艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

71 / 159
主人公って大変だなぁ……
そんなんですが、抜錨!



Chapter5.5-6 紅茶と恋と静かな戦い

 

 

 

「ハーイ、みんなお疲れ様ネー! 金剛型4姉妹が腕によりをかけてアフターディナーティーを用意したから、みんな楽しんでいってネー!」

 

 移動した会場ではそういいながら丸いテーブルで一足先にお茶を楽しんでいる金剛が待っていた。その横に立っている榛名が笑顔で会釈し、比叡や霧島がチョコレートなどのお菓子を運んでいる所だった。

 

「うっわ、この背景ホロ、いくらかけたんだか」

「コマンダータカミネ、そう言うメタな発言はノーですヨ?」

 

 英国風の中庭式庭園を模したホログラムはかなり立体的に表示され、いくつものレイヤーを重ねたことが見て取れる。足元にカメラ用のレールが敷かれており、カメラが動いているのもわかるのだが、カメラが動くとわずかにノイズが走りなんとか判別をつけられるような高いレベルで擬装されている。軍用ホロの無駄遣いとも思えなくもない。

 

「で、なんでカズキは少しうんざりした顔をしてるんデス?」

「だから俺はコーヒー派なんだって」

「ウー、まだあんな泥水みたいなの飲んでるんですカー……おいしい紅茶を好きになるように毎日毎日丹精込めて紅茶をご馳走してたのニー」

「紅茶は紅茶で悪くないんだが好みは変わらんよ」

 

 そんな会話をしていると睦月と暁の眼がすっと細くなった。

 

「提督と、金剛さんが、毎日……?」

「司令官がコーヒー派って、電知ってるのかしらねー」

 

 そう言って二人は後ろを振り返る。列の最後尾にいた航暉はやれやれといった風貌であるが、二人にはなんとなくわかるのである。あれはポーズだ。なんだかんだ言って本気で嫌がってない。端から断る気もないんだろうなと思う。

 

「ど、どうした……」

「「べつにー」」

 

 意味ありげな視線を送っていた睦月と暁だが視線をついとそらしてそう言った。

 高峰が終始肩を揺らしていたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて、それじゃ、レッツ・ティータイム!」

 

 暁たち三人が席に着くと周囲の風景が切り替わった。というよりいるべき人、航暉たちが見えなくなった。驚いて周りをきょろきょろする三人。

 

「問題ナッシング。ホログラムをかけただけネー。今からミス・アカツキたち皆さんの味覚をチェックしマース。今から4種類の紅茶の銘柄を当ててもらうのでよろしくお願いしマース」

「紅茶の銘柄とな?」

「イェス! ラインナップはアールグレイからフォートナム&メイソンのフォートメイソン、キーマンからトワイニングのプリンスオブウェールズ、ブレックファストからスタッシュのアイリッシュブレックファスト、あと紙パックの紅茶を用意したのでー、飲み比べてどれがどれだか当ててもらいマース」

 

 初春の質問にカタカナばかりが返ってきて睦月と初春はちんぷんかんぷんである。アールグレイが紅茶の種類だってことくらいは知っている。そのあとに続くのが紅茶の銘柄なんだろうなというのも想像がつく。だが、どれがどんな味なのかさっぱりわからない。ブレックファストなど訳せば朝食である。紅茶の種類にそんなのがあるのもはじめて知った。

 そんな中でもティーカップにゆっくりと紅茶が注がれている。カップは赤、黄色、青、緑に色分けされており、それぞれ一つずつが皆の前に置かれる。

 

「スコーンやケーキ、チョコレートも用意してあるネー。あとお水はおかわり自由デース。紅茶の利き比べはそれぞれ一杯ずつで判断してほしいデース。それでは、レッツスタート」

 

 それぞれが恐るおそるカップを手に取る。暁は赤いカップに手を付け、口にする。

 

「……にがっ」

 

 そう呟いてカップを置くとチョコレートに手を伸ばし、口に放り込んだ。強い苦みを和らげてから水でさっぱりと流す。レモンのかけらが入っていたのかさわやかな風味が残る。

 

「むむむ、味が違うのはわかるんですけどねー……」

 

 横では睦月が一口ずつ口に含んでは首をかしげている。無言で固まっているのは初春だ。

 

「うーん、雑味が多いかしら」

 

 一人つぶやきながら暁はテイスティングを続ける。水を飲んだりお菓子を挟みながら一口ずつ口に含むと暁は顔を上げた。

 

