない。それをせずに後悔だけしていても成長も進歩もない。電嬢もアイツもトップだ。それを行動や命令で示すべき立場にある。そこはどの業界も変わらないと思うがね。軍では特にその色が強いだろうけどな。

 

 軍ではトライ&エラーが許されるのは訓練だけだ。それ以外は常に実戦であり、命がかかる。それは艦娘も俺たち運用士官も変わらない。そこに差はないし、少女だからってそれが免除される訳ではない。そのリアルを受け入れなければ生き残ることはできない。それ故に単純で強い掟だ。

 

 艦娘の子たちはそれをどこかで割り切ることができるようになっていた。そういうもんだって割り切れなければ生き残れない。そう思うようにできてるんだ。そういう風に作られたんだからな。

 

……あんたは俺を見てどう思った? 人間だと思ったか? そうかい、ならもう一つ質問だ。なぜそう思った?

 

 確かに俺は人間として軍のデータベースに登録されているからどうも“人らしい”。腰から下、左腕、左目、耳を義体化して、さらには脳さえ代替品たる機械に置き換えた。フランケン状態になったが、それでも人間として扱われる、なぜだか考えたことは?

 

 兵士が義体化した場合、それは肉体の延長であり、医療行為として認識されることが通例だ。だが、艦娘は兵器に搭載される高度な人工知能の代替品として個々の脳殻が搭載されているにすぎない。それぞれに与えられるのは姓名、血液型、宗教などがパンチングされた個人認識票(ドッグタグ)じゃなく、シリアル番号と部品形式が記録された管理コードだ。軍産複合体で生まれた“戦闘兵器”は備品として管理されるべきだからだ。彼女たちにとっては軍なんて組織は器に過ぎず、特務官なんて身分らしきものも名前も全て活動を保証する都合に過ぎなかっただろう。

 

 人の形をしていても、彼女たちに求められる特性は機械としての性能と効率、そして成果だけ……恐ろしく暴論だがそれがまかり通っていたのさ。少なくとも艦娘が生まれた当初は。

 

……だが、それに否と言い続けたのがアイツという人間だ。アレが馬鹿たる由縁は自らの思いが私的なものであるにも関わらずそれを否定し、公的な立場で歪みを是正しようとしたことにある。自らの理由を正当化できないのに行動を正当化できるはずもない。それで罪悪感を募らせた。それが結果的に正しかったとしても、それを信じることができないんじゃ遅かれ早かれ頓挫したさ。

 

 アイツの理由は“罪滅ぼし”……電嬢と雷嬢がアイツの妹がモデルとなってることは知ってたな。それを止められなかったこと。彼女たちの記憶を引く二人を戦場に立たせなければならないこと。それに対する罪滅ぼしだ。これも歪んでいる。過ってないのに何を正せばいい? ただの自慰行為に過ぎないんだよ。あいつの罪滅ぼしは。

 

 俺はそれでも動く理由になると思っている。それを認めればいいと思っている。だけどあいつにとってそれはタブーなんだよ。―――――なんでかって、そりゃあアレの親父たちと一緒になりたくなかったんだろうさ。自らの一族のためにクーデターを引き起こし、水上用自律駆動兵装の技術を独占して地位を高めたり、そういうことをした月一族の人間と一緒になりたくなかった。私利私欲のために行動することの醜さをずっと見てきた。だから動けない。

 

 

 

 

 

 だから馬鹿なんだよ。アイツは。馬鹿だからそうするしかできなかったのさ。

 

 

 




只今実家の試される大地に帰省中。温度差40度で体が狂いそうです。
しばらくはのんびり更新になると思います。楽しみにされている方、申し訳ありませんがよろしくお願いします。

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回から次の作戦に入ります。

それでは次回お会いしましょう。

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