艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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今回はおっそろしく難産でした。ここまでトータル2万字ぐらい書き直している模様。

それでも、抜錨!


ANECDOTE007 信じることぴょん

 

 

「きくきく~、うーちゃんちょっと退屈ぴょん~」

「きくきくと呼ぶなと何度言えばいいのさ、一体……」

 

 菊月が隣でいろいろ煩い僚艦に読んでいた本を閉じた。

 

「退屈なら睦月のところにでも行けばいいだろう」

「むー、そうするときくきくが一人きりになっちゃうぴょん、それは可哀そうだもん」

「本を読む時はひとりの方が楽なんだが……」

「そうしたらきくきくはずっとひとりになっちゃうぴょん」

 

 赤に近い色の髪を揺らして卯月がそういう、卯月の部屋は隣にあるのだがなぜか彼女は菊月の部屋に入り浸っていた。

 

「なら三日月を一人にしてるのはいいのか?」

「みっかーとはさっきまで一緒にいたぴょん。今はきっと射撃レンジに向ってるはずでっす」

 

 そんな報告を聞いて菊月は溜息をついた。

 

「……卯月。お前なぁ」

菊月(、、)

 

 卯月が菊月の言葉を遮った。

 

「うーちゃんは菊月と三日月のお姉ちゃんだぴょん。菊月も三日月もお姉ちゃんを頼らなさすぎぴょん」

「あのなぁ……」

 

 いきなりそんなことを言われてもと思いつつも菊月は顔を上げる。目を合わせるとわかりやすく『怒ってます』と言いたげな卯月のふくれっ面があった。

 

「菊月がむつむつとからっぎーを心配するのもわかるぴょん。司令官を心配するのもすっごくよくわかるぴょん。それでも菊月は周りを頼らなきゃだめぴょん。だからほらお姉ちゃんに話してみるぴょん!」

 

 卯月はそう言って菊月の肩をがっしりと掴んだ。

 

「まったく……ぴょんぴょんぴょんぴょん煩いお姉さんだな」

「ぴょん!?」

 

 菊月は少し意地悪な笑みを浮かべた。

 

「な、何をいうぴょん!? う、うーちゃん、ほら、私はこんなに淑女でございますのよ!?」

「いきなりキャラクターを変えようとしすぎて変になってるぞ、卯月」

 

 菊月はそう言って口の端で笑った。つられたように卯月も笑う。

 

「もう大丈夫ぴょん?」

「何を言う。私は最初から大丈夫だ」

 

 それが強がりじゃないと菊月は言い切れなかった。追撃が来る前に話題を変える。頼れたいわれたことだ。知恵を借りても文句は出ないだろう。

 

「卯月、大切な人を自分の遠くに置かないといけない時、そしてその人に危機が迫ることが確定的な時、お前ならどうする?」

「そんなの簡単だぴょん」

 

 卯月は胸を張った。

 

 

「信じることぴょん。考えることぴょん。乗り越えられると信じて自分も頑張る。大切な人がピンチになった時に駆けつけられるように用意することはもちろん大切だけど、信じて待ってみるのも一つの手だと思うぴょん」

 

 

 卯月はそう言い切った。

 

「不安でも待ってみるのも一考ぴょん。少なくとも寝る間を惜しんで本を読んで頭でっかちになるよりしっかり寝て体調を整えた方がいいとうーちゃんは思うぴょん」

「……卯月は変わらないな」

「そんなことないぴょん。変わらないモノなんて無いぴょん。きくきくのよく言う……なんだっけ……さいさいねん……」

「―――――年年歳歳花相似 歳歳年年人不同、か?」

「そう、それぴょん!」

 

 梅の花は変わらず咲いても、それを眺める人は移ろいゆく。

 

「……私も、変われるかな」

「今の自分が嫌いぴょん?」

「いや、嫌いというわけではないが……」

「なら変わらなくてもきっと大丈夫だぴょん。菊月は私達の旗艦をしっかりやってくれてるぴょんだから大丈夫ぴょん」

 

 その答えを聞いて菊月は肩を竦めた。なんだかんだで姉にはかなわないのかもしれない。そう思った時、遠くで銃声が響く。一瞬体を緊張させたがその音でわかる。

 

