ありふれない不適合者が世界最強   作:シオウ

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アノス様の大魔王教練の成果やいかに。


15話 魔王と新生ハウリア族

「う~~。アレーティアさんのおかげで酷い目に合いました。まさか本当に私ごとアノスさんに魔法を当てようとするなんて」

「それでも簡単に対処された。まさかあえてシアを肉体強化して盾にするとは……多少加減してたとはいえ、私の魔法が直撃してもびくともしないなんて……シアの身体はおかしい。本当に兎人族?」

「失礼ですねぇ。この立派なウサミミが見えないんですか」

 

 俺との戦いでボロボロになりつつも仲良く話をするアレーティアとシア。二人の境遇には似通っているところがある。加えてシアの純真な心は傷ついたアレーティアの心にもよく響いたのだろう。口では文句を言い合う二人だが、ここ数日でずいぶん打ち解けたように見える。

 

「結局アノスさんには勝てませんでしたし」

「そう簡単に負けるようでは魔王は務まらぬからな。シアの動きは良くなってきたが、まだまだ魔力操作が拙すぎる。意識して魔力を操作するのではなくもっと自然に身体強化できるようになれば、もっと素早い攻防が可能になるだろう」

「う~頑張りますぅ」

「アレーティアは近づかれた時の対処を考えねばな。自動再生に頼り切りでは自分より強い相手に対してはただ嬲られる一方になる。シアのような動きができるようになれとは言わぬが、もう少し工夫することだ」

「……ん」

 

 今回の訓練において、各々克服すべき課題は見えたであろう。二人ともやる気と才能はあるのだ。おごらず修練に挑めばもっと強くなるであろうな。

 

 そんな話をしながら、俺達はハウリアが居住していた区域に近づいてくる。

 

「そうだ。アレーティアさん。この先に私達ハウリアが誇る立派な花畑があるんですぅ。今ちょうど見ごろな時期ですし、見ていきませんか?」

「花……どんな花が咲いているの?」

「それはもう綺麗な花ばかりですよ。ほら、こっちですよ」

 

 まるで自慢の宝物を見せるように張り切って案内するシア。そしてシアは森を抜け、花畑が広がっている場所まで到達する。

 

「見てください。これが私達ハウリアが誇る花……畑……」

 

 その光景を見て、シアの言葉が尻すぼみになっていく。どうやら紹介したかった光景ではなかったらしい。なぜなら……

 

「なんというか……すごく……独創的」

 

 アレーティアの引き攣る顔から予想できるように、そこには美しい花畑が広がっているわけではなく植物型の魔物で溢れていたからだ。

 

「シャァァァ──!!」

 

 ほぼ全ての花が数十メートルサイズへと変わり、たまに現れる動物型の魔物を喰らい、体内で消化しているのがわかる。

 

「はわわわわ。い、一体ここで何があったんですかぁ!!?」

 

 ふむ、シアはどうやらこの新しい花畑が気に入らなかったようだな。だが、大声を出すのは良くないな。奴らは目がない分、音には敏感だ。

 

「ひぃ、気持ち悪い花がこっちにッ!!」

 

 シアは完全に自慢だった花畑の変貌に気が引けているのか碌な構えができていない。横にいるアレーティアは奈落で植物型の魔物と対峙した経験があるからか即座に臨戦態勢を整えた。

 

 だが、それよりも早くこちらに飛来する影がある。その影はシアに襲い掛かろうとしていた植物型の魔物の茎部分を切断し、こちらに着地した。

 

 

「無事っすか、シア姉」

「へ? えあ、えっ! ぱ、パル君!?」

「しっ! 静かに、奴らは音に反応して襲い掛かる。だからシア姉はここで大人しくしてるっすよ」

 

 飛来したシアの弟分であるパル・ハウリアは、叫びそうになるシアの口を塞ぎ、そこから素早く立ち退く、その間、身動きに一切の無駄がない。衣擦れの音すら発生させずに植物群の中に踏み入れる。

 

「ピ──ッ!」

「ッッ! シャァァァァァ──ッッ!」

 

