艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

新年からたたみかけていきます。

新年早々、おっさん回!
それではフロムマニラ・ウィズラヴ編、抜錨!


00001100 フロムマニラ・ウィズラヴ PHASE1

 

 

 

 

 今や、わずかに残っていた彼の血も、細い筋をなして彼の手首をつたって滴り落ちた。彼はオンバに顔をそむけるように命じた。オンバは啜り泣きながらその命に従った。それから笑い男は自分の仮面を剥ぎ取った。それが彼の最期だった。そしてその顔が、血に染まった地面に向ってうつむいたのである。(J.D.サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』)

 

 

 

 

 

 仮眠とも言えない浅いまどろみから目覚めた高峰はこめかみを揉んでからソファから立ち上がる。

 

「高峰さん……」

「青葉、雷ちゃんは?」

「電ちゃんや天龍さんと一緒に艤装研の方にいます、杉田中佐も一緒だと思います。……大丈夫ですか?」

「あぁ、少し寝て大分整理できた」

 

 高峰は首を回しながらそう言うと少ししわになった制服をパンパンと叩いた。

 

「……なぁ、青葉」

「なんですか?」

「……いや、何でもない」

「なんか気になりますよ、そこまで言われると」

「いやな、俺も酷い顔してるんだろうなと思ってな」

「……否定はしないでおきます」

 

 青葉にそう言われ高峰は苦笑いを浮かべた。

 

「とりあえず、雷に話を聞きつつ状況の共有だな」

「ですね。どこか部屋確保しときます」

「頼む」

 

 高峰は答えて小さなオフィスを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……少しは落ち着いたか?」

「ごめん、な……さい」

「雷嬢が謝ることはねぇ。話を聞く限りじゃどう考えても月刀が悪い」

 

 そういうと杉田は雷の肩を叩いた。

 艤装研究開発実験団の実験棟の廊下で雷の肩を軽く押すようにしながらゆっくりと歩く。杉田はそのままどこか病院のような消毒液の匂いが漂う廊下を抜け、小さな部屋に入った。小さい部屋だが中はテーブルと椅子、コーヒーセットがあるぐらいでどこか殺風景な雰囲気もある。

 

「それにしても、同行者が俺でよかったのかい?」

 

 そういいながら雷を椅子に座らせた。彼女の横に座りながら軽く苦笑い。

 

「なんだか……電に会うのが……申し訳なくて」

「電嬢はそんなこと思ってないと思うが……、まぁ俺でいいなら付き合うよ。非常線を張ってるとはいえ人ひとりいなくなって機能しない軍隊じゃないしな」

 

 杉田には本来、武蔵と大和の砲撃管制官として待機が下るはずであった。しかし、司令部へのクラッキングが発生したこと、それに月刀航暉が絡んでいるらしいことなどが関係し、一時的に指揮から外れることになった。これには雷が杉田にそばにいてほしいと頼み込んだことも影響している。これには正直杉田も驚いていた。

 

「しれーかんを守るって約束……守れなかったから、謝るのも失礼かもしれないけど、ごめんなさいって言いたかったから」

 

 そう言われてしまっては、お前のせいじゃないと言ってそばについていることしかできなかったのである。

 

「どうして、なのかなぁ……どうしてしれーかんだったのかなぁ」

 

 雷はそう言って俯いた。

 

「ダメだな、あたし。しれーかんじゃなかったらよかったのにとか、ずっと考えてる……」

「それは仕方がないさ。俺が同じ立場だったらたぶんそう考えてる」

 

 そう言うとアルミの灰皿を引き寄せてから、煙草を吸ってもいいかい?と雷に問いかけた。頷く雷。

 

「世界にはいろんなことが転がっている。そしてそれらは必ず何かと、どこかとつながっている」

 

 小さなマッチ箱を片手で器用に開けてそのまま、右手だけでマッチを擦った。オレンジ色の火を煙草にかざすと、すぐに振り消した。

 

