艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ

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新章開始、この章だけはわざとタイトルの法則性を外しました。それだけ、特別な章です。
それではSi Vis Pacem, Para Bellum、抜錨!



00010000 Si Vis Pacem, Para Bellum PHASE1

 

「……?」

 

 軍用航空機しかほぼ飛ばなくなった現代では民間の航空管制官の仕事は比較的楽になったと言える。まぁそれでもレーダー監視業務は残るのだが。

 

「……鳥か」

 

 ルソン島北部、熱帯雨林のど真ん中で一瞬レーダーが光った。それはすぐに自然クラッターとして処理され、レーダーから消え去った。

 

「まったく、レーダーの感度がよすぎるってのも問題だよな」

 

 レーダーを前にそうぼやいた管制官のデスクの通信機が鳴る。

 

「はいはい、こちらMNLレーダー管制……え? スケジュールにない国連機?……あぁ、はい。先ほどキュービポイント飛行場までのクリアランスを確認して……え? クリアランスルートから外れた? 待ってください、こっちのトラッキングデータではもう飛行場に下りてるはずでは……」

 

 航空機のコールサインを探すがそれを検索しても全飛行過程終了としか出てこない。

 

「どうなってるんだ……?」

 

 自分のあずかり知らぬところで何かが始まっているらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トラックの荷台のホロが開かれ、そこから大きな怪鳥が翼を広げていた。火薬式のカタパルトによって弾き出されるそれは周囲に強力なバックブラストを撒き散らしながら飛び出していく。

 

「……リーパー全機射出完了、浜地、いけるか?」

「はい、いつでも」

 

 黒の上下にセラミックプレート入りのタクティカルベスト、ヘルメットなどに身を包んだ浜地が答える。その手にはUTS25ショットガンが握られていた。彼の目を守るクリアのスポーツグラスにはいくつもの情報が浮かんでは消えていく。

 

「目標までここから2.3キロ、こっから先は自走爆弾の地雷原だ。その自走爆弾には“艦娘によく似た爆弾”が紛れている可能性が高い。……それを吹っ飛ばす覚悟は?」

「……とっくのとうに」

「なら行くぞ」

 

 航暉は晴れているにも関わらず薄暗い森を見て帽子をかぶった。迷彩色のハンチングを唾を後ろにするようにして深くかぶる。

 

「……ヘルメットじゃないんですか?」

「インナーヘルメットは付いてるよ。破片ぐらいなら防ぐし、脳殻自体も丈夫なんに変えてある。それにこれは人間撃ち帽さ。これを被って人を撃つんだ」

「……様式美ってやつか」

「そんなもんだ。……いこうか」

 

 航暉はショットガンをローレディのポジションで保持しつつ森の中に分け入っていく。その後ろから間隔を開けて浜地がついていく。前をゆく彼の背中にはバックパック型の大きな機械が張り付いている。浜地を後ろから見ても同じように見えるだろう。

 

「……さて、来るぞ」

 

 入ってすぐに航暉がそう言った、直後に機関銃のテンポの速い射撃音が降ってくる。その銃撃は二人の花道を作るかのように伸び、10メートル先にどさりと何かが落ちてくる……迷彩色の、なにか。

 ショットガンの重い発砲音、同時にそれの頭が吹き飛んだ。いくら強化骨格と言えど10番ゲージのスラッグをまともに喰らえば大穴があく。

 

「ぼさっとするな、動くぞ」

 

 航暉が走り出す。同時にいくつも樹冠を突き破るようにして影が現れる。航暉は木の幹を盾にするように飛び退きながらショットガンの引き金を引く。飛び出したスラッグ弾の先、銀の髪を揺らすそれの額を撃ちぬき、同時にそれが爆発する。間隔としてはほぼ同時、二人の背負ったバックパックが何かを撃ちだした。

 二人が背負っているのは自由空間蒸気雲爆発(UVCE)抑制装置。気化爆弾の発生させる燃料に不活性化ガスを撃ち付けそれを相殺する装置だ。爆風が発生するものの、その威力は生身が耐えられる程度まで減衰させられている。まだ体は動く。

 爆発の光量に反応してサングラスのようなスモークになっていたグラスがクリアに切り替わる。それを確認して浜地が飛び出す頃にはもうとっくに航暉は走り出していた。

 距離をかなりおいて爆発がいくつも起きる。ECMが始動し周囲の情報網を破たんさせ始めた。

 

「動くな浜地!」

 

 上空から空気と耳をつんざくような音が降ってくる。直後、頭上の樹冠が揺れた。

 