 素早く行動しながら指笛を鳴らすパルにつられて、植物型の魔物達は一斉にパルに襲い掛かるが、まるでどこから攻撃がくるのかわかっているかのような最小限の動きで、魔物の攻撃を次々避けていき、一体、二体と魔物を倒していく。

 

 だがそれでも周りは植物で囲まれているのだ。空中に飛び上がったパルめがけて頭を伸ばしてくる植物型の魔物だが、四方より音も無く訪れた四人のハウリアに一刀の元切り捨てられる。

 

「え、え、え?」

 

 どうやら今見ている光景の意味がわからないらしいシアは呆然と見ていることしかできていない。

 

 俺もまた、彼らの動きを観察し、十日間の特訓の成果に満足する。まだまだ足りないところはあるが、現時点でできることは全てやった。後は彼ら次第だ。

 

「総員、ここに集え」

 

 いつの間にか目の前に存在していた植物群を殲滅した彼ら、ハウリア族に号令をかける。呟く程度の言葉だが問題ない。ハウリアの耳は飾りではないのだ。

 

 俺の言葉を聞いたハウリアはこの場にいないものを含めて全員集合する。素早く、それでいて無音。言われずとも整列し、待機の姿勢を取る彼らはもはや軍隊と言っても違和感はあるまい。以前のハウリア達を知っている者であれば、同一人物達だと思わぬだろう。

 

「お呼びですか、陛下」

「ふむ、先ほどの戦い。実に見事だった。どうやら十日間の訓練の成果は出たようだな」

「もったいなきお言葉。ですがこれだけではありません。陛下より指示されていたフェアベルゲンに発生した魔物、全て討伐済みでございます」

「ほう、見せてもらおうか」

 

 ハウリア達の中でも一際背筋が伸び、立ち振る舞いから変化したカムの自信の篭った言葉を受けた俺は<転移(ガトム)>を使い、ハウリアが訓練していた場所まで全員で転移する。そこに広がっていた光景は……

 

「な、な、な」

 

 多種多様な魔物達の死体の山だった。

 

「なんですかこれぇぇぇぇ──ッッ!!」

 

 そして一緒に連れてこられたシアがとうとう限界を迎えた。

 

 

「ど、どういうことですか!? アノスさん! 父様達に一体何がっ!?」

「落ち着け、シア。俺が十日間、ハウリア達の訓練を行ったのは知っていよう。その訓練が実を結んだにすぎぬ」

「いやいや、何をどうすればこんな有様になるんですかっ!? 完全に別人じゃないですかっ! ほら、父様なんて明らかに雰囲気が変わってますし!」

 

 たしかにシアからしたら十日前の父親と比較して今の隙のない立ち振る舞いをする父親に驚くのも無理はないかもしれぬな。だがアレーティアまで驚いているのはどういうことなのか。

 

「全く隙のない姿勢に、押さえ込んでいながら内面に渦巻いている覇気。それら全てが完全に統率されて……すごい、まるで私の国に存在した少数精鋭部隊を見てるみたい」

「まぁ、十日ではこんなものだろう。まだまだ教えたいことは山ほどあるが流石に時間が足りぬな」

 

 十日間ではこの程度の練度しか出せなかった。遺憾ではあるが、一応形になった。

 

「アノスさんッ、一体父様達にどんな訓練をしたんですかぁぁ。なんですかこの魔物の死体の山ッ。でっかい奴から森で一度も見かけたことのないやつまでッ。って、うわッ、あの魔物が垂らした体液で地面が溶けましたよッ。いつのまにこの森は魔境に変わったんですかぁぁ!!」

「ふむ、どんな訓練と言われてもな。至って普通の訓練だ。森の全生物に対して魔物化の魔法を掛けて凶暴化させた上で戦わせる、極限のサバイバル訓練だ」

「どこが普通ですか!? 父様達を殺す気ですか!?」

 

 俺に向かって半泣きになりながら詰め寄ってくるシアに対し、どう説明したものか悩むな。どうやら事実が聞きたいわけではないようだ。

 

