艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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大変お待たせしました。続きと参りましょう。

それでは、抜錨!


ANECDOTE011 待ッテテ、イナヅマ

 

「……ダメダヨ」

 

 ヒメと呼ばれた存在は小さくそう呟いた。横に腰掛けた青い制服を着た少女がどこか儚げに笑った。

 

「大丈夫だよ。イナヅマたちは強いから」

「デモ、クラリフィスハ……」

「そのクラリフィスってそんなに強いの?」

 

 少しでも会話をつづけること、それが今制服の少女、レーベリヒト・マースに課された任務だった。本当はレーベも今回の出撃に出ることになっていた。だが、レーベにとって太平洋での外洋航海は横須賀からカナリア鎮守府に向かうまでの護衛が初めてであり、その結果今回の出撃任務からは外されるという少し苦い結果になっている。

 

「クラリフィスハ残忍。深キ者ノ間デモ怖イッテ言ワレテル」

「そうなんだ……」

「ダメダ。匂イガ強クナッテキタ……ダメダ……イナヅマ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急降下してくる敵の艦載機。それを見てPJこと森田は喉を干上がらせた。なぜだ、なぜ気がつけなかった。相手にとってはすでに必殺の間合い。普通に避けていたら間に合わない。

 

「―――――南無三!」

 

 隣の永瀬が右のラダーペダルを蹴り込んだ。同時に操縦桿を左に叩き込む。急激にあべこべな指示を出された機体が軋む。

 

「ぐおっ!」

 

 予期せぬ急な機動に森田の視界が歪んだ。

 制御できない発散運動(ディパーチャー)。無理矢理に舵を全開まで切られた機体は機首を左右に振るノーズスライスを起こしその場でくるりと回転を始める。失速(ストール)した機体は重心を保ったまま失速後回転運動(ポストストールジャイレーション)に突入する。ゆっくりと機体がフラットスピン。水平に回転した機体のコックピットの窓に敵の艦載機が映る。本当ならば機銃を放ち離脱しているルートだ。それに向かって永瀬は引き金を引いた。曳光弾の帯が伸びる。相手の影をくしゃくしゃにしてそのままフラットスピンが続く。

 

 その無茶な機動で翼の周りの空気がはがれ落ち、揚力は一瞬にしてゼロになる。翼上面の空気の急減圧により寿命数秒の雲が生まれて吹き飛ばされた。吹き飛ばされたというより雲を残して機体が落下したのだ。揚力を失った翼はほぼ真下に機体を突き落とす重りでしかない。もし敵にパイロットがいてこの光景を見ていたとしたら、ティルトローターががくるりとスピンして後進しながら弾丸をまき散らしたように見えただろう。

 

 バランスが崩れ不規則にロールしながら高度が落ちていく。水平線表示が不規則に飛び回る。

 

「永瀬さんっ!」

「計器を信じろ! キックレフトラダー!」

 

 永瀬のアルトがそう叫び、操縦翼面を操作し、何とか機体を安定させようとする。全方位360度、めまぐるしく変わる水平線をつかみ、機体を回復(リカバリー)せねばならない。永瀬はともかくスピンを止めるべく左のラダーを蹴り込んだ。微かな手応えがあり機体のスピンが落ち着いていく。外を見ずにコックピットの姿勢制御表示を確認――外なんて見ていたら水平線を見間違えて変な姿勢に持っていきそうだ。計器はほぼ真っ逆さまに海面へ向けて降下している真っ最中だと知らせている。高度は5000フィートを切っていた。

 

「上がれぇぇぇええええええええええっ!」

 

 緊急用Vmaxスイッチを叩く。傷ついたエンジンが唸りをあげた。フルスロットルで回すプロペラが再び空気を捉える。重い操縦桿を引き付け無理矢理持ち上げる。

 

 海面を切るようにプロペラの縁が掠りながら海面すれすれを飛び抜ける。

 

「……よし、イイ子だ。そのまま上がれ」

 

 ゆっくりと高度計の針が上がっていく。その頃になってがなる警報に気がつく。

 

「……PJ、生きてるかい?」

「……今死にそうっすよ。というよりフラットスピンで避けるなんて無茶します?」

「あれぐらいしかないだろう。あの状況だと」

 