「それが(えにし)ってやつさ。縁があるやつは時間も空間も超えて目の前に現れる。手を伸ばそうと思わなくても手が届いてしまうこともある。逆に隣にいても助けられないこともある」

 

 甘い丁子の香りが漂いパチパチと何かが弾ける音がした。ほのかな茶色の染みが浮かんだ煙草が明るく光る。

 

「きっと今回の出来事はこうなるべくしてなったんだ。宿命とか運命みたいなものだと思えばいい。だからそれで悩んでも仕方がないぜ」

 

 取り繕ったような明るさでそう言った杉田だが、でもまぁ、と付け足した。

 

「ここまで付き合わされたんだ。俺たちがそれを止めるのもまた運命かもな」

「……杉田中佐って案外ロマンチスト?」

「童心を忘れてないって言ってくれ。最近武蔵に似合わんって言われたんだ、酷い話だろう?」

「そうかしら?」

 

 雷がそう返せば、オーバーなリアクションで自分の額を叩く杉田。そのタイミングでドアがノックされて開いた。

 

「案外早いお着きだな、高峰」

「お前が早すぎるんだよ。……青葉からの連絡か?」

「ココを押さえたって言うんで先に来させてもらってた」

「あっそ、……またガラム吸ってんのか」

「線香みたいな香りで落ち着くんだ」

「そんな甘いのよく吸えるね」

 

 そういいながらも高峰は雷の向かいに腰掛けた。

 

「で? お前の方はいいのかよ」

「中路中将の後釜の鈴坂中将が上手くやるさ。新任の井矢崎少将もいるしな」

 

 杉田の答えに高峰は一瞬考え込んだ。

 

「井矢崎少将というと……あぁ、523のコートマニア」

「なんで井矢崎海将補の息子って肩書よりもそっちが先に出てくるんだよ。対馬シーレーン防衛戦の英雄、日本国自衛海軍海将補、“智将”井矢崎、その息子にして水上用自律駆動兵装運用士官の3期生、井矢崎莞爾少将。航空戦重視に走るところもあるが、まぁバランスよく指揮出来る優秀な器用貧乏タイプ」

「523といえば五航戦メインにシフトしたんだよな」

「一航戦が第50太平洋即応打撃群にとられるからな。その後釜で習熟訓練中だが、なかなか大変そうだ。瑞鶴と加賀が毎日のようにコンフリクトしてる。……なんの話だっけ?」

「そんな状況でここで道草喰ってていいのかって話さ」

「その言葉そっくりそのまま返すぜ。本当はこれに関わる調査権ないんだろ?」

 

 けらけらと笑いながら杉田がそういえば一瞬だけ目の色が変わった。

 

「俺たちは月刀に関わりすぎてる。公平な調査ができるとはいいがたい。だのになぜお前や俺が動けるのか」

「……」

「そろそろ隠し事は無しにしようや高峰。お前“今だれの指示で動いてる?”」

「……お前はそういうやつだって忘れてたよ。海大の頃から勘のいい奴だったな」

「なんども殺されかけてれば嫌でも鋭くなるさ。それで?」

「国連海軍がトップというのにかわりはないが、俺の古巣の筋を利用してプレッシャーをかけてもらってる」

「古巣というと……外務省か総務省かそこらへんだったな。お前も真っ黒だな」

「必要経費さ。キャリア組の実弾は案外強力だ。おかげで内偵を気にせずに済む」

「その実弾がアキレス腱を貫かないことを祈るがね」

 

 呆れたようにそう言ったタイミングでドアがノックされた。青葉に連れられて電と天龍が入ってくる。

 

「全員そろったな。作戦会議を始めよう」

 

 高峰がそう言うと部屋の電気が落とされた。中央にホログラムスクリーンが立ち上がる。

 

「とりあえずカズの今のバックが誰かってことだが、おそらく今は日本政府のサポートを受けているとみて間違いないだろう」

「お前の仕事の筋ってやつか」

 

 杉田がそう言うと高峰は頷いた。

 

