艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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なんとか間に合ったPREQUEL07の続き……クリスマス編投稿します。

とりあえず一言

ど う し て こ う な っ た !

それでは、抜錨!


クリスマス記念PREQUEL08 雨は夜更け過ぎに血雨へと変わるだろう

 

 窓には薄く雪が降り積もっている。今日は12月24日、ホワイトクリスマスというには少々足りないが、雪がちらつくクリスマスとなっていた。

 

「でもクソ寒いなこれ……」

 

 そんなことを部屋で呟いたのは太い指で苦労しながらラッピングを続ける杉田だった。その横では無言で黙々とクリスマスカードを量産する高峰と月刀。箱のラッピングを行うのは渡井だ。

 

「というよりこの時間までずれ込むとは……今日中に配り切れるのか?」

「しかたないでしょ、基地からの外出許可が今日の午後しか取れなかったんだからさ」

「にしても、もっとちゃちゃっとできないのか? なぁ高峰」

「それをしなかったのは杉田だろうが」

 

 高峰があしらいながらカリグラフペンでMerry Christmas! と綴っていく。定規を下線代わりにおいてはいるが、フリーハンドで飾り文字があっという間に書かれていく。さすがネイティブ、スペルはきれいだ。次点で字がきれいな航暉も似たような文章を綴りながら会話に加わる。

 

「お前らわかってるだろうが、これ全部教導艦の皆様の枕元に置いていくっていう難易度最凶のミッションがこの後控えてるんだぞ。これぐらいで弱音吐いてて大丈夫なのかよ」

「ま、鳳翔さんには許可取ってあるわけだしなんとかなるんじゃね?」

 

 渡井の楽観視に杉田がため息をついた。

 

「これで窓の鍵が開いてるのが女子トイレだけだったらどうするつもりだ?」

「喜んで乗り込む」

『やめろ』

 

 渡井の即答に全員が突っ込んだ。

 

「でもまぁ、とりあえず鳳翔さんが開けてくれるんじゃないの? 一応罪滅ぼしも兼ねて男子全員からのプレゼントってことになってるしさ」

「“委員長”も買ってたとは驚きだよな」

 

 そう下世話な笑みを浮かべるのは杉田だ。何とかリボン掛けが終わったらしい。

 

「んで、その委員長は? “サンタクロース作戦”に合流する手はずだろ?」

 

 高峰の問に答えるのは渡井だ。

 

「僕から頼んで教官に交渉に行ってもらってる。上官たる教導艦の詰め所に侵入するのを黙認してもらわなきゃいけない訳だしさ」

「まぁ下手にこの部屋の面子が行くよりは波風は立たないよな」

 

 杉田の声に、一同が頷く。

 

「まぁその分報酬求められたけど」

「何を?」

「ケーキ代わりのうなぎパイの確保」

 

 そう言われ自分たち用に買ってあったうなぎパイを見る。

 

「クリスマスだってのになかなか渋い感じになってるよな」

「仕方ないだろ、どこもかしこもケーキ売り切れてたんだから。いくら高級品になったといっても供給はまだあるはずなんだが」

「まぁ、いいんじゃない? 華の独身が集まってクリスマスケーキを囲むのもなんだかアレだしさ」

 

 渡井がそういって開き直ったその刹那―――――部屋の電気が落ちた。

 

「……なんだ?」

 

 反射的に壁際に寄った杉田がそう言いながら様子を窺う。航暉がドアの前を避けつつ電気のスイッチをいじる。

「電気が来てない」

「外の街灯はついてるからブレーカーが飛んだか?」

「そう単純でもなさそうだぞ」

 

 高峰が不吉なことを言った。窓際に立ちプラスチックの定規を鏡代わりにして外の様子を窺っていた。

 

「外に人影、見えるだけで数2。周囲の照明を避けて動いてる」

「……襲撃か?」

 

 水上用自律駆動兵装への反発などは少ないとはいえない訳ではない。テロなども起こらないとは言えない。部屋の面子に緊張が走る。

 

「電気が消えて5秒、襲撃ならそろそろ突入しているぞ」

 

