艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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さて、大変お待たせしました。オーバードライヴ、執筆復帰します。

今回からChapter4『銀弓作戦編』スタートです。
第二幕中盤にしてやっと部隊が活躍するというグダグダ仕上げではありますが、どうぞお楽しみいただければ幸いです。

それでは、抜錨!


Chapter4-0 男は集い

 

 

 

 

「……え?」

 

 彼女は驚いていた。

 

「なんでこんな所に、深海棲艦が……」

 

 彼女がすぐに“アレ”が深海棲艦だとわかった。それは彼女が艦娘だったからこそすぐに気がついた。

 

「……知らせなきゃ」

 

 彼女は無線機をとりつつ主機を微速へ、少しでも目立たないように体勢を低くする。

 

「こちら578DSq――――きゃあっ!?」

 

 直後に水柱がすぐ左横に立ち上がる。最速で海域を抜けなければと主機を吹かす。

 

「オフサイド、こちら578DSq……なんでこんな時に無線機が壊れちゃうかなぁ」

 

 この場合は時間が惜しい。使うなと言われていたけれど、非常通信用の通信機のアンテナを立てる。コード34、緊急事態発生。

 

 とりあえずこれで少なくとも彼女に何かがあった事は伝わったはずだ。

 

 後はここから撤退するのみ。全速力で逃げにかかる。直後、彼女の意識が一瞬吹っ飛んだ。

 

 砲弾が当たったのだと知るまでにあまり時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二種警戒態勢(コンディション・オレンジ)が発令され、ウェーク基地の空気は一瞬で澄んだ。緩んだものから張ったものへ、緩から急へ。

 

 その10分後、食堂兼会議室には付近哨戒に出ていた睦月と如月を除くすべての艦娘と合田正一郎第551水雷戦隊司令官がそろっていた。そこに航暉が現れる。相互に敬礼、着席と同時にデータが壁に表示された。

 

「昨日11月1日14時38分、西之島周辺に敵の大規模泊地が発見された」

「西之島?」

 

 頭に「?」を浮かべていたのは暁だ。

 

「父島から西に大体130キロってところだ。これで父島をはじめとした小笠原諸島が襲撃予測域、関東州沿岸が襲撃警戒域、そのほか本州四国の太平洋沿岸が襲撃危険域に入った。これを受けて硫黄島の578DSqが小笠原諸島の人員の避難のための船団護衛を遂行中だ」

 

 深海棲艦であれば130キロなんて軽く往復できる、むしろ近距離と言えるだろう。当然非戦闘員は避難しなければならなくなる。

 

 それを聞いて口を開くのは天龍だ。

 

「規模は?」

「おそらく三個艦隊程度と見られる」

「おいおい、なぜそんな大部隊になるまで気が付かなかったんだ?」

「海底火山の活動が活発すぎて艦娘も偵察機も近づけなかったんだ。火山灰を機関が吸い込んだら溶融からの再凝固でエンジンが一発でアウトだからな。噴煙も酷くて衛星もアウト、通信もその火山灰のせいでジャミング状態のためアウト、レーダーは西之島上空が完全に飽和して使い物にならなかった。いや“今も”だがな」

「で、いつの間にか侵入されてた、と」

「そう言うことらしいな」

「それで、今もレーダーなどが使えないのにどうして部隊の存在がわかったんだい?」

 

 疑問を投げかけたのは響だった。

 

「578DSqが一応偵察に出たんだ。そしたらばったり。……発見したのはDD-SR06“五月雨”、敵艦隊発見直後に交戦し、命からがら逃げ延びた」

「それで、上層部は?」

 

 先を促したのは合田正一郎少佐だ。

 

「極東方面隊総司令部は危機管理レベルを一段階上げてデフコンⅢへ。また敵艦隊の殲滅を目的とした“銀弓作戦(オペレーション・アリュギュロトクソス)”の発動を宣言した。中部太平洋艦隊、西部太平洋艦隊及び潜水総隊の合同作戦となる。また国連空軍の支援も入る」

第二種警戒体制(コンディションオレンジ)が出たってことは私たちも参加ですか?」

 

 そう言ったのは初霜だ。

 

「基地の防衛を553DSqの第2小隊に任せて基地所属全艦での参加となる」

「基地所属全艦……!」

「ミッドウェー攻略隊救出作戦以来の大型作戦だ。作戦部隊の総指揮官は西部太平洋第一作戦群総司令の中路中将だ。中部太平洋からは第三分遣隊と第551水雷戦隊、潜水総隊からは第597潜水艦隊が参加だ」

「……ほんとに大規模ね」

 