「カズが“戦艦レ級迎撃戦”へのハッキングに使ったサーバーは内閣情報準備室(CIRO)のもとみて間違いない」

 

 そう言うと人事ファイルらしきものが表示される、顔写真が表示されるべきところにはただの空白が浮かぶだけだ。

 

「高坏澪、日本のインテリジェンスネットワークの中では重鎮クラスの諜報員だ。高度なハッキングスキルを持つ全身義体の婆さんで義体をとっかえひっかえ入れ替えながら作戦を行うことからついた異名は“怪物スキュラ”。どっかのスーパーコンピュータのAIじゃないかという説もあるが、おそらく人間だ。雷の証言と廃ビルに残されたハードディスクも彼女の関与を裏付けている」

「で、そのビルに司令官と雷は約一週間潜伏していたが、ハッキングの後、雷と司令官の国連海軍章を残して残りのメンバーが失踪、ほぼ丸一日たった今も行方不明……だな」

「そういうことだ」

 

 天龍の声に頷いた高峰の向かいで雷が俯いた。

 

「で、その現場に残されていたのが……」

 

 現場検証の時の映像が投影される。

 

「真っ赤なスプレー塗料でB-P……。Be Preparedの略ってことでいいんかね?」

 

 杉田がそう言うと高峰は頭を掻いた。

 

「警戒せよって言われてもって感じだ。その対象を暗示してくれれば楽なんだけどね」

「B-Pだとボーイスカウト……偵察員(スカウト)に気を付けろってか?」

「さぁな、すくなくともこのメッセージを送ったのはカズじゃなくてスキュラ他ネームノウェムの誰かだろうな。それもカズではなく俺たちに向けてのメッセージを送ってきた」

「司令官さん宛てなら直接言えばいいのですし、考えればそうかもしれないのです」

 

 電の声に杉田は頷いた。

 

「B-P……ボーイスカウト……ベーデンパウエル……」

「ベーデンパウエル卿の著書だと少年のための斥候術(スカウティング・フォア・ボーイズ)成功への旅路(ローバリング・トゥ・サクセス)って線もあるな」

「……杉田、詳しいな」

「小さい時にやってたんでな」

 

 杉田はそう言うとおどけた敬礼をした。肘を水平横に出す陸軍式の敬礼だが、三本指を広げた姿勢での敬礼だった。

 

「あっ……!」

「どうした電嬢?」

「その敬礼……夢で見た司令官さんと同じ敬礼だなって……」

 

 それを聞いた司令官二人が目を見開いた。

 

「三指の敬礼をした……?」

「月刀がボーイスカウト関係者ってことか?」

「電ちゃん、カズがそんな敬礼をしている所を見たことは?」

「な、ないのです……」

「だが、ありえなくはないぞ。雷嬢の話だと、月刀には電脳ウィルスが仕込まれていたって聞いている。記憶を短絡させて洗脳状態に置くなら一度大きな出来事を読みこむはずだ。それを電に共有してたとしたら」

「そんなこと、あり得るか?」

 

 高峰が胡乱な目を向ける。

 

「今更あり得るあり得ないなんて議論をする意義は無いだろうさ。確かめるべきだ」

「それはそうだが……カズの経歴をたどってもあてにならんぞ」

「なら骨格データなりPIXコードを使えばいいだろう」

「幼少期の骨格データなんてどこで手に入れる気だ?」

「予測を立てればいい」

 

 こともなげにそう言って杉田は笑った。

 

「おいおい、そんな技術を持つ人物に心当たりなんて無いぞ?」

「あ? 何だ高峰、知らなかったか?」

 

 くつくつと笑った杉田は肩を竦めた。

 

 

 

「“明鏡”がいるじゃないか、第597潜水隊の渡井慧がいる。あいつは元々平菱電工……今の平菱インダストリアルのホロコーディネーター、ホログラムのプロだぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「月刀の幼少期の骨格再現?」

《そうだ。カズの10歳前後の時の骨格と外見データを再現してほしい。できるか?》

 