「金剛さん、用意したのはパックのやすいやつとフォートメイソン、プリンスオブウェールズにアイリッシュブレックファストで間違いないわよね?」

「ハイ、その通りデース!」

「わかった答えはどうすればいいの?」

「後で教えてもらいマース。自信の程はありますカー?」

「これだけ味が違えばね。間違いないと思うわ」

 

 暁はそういうと笑った。

 

「このガトーショコラおいしいわね。もしかして手作り?」

「はい、榛名が作りました!」

 

 そう笑うのはずっと金剛の脇で待機していた榛名である。榛名はおいしいと言われたことが素直にうれしいのかニコニコの笑みをさらに深くした。

 

「さすがは榛名姉様ですね、私ももっと精進しなくては」

「霧島はレシピに拘りすぎなんじゃない? だって誰が0.1グラム単位で粉の量あわせたり、0.1秒単位で焼き時間計ったりするのよ」

「比叡姉様はまず食のリーサルウェポンを作るのをやめましょう。少しはレシピを参考にしてください」

「愛はたっぷり込めたんだけどなー」

 

 そんな会話を聞きながら金剛はくすくすと笑った。その頃には皆の手が止まっていた。

 

「みんないいかナー。それじゃあ今から言う銘柄が入ってると思うカップを指さしてくだサーイ」

 

 聞いてみると紙パックの紅茶以外はみなばらけた結果になった。暁だけは自信満々、残りの二人は至極不安そうである。

 

「さて、答え合わせは、カズキっ、お願いしマース!」

「そのために俺を呼んだのか?」

 

 ホロが解除され茂みをかき分けたように冬服の男が姿を現す。言わずもがな、月刀航暉である。いつのまにか制帽まで被ったフル装備である。ホロの裏側でいろいろあったらしい。

 

「何回も紅茶淹れてあげたんだからびしっと当ててよネー」

 

 そういうと航暉の席も用意され、席に着いた。

 

「どれ、自分もお菓子を頂いてもいいのかな?」

「勿論デース」

「比叡、料理の苦手は克服できたのか?」

「あー! 月刀さんもそう言うこと言うー!」

 

 帽子を外しながら航暉は笑った。帽子を背もたれに掛け、布ナプキンを手早く膝の上に広げた。

 

「比叡のカレーには何度か殺されかけてるからな。言いたくもなるさ」

 

 航暉はそう言ってカップを手に取った。ソーサーごと持ち上げて胸の前へ、ゆっくりとカップに口をつけ一口飲んだ。

 

「苦みが強いな、ミルクと合わせたいところだが、ふむ。……アイリッシュブレックファスト、金剛、合ってる?」

「That’s right.赤いカップはスタッシュのアイリッシュブレックファスト、目覚まし代わりに飲む紅茶デース。だからブレックファスト」

 

 金剛の説明にぽんと手を打つ初春、考えればわかりやすかったかもしれない。

 

「で、緑は……ウーロン茶のような香り、キーマンだね。プリンスオブウェールズ」

「さすがテートク。その通りデース」

「青は……っと柑橘系か。ダージリン系、フォートメイソン。で残りの黄色は雑味が強いことからも紙パックの紅茶で決まりだ」

「パーフェクト! さっすがわたしが選んだダーリンデース!」

「だから俺はコーヒー派だ」

「むー」

 

 そんな会話を聞きながら睦月と暁は目を細める。そのじとっとした目線に既視感を感じつつ、航暉は返す。

 

「な、なんだよ」

「「べつにー」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の演習はこれで終了残りの科目は翌日にやることになった。

 

「で、やっぱり待遇が変わると……」

 

 翌日の朝、広報局の用意した控室に入るとそれぞれの朝食が用意されていた。

 

「朝は和定食に限るのぉ」

「そ、そうですね。ははは……」

 

 乾いた笑みを浮かべるのは睦月だ。朝から小鉢ものがついた豪華な定食がついている初春の前に、質素な焼き魚定食を並べられると結構アレである。まぁ、ウェーク島と補給物資到着前の朝食など、時々こうなることがあるた慣れてはいるのだが、目の前にこういう食事を並べられるとかなりアレである。非常にアレなのである。

 つやつやのふっくらごはんに納豆は最高だと睦月も思う。ウズラの卵に小口ねぎも用意されており至れり尽くせりだとも思う。でも暖かい里芋の煮物をそこまでおいしそうに食べられるといろいろ思うところがあるのも間違いないのだ。