「シア、落ち着きなさい」

「えっ、本当に父様ですよね? 何か画風まで変わってる気がするんですが!?」

「ははは、アノス陛下の訓練を受けたのだ。画風くらい変わるさ」

 

 ふむ、言われてみれば、幸薄い顔をしていたが、前を向くようになって些か顔立ちが濃くなったかも知れぬな。それに何故か言ってもいないのに、いつのまにか俺を陛下と呼ぶようになっている。

 

 そんな新生したカムはシアの落ち着きのなさを注意していた。

 

「シアはアノス陛下の直属の配下を志願しているのであろう? ならこの程度のことで心を乱してはならん」

「そうよ、シア。私達はアノス様の訓練を受けて、全員生まれ変わったの」

「そんなぁ、ミナさんまで!?」

 

 以前はおどおどしていた兎人族の少女ミナもこの十日間の修行で自信がついたのか、顔つきからしてもはや別人だ。そしてハウリア達の変化は一部だけではない。

 

「今でも信じられないよ。まさか俺達に、こんな力が眠っていたなんて……」

「多種多様でありながら俺達が全力で挑めばギリギリ倒せるレベルに設定されていた魔物達。終わってみれば全てアノス様の掌の上だったんだな。まるで俺達の潜在能力を適切に引き出されたかのようだ」

「今じゃ俺達がどこまで高みにいけるのか。試してみたくて仕方ないぜ」

 

 ハウリア達は全員が全員己に対する自信と覇気を漲らせている。十日前の虫も殺さなかった弱小種族などもうどこにもいないのだから、シアが混乱するのも無理はない。

 

 数多の試練を乗り越え、ここに新生ハウリア族は誕生したのだ。

 

「え、ええ……」

「どうした? 何かカム達に不満でもあるのか?」

「いえ、不満はないんですけど……ちょっとみんな変わりすぎというか……クールになりすぎというか……十日前と違いすぎて脳がバグりそうですぅ」

 

 どうやら己の家族が以前と違いすぎて認識が追いついていないらしい。だが一つシアは勘違いをしている。

 

「シアよ。先ほどから何を他人事のように言っている?」

「へ?」

「変わったのはこやつらだけではない。……ハウリアよ。当然お前達もシアと会うのは十日ぶりだが、お前達の目から見てシアはどう見える?」

「いや、どうって私は別に……」

 

 俺の言葉を受けてハウリア族達が一斉にシアを見るが、少し見ただけで俺の方に視線を戻した。

 

「よく見るまでもありませんな。シア……しばらく見ない内に、本当に見違えた」

「えっ?」

「ええ、本当に。以前よりずっと素敵な女の子になったわ」

「え、え?」

「本当っすよね。シア姉俺達のことばっかり言ってるけど。一番変わったのはシア姉じゃないっすか」

 

 口々に自分の変化を述べる家族の言葉にシアは動揺を隠せない。

 

「えっ、別に私……変わってないですよね?」

「シアは自覚してないだけ。もう出会った頃の魔物に襲われて泣きながら逃げていたシアはどこにもいない」

「アレーティアさんまで!?」

 

 どうやら自分のことは見えていないらしい。以前のシアを知っている者からしたら、その身に纏う魔力や目つき、立ち振る舞いだけで、以前とは違うとすぐにわかるだろう。ましてや長年共に過ごした家族なら尚更だ。

 

「そうだな。ますますお前の母、モナに似てきたよ」

「母様に?」

「そうだ。お前の母も、今のシアのような目をしていた。私達をいつも勇気づけてきた強い目だ」

「父様……私……」

 

 何やらいい空気になっているところだが、もう時間が迫っている。これからハウリアの命運をかけた戦いが始まるのだ。

 

「さて、お互いの顔見せはこの辺にして、あと2時間ほどでお前達の運命を決める戦いが始まる」

 

 俺の言葉で現実を思い出したハウリア達は全員顔色を変える。温和な家族の顔から戦士の顔へ。

 