 マルチディスプレイが真っ赤な警報で埋め尽くされていた。後進しながら銃を乱射し、マイナスGの設計値を振り切らせながら乱降下なんて空中分解寸前の無理な機動をしたのだから当然だ。機体のいたるところが悲鳴を上げていた。

 

「宮藤伍長、生きてる?」

《……何だったんですか、いまの……?》

 

 とりあえず乗員は全員無事、燃料漏れの警告が出ているが何とか母艦まではもつはずだ。

 

「周囲は一応クリーンか。……月刀准将が何とかしてくれているみたいだね」

 

 できるだけ機体を揺らさないようにして母艦へ向かうティルトローター。その船が今、戦闘域に突入したところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟音が耳を穿つ。その中で川内は軽く笑った。

 

「遅いっ!」

 

 川内の砲が閃き、その反動を回転運動に変えていなす。目の前を重巡の砲撃が衝撃波を残して後ろに飛び抜ける。

 

 川内たちの任務は単純だった。レ級に向った電たちの退路を確保し、他の雑魚を蹴散らすこと。幸いにも敵は重巡ぐらいのもの、少々分が悪いが勝てない相手ではない。

 

「――――――綾波っ!」

「わかってます!」

 

 川内の影から綾波が飛び出した。川内は綾波のサイドポニーを見ながら一度急減速。綾波の立てた水飛沫を潜るようにして進路を変える。その間にも綾波が重巡リ級の懐に潜り込んだ。海面をなぞるように姿勢を低く前に飛んだ綾波の双眸が重巡を見上げた。深海棲艦にここまで近づくのは早々ある訳ではないが、珍しいというほどでもなかった。

 

―――――いけ。

 

 リンクの先の女王がゴーサインを出した。電探やレーダーなどの情報が合成され、あり得ないほどにクリーンアップされた視界に砲撃用の目標を示すレティクルが映る。セーフティはとっくに解除されていた。後は振り上げるだけだ。

 

「―――――綾波が、守ります!」

「守るというにはアグレッシブだと思うけど、さぁっ!」

 

 無線に乗っていたのか、彼女の妹分がそう言って笑った。綾波の右手に収まる12.7センチ連装砲B型改二の引金が引かれると、吐きだされた超音速の砲弾は相手の咢を食い千切らんと突っ込む。相手はとっさに体を退くようにしてそれをギリギリ避けて見せた。恨みの色が浮かんだその空色の瞳が彼女を睨んでいた。それを見て、綾波も笑って見せた。直後、発光。

 

「――――――!?」

 

 綾波の左脚に括り付けられた探照灯がフラッシングしたのだ。新月の夜に10キロ先でも余裕で読書ができるだけの光量を持つ探照灯、10万カンデラとも言われるその強力な光線の直射を浴びれば一瞬で目が眩む。

 

 目を守ろうと頭を逸らすようにして逃げる敵重巡。それが致命的な隙となった。

 

「忘れてもらっちゃ困るんだけど!」

 

 その反った頭を砲弾が真横から叩いた。綾波によく似た姿をした敷波だ。彼女の正確な砲撃でリ級が真横に吹っ飛んだ。その先に回り込んでいた川内が笑った。

 

「――――――“夜鷹”仕込みの部隊を相手にしたのが悪かったね」

 

 海面にどうと倒れ込んだ敵を見下ろして、砲弾を叩き込んだ。右腕につけられた砲が次々と炎を噴き、相手に破孔を穿つ。

 

「クリア」

 

 小さく報告を上げると無線の奥からも「ん、」と小さく帰ってきた。

 

「この後はどうすればいい?」

《とりあえず対空戦用意。ちょっとこっちも非常事態になりつつある》

「なりつつあるってどういうこと?」

《カズ君が過剰同調事故を起こした。対空リンクが使えそうにない》

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カズ!」

「戦闘続行! いけっ!」

 

 航暉が首の後ろを押さえながら叫んだ。深深度リンクが祟った。それでも電とのリンクを無理矢理保つ。

 

「赤城! 加賀! ユーハブコントロール」

《りょ、了解です》

《この程度、鎧袖一触です。心配いりません》

 

 脂汗を噴出させながら航暉は眉を顰めた。

 