「……三日月か」

「みたいぴょん」

 

 なんだかんだで信頼できる仲間だ。今は仲間を信じてみるのがいいのかもしれないと思い始めていた。

 

「……あとは司令官たちに任せるしかないのかな」

「ぴょん?」

「なんでもないさ。こちらの話だ」

「むー。だからそう言うのをお姉ちゃんに話すぴょん!」

 

 話が延々とループして結局夜遅くまで起きている羽目になる。そんな予感を感じつつ菊月は口の端だけで笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?」

 

 先客がいたことに驚いた。その先客も一通りの射撃が終わったようでブースから安全確認の声掛けなどが響いていた。

 

「お、悪いな。嬢ちゃんのテリトリーだったかな?」

「いえ、少し驚いたもので……」

 

 回転式拳銃をスウィングアウトさせて持つ男はイヤープロテクターを外した。拳銃と呼ぶには特大サイズのそれを見て彼女は僅かに目を輝かせる。

 

「トーラス・レイジングブル……ですか?」

「詳しいな。昔からの相棒さ」

 

 彼はそれを後ろの作業台に置いて笑った。

 

「人間用のシューティングレンジに来るのは珍しい方じゃないのか?」

「そうかもしれませんね、私達の鎮守府は特殊なので……三日月と言います」

「ん、よろしく三日月嬢。俺は……」

「杉田勝也大佐……間違ってましたか?」

 

 驚いたような表情を彼が浮かべたせいで三日月と名乗った少女は少し不安げに首を傾げた。

 

「驚いたな、週刊誌の取材なんて受けた覚えなんてないんだが」

「杉田大佐は有名ですよ? 仙台市市街地戦やフィリピンPKFで活躍した狙撃兵にして、海軍転属後は“千里”の二つ名をほしいままにする長距離ガンナー」

「……情報の出どころはステラ……星影少佐か」

「星影提督とは知り合いなんですか?」

「顔は今日まで知らなかったがな」

「?」

 

 杉田はそう言うと作業台に体重を預けた。講義するようにギシリと軋むが無視をした。

 

「互いに有名人だからな。と言っても向こうについては噂話で流れてくる程度だが。スナイプチームでステラと呼ばれる謎の狙撃手について聞いたことのない奴はいなかったんじゃないの?」

「そうなんですか?」

「キロ級スナイパー、それも2000メートルクラスのスナイプ技術は隠そうとしたってそうは隠せない。俺もお門違いとわかっていても歯噛みしたもんさ」

 

 透明なライフルを構えるように上半身のバランスを作る杉田。目線の先には先ほどまで狙っていた紙的があった。

 

「狙撃兵としての星影少佐と前哨狙撃兵(スカウトスナイパー)だった俺とじゃ求められる役割が違う。相手の射程外から確実に屠る技術を求められるのが狙撃兵だが、前哨狙撃兵はそこまで長距離の狙撃能力は求められない。それよりも情報収集や後方からぶっ放した砲撃の着弾観測やミサイルの終末誘導、それらの技術が求められる」

 

 ゆっくりと引金を引き絞り、彼は笑った。

 

「星影少佐は俺のことを貶してただろ? 何でも屋とか邪道とか」

「それは……」

「その反応はアタリだな。狙撃手にとって前哨狙撃手は邪道であり、逆に前哨狙撃手にとって狙撃手は腰抜けに写る。そういうもんさ」

 

 ライフルを構えるポーズを止めると肩を竦めた。

 

「おっさんの話をするだけだと時間の無駄だな。三日月嬢も頑張れよ」

「はいっ……ってあれ?」

「どうした?」

「もう撃たれないんですか?」

「おっさんは朝早い分寝るのが早いのさ」

 

 そう笑った彼の背中が闇夜溶けていく。三日月の視線から逃げたところで杉田は立ち止まって煙草を取り出した。

 

「……で? 実際のところはどうなんだ。ステラさんよ」

「今はその名で呼ぶな」

「お前さんもあれか、月刀の馬鹿と一緒で過去を捨てたい派か」

「アイツとも一緒にしてんじゃねぇ」

 

 夜間迷彩のように壁に溶け込んだ甚平に杉田が笑みを贈った。

 