「とはいえ、もう勝負は決まったようなものだがな。当然、敵の情報は既に掴んでいるのだろう?」

 

 これまでの訓練を受けてきたハウリア達が決戦に向けて何も準備していないはずがない。カムもまた、ニヤリとこちらに向けて笑みを浮かべた。

 

「もちろんです。敵は熊人族と虎人族の混成部隊。数は合計で八十七人。敵の配置場所や戦術、使う武器に至るまで全て把握済みです。戦場も先回りして複数の罠を仕込み済みですな」

「ほう、まさか短期間でこれほどやるとはな。流石は兎人族ということか」

 

 あらかた調べてあるだろうと思ったが、今の段階でそこまで詳細な情報が集まっているとは思わなかったので俺は素直に感心する。

 

「これを褒められるのは少し複雑ね、アノス様。私達が凄いんじゃなくて、あいつらが油断しすぎなのよ」

「作戦会議も隠れずに堂々とやってたしな。俺達がずっと見てるとも知らずに」

「あまりにチョロすぎて逆に罠なんじゃないかと疑ったんですけどね。裏を探ってもあいつらが油断しているとしか判断できないんですわ」

 

 熊人族や虎人族からしたらこの戦いは勝って当たり前の戦いなのだ。当然ハウリア達が情報を盗みに来ているとは夢にも思っていないだろう。

 

「ならばよし。ではハウリアよ! 貴様達の運命がかかったこの戦い……完全勝利を収め、貴様達の力を他の亜人族達に知らしめて見せよ! 今日この日より、弱かった自分達から卒業するのだ!」

『御意!』

 

 俺の言葉に対して、ハウリア達は力強く応えてみせた。

 

 

 そして、約束の時間が訪れる。

 

「改めて確認させてもらいたい。これから行われるのはハウリアと我々の戦いであり、君と彼女は関与しない。確かだね?」

「二言はない。此度戦うのはハウリアだけだ」

 

 俺とアレーティアの横には、熊人族と虎人族以外の長達だ。既に配置についている者達以外はフェアベルゲンの樹木の高層にて遠見用のアーティファクトを用いて戦いを観戦することになった。

 

「ふん。あれから十日間、それなりに鍛錬を行ったのだろうが、どうだったかね? 彼らの救いようの無さに頭を抱えたのではないか?」

「何も言うことはないな。直ぐにわかる」

 

 気難しさを感じる土人族の長の言葉に俺は答えない。答える必要がない。なぜなら十日間の成果はもうすぐこ奴等も認識することになるのだからな。

 

 最後に代表としてアルフレリックが拡声用アーティファクトを使い宣言する。

 

「では、これより、ハウリアの命運をかけた交流戦を行う。この森の中であればどこで戦おうとも自由。では……始め!」

 

 その宣言を持って、ハウリアの将来をかけた戦いが始まった。

 

 

 そう、戦いは始まったのだが……開始から数十分足らずでこの戦いの行く末は見え始めている。

 

「なんだ、一体これはなんなんだよ!?」

「一体、一体どこから攻撃されている!?」

「わからないッ、おい他の奴らは!?」

「反応がない。畜生やられた!」

「うわぁああ! 来るなっ! 来るなぁあ!」

 

 戦いの始まりの宣言の後、熊人族と虎人族の混成部隊が取った戦略は、小細工なしの真っ向からの殲滅戦だった。

 

 奴らにとってハウリアは虫も殺せない臆病者の一族。多少戦闘訓練を行ったとしてもたった十日では付け焼き刃。数も自分達が勝る以上、小賢しい戦術など不要だと考え、それを実行したのだろう。

 

 この戦術は相手が熊人族なら通じただろう。虎人族や他の種族でも通じたに違いない。

 

 だが、ハウリアにはそれは通じない。

 

「ぎゃぁぁ──ッッ!」

「くそ、そこか!? 違う、逆ッ、がふぅ!」

 

 極現状態のサバイバルにて威勢よく魔物の群れに突っ込んだハウリア達だが、結果は散々だった。

 