 杉田の発言を裏付けるように、廊下から悲鳴が聞こえた。杉田と航暉、高峰が反射的に床に伏せた。連続した発砲音

 

「サブマシンガン以上は持ってるか」

「どうする?」

 

 高峰の問を聞きながら、ポケットからコンパクトナイフを取り出す航暉、床を転がるようにして部屋の隅にあった荷造りひもを手にして1メートルほどの長さに切り出した。

 

「……渡井、棚の本出せ。分厚いの」

 

 渡井から受け取ってそれを縛る。ハンマー投げの要領で投げられるようにする。それをいくつか用意した。発砲音の他に声が聞こえる。女性の声。侵入者がいるのは間違いない。部屋に置いてあったハンディ消火器を杉田に渡した。ためらいなく安全ピンを抜く。

 

「対テロ演習そのままにいこう。とりあえず渡井、火災警報器を遠隔点火できるか? 消火栓を使いたい」

「やってみる」

「あとは薬剤消火器とガラスの灰皿とかを武器に避難までの時間を稼ぐぞ、正面玄関から制圧する。状況開始」

『了解』

 

 高峰がドアを蹴り破る。同時に杉田が飛び出した。航暉も投『本』の用意をしたまま飛び出す。目の前の廊下にはまだ敵はいない。部屋は一階。声と銃声の響き方からして、侵入者は中央の玄関から反対側の廊下側に向かったらしい。

 

「階段、防火扉」

「あぁ」

 

 最後尾についた高峰が防火扉を操作する。二階に侵入されている可能性もある。二階から来た敵に背後から奇襲されるのは非常にまずい。階段の防火扉を閉じておけば最低限音で気がつく。壁際に並んだロッカーを勝手に漁って、ハンガーなどを掛けるのに使う50センチ程のアルミパイプを拝借、警棒代わりぐらいにはなるだろう。ハンガーもいくつか拝借。清掃具入れからモップもとりだした。

 

「急ぐぞ」

 

 できる限り音を立てないようにしながら走る。ここを曲がれば正面玄関という廊下の曲がり角まで来る。途中にあった消火器を回収して消火器で武装した杉田がコーナーをクリアリングしていく。そしてためらいなく消火器を噴射した。

 

「ガッデム!」

 

 杉田に飛びかかってきた影に向かって航暉がアルミパイプを振りかざした。同時にその影が一気に後退していく。

 

 

 

「メリィィィィィクリスマァァァァァァァァァス!」

 

 

 

 血染めのような赤い服装に白い縁取りがなされた服が玄関から差し込む光に照らされる、その服の裾を揺らして笑う女性がそういって、サブマシンガンを裾から取り出して笑った。その背後に見えるのは小中学生と言っても通じそうな背丈の少女。赤い服に身を包んだ―――――水上用自律駆動兵装。

 

「メインターゲット確認、江田島娘子軍(じょうしぐん)、第七駆逐隊、かかれぇ!」

『アイメム!』

「なにやってんだ笹原ぁあああああっ!?」

 

 それと向き合った航暉・高峰・杉田の叫びが被った。それに高らかに笑い返しながら笹原がサブマシンガンを乱射した。

 

「女の子のエッチな写真を買ってるような男の子に特製樹脂弾のプレゼントだぜぃ!」

 

 遮蔽物がないこともあり、野郎三人が全速力で後退する。樹脂弾と言っていたから死ぬことは無いだろうが痛いのはいやだ。

 

「あの服サンタ気取りかよチクショウ!」

「暴れん坊のサンタクロースは御免被るっ!」

「ご丁寧にクリスマス前だしなクソッタレ!」

 

 杉田がそう言いながら廊下を塞ぐようにロッカーを倒した、3つ一組のロッカーが豪快な音を立てて床に転がりそれをバリケードとする。その裏に飛び込むと、バリケードにガンガンと樹脂弾が当たって弾ける音がする。

 

「俺らだけじゃどうにもならねぇぞ!?」

「しゃぁない! 教官呼べ! この状況ならこっちの味方になるだろ!」

 

 高峰の声に航暉が無線を開く。緊急回線で教官に直結する。

 