「さすがに今から腕比べとは言わんよな? 三日月嬢にも言ったがおっさんは寝る時間なんだ」

「そこまで歳いってるとは知らなかったぜ“スティンガーキラー”――――――テメェ、ガトーの代わりに指揮をとれ」

「……モノを頼むつもりならそれなりの礼儀を尽くせよ」

 

 マッチを擦って杉田が笑う。その凶悪な笑みをマッチの炎が照らした。

 

「確かに今の月刀は危険だろう。あいつ自身も、それに依存している電も。だがな、そんなもんとっくのとうに織り込み済みだ。“こちらは全員承知でやってんだ”、黒烏なめんな部外者」

「それで誰かが死んでも同じ口が叩けるか?」

「……特殊部隊出身の奴はなんでそんなにワンマンショーをやりたがるかな」

 

 心底呆れたといった雰囲気で杉田。それを聞いた星影は眉を顰めた。

 

「だれも一人で戦っているわけじゃねぇ。同じ部隊の仲間を信じるのも一つの手だろうよ」

「……今更アレを信じろと?」

「月刀とお前さんの間に何があったなんて知らないし知ったこっちゃねぇ。だがな、まだ俺たちはあのバカを信じてるんだよ。手の付けられないほどの馬鹿だが、なんだかんだで最後には帳尻を合わせてくる奴だ。信じてもバチは当たらんだろう」

 

 それを聞いて星影は苛立ったように腰に下げた打刀の柄をトントンと叩いていた。

 

「月刀も俺もお前さんも一人じゃねぇ。力を合わせれば何とかなるなんて御伽噺を信じてるわけじゃないが、可能性の幅を広げることは可能だと思ってるぜ」

 

 話はそれだけか、と言って煙草をくわえたまま杉田は歩き出した。横を通過するときに小さく

 

「悪いな。味方を信じようと努力もしない奴とは話す気にはなれないんでね」

 

 後には小さな舌打ちだけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜中に押しかけてきた電を、航暉はそれを予期していたかのように迎え入れた。航暉は未だ制服姿であり、電もまたそうだった。

 駆逐艦“あすか”の第4階層にある司令長官室の小さな丸窓からは桟橋を挟んで反対側に停泊する“とわだ”の姿が見える。4時間前程に入港した横須賀からの補給物資を満載した高速補給艦だ。夕張の使用する特殊榴弾砲OIGAMIやSTARDUST用のシールドビットの補填、各種入渠用装備を満載して入港していた

 

「ごめんなさい、いきなりきてしまって……」

「とわだに同行してきたドイツ艦隊の面々の案内も終わっているし、今日の仕事は終わったところだ。ちょうどいいタイミングだったよ」

 

 それは嘘だと電はすぐに見抜いた。デスクにはキャップを閉じた万年筆がデスクに転がっている。揺れる船ではペンはどこかに転がっていかないように筆箱に仕舞うかペン立てに立てる。机に転がっているのは直前までそのペンを使っていた証左だ。また、万年筆に使われるのは水性の染料インキ。耐水性は皆無だから海軍の公式書類に使われることはあまりない。航暉もそこはわきまえていて、その万年筆は私信などにしか使ってなかったはずだ。

 

 気を使ってくれているのだろうと思うが、電にとってはそれがどこか寂しくなってしまう。

 

「星影か凪風のところに話を聞きに行った、ってところか?」

「……司令官さんには丸わかりなんですね」

 

 どこか寂しそうな笑顔を浮かべて電は赤く腫らした目を細めた。

 

「凪風司令から聞きました。司令官さんが、その……」

「裏切り者か? それとも殺人鬼とでも言われたか?」

 

 電が目線を下げた、どちらかが正解か、あるいは両方か。

 

「間違いじゃねぇよ。それは」

 

 航暉の口調が崩れた。それを聞いて下がった目線が跳ね上がる。航暉はジャケットのボタンをはずしながら笑っていた。

 

「俺の前所属は日本国自衛陸軍第九師団特殊殲滅部隊。非公認の部隊であり、その名が示すように相手を殲滅することを目的にしていた。稀代の殺人鬼の集団だったことは間違いないな」