 如月が珍しく沈み込んだような表情をした。

 

「ここが潰されれば日本は再び直接爆撃を喰らう。早急に対処しないと補給路も断たれてあっという間に極東方面隊は干上がるぞ。出し惜しみもくそもない」

 

 そう言うと航暉は声を張る。

 

「第三分遣隊の出撃は2時間と15分後、1300に先行して出発。マーカスで一度中間補給を経て、硫黄島基地へ。551TSqは553に引き続き後、輸送機で先に現地入りし哨戒任務にあたる。以上解散!」

「了解!」

 

 全員の声がそろう。空は快晴、絶好の進撃日和だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 硫黄島基地。

 

 国連空軍の護衛機(エスコート)に連れられて降り立ったそこは名前の通り、わずかに硫黄の匂いが漂っていた。

 

「こんなに早く会えるとは思ってませんでしたよ。中将」

「うまくやってるようで何よりだ、航暉」

 

 硫黄の匂いから逃げるように建物に入った指揮官たちは玄関ロビーで改めて敬礼を交わす。後ろから追いついた551水雷戦隊のメンバーが合田の後ろに並んだ。

 

「中部太平洋第一作戦群第三分遣隊司令、月刀航暉大佐、及び同第二作戦群第五分遣隊第551水雷戦隊司令官、合田正一郎少佐。只今到着いたしました」

「協力感謝する。551の君とは初対面だね。西部太平洋第一作戦群総司令、中路章人中将だ」

「申し遅れて申し訳ありません。第551水雷戦隊司令官、合田正一郎少佐です」

「それで、状況は?」

 

 航暉が聞くと四角い箱が投げられる。電脳直結式の外部記憶装置(インフォメーション・キューブ)だ。航暉は箱を押し込むと接続プラグが顔を出し、それを自分のうなじに押し当てた。わずかなノイズ、の後、データを取り出し、切り離す。同じようにして正一郎もデータを受けとった。

 航暉は無表情なままそのデータをザッピングしていると、中路がザッピングが終わるのを待たずに口を開いた。

 

「到着早々悪いが551には付近の哨戒に出てもらう、合田君、大丈夫かね?」

 

 正一郎が振り返り阿武隈を見る。彼女が頷き返すと正一郎は改めて中路と向き合った。

 

「問題ありません」

「よろしい。確認できている敵の艦隊に非戦闘艦らしき艦影が認められる。潜水母艦の可能性もある。対潜哨戒を厳としてくれ。……睦月君」

「ふぇ、あ、はい!」

 

 いきなり呼びかけられると思ってなかったのだろう。ぼうっとしていた睦月は慌てて姿勢を正した。

 

「今回の作戦の対潜哨戒担当艦の適任として中央戦略コンピュータ(CSC)が君の名を弾き出した。相応の活躍を期待する」

「へ?……え? それってどういう……」

「要は期待してるから頑張れってことだ」

 

 航暉が笑う。直接の上司からは外れたとはいえ、部下が褒められて喜ぶくらいの感性は持ち合わせていた。

 

「合田君、この先の中央作戦指揮所のC-1卓を使ってくれ。阿武隈君以下551TSqは出撃用意を。そこの階段を降りたところで村雨君が待っているはずだ」

「了解しました」

 

 551水雷戦隊の面々が動き出す。ロビーには航暉と中路中将が残された。

 

「なぜ合田少佐が呼ばれたのです?」

「……」

 

 航暉の言葉に中路の表情がより硬いものへと変わる。

 合田の所属は中部太平洋”第二作戦群”。水雷戦隊を主体にした防戦を主体とする作戦に従事する部隊の指揮官をわざわざ西部太平洋艦隊が管轄するエリアに配置するにはそれなりの理由がいる。今回だって、わざわざエニウェトク基地から部隊を割いてウェークを守らせるなどかなり無理を押しているのだ。航暉の疑問もある意味当然だった。

 第一種軍服のタイを少し緩めた中路は航暉に首の後ろから引き出したコードを渡す。それを受けとった航暉は自分のうなじに差し込んだ。

 

『……銀弓作戦発表15分前に極東方面隊司令部のトップダウンで急遽決まったんだ。理由は中央戦略コンピュータ(CSC)がDD-MT01“睦月”の参加を提案したから。――――指揮官付で派遣をねじ込むには不十分だ。航暉が出張ることは決定してたからお前が基地代表として出張る以上、睦月だけを臨時で538に編入すれば済む話だ』

『つまり、裏があると?』

『そう考えるのが自然だろう』

 

