艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー 作:オーバードライヴ/ドクタークレフ
次回は夜戦だといったな、あれは嘘だ
川内「!?」
すいません、ジャンピングボード的な今回です。少し短めです。
夜戦まで突入するとかなりの分量を一回で投稿することになりそうなので分けました。
それでは、抜錨!
Point “MI0432” / The offing of Midway _
Sept.16 2082. 0548UTC. (Sept.15 1648SST.)_
《吹雪・白雪は夕雲・巻雲のカバー! 空母機動艦隊の撤退を支援! 初雪・叢雲はそのまま千代田の直掩! 睦月・如月は大破した霧島と日向のバックアップだ。撤退指揮は高峰に従え。君たちが最後の盾になる。気張れよ!》
「了解しました!」
《天龍龍田、特Ⅲ型、雪風はそのまま前進! 神通と合流しろ。空軍さんのクラスターで全体的にダメージが入ってるとはいえ、敵の打撃群はまだ健在だ。足を止めるなよ!》
「了解なのです!」
茜の空の下、全力で水雷戦隊が突っ込んでいく。
先頭を切る電の左右に天龍と龍田、まるで翼を畳んだ燕の羽のような急角度で艦隊が並ぶ。その羽に守られる形で進んでいた千代田のカタパルトが起動し、次々と水上機を上げていく。全機上げたところで初雪と叢雲にアイコンタクトを送る。電が振り返り左手を水平に掲げた―――艦隊離脱の許可だ。それに合わせて、両翼から睦月と如月が離脱し、味方の戦艦の方へと駆けていく。千代田は減速し、くるぶしに固定されたキャニスターから甲標的を海面に下ろす。静かに潜航していくのを見届けて千代田は無線をつなぐ。
「千代田艦載機、発艦完了!」
《こちら月刀、レーダーコンタクト。アイハブコントロール》
爆装を施した瑞雲が数機ずつの小隊に分かれて飛んでいく。その数機が頭上を飛び越えていくのを見ながら電が声を張り上げる。
「右舷一点回頭用意! 敵航空隊の足元を切り抜けます!」
「正気か電! 制空権は取れてないんだぞ!」
天龍が負けじと声を張り上げる。
「ほとんど艦爆隊は落ちてます。この数なら天龍さんと暁お姉ちゃんの対空装備があれば切り抜けられます!」
「……そういう指揮とかほんとに司令官に似てきたな」
「そういってもらえるとは光栄なのです!」
褒めてるわけじゃねぇよ。と天龍がつぶやく。それでも顔にはどこか笑みが浮かんでいた。
「……硝煙の匂いが最高だなぁ、オイ」
「そうね~。いい感じに燻された空になってきてるし、たまにはこういうのもいいかもね~」
「私は……あんまり好きじゃないのです」
天龍は電の消え入りそうな声を聴いてにやりとわらった。
「そうじゃなきゃ救援隊の指揮なんて電に渡さなかっただろうさ。気合い入れていくぞ……助けるんだろ?」
「……なのです!……551TSq第一小隊対空戦闘用意、敵艦隊への血路を拓きます!」
「マスターアーム・オン、ロサ弾・ウィンドウディスペンサー・スタンバイ、レディ!」
「対空機銃正常起動を確認!」
艦隊の対空特化艦である暁と天龍が両翼に展開する。殿に龍田が移り、残りの艦を先頭の電とで挟み込む形だ。こちらの動きに気が付いた敵機が飛び込んでくるが機体にはどれも爆弾は吊られていない。艦戦機だ。
「お姉ちゃん!」
「ロサ弾行くわよ!」
暁の主砲マウントに取り付けられた12センチ30連装噴進砲が火を噴く。敵艦戦隊を薙ぎ払い、作り出した空隙に向かい駆け込む。全力38ノット――――時速70キロに迫る猛スピードで飛び込んだ。
「天龍さん!」
「おう!」
両脇のマウントに取り付けられた二基六門の対空機銃が大量の鉛玉を吐き出していく。杉田から回されたレーダー情報と機銃がリンクし、近づいてくる機体から落としていく。レーダーウォッチに専念していた響が叫ぶ。
「二時上空艦爆1!」
「お姉ちゃん!」
「まっかせなさい!」
対空機銃の数撃でその機体は落ちるが、その数瞬早く黒い物体が切り離された。真っ逆さまに落ちてくる方向は……暁自身。
「うそうそうそうそうそ~~~~~~っ!」
焦った暁の頭上で“それ”が弾ける。真上から叩きつけるような爆風だったためあまり被害はないが、爆弾の熱でかなり熱い。
「……帽子燃えてないよね?」
「少なくとも燃えてるようには見えないね。……あとで司令官にお礼言っといたほうがいい」
響がそういって正面を向いた。並走するように飛んでいた烈風が一回翼を振ってゆっくりと戦場に戻る。よく見ると5機ほどの艦戦機が自分たちを直掩していた。……無線の奥は黙っていた。
「……今は進むのです!」
「了解!」