「くっそ……!」

 

 航暉が指揮卓の画面を睨む。電とのリンク率を改めて高めた。

 

「武装システムが半分死んでやがるか畜生。――――――電! 一度下がれ。これ以上の戦闘は無理だ」

《……なの、です》

 

 予備回線(オルタネート)しか生きてないということはメインアンテナが死んでいるということだ。STARDUSTの使用もこの状況では厳しい。

 

「杉田、砲撃支援!」

「了解だ。大和!」

《照準を変更します!》

 

 大和の支援砲撃が来るまでわずかに時間がある。航暉は割れるような痛みを無視するようにリンクを維持、電たちの前線部隊に意識を繋ぎとめる。

 

「死なせて、たまるか……」

 

 リンクが不安定な状況だ、回線が死んでいるか、航暉のジャックが死んでいるか、それでも相手の砲塔を読み、電や睦月たちに回避の指示を出していく。

 相手の砲弾が如月の横を飛び抜けた。その衝撃に航暉が呻く。

 

「カズ! お前は死ぬ気か!? 電脳が持たんぞ!」

「死なせて……たまるか……!」

「ちっ」

 

 かすかな舌打ちの音、直後に航暉の頭が無理矢理管制卓に叩き付けられるようにぶれる。

 

「が、は……っ!」

「テメェはそこでもう寝てろ、ガトー」

 

 その頭を見下すようにしながら甚平姿の男が吐き捨てた。星影は航暉の作業服の襟元から覗くQRSジャックに自らのプラグを差し込んだ。

 

「テメェのエゴで艦娘を沈める気か馬鹿野郎。凪風」

「用意できてるよ」

 

 星影が元々座ってた椅子に凪風が腰掛けている、その首の後ろからコードが垂れ、指揮卓吸い込まれていた。

 

「テメェの脳、借りるぞ、ガトー」

 

 自らの意識が離散するような感覚。それは彼にとって、星影にとって慣れ親しんだ感覚だった。

 

 

 

「――――――能力強奪(テイル)

 

 

 

 静かに宣言する。離散した意識が再び彼の元に集まれば、彼の掌に全てのものが集まっていた。

 

「菊月、いけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 痛みに視界が霞むが、電はそれでも立っていた。痛む右手で警棒を振った。主砲の装弾装置がエラーを返していてまともに機能しない。魚雷もあと3本で打ち止めだ。どれだけのことができるだろう。それでもやるしかないのだ。

 

「睦月ちゃん、下がるのです」

「そんなことできるわけないよっ!」

 

 電はタイムラグなしで飛んできた答えにわずかに頬を緩めた。

 

「睦月ちゃんなら、そう言うと思ってたのです」

 

 命令です。と言いきって電は一歩前へ。

 

「犠牲無くして進める状況じゃないのかもしれないのです。そうなるならば、私は――――――」

 警棒を正眼に構え、電はさらに前へ。

 

「いなづまがその一番槍であるべきだと思う、だから、私が私であるためにここは譲れないのです」

「電ちゃん……!」

「下がってください。睦月ちゃん、妹さんたちを泣かせちゃダメなのですよ」

 

 その言の葉はまるで―――――――――。

 ―――――――――別れの挨拶のようで。

 

「電ちゃん!」

 

 前に飛び出す電。司令官にこれ以上の負担はかけられないと、リンクを切ろうと思った刹那、リンク率が跳ね上がった。

 

「―――――え?」

 

 体の制御権が奪われる。体を回すようにして勢いを殺し、行き脚を止める。

 

(司令官さんのリンクが回復した……?)

 

 その急制動に全身が傷む。この感覚は航暉とのリンクとは違うような気がするが、リンク先は変わってないはずだ。そんなことを考えている間にも状況は動いていく。

彼女の目の前の相手の頭がブレる。金属を砕くような硬質な音。砲撃―――――?