 呉の潜水隊基地の個人執務室でそれを聞いた渡井は甘いキャンディをかみ砕いて聞き返した。

 

「期限は?」

『できるだけ早く』

「どのレベルで再現すればいい?」

『20年前の電子データと比較して個人を特定できればいい』

「現在の骨格データは?」

『軍のデータベースにあるパーソナルインフォメーションをレベルⅢまで解放する』

 

 その答えを聞いて渡井は砕いた飴を飲み込んだ。いちごの風味だけが舌に残る。

 

「データベースの情報を今すぐ個人IDに送れ。5時間で仕上げる」

『5時間!?』

「遅いか?」

『いや、想像以上に早い。恩にきる』

「それなら横須賀のカワイイ子の画像でも送ってくれよ。なんならコンパのセッティングも」

『わかった、希望の条件を送れ。ひと段落したら場を設けよう』

 

 そう言うとすぐに電脳に膨大な情報が届く。それを独立運用のパーソナルPCに流し込む。データのザッピングを始めたところで部屋に白い割烹着を着た女性が緑茶の乗ったお盆を手に入ってきた。

 

「あれ、提督? そっちのコンピュータを付けてるなんて珍しいですね」

「大鯨の前で使うのは初めてだっけ。こっちは仕事で使うことないからね~」

「……趣味用ですか?」

「まぁね、でも今日は仕事さ。これから4時間は最優先事項にかかりきりになる。しおいたちはもう瀬戸内に入ってるから巡航時の指示は大鯨に任せる。頼んだよ」

 

 そう言うと3D造形用の眼鏡をかけた。

 

「この天才に久々のご指名さ。……腕が鳴るね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラーク空軍基地に降り立った青年士官はそのままフィリピンへの入国を済ませると、合同庁舎を出た。

 

「さて……」

 

 周りを見回すと古い黒色のセダンが見える。運転席の窓から腕がだらんと垂れ、その手がドアを叩いていた。そのセダンの後席に乗り込む。

 

「無事入国おめでとう、函南少尉」

「……やっぱりあんたか。スキュラの愛弟子ってのは」

「丁稚みたいなもんだったんだけどね。さて、今はなんて呼ぶべきかな、カズ君? やっぱりガトー?」

「……好きに呼べ。そう言うお前はなんて呼べばいい? 笹原ゆう」

 

 それを聞かれた笹原が車を発進させながらけらけらと笑う。

 

「笹原ゆう、皆川明日実、朝比奈瑞稀、高坏梓、まぁあたしもなんでもいいんだけどね。スクラサスって呼んでよ」

「……化物の娘はやっぱり化物か」

「娘じゃなくて孫ね。……まぁ、どっちでもいっしょか。あたしたち裏の人間に出自もへったくれもありゃしない。お涙頂戴の話には事欠かないが、それを語る暇があったら生きるための隙間を探す」

 

 笹原は笑ってハンドルを左に切る。

 

「あんたもそうだったんだろう? パワーゲームに翻弄され、それでも自分で生き残らなければならなかった。その中で身に着けたのは、人脈と、資金力と、殺しの力」

 

 荒れた町並みにはどす黒い煙と白い炊事煙とが入り混じっている。航暉はそれを見ながらぼうっと話を聞いていた。

 

「あんたのことは調べてたからね。華渤戦争直前の泥沼お家騒動の後、いきなり現れた月刀家の次男坊。これまでは存在しなかったはずの存在、養子にとられたという記録すらなく実子として認可されていた月刀航暉は何者か……」

「……嗅ぎまわっていたわけだ」

「そもそも笹原ゆうはそのための身分だからね」

 

 道端で泣く子供たちを一瞥して笹原は車をそのまま走らせた。

 

「月刀家……月一族は軍事政権化してしまった日本国にとって強大な影響力を持つ。兵器産業を中心に戦時から戦後の国内経済の大動脈を握った月岡家。空軍に絶大な影響力を持つが、持てる者の義務(ノブレス・オブリージュ)を唱え人道支援に力を置いた月詠家、そして陸軍と政界への顔の広さを武器に一気に自衛軍を掌握した月刀家。それらがまとまって月一族として日本の実権を握ろうとした……陸軍四・二六事件」