「―――――!」

 

 そのまま飛び抜けたリーパーが何かを空中に投下する。同時に警告。伏せる。同時に背負った機械が再び起動する。

 発生した爆炎があたりを白く染める。次の瞬間に急速に熱が引き、目を開けてみると一気に周囲が明るくなっていた。

 

「……デイジーカッターの代わり、ねぇ」

 

 いくつも爆弾を使ったのだろうか、熱帯雨林が切り拓かれた道が伸びる。吹き飛ばされた部分は燃えるものもなくただ煙を上げるだけだが、その両脇からは小さく火の手が上がっていた。それと同時に石油臭いにおいが鼻を突く。人工物が焼かれた匂いだ。

 

「次が来る前に急ぐぞ」

「……了解」

 

 航暉は油断なくショットガンを構えたままそう言った。道の縁で動こうとしたそれをショットガンで黙らせる。空になったシェルがゲートから飛び出すとくすんだ地面に落ちた。それを見て浜地は歯を食いしばって立ち上がる。

 

 覚悟していた。それは間違いない。ただ、その覚悟にリアリティがなかっただけだ。

 

 こうなるのはわかっていたはずじゃないか。それでも終らせると決めたんじゃないか。だから、進むんだ。あの子がもう道具として扱われなくてもいいように進むと決めたはずだ。だから、この葛藤を今は置いていかねばならない。そして事が済んでから、背負うしかない。今消えゆく影のことを今は見ないふりをして進むしかない。

 

 そうして消えゆく影の中に。

 

 

 

 金髪が混じっていたことは目の錯覚だと信じたかった。

 

 

 

 浜地はショットガンを握り直すと前を進む航暉について走る。

 

 

 

 

 

 その後には薙ぎ払われた木の後が残っていた。その一角が不自然に揺れる。

 

「……ま、マジで死ぬかと思ったぁ」

 

 周囲に誰もいないことを確認してから皐月はのっそりと体を起こした。口の中に飛び込んできた砂利を吐きだすと僅かに鉄の味がした。こういうとき艦娘というのは便利だ。艤装さえ付けていれば飛んでくる枝葉や土砂ぐらいなら耐えられる。

 

「……で? なんで笹原中佐もついてきてるのさ」

 

 木の影が揺れる。空気の屈折率が変わるのか気の輪郭が不自然に揺れている。

 

「まぁ、種を蒔いたのは私の身内だしね。せめてもの罪滅ぼしって感じかな。で? まだ続けるの?」

 

 足元の赤い土が不自然に踏み固められる。

 

「皐月ちゃん、悪いけどこれ以上は命の保証ができないと思うよ。わかったでしょう? 戦闘はカズ君がイニシアティブを握ってる。そして、皐月ちゃんがそこにいるとわかってて気化爆弾を使用した。……少しは遠慮してくれたみたいだけどね」

「だからなんなのさ、笹原中佐」

 

 その木の輪郭に向けて木の枝を投げつける。その木の枝がまるで誰かに掴まれたように空中に止まった。

 

「今更姿を隠す必要もないでしょ?」

「他の自走爆弾を集める可能性はあるんだけどね。ま、お望みなら」

 

 半透明だった影に色がつく。グレーの防水外套のような格好にゴーグル型のアイウェア、アイウェアからは顔の下半分を覆うように外套と同じ色の布が垂れている。

 

「……光学迷彩、か」

「軍用ホロの投影スクリーンよ。そこまで万能じゃないけどさ。結構蒸れるしね」

 

 顔の大部分を覆っていた布地を脇に払うとアイウェアを跳ねあげ整った顔を晒した。

 

「で、どうするの?」

「もちろん追いかけるさ。今目を放したら司令官は帰ってこない。そんな気がするんだ」

「そういう勘がいいのはいい兆候だよ、皐月ちゃん」

 

 笹原がくすりと笑えば皐月はその顔を睨む。

 

「……帰ってこないってわかってて送り出したの?」

「まあね、死にたがりの戦闘バカとそれについてくお人好しじゃ行く末は言わずもがなだよね」

「なんで止めないの?」

 

 笹原は笑みを深くする。

 

「ふたりとも機密保護や適正の補正の関係で記憶を操作されてる。でもそれは小手先の手段に過ぎないんだ。記憶や記録がなくたって、体と脳はそれを経験している。そこから齟齬が発生して体はエラーを叩きだす。そうなれば末路は二つに一つさ、体を壊すか脳が壊れるか。弱いほうが先にいかれる。……記憶中毒ってやつだね。カズ君はそれの中期、浜地君はその初期症状が出てる」