「教官、笹原候補生を中心にした数名が男子寮で破壊活動を開始してます。私達だけでは止められません!」

『あ、あぁ……そうか……それは問題だな』

「模擬銃まで出てきてますから対応しきれません。とりあえず応援を……!」

『すまないが今忙しい、何とかしてくれ』

「なんとか……ってまさか、教官もしかして、渡井から買ってました?」

 

 一方的に無線が切られる。

 

「教官買収されてるぞこりゃ、高峰、委員長に連絡付くか?」

「駄目だ、オフラインになってる」

「となると、ローレンベルクか誰かに取り押さえられたな……本格的にやばいぞ」

 

 航暉の言葉を証明するように、下げた頭のすぐ上で弾が弾けた。

 

「かくれんぼなんてしてないでさっさと出てきなさいクソ学生ども! 男らしいところをたまには見せたらどう?」

「なぜぼのぼのだけクリスマス通り越して年末大掃除モードなのか気になるがな」

「うっさい!」

 

 笹原らとマガジンを共通化するためか対空砲などではなく警備用のサブマシンガンを手にした曙が、腰だめに構えた獲物で効力射を叩き込む。3点バーストにしているせいもあり、結構精度も高い。言葉遣いは荒いが実に楽しそうである。

 

「どっちにしてもジリ貧だ。なんかほかに飛び道具ないのか?」

「辞書投擲以外だとうなぎパイぐらいしかねぇぞ」

「どうしろと! あとなんでわざわざうなぎパイ持ってきたんだよ杉田!」

 

 高峰が半ばキレながらそういって辞書をとる。非殺傷弾を使っているとはいえ撃たれているのだ。辞書投擲ぐらいは許してくれるだろう。

 そうして高峰がバリケードから顔を上げた直後。

 

「あとついでにこれもプレゼント! 漣ぃっ!」

「てってー的にヤッちまうのねっ!」

 

 その顔面に思いっきり白い何かが張り付いた。飛び散る苺、黄色いスポンジ、航暉の足元にメリークリスマス! と書かれたチョコレートプレートが転がった。

 

「あいつら……っ! 投げるためにクリスマスケーキ買占めやがったな! どうりでケーキがどこも売り切れてるわけだクソッタレ!」

 

 なぜかキレる杉田。顔にケーキを張り付けたまま高峰が笑う。

 

「はは、ははは……久々にキレちまったよ……」

 

 そう言ったとたん、建物にいる男子全員に電脳通信が繋がった。

 

『高峰春斗候補生より候補生寮所属の全男子に報告、現在クリスマスサンタコスの教導艦及び女子候補生が寮内に侵入、好き放題暴れている状況である。総員速やかに全侵入者を確保せよ。繰り返す、全侵入者を速やかに確保せよ』

 

 その宣言が後に『海大血のクリスマス』と呼ばれる騒動の火蓋を叩き切った。寮内が一気に慌ただしくなる。男はどんなに繕ってても所詮はオス。どんなにリスクがあると知っていても女と戦う(物理)となったら立ち向かってしまうのである。

 

「戦力では向こうが上だが、こっちは数で押し込むしかねぇ、行くぞ野郎ども!」

「上等! 戦場を闊歩するのが男子の特権とか思ってる勘違い野郎に死の鉄槌をくれてやれっ!」

 

 生クリームで白粉状態の高峰が叫び、売り言葉に買い言葉で笹原が吠える。

 

 そうして男女対抗無差別級格闘戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぴゃあああああああっ!」

「どこの誰だ酒匂に『素肌にリボンだけ』みたいな恰好教えた奴!?」

 

 杉田がそう叫びながら鹵獲した模擬弾入りのマシンガンの引金を引く。セレクタは単発、マガジンは今のところ使用中のこれしかないから節約中だ。義体とはいえ女性姿の素肌に当てるのは忍びなく靴を狙って撃つ。

 

「痛いよ杉田さんっ!」

「素肌に当てるよりマシだろうがっ! 全くどういう感性してやがる。今12月だぞ、腹冷やしたらどうする気だ」

「いやぁ、ブロマイドの売り上げ枚数が最下位だって落ち込んでたからお色気作戦で何とかしようと思ってさぁ」

「 お 前 か 笹 原 」

「これで人気アップ確実だって阿賀野姉ぇも言ってたもんっ!」

「『妹分にそんな売り込み方をさせるな』と後で誰か阿賀野教導艦に説教垂れとけ馬鹿野郎!」

 

