艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー 作:オーバードライヴ/ドクタークレフ
新章開始前の恒例の行きます。
今回はINTERMISSIONで時間軸がずれませんのでどうぞお気を付けて。
それでは抜錨!
「デスク、月刀航暉准将ってご存知です?」
「休暇明け早々どうした、ミズっちゃん」
そうあだ名で呼ばれた宮下瑞葉は少しムッとした顔をする。それを見た恰幅のいい男性は苦笑いで答える。
「たしか新設された国連海軍の指揮官じゃなかったか? 4月頭のプレスリリースで見たな」
そう言いながらコーヒーを啜るデスクの前に一枚の紙切れを差し出した。それを見たデスクが目を見開き、コーヒーカップを置いた。
「……おい。マジモンかこれ?」
「確度は高いと思います。有線してもよろしいでしょうか?」
「繋げ」
デスクから渡されたコードを首の後ろに差すとその時の見た映像を流す。
「……月刀航暉准将、プレスリリースで回ってた画像とマッチングしました。適合率98.36%、間違いなく本人です」
「というよりミズっちゃん、この男とどこで知り合った?」
「昔スカウトにいた時に顔見知りでした、その時は月詠航暉という名前でしたが」
「まて、じゃぁこの月刀航暉って養子か?」
「月詠航暉の両親と家族は16年前に事故で他界してます。それを月刀家が引き取ったというのは遠い親戚筋だったのでおかしくないんですが、月刀航暉は公的記録だと生まれも育ちも月刀家ということになってます」
ファイルを渡して有線を着るとデスクは目を伏せた。
「……臭いな」
「そして月刀航暉准将が私との記憶を持っていましたし月詠航暉と同一人物であることは間違いありません」
「調べるつもりか?」
「はい」
月刀家のスキャンダルか……とデスクが呟く。
「それともう一つ」
「なんだ?」
「その時に私達の記事のサンプルを渡したんですが、それと入れ違いでこんな内容が……」
デスクにタブレットを渡すとそこには文章ファイルと一つのムービーファイルが残っていた。それを見てデスクの額からドッと汗が噴き出し始めた。
「これ……告発文書か?」
「16年前の月詠一族爆殺事件の内容を記した文書と、それを仄めかす証言映像。おそらく月刀航暉准将の視界映像のコピーですね。そこに移ってる男性の顔は―――――――月刀家当主、月刀利郁氏と合致しました」
「……大スキャンダルにも程があるぞ、これ」
「ですよね。さらにたちが悪そうなのは証言映像の最後の方に気になる言葉が……」
そう言うと画像を再生する。
――――――――間違えてるのはどっちよ! そうやって人を使い潰して! それで国家を守るだなんて聞いて呆れるわ!
――――――――雷、黙りなさい。
――――――――でもしれーか
――――――――黙れと言っている。
――――――――司令官、さん……?
――――――――電、雷、二人は動くな。……そうやって売りさばいたんだな、雪音と琴音を。
――――――――ふん、そうやってこだわるからお前は未だ月詠の亡霊に憑りつかれただけの人形に過ぎんのだ。
再生を止める。
「途中で出てきた雪音と琴音の二人の名前は月詠家の子供の名前と合致しました。そして、彼女たちを月刀家が何者かに売りさばいた――――――未成年者の人身売買に関わった可能性があるんです」
デスクはそれを聞いてしばし口を閉ざす。
「……本気で調べる気か? 中途半端なジャーナリスト魂だったらやめておけ。このネタは戦術核並みの爆弾だと思った方がいい。月刀家は今でも力を持った軍閥だ。文字通り殺されるかもしれん内容だ。文字通りの命がけになる可能性もある、それでもやるのか?」
「航暉君……月刀航暉准将は私を信じてこの情報を託してくれたはずです。それを裏切るわけにはいきません」
ため息が一つ。
「わが社は出版社としては弱く、小さい。だからこそ身動きはしやすいはずだ。―――――社長には話を通して置く。行け。取材費は何とか上層部からもぎ取る。必ずスクープをものにしてこい」
「ハイっ!」
そう言うと自分の机に戻り手帳などをまとめる」
「さっそくどこに行く気だ?」
「事件の時の情報をもう一度洗い直します。金沢、富山、あと横須賀などを足で回ります。公用車、使っても?」
「好きに使え。……ミズっちゃん!」
編集部を出ていこうとした瑞葉にデスクが声をかける。
「体と命とハートは最大の武器だ。気をつけろよ」
「……ハイっ!」
ペンは剣よりも強しという。それの証明をしてみせる。
車のキーをとって瑞葉は外に飛び出した。
こんなに早く瑞葉さんを出すとは思ってなかった。伏線回収早すぎる気がしますがそれもまたよし。
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それでは次回(すぐに投稿します)お会いしましょう。