「記憶中毒?」

「覚えがないかなぁ。妙に疲れたような表情が増えたりしなかった? あとはワーカホリック気味になったり」

 

 皐月は黙り込んだ。

 

「覚えがあるみたいだね。ワーカホリック気味になるのはそれに没頭して考えない様にしようとするのもあるけど、あの二人の場合はCSCが記憶の補正を行うからよ。CSCに繋がることで機械により記憶の修正を受ける。……本人たちがあずかり知らぬうちにね。それを受けてる間は記憶と経験のコンフリクトが解消される。でも、記憶と経験のズレは大きくなるから依存症のような症状がでる。……これがカズ君と浜地中佐のワーカホリックの正体だ」

「……その中毒症状が」

「遅かれ早かれ二人はああなった。だから彼らが完全に狂う前に“ホールデン”についての切り札を得る必要にかられた。だから利用した。それだけの話よ」

 

 笹原はそう言うとアイウェアを戻す。ホログラムが起動し、その体が半透明になるように透けていく。

 

「追いかけるなら急ぎなさい。そろそろ私達も次の爆弾に捕捉されるわよ」

「その前に教えてほしいことがある」

「なにかしら?」

 

 笹原は顔を覆う布をセットしながら聞き返した。

 

「……笹原中佐は追いかけてどうするの?」

「もう切り札のありかはわかったし逃げてもいいんだけどね、しかたないから付き合うつもり。私は彼らを狂わせた側の一人だからね」

 

 そして彼女の姿は完全に空気に溶けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レーダーには写ってないか、そっちはどうだ?」

「見えてるよ、ばっちり見えてる。盛大におっぱじめやがった」

 

 首の後ろからQRSプラグを垂らした高峰が苦々し気な顔をする。

 

「状況的には?」

「間に合ったかどうかは疑問だが……すごいことなってるぞ。今送る」

 

 そう聞いてきた天龍に高峰はそう言った。中継器が作動して全員に高峰の視界をレーダーマップに落とし込んだ映像が送られる。

 

「これは……どうなってんだ?」

「12機の無人航空機をジャグリングしながら進路を更地にしつつ目標の建物に向って最短経路で驀進する図、だな?」

 

 苦笑いで杉田が言えば高峰が頷いた。

 

「自殺志願者かなにかかって思える進路だが……この無茶をやり通せるのが月刀の能力ってことなのかねぇ」

 

 それを聞いた電と雷が俯いた。

 

「高峰さん、司令官さんがどこにいるかわかりますか?」

「工場まで1.3キロ、この速度で行けば後20分で工場の敷地に入る」

「その前に止めることは……」

「無理だな。これ以上近づけばおそらく飛び回ってるリーパーにこっちが落とされる」

 

 電の意見をバッサリ切って捨てたのは杉田だ。

 

「あいつと屋外でやありあったら勝ち目はねえ、少なくともあのリーパーが全部落ちてくれないことにはな」

「じゃ、じゃぁ……」

 

 怯えたような声を出したのは雷だ。

 

「俺たちが勝負に出れるのは月刀が工場に入ったあとだ。工場は元々特殊義体製造がメインだ。電脳を扱うことから工場の建物の中は巨大な電波暗室になってる。月刀が建物に入ってしまえばリーパーはただのグライダーに切り替わる」

「工場に入ってからカズがゴールに到達する前に俺たちが追いつけばハッピーエンド、そうじゃなければバッドエンドってわけだ」

 

 シンプルでいいじゃねぇか、と杉田は答えた。そう言うと積み込んでいた小型コンテナを開く。

 

「さて、降下まであと20分少々ってところか。そろそろ用意を進めておこうぜ」

 

 杉田はそう言うと高峰にボストンバッグを放り投げた。中には屋内戦を重視して、プロテクターやヘルメットが入っている。

 

「野郎勢は装備しながらになるが、突入の最終ブリーフィングといこうや」

 

 対人戦闘に関しては杉田が一番詳しいので彼がそう言った。

 

「屋内だとおそらく警備用にチューンされたアンドロイドやガイノイドとご対面になる。おそらく腹の中に爆弾抱えてるはずだ。気化爆弾をフルに使うと工場自体への被害がひどいことになるから多用してくることはないと思うが警戒は必要だろう。となると近づかれる前に止めていくしかない。だから……これを使う」

 

 コンテナから大振りな銃を取り出した。

 