 ある者は真っ二つにされ、ある者は飲み込んで消化され、ある者は死なないまでも半死半生の状態になった。

 

 俺が遠隔で蘇生と治療を行った瞬間、ハウリア達は泣き叫びながら逃げ出した。先程の威勢はどこへ行ったのか皆必死の形相で逃げたのだ。

 

 だが、それは許されない。なにしろ森に生息する全ての生物が敵なのだ。種ごとの感知器官があるのでハウリアでも隠れるのは相当難しく、再び死亡するのはそう遠くはなかった。

 

 俺に訓練を止めるように命乞いする声が聞こえたが無視する。降参を宣言する声が響いたが聞こえないふりをして蘇生と治療だけを行ってやる。

 

 そうして最初の1日は過ぎて、二日目。いよいよ極限まで追い詰められたハウリア達の意識が変わり始めた。

 

 生きたい。生物が持つ原初の本能が研ぎ澄まされたことで、彼らの根源を揺るがし、彼らに力を与える。

 

 それから二日間、彼らは彼らの唯一の武器である気配操作を巧みに使用して隠れ続けた。

 

 魔物によって感知器官は違う。視覚に特化したものもいれば音に反応するものもいる。だからこそハウリア達は、隠れるために魔物を観察し、魔物の特徴を見極め、適切な気配操作を行うようになった。

 

 四日目になった時、俺は転移魔法にてあらかじめ作成を依頼していたハジメ製のナイフ型アーティファクトを彼らに与えた。

 

 それを用いてハウリアが行ったこと、それは狩りだった。当然だ、蘇生と治療は行っていたが食料は与えていない。水はそこら中にあったが、いい加減空腹に耐えかねたハウリアが食べられそうな魔物を優先して襲いかかった。

 

 ハウリアに与えたアーティファクトは、魔物を殺せば魔物の有毒な魔力を適度に解毒するような仕組みになっているため、彼らは魔物を喰らって飢えを凌ぐ。

 

 相手をよく観察し、気配を適切に操作して、相手が気づく前に一撃で急所を断ち切り、その肉を持って飢えを満たす。適度に残した魔物の毒が彼らの身体に負荷をかけ、その上で超回復を促進してやれば彼らの肉体はみるみる逞しく変化していった。

 

 そのうち単体で狩れる魔物は狩り尽くしたが、群れを成す魔物に苦戦し出したのでここに来てようやく俺が一から兵士の心得と兵法を伝授した。ディルヘイドの魔王軍式の訓練を受けた彼らはさらに変わった。後は練度を上げるだけになる。

 

 そしてハウリア達は研鑽を続け、今日を迎えた。

 

「畜生ッ、こんなはずじゃ、こんなはずじゃなかったんだ!」

 

 他の族長達にレギンと呼ばれた熊人族の副隊長が叫ぶがハウリアは答えない。

 

 訓練と並行して彼らは熊人族や虎人族を観察し続けてきた。身体能力や技能はもちろん、動きの癖や、趣味嗜好に至るまで、徹底的に調べてここにいるのだ。

 

 力で及ばない分、得意の気配操作を巧みに使い、影から影へ渡るような素早い動きで翻弄し、一瞬の隙を見逃さずに仕留める。

 

 表層は冷静に、なれど心は熱く。その想いでもってハウリアは亜人族最強の戦士達を翻弄していく。

 

「すごい……」

「これくらいできて当然だ。むしろ相手は舐めすぎだな。これでは一方的ではないか」

 

 いくら数で勝ろうとも、罠などで地の利を奪われ、連携を崩され、その上徹底的に闇討ちで削っていけば、相手は唯の烏合の衆だ。

 

 背水の陣で準備を行なってきたハウリアと余裕で勝てると慢心し、最低限の準備しかしていなかった敵の差でもあるな。

 

「ふざけるなッ、この卑怯者どもめ! 今すぐ出てきて俺と戦え! そうでなければ貴様らのことなど絶対に認めんぞ!!」

「ほう……」

 