水雷戦隊が怒涛の勢いで敵の弾幕を超えていく。機銃の立てる水柱を縫うように進んでいく。執拗な攻撃に時にロサ弾で、時に機銃で、主砲やウィンドウ弾も駆使しながら最短距離で突き抜ける。
雷が一瞬顔をしかめる。艤装に小さな弾丸がめり込んでいた。
「痛いじゃないのっ!」
きっちり撃ち返して弾丸を叩き込む。艦隊を直掩した機体が二反転し主戦域に取って返す。いつの間にか敵の防空網を抜けていた。
「全員無事なのです?」
「私が艤装に機銃を一発喰らったぐらいかしら?」
「ゆきかぜも大丈夫です!」
雪風が手に持った主砲ユニットをぶん回し、後ろから追いすがる艦載機を撃ちぬいた。それを見届けた響は太陽のあまりの赤さに目を細めた。苦々しい表情を浮かべる。
「……どうやら敵の空母、艦載機の収容を全く考えてないみたいだね。司令官たちの航空機もこれじゃ下ろせない」
「そうね~これじゃあトンボ釣りが大変そうねぇ」
響の声に龍田が薙刀を揺らして笑った。
「まぁ、相手は回収する船が残っていたらの話だけど~」
龍田は妖艶に笑う。そのまますっと速度を上げて電に並んだ。
「それで、どうするのかしらぁ?」
「主な攻撃部隊は私たちと神通さんたち526水雷戦隊です。……本隊が離脱するまでの間の時間を稼ぎます。……おそらく司令官さんは“グレイハウンド”が降りられる距離を稼いで、大破している加賀さん、蒼龍さん、祥鳳さん、霧島さん、中破している赤城さん、日向さんを先に回収することを考えていると思うのです。残りの打撃艦隊で砲撃支援を出しながら敵の勢力をできるだけ削り、本隊の安全を最速で確保しなければなりません。……そうじゃないとこっちが危なくなります」
「……それで、私たちは何をすればいいのかしらぁ?」
電は目をつぶり深呼吸を一つ。司令官とのリンクを確かめる。
「……神通さんたちと協力して敵機動隊を半包囲します」
Headquarters of the Saver Group for Midway / Innerspease of DECATONCALLⅢ_
Sept.16 2082. 0605UTC. (1505JST.) _
「航空隊も下ろせないまま夜戦に突入か」
航暉はわずかに唇を噛んだ。ウェークに置いてきた身体でも唇を噛んでいるのだろう。痛みがフィードバックされる。
「どうする気だ、カズ」
高峰が航暉の隣でどこか薄い笑みを浮かべて現れた。
「赤城達は?」
「相手の射程外に出ればいいってもんじゃない。“グレイハウンド”が回収できるエリアに行き着くだけでも最低で40分。それもこの位置で完璧に足止めできた場合だ。……現実的には80分だろう。回収も含めて90分」
メタルフレームの眼鏡が光る。
「打撃群の防衛は吹雪と白雪が加わって何とかなってるが、榛名がネックだ。武装は生きてるが機関がやられて、いかんせん速力が上がらん。軽巡以下の高速艦に捕まったらまず逃げられないだろう。弾薬も無限じゃない。戦えてあと……150分。いくら空運のティルトローターが使えるといってもその時間で撤退させきるのは不可能だ」
「……150分で落としきれなければこっちが終わりか」
「だから、攻勢に切って出たんだろう? あと40分で中路艦隊の本隊が合流する。攻勢に出なければあのまま押し切られた」
高峰の言葉に頷く。電とのリンク率をわずかに上げる。敵の戦艦の砲撃を縫うように走る彼女たちを意識の中で俯瞰する。
「……孤独に歩め。悪をなさず、求めるところは少なく。林の中の象のように。か……」
「悟りでも仕入れた?」
「電脳空間じゃ悟りまでダウンロードできそうだが、それをする気はないさ……欲をかいてはすべてを失うとわかっていても、それでも譲ってはいけないところがある気がしてな」
「うん?」
「……杉田」
《おう》
「打撃群を反転させて水雷戦隊の援護を行う。照明弾と探照灯、千代田の瑞雲をつける。30キロでどこまで精度を出せる?」
《……使う砲によるが、おそらく±15メートルが限度だ。夜間射撃は誤差がでかい。あまり精密にやろうとするとデカトンケールは持っても回線が落ちる》
対空支援のために利根に意識を飛ばしたまま杉田は答える。会話を成立させながらも敵の艦戦をガンガン落としていく。……そろそろ夜闇に切り替わる。対空電探の情報中心に設定を切り替えさらに撃ちまくる。
「……主力艦隊転進、一斉回頭左舷3ポイント、進路0-4-5。単横陣で敵艦隊と向かい合うぞ」
《旗艦榛名・了解しました!》
「敵艦隊は38キロ先だ。重巡の有効射程まで接近して水雷戦隊の援護に回る。二時間で決める」
艦隊はゆっくりと転進を開始する。全艦がどこかしら傷を持っているがそれを感じさせないほど一斉に旋回を開始し、正対していく。