「大口径ショットガンのストッピングパワーに頼ることになる。弾種は一粒弾(スラッグ)大粒鹿討弾(ダブルオーバック)、艤装を使える天龍は砲撃でもいけるはずだ」

「で、大手を振って使っていいのかよ?」

「まずいよ。国連軍規約違反スレスレだ。国連海軍規約第52条第一項『水上用自律駆動兵装は対深海棲艦兵器としてのみ行使されるべき兵装であり、いかなる場合であっても国益や個人の利益の為に運用してはならない』……一応国連海軍の指示ってことでなんとかするが、前半部分が特にまずい」

 

 高峰の言葉に苦りきった顔をする天龍。

 

「だがまぁ、正当防衛の範囲内になるだろう」

「これから工場にアポなし突入するのにか?」

「違う違う、破壊的工作をしようとする人物の身柄差押え、そしてその応援。何ら問題ない」

「しれーかんの扱いにはすごく問題ある気がするけどね」

 

 雷がそう言うと、違いねぇなと天龍も同意した。司令官ふたりは苦笑いである。

 

「高峰、工場のスキャニング終わったか?」

「電力消費量が著しいところが3つ、第1製造ラインとそれの検査をする検査区画、最後の一つが地下4階」

「地下4階?」

「図面だと建物の基礎でコンクリートの塊しかないはずなんだがな、そこで全体の半分以上の電力が消費されてる」

「見るからに怪しいわね、それがゴール?」

「おそらくな。そこがゴールだろう。そこにおそらく……」

 

 高峰が目を細めると、その言葉の後を杉田が継いだ。

 

「そこに、CSCのメインサーバーが存在する」

 

 杉田が襟元をいじった。

 

「こちらバナナフィッシュ。CSC、聞こえているな? パッケージ・タンゴが内部に進入した後、俺たちも突入する、内部セキュリティのキーを転送しろ」

 

 杉田がそう言うと杉田達の網膜にIDが映し出される。扉などのロックはこれで自動解除されるはずだ。

 

「こうして“ホールデン”すら利用しなければ月刀のバカに近づくことすらできない。皮肉なもんだよ」

 

 そう吐き捨てて、杉田はショットガンの薬室にスラッグ弾を送り込んだ。高峰も皮肉に笑う。

 

「俺たちはカズを止められる、ホールデンはその中心たるCSCのサーバーを破壊されずに済む。この点に限っては利害が一致しているわけだからな」

「そうして追いついたとしても、月刀が俺たちをまともに認めるかどうかはわからない訳だしな。全くオッズが悪すぎる」

「確かにポッドオッズは悪いが……」

 

 高峰が笑う。その手には大振りの自動拳銃。――――――月刀航暉が使っていたM93Rだった。

 

ゲーム終了(ショーダウン)に間に合わせればいいだけの話だ。幸いにも最強の切り札(ナッツ)はまだこっちが持ってる」

「もう場のカードはそろった段階だぞ、高峰」

「ここにきて月刀航暉は掛け金上乗せ(レイズ)、CSCは様子見(コール)ときた。カズを排除できてないのはそう言うことさ。カズの動きをまだ予測できていない。そして俺たちのカードも読めていないんだ。だから止められない。そこに勝ち目がある。まだ天秤は傾き切っていない!」

 

 そう言うと高峰は獰猛に笑って見せた。

 

掛け金上乗せ(レイズ)といこう、それだけの手札が揃ってる。最後の最後にそのポッドを手繰り寄せられればいいんだ」

 

 高峰の笑みに杉田が頷いた。

 

「お前のポジティブシンキングがうらやましいよ……案外早く落ち着きそうだな。そろそろ行けるか?」

 

 杉田がそう問いかければ高峰が頷く。パイロットに合図をだしてゆっくりと工場の方に機首を向ける。

 

「屋上のヘリデッキからアクセスすることになる。ローターのダウンウォッシュに気を付けろ」

 

 杉田がひざ当てなどをセットしながらそう言った。高峰が後方のハッチを開く。空の青さが目に染みる。

 

「あの、高峰さん」

 

 それに目を細めながら、電は高峰の袖を引いた。

 

 

 

 

「お願いが……あるのです」

 

 

 

 




艦これアニメ2話早く見たい(放送無いので無料配信待機勢)

どんどん攻殻臭がきつくなってきましたね。いよいよ光学迷彩だしてしまいました。
攻殻機動隊の新しい映画がこの夏に公開だそうで今からワクワクしているオーバードライヴです。

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回 『00010001 Si Vis Pacem, Para Bellum PHASE2』
その記憶に 最後の鉄槌を

それでは次回お会いしましょう。
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