 杉田が陣地を変えようとバリケードを這うようにして移動を開始。その間の射撃支援は途絶える。既に廊下に設置されたバリケードと笹原たちのいる玄関との間には兵どもの骸が死屍累々と積み重なっていた。それでも男たちは突撃をやめない。突撃する以外に男子寮を守り抜く術はないのだ。

 

「来ないでくださいぃぃぃいいいいいいいっ!」

 

 涙目でそう叫びながら横薙ぎにサブマシンガンを振るう潮の凶弾(樹脂製)を喰らいながらも前進する男たち。バランスを崩してこけた前衛を飛び越えて別の男が穴を埋める。

 

「お前の死は無駄にはしないぞ!」

 

 そう言いながら飛び出してきた高峰を見て明らかに潮が怯んだ。電気が未だ点かない廊下でクリスマスケーキを顔面に喰らった後でまだこびりついているクリームやらスポンジやらがあばた(・・・)のように見えるからだ。

 

「とりあえず一人撃破ぁ!」

「させないわよクソ学生っ!」

 

 その眼前にひゅんと小さな影が割り込んだ。振りかぶったそれを高峰に向かって槍投げの要領で全力で投げる。

 

「くらえっ、トイレ詰まりを解消するゴムのあれアタ――――ック!」

 

 顔面に思いっきりラバーカップを喰らったのを見てそこにいた全員が噴き出した。一瞬双方の攻撃が止んだタイミングを航暉は見逃さなかった。一気に最前線に飛び込む。

 真っ先に反応した笹原にハイキックを叩き込む。笹原、左腕でガード、カウンターで右の掌底を繰りだした。航暉は首をひねってそれを躱す。飛んできた右腕を掴んでそのまま背中側に捻ろうとする。だが笹原の方が一枚上手だ。航暉の親指を引き剥がすようにしてロックを解除してローキックをそのまま叩き込もうと体を振る。航暉は体当たりをかけるようにしてそれを躱す。体重は当然ながら航暉が重い。笹原は煽られるようにたたらを踏んだ。その直後、彼の背後を取った漣がホールのショートケーキを振りかぶった。

 

「調子に乗るとぶっとばし……」

「させん!」

 

 確実に当てようと航暉に近づきすぎたのが災いした。振り向きざまの背面回し蹴りが漣の腕にヒット。真横に吹っ飛ぶケーキ。

 

「きゃあっ!」

「……ぁにすんのよクソ学生主席っ!」

 

 その飛んだケーキが潮と曙を掠っていた。体温などで柔らかくなった生クリームやらホワイトチョコやらが曙の顔や潮の胸部などにべっとりと張り付く。

 

「ぶっかけ展開ktkr!」

「縁起でもないこと言うな漣っ!」

「もうお嫁にいけないぃ……!」

「何してくれんのよこのクソ学生っ!」

 

 そんなことを言われながらも航暉は笹原を抑え込む。背後を取って拘束。袖口に入れていたナイフを取り出して峰を首にあてた。

 

「ちょ、カズ君ガチ過ぎないっ!?」

「部下を退かせろ笹原。既に勝ち目はないぞ」

「やーなこった」

「こちらも同志が何人もやられててね、既に退くに退けないのさ。――――さぁ、部下を退かせろ」

「その必要はないわ」

 

 女性の凛とした声が響く。航暉たちが戦っていた方向とは反対側の廊下から現れた影に航暉が息を飲んだ。その後呆れる。

 

「勝ち目がないのはあなたたちの方よ、月刀クン?」

「やっぱり委員長を捕まえてやがったか。んで亀さん系の縛り方はお前の趣味か。本当にお前ロシアンハーフか?」

「ふふーん、どうでしょう?」

 

 そう笑って篠華は縛って盾代わりにしている東郷駈候補生を小突いて前進させた。

 

「篠華さーん、この人もつれてきたけどどうすればいいー?」

「サンキューあがのん、とりあえずこっち連れてきて」

 