 

 ジャケットのボタンを外すと合わせの奥にあるストラップも外す。深い合わせがだらしなく下がり、ネクタイを押さえていた鈍い銀の光を返すネクタイピンを手にかけた。

 

「そして俺はそこを抜けた。身寄りのない俺たちにとって部隊は唯一の居場所だったし、部隊間の交流もあった。オクトーとノウェムは特にその交流が強かった。俺は星影たちのサポートをするはずだった作戦に参加しなかった。その作戦では……味方に死者が出たそうだよ」 

 

 彼はネクタイの目を引っ張るようにしてそのまま結び目を解いた。制服と同色のそれを引き抜くとデスクに置いた。

 

「裏切ったと思われても仕方ない。そこを抜けて、海軍の方に移ったのは俺の意志だ。ライ麦計画のモルモットであっても、雪音たちを追うために、そうした。そのための行動を星影たちが裏切りだというなら。そうなんだろうさ」

 

 航暉は第一ボタンに手をかけて、ふと動きを止めた

 

「任務は過酷だった。だからこそあの場では自らと仲間意識を強くした。場合によっては女も子どもも撃つんだ。初めて銃で殺したのはもうしわしわの爺さんだった。今でもよく覚えてるもんさ。あの時は震えたが、次の日にはもう何も感じなくなった。そうでなければ生き残れない。相手に命を預けて突入することも多い。俺は航空支援がメインだったら預かることが多かった。それはな、守るためと言って何人も殺すことを意味するんだ」

 

 第一ボタンを開けると一日で大分汗の汚れを吸ってわずかに汚れた襟首が見える。

 

「何人もそうしてきた。爆撃も含めれば間違いなく3桁後半、下手したら4桁近く殺して―――――」

「司令官さんっ!」

 

 電は聞いてられなくなって声を張り上げた。航暉は口をつぐむ。

 

「もう、司令官さんは“ガトー”じゃないのですよ……だから……」

 

 そんなことを聞きたくない。

 

「“ガトー”は私が殺したのです。あの時、フィリピンのあの工場で、だからもう司令官さんはガトーじゃないのです」

「それでもその罪が消えるわけじゃない。違うか、電」

 

 それを聞いて電は言葉を継げない。それでも引き留めなければならない。

 

 

 

 今止めなければ、私が止めなければ、彼は潰れる。

 

 

 

 司令官が消えたあの時みたいな思いを、あの時みたいな後悔を、もうしないと決めたから。

 

「確かに罪は消えないのです。それでも今すべきは後悔でも贖罪でもないと思うのです」

 

 毅然と電は顔を上げる。ここで押し負けるわけにはいかないのだ。

 

「司令官さんが今背負うべきは国連海軍極東方面隊総司令部隷下、第50太平洋即応打撃群司令長官としての責任、違いますか?」

 

 電は彼の右肩に揺れる金の飾緒を見る。司令長官を示す明るい金色は部屋の暗い照明ではどこか暗く濁ったオレンジ色にも見える。

 

「……司令官さん、私は間違ったことを言ってるかもしれません。それでも司令官さんがそうやって塞ぎこんだままなのを見るのはいやなのです」

 

 電はそう言って一歩踏み込んだ。

 

「司令官さん、司令官さんは生きていること、後悔していますか……?」

 

 それを聞いて航暉は僅かに視線を逸らした。

 

「……後悔しているかどうかすら、もうわからねぇよ」

 

 電の前では見せたことのないような凶暴な視線が走る。初めて見るかもしれない、彼の表情だった。

 

「奪った命とこれから奪う命、俺がこれまでに経験した命を超えるために、俺はいくつ鋼鉄の魂を持てばいい? もう……まともでいられる時期はもう過ぎたんだよ」

「そんなことないのですっ!」

 

 否定しなければならない。一瞬でも悩んではならない。彼に言葉が届くまでは手を伸ばし続けなければならない。

 電の言葉をどこか眩しいモノでも見るようなしぐさをして視線を落とした。

 

「そうかな? ……なぁ、電。俺は何なんだろうな。」

「司令官さんは司令官さんなのです。そのことは私が知ってます」

 