 なるほど、そのための有線通信かと航暉は納得した。有線通信は外部から枝がつく可能性をほとんどゼロにできる。疑っていることを悟られたくなかったのだろう。

 中路が溜息をついた。

 

『作戦部隊には知らされない“なにか”が“合田少佐”の周りで動いている。……航暉、“ホールデン”というハッカーについて聞いているか?』

『……高峰からは一通り』

『どこまで?』

『スールースルタン海軍のイージスシステムのクラッキングを行った人物で、島風の目を盗んだ可能性が高い人物。……電紋は合田正一郎少佐の父、合田直樹元中将と一致しているものの真偽は不明』

『追加でもう一つ、合田中将は撃たれる直前、大量のデータをどこかに転送した』

『……それが?』

『データの送り先がエシェロンから抹消されてる』

『……国連軍の最上部が絡んでいる、と?』

 

 ぎょろりと中路の目が回る。エシェロンシステムと言えば深海棲艦が現れる前から存在する巨大な通信傍受網の総称だ。以前は帝政アメリカが運営していたが国連軍へと管轄がシフトしたはずだ。

 

『どのレベルかは知らん。だが極東方面隊の総合司令部以上の権限が絡んでいることは確かだろう』

 

 航暉はそれを聞いて考え込むように黙っていた。中路がここでホールデンの話を切り出した意図を測り兼ねていたからだ。すると中路が言葉を続ける。

 

『――――――私は“ホールデン”の正体を国連海軍上層部の自作自演の産物だと見ている』

『……目的は?』

『水上用自律駆動兵装運用体制の変革、といったところか。最近は最低限度の制海圏は確保できつつあったからな、深海棲艦との戦争の終結した後を見据えておきたいんだろう。そのためにマニラで艦娘の対人戦闘をカメラの前で行わせた。そのスケープゴートとして合田中将とその息子が利用されている可能性がある。――――――合田少佐の経歴は知っているか?』

 

 突然の質問に面喰いながらも航暉は自分の記憶を探る。

 

国連海軍大学広島校(UNNStaC-Hiroshima)の前は民間校で学生をしていたのでは?』

『そうだ。スカウトを受けた理由は?』

『父親の関係で軍のデータベースに登録されたDNAに運用士官としての適性が認められたから、だったはずですが』

『私もそう聞いている。……彼が情報オリンピックに出るほどの腕前を持っているというのは初耳かね?』

『……彼が?』

『そうだ。彼の経歴を見るとそこでスカウトが声をかけたことになっている。正確には“なった”って言う方がいいだろう。情報の書き換えが現在進行形で行われているようだ。――――航暉、あの子を守れ。もうすぐ、あの子が“ホールデン”にされるぞ』

『軍に親を殺され、その復讐の為に俺や中将が関わる作戦でハッキングを行ったとなれば、お涙頂戴の三文悲劇の出来上がりって訳ですか。……安っいシナリオだ』

 

 航暉が笑えば、中路は僅かに目を伏せた。

 

『もしこの予測が当たってしまっているとしたら、ほぼ間違いなくここで“ホールデン”が仕掛けてくる。ホールデンの役割自体はおそらくマニラの件で用済みだろう。誰かを犯人にでっち上げてとっとと事態を収束させる。次の段階は別の要因で動かせばいい』

 

 有線を切る。中路のうなじにコードが引きこまれ、彼はネクタイを整えた。

 

「深海棲艦だけが敵じゃない。いつの世も最も浅ましく、最も脅威となるのは“人間”だ。だが、我々が守らねばならないのも人間だ。彼を守れ、飛燕」

 

 中路が歩き出す。その後について航暉も歩き出す。

 

 

 

「ミスは一つも許されん。付け入る隙を与えずに最速で叩き潰すぞ」

 

 

 

 作戦指揮所に踏み入れる。

 戦闘が幕を開けようとしていた。




また、変な戦闘が始まります。シリアス一辺倒です。

あまりにシリアスなので耐えきれずに日常編を独立させました。
『艦隊これくしょん―軽快な鏑矢―』始めました。まぁあくまで外伝で”本編ではあまり関係ないけど作者の妄想が止め切れずに書いちゃった話を投下するよ”という場所です。
更新はこっちの『啓開』本編を優先するので、投稿ペースは亀もびっくりな速度になりますが……
『軽快』のURLはhttp://novel.syosetu.org/33350/だったり。お暇ならどうぞ。

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回は前に少しだけ出ていた人が再登場してきたり、新しい艦娘が出てきたり、新しい指揮官が出てきたり?
どうぞお楽しみに
それでは次回お会いしましょう。

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