 

「睦月はまだマシよ。なんで私だけ弁当なのよ、ねぇ」

 

 一応全員間宮さんの監修のものなので、美味しいことに違いはない。弁当も弁当で冷えることを前提に料理が作られている。間宮さんの弁当はそこらで売られている弁当と比べてもすごく美味しい部類に入る。それは間違いないのだ。間違いないのだが、辛いものがあるのはお分かり頂けると思う。

 

「なんだか申し訳ない気分になってくるのぅ……」

「じゃぁ、遠慮せずに変わってあげるわよ?」

「ふふっ、い・や・じゃ」

 

 その反応に嬉しそうな笑み。睦月はどこかすがるような目で横の暁を見た。

 

 二人は思うのだ。敵同士には違いない。でも

 

 これ以上は、負けない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の種目は深海棲艦や第二次世界大戦時の艦艇のシルエットクイズ。これは全員なんなくクリアした。さすがに“キスカ島突入時に煙突を偽造した阿武隈”など紛らわしいのはどうかと思ったが、誰も引っかからなかったので出題役の利根は悔しそうだった。

 

 大和の軍楽隊の演奏聞き分けはその分大パニックに陥った。

 

 演奏楽器の値段が高いのはどっちかとか聞かれてもそんな知識を持っているのは誰もいなかったのである。「睦月さんは耳がいいので有利ですかねー」とか青葉に言われたが、そんなことはない。知識がなければ楽器の聞き分けなんてできないのである。なんとなくこっちで選んだ暁以外不正解という結果になってしまったのである。

 

「あれはわからないわよねー」

 

 最後の種目を前に伊良湖さんのクッキーをつまみながら暁はそうぼやいた。暁もヤマ勘だったのである。横では睦月が月餅を頬張っている。

 

「そうじゃのぅ……。軍楽隊の演奏なんて式典ぐらいでしかきかんからのぅ」

 

 小豆アイスを入れた最中を食べるのは初春だ。初の土がついたことで少々不満そうだ。

 

「で、次の種目って何なのかしら?」

「なんでしょー、睦月にもできることだといいんですけど……」

 

 そんな風に自信なさげなのは睦月、暁は逆に紅茶問題以降快進撃を続けているので余裕そうだ。

 

「なにがでるんかのぅ……」

 

 最後の種目は面白いですよ? と青葉に言われても、予測がつかないのである。

 怖いような期待するようなそんな変な空気の中、三人が呼ばれる。最後の戦いが幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい! 長いこと続いてきた演習ですが、これが最後の種目です! 皆さんのいいところ、見たいですねー」

 

 カメラは青葉と衣笠をドアップで映している。

 

「はい、私もわくわくしてます。ところで青葉さん、最後の種目って何なんですか?」

「それは……ジャジャーン!」

 

 青葉たちが飛び退くとそこにはピカピカに磨き上げられたステンレスの流しにコンロ……。キッチンが3セット用意されていた。

 

「ここでやることといえば、そう、料理です! 最後の種目は《腕自慢は誰だ! クッキング対決》となりまーす!」

 

 これまでで一番大きな拍手が沸き上がる。今回はかなり観客も入っている。最初のクイズの時にいた姉妹艦も揃っている。

 

「皆さんにはそれぞれ指定した料理を作ってもらいます。時間は1時間半、姉妹艦なら二人までアシスタントを付けることもできますよ。付け合せは自由。白ごはんは私達青葉型で用意しました。1時間半でおいしい夕食を作り上げてください!」

 

 暁たちが青葉の声にぽかんとしたまま聞いているうちにどんどん説明が進んでいく。

 

「料理の判定は、海軍が誇る料理自慢、間宮さん、南方海域から駆けつけてくださった“お艦”こと軽空母の鳳翔さん。司令官代表で月刀航暉大佐に実食してもらいます。皆さん頑張ってくださいねー」

 

 

 その説明に睦月が再起動した。これは、チャンス?

 

 ちらりと観客席を見ると、如月が小さく手を振った。

 

「それでは、クッキングスタート!」

 

 1時間半の真剣勝負が始まった。

 




二次元に入りたいとかかんがえてしまう今日この頃。
そのすさんだ心を艦これのボイス聞いて癒してます。


感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回で演習編は最後の予定。さてさて、料理は大丈夫なのかっ?

それでは次回お会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。