 阿賀野(ミニスカサンタver.)が似たような恰好の矢矧を連れて現れる。その二人に見事な亀甲縛りで護送されているのは――――。

 

「なんで嬉しそうにしてるんだよ渡井」

「喜んで縛られてたらしいけど? どうする? とりあえず人質交換と行きたいところだけど……どっちから解放する?」

『東郷から』

 

 男子全員即答。

 

「え? ちょっと、僕は?」

「あ? どうでもいい」

 

 高峰が即答。周囲も頷いている。

 

「教官買収されたきっかけだしな」

「お前のおかげでこっちは痣だらけだ」

「縛られるの好きでしょ?」

「扱いひどくね? ねぇ、僕の扱いひどくね!?」

「一応ブロマイド製作者はそいつだし、扱いは女子一同に預けるぞ」

「えっ? えっ……!?」

 

 航暉の言葉にさすがに顔が青ざめる渡井。

 

「渡井以外で異議があるものは?」

『無し!』

 

 男子一同の声が揃う。

 

「だから扱いひどくねぇ!? こうなったら誰が何を買ったかばらして……」

「あぁもうばれてる」

『嘘ぉ!?』

 

 男子一同の声が揃う(TAKE2)。さらっとカミングアウトしたのは篠華だ。

 

「渡井クン教官に渡してたよね、リスト。教官からの追及を逃れるために」

「……潮がやたら俺を狙うのはそのせいか」

 

 杉田がぼそりと呟いた。買ってやがったなこいつ。

 

「ま、というわけで渡井クンの交換条件は不成立だねー。んで、この男どうすればいい?」

殺し(やっ)てよし!』

 

 男子一同の(ry

 

「あーい、じゃぁこっちは作戦終了とするけどー、撤退までは指示しないよー。それじゃ“各自の良心に従って行動開始”」

 

 そう言って篠華が東郷を押し出すようにして解放。艦娘全員のサブマシンガンの槓桿が金属音を立てた。

 

「良心に従ってって攻撃再開と変わらねぇじゃねえかっ!」

 

 航暉が一応笹原を解放して下がると同時、大量の発砲音が廊下を埋め尽くした。……さっきと違うのはそれぞれが私怨のある相手にいろいろ被害が集中していることだ。

 

「さっさと倒れなさいよ、このっ!」

「いでででででででっ!」

「委員長お前曙のやつ買ってたの!?」

「杉田候補生、ご覚悟願います!」

「絶対負けないんだからっ!」

「おう、殺せるもんなら殺してみろや矢矧に阿賀野、相手してやるよ」

「杉田お前おっぱい目当てで選んでないか、そのラインナップ!」

「So war ich beschämt, müssen Sie hier sterben….」

「ドイツ語で何言ってるかわからないけど僕に魚雷を向けないではっちゃん!」

「伊8、渡井はやってよし」

「Verständnis!」

「だから扱いひどいでしょ高峰クゥン!」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図が再開される。高峰と航暉は購入を控えていたせいか、流れ弾にだけ気をつけていれば大丈夫そうだった。乱戦状態でだれが誰と戦っているのか区別することすら難しい。とりあえず壁際になんとか寄って無駄な被害を避ける。

 

「どうするよ?」

「どうするも何も……もうこれ止まらないだろ?」

「だよなあ」

 

 お互い溜息をついたタイミング、玄関ドアが音もなく開いた。

 

 

 

 

「お楽しみですね、皆さん」

 

 

 

 

 よく通る凛とした声。戦闘が一瞬で止んだ。

 

「げ、鳳翔さん……」

 

 騒ぎまくっていた篠華の呟きがしんと静まり返ったせいでやけに響いた。艦娘中心に皆が冷や汗を浮かべる。

 

「やたらと男子寮が騒がしいと思ったのですが……結構なことになってますね」

 

 ほんとだよ、と航暉は心の中で同意した。ケーキの残骸などが散乱しているし、ロッカーは倒れているしかなりの惨状である。

 

「たまのお祭りですし、元気があることは私も喜ばしいのですが、程度があると思いませんか、皆さん」

「……ハイ」

 