太陽が水平線の下に沈むその刹那、一瞬の緑光を残した。それが烈風の濃緑の迷彩を一瞬浮かび上がらせ、すぐに消える。ゆっくりと闇夜に溶けていく。
「オールステーション。こちら国連海軍月刀海軍中佐。海域MIにて戦闘中。我、夜戦に突入す。繰り返す、我、夜戦に突入す」
それは作戦参加艦のみではなく、付近の船舶や島々に向けた通達。……死にたくなければ近づくなという警告であり、戦いの火蓋を切って落とすという宣言だった。
Point “MI1532” / The offing of Midway _
Sept.16 2082. 0610UTC. (Sept.15 1710SST.)_
「Shit! 間に合わなかったネー!」
沈み切った太陽が空を夜に明け渡していく中で金剛は唇を噛んだ。
「メイジャー・タカミネ! 艦隊まであとどれぐらいネー!」
《35分ってところか》
「30分で誘導しなサーイ!」
「それはさすがに無茶じゃないかい……?」
隣で苦笑いを浮かべるのは時雨だ。
「無茶もヘソチャもないデス! 一秒でも早く艦隊に加勢しなきゃ……。カズキのところへ行かなくちゃ……いけないんデスっ!」
「……君のお姉さん、こんなに月刀中佐LOVEだったっけ?」
「ははは……ウェークに月刀さんが異動されてから一気に悪化しました。はぁ……」
全力でエンジンをぶん回す金剛の後ろで肩を落とす比叡。まぁ、いいんじゃないですかとあたりさわりのないコメントをする古鷹に戦場の目の前なのに眠そうな加古。加勢一番乗りを決めるにはどこでダッシュをかければいいか計算中らしい白露に真面目さが裏目に出て緊張しっぱなしの朝潮。
「……なんで周りは馬鹿ばっか……!」
《それなら君がストッパーになるしかないな。満潮ちゃん》
「……! ちょ、あん……」
「満潮? どうしました?」
聞こえてないのか朝潮が首をかしげて満潮を見る。
《これは、満潮ちゃんにだけチャンネルを合わせてある。周りのコードブックとは変えてあるから安心してね》
(―――――で、なによ)
《見ての通り金剛嬢は月刀中佐しか見えてなくて視野狭窄になっている。そのサポートは比叡がするべきところだが、おそらく彼女は金剛に押されて彼女を止めることはできない可能性が高い》
どこか演技臭いやれやれと言った声色の航暉の声に満潮は斜め前を進む金剛を見て目を細めた。後ろ姿で表情はほとんど見えない。
(まぁ、そうでしょうね。で? なんで私がストッパーにならなきゃなんないのよ)
《それができるのがおそらく君しかいないからだ》
無線の奥の声質が変わる。これまでのどこか緩いテンションが嘘のように張っている。
《君は適度に艦隊のメンバーから距離を取り、中立を保っているからだ。これからおそらく前線は攻守入り乱れた乱戦に突入する。その指揮を金剛がとれるとは思えない。それを指摘できるのは艦隊のメンバーでは君だけだ》
(駆逐隊の旗艦ですらないのに戦隊の旗艦様に異議申し立てをしろって?)
《月刀中佐から応援部隊の連合旗艦は551TSqの駆逐艦“電”がとるようにと言ってある。このことは伝えてあるが、もし電の指示を無視して金剛が動くようなことがあれば、まず君が止めてくれ》
(私の意見なんて聞いてくれるかしら?)
《それでも止まらなければ。指揮官権限で艤装をロックするまでだ》
(……! 正気?)
《それぐらい今の君たちは危険だってことだよ。特に金剛嬢は特大のジョーカーだ。彼女が下手に動くと残りの艦隊が危険だ。無論、君も》
満潮は高峰の声に内心溜息をつく。彼の言うことも一理あるのだ。今の金剛は冷静さを欠いている。その状態で戦闘域に飛び込めばどうなるか……正直、あまりいい未来が見えない。
(仕方ないわね……今度はこうなる前に手を打っときなさいよ)
《恩に着る》
無線が切れる。改めて全体無線がつながった。
《北側から回り込む。転進左舷半ポイント、用意、かかれ!》
空は地球の影を落としこみ、暗い藍へと姿を変えていく。月はまだ見えない。
遠く雷鳴のような音が聞こえ始めた。戦の足音はもうすぐそこに迫っていた。
満潮ちゃん、じつは仲間思いのいい子なんです……! あの態度をとらないと自分が押し潰れちゃいそうな少女なんです! 史実を知るとあのつっけんどんな態度も涙を誘うんです!
……とかいいながらやっと最近、彼女が改になりました。
感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
前線に飛び込んだ551水雷戦隊、後方から追い上げる金剛たち中路艦隊、撤退を進める攻略部隊。
あと数話(3話くらいでしょうか?)でMI作戦にもカタをつけるつもりです。もう少しだけ彼女たちの戦いにお付き合いください。
それでは次回お会いしましょう。