 その答えを聞いて航暉は僅かに笑ったようだ。

 

「――――――モーセは神に言った『私がイスラエルの人々の所へ行って、彼らに〈あなた方の先祖の神が、私をあなた方の所へ使わされました〉と言う時、彼らが〈その名はなんというのですか〉と私に聞くならば、なんと答えましょうか』」

「……?」

 

 そう言う彼は少し悲しそうにつづけた。

 

「神はモーセに言った『我は我である』……少なくとも俺は神じゃないし、人間でももうないらしい」

 

 彼の悲しそうな笑みはその先を続けようとして、途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜闇に包まれた漆黒の海を船団がゆっくりと進んでいる。“彼女たち”にとっても夜は危険な時間帯だ。電探も逆探もあるがそれでも目視での戦闘は重要になる。夜偵の発艦はできても着艦ができない以上、夜明けが見えてこないと飛ばせないという事情ある。もっとも艦載機は消耗品だから使い捨てもいいのだがこの後の戦争に取っておきたい都合もある。

 

「……」

 その闇に溶け込むように動く船団はただひたすらに西を目指していた。なぜ西を目指

すのか……そこに敵がいるから、それ以上の意味はない。なくてもいいというのがその部隊の長たる彼女の考えだった。

 

 キヒ、と小さな笑いが響く。

 

「――――――Shutaul, hildie zelie flamius」

 

 敵の言葉なら何となるだろう? と彼女は考える。――――星よ、輝きを隠せ、だろうか。そんなことを想える自分に少し笑えてきた。敵に思考が近づいてきている兆候だ。

 

 戦いにおいて相手の行動をシミュレートするために、まず相手の思考をエミュレートする必要があった。そして彼女たちはそれを成した。それは同時に自らの可能性と戦略の幅を広げることを可能にした。

 

 闇を進みながらどうするべきか考える。考えた先になにがあるのかはわからないが考えることが嫌いではなくなってきている自分に驚いていた。そうして考えるという行為が“今は”不要であることも。

 

 

 匂うのだ。

 

 

 敵の匂いが近づいていた。そうして裏切り者の匂いも近い。仲間を絆した相手の匂いだ。それらが近づいてくる。

 裏切りの匂いを漂わせるそれは長の好きにしてよいと言われていた。どうしよう。どうしてくれよう。心が躍る難問だ。

 

「Shutaul, hildie zelie flamius. Loite yurise halte luses nero mats diplie zuishur dem」

 

 もし隣を進む仲間に聞こえていたら、驚いていたかもしれない。

 

 星よ、その灯りを隠せ。我が闇と欲望を照らしてくれるな。

 

 お世辞にもそう言うことを言いそうな性格をしていないと彼女自身もわかっていた。それでもたまには言いたくなるのだ。

 

「Luldus kumes enelur enecurmen kulchie」

 

 声を上げ、敵の匂いがきつくなってきたことを告げる。戦の気配を感じるこの時が、一番心躍るかもしれなかった。長引くのも悪くない。それでも急かさずにはいられない。この感覚が心地よい。

 

 あぁ、次会う敵は歯ごたえがあるだろうか。

 

 

 

 

 

 

「―――――――Guelute Guestrese!」

 

 

 

 

 

 

 

「来ル……」

 

 真っ白な部屋の中、彼女もまた匂いを感じ取っていた。前よりも狭くなった部屋だが、より海に近いここは横須賀の広々とした部屋よりも心地よかった。そんな真っ白な部屋だが、一か所だけ周りの白から明らかに浮いているものが壁に設置されていた。彼女はそれを押し込んだ。

 

「―――――イナヅマト会ワセテ。伝エナキャイケナイ事ガアル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――第一種警戒態勢を知らせる警報がなる。戦いの足音はそれぞれの思いを無視するかのように近づいてきていた。

 

 

 

 

 

 

 




最後の方の怪しいアルファベットはりょうかみ先生考案の深海棲艦語のアレンジだったり……りょうかみ先生にはこの場を借りてお礼申しあげます。


これまでも爆弾抱えての戦闘をしてきましたが、今回ほど特大サイズはなかった気が……


感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回から戦闘回! 一気に行きますよー。

それでは次回お会いしましょう。

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