 

《直撃でも抜けんか》

 

 その声が響くと同時、視界の遠くに小さな白い影が立っていることに気がつく。その手にあるのは、艦娘の使う通常の砲ではなく、対物(アンチマテリアル)ライフルと呼ばれる部類の武骨な銃。月と冥府を司る女神の名を冠したPGMヘカートIIだ。

 

《未成熟な人間の特徴は、理想のために高貴な死を選ぼうとする点にある。これに反して成熟した人間の特徴は、理想のために卑小な生を選ぼうとする点にある。―――――死にに行くような選択はお前の指揮官を悲しませるだけだと思うぞ、電》

 

 再度、狙撃、正確にレ級の眼窩を穿つように放たれた50口径の弾丸はレ級に苦悶の表情を浮かべさせた。その隙を突くように電の前に黒い髪の小柄な影が割り込んだ。電を庇うように左手で抑え込み、片手撃ちの姿勢で手に持ったそれをぶっ放す。

 

「えぇい!」

 

 彼女の手にはハンドガンが握られていた。銀のステンレスの輝きを返すそれは50口径のガスオートハンドガン、IWIデザートイーグル.50AE。

 

「三日月、ちゃん……?」

「諦めちゃだめですよ。電さん。まだまだ、これは戦いなんですから!」

 

 その姿勢のまま三日月が引き金を引いた。強烈な衝撃と共に強装填(オーバーロード)された弾丸が飛び出していく。それはレ級の体に食いこみ、その度にレ級の顔を歪ませた。

 

「タングステン弾でも貫通すらしないってどれだけ頑丈な体してるの!?」

 

 三日月は驚きながらも電の手を曳いて後退する。

 

「睦月姉さん。バックアップよろしくです!」

「了解にゃしっ!」

 

 どこか気の抜けた了解に三日月は僅かに笑った。

 

《全部いいところ持って行っちゃって、うーちゃん少し寂しいぴょん!》

《ならさっさと撃て!》

 

 直後に再びライフルの狙撃音、どこか別の方角から卯月が何かで狙っているらしい。

 

「杉田大佐!」

 

 三日月が無線に呼びかけた。それからツーテンポほど遅れて水柱がいくつも立つ。支援砲撃、大和型が一気にレンジインしたらしい。

 

「司令官!」

 

 三日月の叫び声が無線に乗る。

 

《なんでこんな複雑なプロトコル組んでやがる、このバカ!》

 

 この声は星影だろうか。

 

《三日月はそのままリンクを維持、このバカを制圧するまでもう少し時間がかかりそうだ》

「せ、制圧ってどういうことなのです?」

 

 その無線を聞いてた電が無線に割り込んだ。

 

《まだわからんか、ガトーのリンクの制圧だよ》

 

 その答えに電は違和感の正体を知った。

 

「まさか、このリンクって……」

「私の司令官なら相手の能力を一時的にコピーして自らの能力のように使うことができる。―――――星影司令官は“能力強奪(テイル)”と呼んでいるんですけどね」

 

 三日月の答えに疑念が確信に変わる。間違いない。このリンクの先は――――――

 

「星影少佐なのです!?」

《凪風から言われなかったか? お前が前線で体を張るということがどういうことか》

 

 その問いに電は答えられない。

 

《中途半端な決意は人を傷つける。高い勉強代になったが、まだ今でよかったな》

 

 リンク率が上がる。体の違和が強くなる。

 

《悪いが俺が乗っ取らせてもらう。お前の自由にすると勝手に死にそうだからな》

 

 体はまるでベルトコンベアに乗せられたかのように流れるように動いていく。無駄のない、洗練された動き―――――それをどこか人形のようだと思ってしまうことに電はどこか驚いていた。まるでマリオネットのような完全に制御された統制。

 

「大丈夫。星影司令官は上手ですから」

 

 三日月が笑う。このリンクに慣れているのだろう。

 

 強い干渉による統率のとれた戦闘―――――昔ながらの軍隊のスタンダードな指揮方式だ。だがそれを悲しいと思ってしまうのは間違いだろうか。

 

 そんなことを考えていると、無線が割り込んだ。

 

《電、無事か?》

「天龍、さん……?」

《無茶しやがってバカ野郎! 後は503が引き継ぐ、下がれ……っ!》

 

 無線の奥で爆発音が響いた。

 

《くっそ、対空が押されてる! 大鳳!》

《制空劣勢! 赤城さん、大丈夫ですか!?》

《こんなところで、誇りを失う訳には……!》

 