 喧嘩両成敗かな、と高峰が呟いた。航暉は笑うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、鳳翔さんに正座説教くらってみんなで清掃して終了ってわけ」

「……なんでそこまでやって普通に卒業できてるのよ司令官」

 

 川内が呆れたようにそう言う、冷めた紅茶を口に運びながらどこか懐かしむような声色でそれに答えた。

 

「さっき朝霜ちゃんが言った通りさ。人不足だよ。第二次日本海海戦の時だって、まだ候補生だった私やカズ君が送り込まれた。川内も知ってると思うけど、あの時はまだ今に比べて対深海棲艦戦線は余裕がなかった。いつ死んでもおかしくないからね、その恐怖と閉塞感のリバウンドが来てたんだと思うよ」

「……。悪いこと聞いたかな」

「いや? 馬鹿やってたのは大体が面子の頭のネジを数十本単位で紛失してるせいだよ? 気にする必要はないよ。それにあの時そうやって馬鹿できたのは『生き延びることができる』から『生きることができる』というように状況が変わってきていた証左でもあった。それを許してくれたのは、川内、あんたたちの頑張りのおかげだと私は思っている」

「で、その指揮官目指して頑張ってるときにゆうちゃんたちは男子寮襲って大乱闘スマッシュブ〇ザーズしてたわけだ」

「それはしのちゃんも一緒でしょうが、というより原案あんただよね?」

「さあね~」

 

 篠華がクスクスと笑いながら最後のクッキーをかっさらった。

 

「ブロマイドも最終的にはお守り代わりになってるところあるし、結果オーライじゃない? 海大卒業組で二階級特進した人いないのは五期組だけって話だよ?」

「ブロマイドがお守り……ですか?」

「そ。それを持ってるとなぜか作戦がうまくいくって話でね。一番効果があるのが鳳翔さんって言われてる」

「そういえば月刀クンも結局買ってたんだっけ、ブロマイド」

「ちゃんと服着てるやつ1枚だけね。そのせいだよ、鳳翔さんのブロマイド持ってると航空攻撃成功率が跳ね上がるなんて言われてるの」

 

 笹原の言葉に川内が笑った。

 

「それブロマイドのおかげじゃなくて、単に月刀准将の攻撃成功率がおかしいだけだと思うんだけど」

「まぁそれでもゲン担ぎにはなるんじゃない?」

 

 笹原がそう言って笑う。

 

「ま、そんなことがあった訳だ。川内も文月も……って文月?」

朝潮・朝霜(うちのこ)と一緒にとっくに撃沈してるわよ」

 

 篠華が笑って、笹原に手招きをする。机の向こうを覗きこめば三人並んで仲良く夢の中だった。文月はセーラー服の上を脱ごうとしていたのか、中途半端にめくれてへそが見えている。

 

「いつの間にブランデー盗んだ?」

「昔話に花を咲かせすぎたんだろうねぇ。海の上では本当に優秀なのに、寝顔は無垢な天使そのものだよ」

 

 篠華にそう言われ、笹原は少し笑った。直後。

 

「ということで天使な文月ちゃん一晩貸して、9万」

「残りの二人を置いてくなら許す」

「いい加減に、しろっ!」

 

 川内が結構本気で両腕を振り落とし、いい音が部屋に響いた。

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか? クリスマスだからもっとほっこりした感じになるかと思ったら、さすが黒烏、そんなことはなかった。

オーバードライヴのリアルクリスマスは単独で北の大地を飛び出して本州まで遠征です。一人きりのクリスマスイヴ&クリスマス当日確定です。この後空港に行くのですが、カップルとか多いのかなぁと思ってしまって憂鬱です。いいもんいいもん僕には艦これがあるもん……!

ちなみにその艦これもまさかの収集系イベがまた来るとは。そしてまたドロップ箱目当てで殴られるほっぽちゃん……合掌。

……そしてこの更新で『啓開の鏑矢』の文字数が100万字を超えた模様。皆さんありがとうございます。これからもご愛顧のほどよろしくお願いいたします。

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回更新からは本編に戻ります。対深海棲艦戦闘頑張ります。

それでは、次回お会いしましょう。
そして皆様、良いクリスマスを……

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