 

 ハンドルを握る笹原の顔は終始笑顔だった。

 

「……あんたが出てきたのは陸軍四・二六事件の直後だったわね。そして表舞台に出ることなく闇から闇へ」

 

 ハンドルを右に、葬儀の列に出くわしてブレーキをゆっくりと掛ける。

 

「その中で生きぬくことができただけであんたの有能性は証明される」

「……いろんなことを覚えて、鞭のように鋭い切れ者になったって、それで仕合せになれなかったら、一体何の甲斐があるんだろう」

「――――――J.D.サリンジャー、『フラニーとゾーイー』」

 

 つぶやいた一文に笹原はくすりと笑った。

 

「とっさに検索しなきゃ出てこないなんて私もまだまだね」

 

 葬儀の一列を見ながら笹原はハンドルにもたれかかる。その先では悲痛に歪んだ顔が並んでいた。

 

「それでも、あんたは生き残らなきゃいけなかった。だからいろいろなことを覚えていった。誰かの敵にならない技術、それもアクティブなやつだ。そして敵になりそうなやつは……」

「消していった」

「違うね、消えていったんだ」

 

 それからわずかに沈黙。葬列の流れはゆっくりと車の横に差し掛かった。

 

「クラムボンは笑ったよ」

「……殺されたよ」

「それなら、なぜ殺された?」

 

 葬列が横を進む。それを見るともなく見ながら航暉は窓にゆっくりと右手の人差し指――――――機械となった人差し指を滑らせた。

 

「……わからない」

「それでもクラムボンはまた現れ、笑った」

 

 道が空いたので車をゆっくりとスタートさせる笹原。ルームミラーの端に空軍の制服が映る。

 

「宮沢賢治の『やまなし』に出てくるクラムボンの正体にはいくつもの説がある。crab やかすがいを意味するcramponに由来するとする説、アメンボ説、泡説、光説、母蟹説、賢治の妹トシ子説、全反射の双対現象として生じる外景の円形像説、『蟹の言語であるから不明』、蟹の兄弟にとって初めて見たやまなしの花につけた造語だったとするもの。コロボックル説や人間説もあるね。……ま、考えたところで仕方がないんだけどさ」

 

 そこまで言うとどこか自嘲するように笹原が笑う。

 

「それでも、沢蟹にとってはクラムボンが興味の対象であり、それらの生死を見つめた。それにはきっと意味があるんだろうさ」

「……沢蟹のように成長できてるだろうか」

「さあね、それは沢蟹の父に聞いてみなきゃ」

 

 再び車内に沈黙が落ちた。

 

「……イサドの場所はわかってる?」

「あぁ」

「荷は何がいる?」

「タクティカルショットガン一丁とM93R二丁、サブマシンガン一丁、リーパー数機、マチェット二振り」

「リーパーはそろえるのに時間がかかる。3日待てる?」

「あぁ……」

 

 笹原はそれを聞いて上々と笑った。

 

「ねぇ、カズ君」

 

 答えはない。

 

「好きな人を捨てるって、どんな気持ち?」

「……何も」

「そっか。うん」

 

 その後しばらく間が空いて。

 

 

 

「そうやってあんたもあたしも生き残ってきた、そうだね? 月刀航暉、いや――――――月詠航暉」

 

 

 

 寂しそうにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いた! コイツだ!」

 

 復元ホロの骨格データを照合し、一人の少年の姿が浮かび上がってきた。高峰が興奮気味にデータを読み上げる。部屋には高峰と青葉、杉田が詰めている。

 

「月詠航暉! 北陸州金沢出身、ボーイスカウト北陸支部に所属した経歴がある。享年12歳、行方不明からの死亡扱い。砺波ジャンクションでの交通事故に巻き込まれたとみて死亡扱いになってる」