 電が目線を上げれば、空にはたくさんの黒煙が漂っていた。その中、高空から飛び込んでくる何かが見えた。

 

「敵機直上!」

 

 三日月が蹴り込むようにして急加速、電の体も星影に操られるようにして左に急旋回。すぐ真横に爆弾が落ちてきた。遅延信管だったのか、足元深くで爆発し大きな水柱が電を持ち上げる。何とかバランスを取りながら殺傷域を抜ける。

 

「睦月ちゃん!」

 

 電の視界の先では至近弾を喰らったのかへたり込んで片目を瞑る睦月の姿があった。その彼女目がけて降下姿勢に入ろうとする敵機体を三日月がギリギリ撃ち落とした。

 

「司令官、急いで!」

《わかってるから静かにしてろ!》

 

 星影の苛立ったような声が響く。そして対空戦闘が繰り広げられる合間にも。レ級の砲門が電たちに向いていく。

 

 レ級が笑みを浮かべた、その刹那。

 

 

 

 

「――――――――HALTE!」

 

 

 

 

 その声が届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“あすか”の艦橋にいた科奈畑艦長は自らの目を疑った。自らの艦の艦種。国連海軍旗が翻るそこに小さな幼子が立っていたのだから。

 

「あれは――――――ヒメ?」

《Clarifice! Lus zelies sulls ene fusha!》

 

 聞きなれない音節。これは……

 

「深海棲艦語か!」

 

 配布されていた深海棲艦語の翻訳機(デコーダー)を立ち上げる。『Clarifice! あなたが探している私はここだ』

 

「だれだ! ヒメを隔離室から出したのは!?」

 

 艦橋で怒号が飛び交う。その中でもデコーダーが次々と言葉を変換し直していく。

 

『北のヒメの登場か。待っていたよ』――――そういう声は登録されてない。おそらくはClarificeと呼ばれた敵艦の言葉。

 

『私を殺しに来たのか?』――――これはヒメの言葉だ。

 

『裏切り者には制裁を、我々の掟だ』―――――Clarificeの声。

 

『そうして何が海に残る?』―――――ヒメの声。

 

『我々の繁栄が残る』――――Clarifice。

 

 そのやり取りをどこか冷めた思いで見つめる科奈畑。その目線の先には幼子も背中が映るだけだ。

 

『そうして恨んでいたら、楽しい海が訪れるのか?』

 

 ヒメの声が響く。

 

『私は認めない。殺し合うことでしか得られない平和を認めない』

 

 デコーダーが訳した言葉を見て、科奈畑は目を見開いた。これが、深海棲艦の言葉だというのだろうか。

 

『私は今からヒメではない。私は私の意思に則り、私の求める平和のために戦う!』

『それは我々を裏切るということか?』

 

 訳文は平坦だが、スピーカーから流れる深海棲艦語からは明確な憎悪が見て取れた。

 それには取り合わず、ヒメは、いや、“彼女”は声を張り上げた。

 

 

 

 

 

「―――――私ハ北方棲姫! 平和デ楽シイ海ノ実現ノタメ、コレヨリ、国連海軍ヲ全面的二支援スル!」

 

 

 

 

 

 日本語の叫び、それが無線に乗ると同時、彼女の艤装が姿を現した。

 

「戦闘機、発進用意! 待ッテテ、イナヅマ!」

 

 北の海を統べた幼き帝王が、再び海に舞い戻る。

 

 

 

 




はい、いろいろ詰め込んだ戦闘ターン折り返しでした。やっとコラボっぽくなってきたぞ……!

菊月がライフルを使うのはkokonoSP先生の作品からです。彼女の使うPGMヘカートII、このヘカートはギリシア神話のヘカテーに由来します。ヘカテ―は冥府を統べる女神であり、また月を司る女神でもありました。だから睦月型に持たせるのはある意味当然なのかもしれません。

星影提督の能力『テイル』についてはこちらでかなりアレンジさせていただいています。御本家の方がやはりかっこいいです。詳しくはkokonoSP先生の『艦隊これくしょん~明かされぬ物語~』をご覧ください。

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回はさらに戦闘が加速します。高速戦艦の活躍、とくとご覧あれ(予定)。

それでは次回お会いしましょう。

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