「それよりも月詠ってことは月一族の親族だ」

「あぁ、たしかこの事故って……あぁ、そうだ」

 

 事故のデータを国交省の記録から呼び出した。

 

「化学薬品を積んだタンクローリーがジャンクション内でスリップ、ガードレールを突き破って下を走る道路に落下して大破炎上。死体すら強酸で溶けきったやつだ。現役の空将補が巻き込まれたんでテロだと週刊誌が騒ぎ立てた。これで月詠家の当主が死亡し、後継者もなくなったはずだった」

「だが、月詠家の長男は月刀航暉に名前を変え生き残った」

「三文小説もびっくりの展開ですね」

 

 青葉がそう言うと高峰は小さく頷いた。

 

「……これでカズの言葉の意味も分かった」

「え?」

「電に下に双子の妹がいると電ちゃんたちに話していた。月詠家は一男二女、長男航暉の6つ下に双子の姉妹がいる」

「この二人も行方不明からの死亡扱いか。……生きてる可能性も出てきたな」

 

 それを聞いた高峰は黙り込んだ。

 

「……問題は、だ」

「……なんで電はカズがボーイスカウトに所属していることを知ってたんだ?」

 

 重い沈黙が落ちる。

 杉田が踵を返した。

 

「どこに行く気だ?」

「前から気になってたことがある」

「なんだよ?」

「青葉」

「はい?」

 

 呼びかけられて青葉は首を傾げた。

 

「お前らのアイデンティティ・インフォメーション、どうやってできてるか知ってるか?」

「それは……前に存在した艦の記録を記憶に見立てたうえで個の情報を合成して……」

「なら微風は?」

「微風ちゃん、ですか……?」

「島風型二番艦の微風のアイデンティティ・インフォメーションは何からできている?」

「あ……」

 

 クルリと振り返った杉田は高峰を見た。

 

「微風の艦としての記憶は存在しない。島風型は島風一隻のワンオフだったからだ。艦の記憶を合成する理由は艦娘用の艤装システム、妖精(フェアリー)が開発した艤装を使うにはそうするしかなかったからだ。それを量産できるようになったとしてもそれは変わらなかったはずだ。なら、なぜ微風が存際するんだ?」

 

 高峰はそれに答えられない。

 

「水上用自律駆動兵装の開発には明らかに矛盾がある。艦娘の電脳に収められているのは艦の情報だけじゃない」

「――――――艦娘の個の情報(アイデンティティ・インフォメーション)に“オリジナル”が存在する?」

「それなら、それが電の夢の理由なら、筋が通らないか?」

 

 杉田がドアを開けた。

 

「知ってそうなやつに心当たりがある。……手分けをしたい。高峰、お前は中路中将のところに行ってくれないか?」

「その根拠は?」

「中路中将は艦娘に最初期から関わっている。知っていてもおかしくない。……そうしろって囁くんだよ、俺の勘が」

「お前はどこに行く気だよ?」

「総合司令部棟最上階」

「……正気か?」

 

 杉田は笑った。

 

「つぎはぎだらけのフランケンに恐怖心なんて存在しなくなったさ。……万が一のときは、頼む」

 

 高峰は立ち上がって制帽を取った。

 

「青葉、俺と来い。電たちには知らせるな」

「わかりました」

 

 二人ともが部屋を出る。廊下をそれぞれが反対方向に進む。

 

「2時間後にここに集合、緊急用のチャンネルは開いておく」

「わかった」

 

 二人の男が、動き出した。

 

 

 




今回から第三部解決編、ここは勢いでやりたいところです。


今年は複数の共同作戦(コラボ)が進行中、楽しんで行きたいと思います!

井矢崎莞爾少将はりょうかみ型護衛艦先生の『艦隊これくしょん -防人たちの異世界漂流日誌-』より参戦です。今回は名前だけでしたが、今後登場する予定です。どうぞお楽しみに!

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回は輪をかけておっさん回! 新年から酷い感じですがよろしければお付き合いください。

それでは次回お会いしましょう。

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