 そのうち一方的に数を減らされていた熊人族の長であるジンが痺れを切らして虚空に叫び出した。挙句ここで出てきて戦わなければハウリアを認めないとまで言い始めたではないか。

 

「勝手な言い分、ハウリア達は出て行く必要はない」

「そうは言うがなアレーティアよ。族長の一人であるあれが認めぬと言い張るようでは後々面倒だ。丸く収めるには、ぐうの音も出ない完全勝利でなくてはならぬ。それに聞くがな、アレーティアは負けると思うか?」

「全然」

 

 俺の言葉に対し、アレーティアは自信を持って即答する。それはそうだろう。アレーティアが一番知っているのだからな。

 

「呼ばれたからには、出てきてあげますよぉ〜」

 

 ジンの呼びかけに答えたのは白髪の兎人族シア・ハウリア。

 

 シアは堂々と前に出てきて、熊人族の族長であるジンと相対する。

 

「さて、先程から口を開けて試合を観戦している他の族長に言っておこう。今見せたのはハウリア達兎人族の可能性だ。そして、これから貴様達に見せるものは……」

 

 

「──貴様達が切り捨て続けた者の可能性だ」

 

 ***

 

「ようやく出てきたな弱小種族が!」

 

 私ことシア・ハウリアの目の前に父様と比べても遥かに大きい巨体が現れる。熊人族は亜人族の中でも高い戦闘能力を誇る種族なだけあり、迫力は満点だ。

 

「魔力持ちだかなんだか知らないがな。我らが恐れるのは人族や魔人族が使う魔法のみ。魔力が有っても、魔法が使えぬのなら意味などないわ! それとも、あの男に魔法でも教わったのか?」

「いいえ。残念ですけど私には魔法の才能がないみたいですよ」

 

 アノスさんから教わっていたが、残念なことに私には魔法の才能がないらしい。アレーティアさんはともかく、アノスさんが言うならそれは間違い無いだろう。どう頑張っても私ではアレーティアさんのように戦うことはできない。

 

「なら、何も問題ないな。大人しくすれば、痛い思いはしなくてすむぞ」

「冗談。いいからかかってくるですぅ」

「この、弱小種族がッ!!」

 

 激昂して殴りかかってくる族長さんに私は拳でカウンターしようとするが、突如視界から族長さんが消える。

 

「あれ?」

「ふ、今まで散々やられたんだ。油断などせぬわ」

 

 その声は後ろから聞こえてきており、すぐに私は族長さんに丸太のような腕で拘束されたことを知る。

 

「これなら何もできまい。貴様は奴らを誘き寄せる人質だ。貴様のような忌み子すら捨てられんのだ。すぐに降参してここへ来るだろう」

 

 万力のような圧力で私を締め付ける族長さんの声には自信が感じられた。どうやらもう勝ちを確信しているらしい。力では負けないということなのだろう。

 

「忌み子ですか。あなた達は私を忌み子だといいますけど、アノスさんは私を違う名前で呼んでくれましたよ」

「何だと?」

 

 そう、アノスさんは私の事を一度も忌み子だとは呼ばなかった。それどころか彼は私に対してこう言ったのだ。

 

「私は亜人族の……可能性らしいですよ」

 

 私こそが亜人族の可能性だと彼はそう言った。そうあるように期待してくれて、訓練もしてもらった。

 

 殻を破るために必要な物は全て貰ったのだ。だから後は、私がこの殻を破るだけだ。

 

「はぁぁぁぁ──ッ!」

 

 魔力操作による身体強化をかけ始める。全身から力が漲り、族長さんによる拘束に抵抗し始めた。

 

 途端にミシ、ミシと音が鳴り始める。

 

「な、何だと!?」

「ふッ!」

 

 身体強化を全開にした私は比較的細い手首の部分を掴み、握力に任せて握り潰した。

 

「!? ぐぁぁ!」

 

 直ぐに拘束が弛んだのですぐさま脱出して正面に出る。

 

「おのれぇぇぇ──!」

「あの人達が私を可能性だと言ってくれるのなら……それを信じて私達は、貴方達を置いて先に進みます。今日……」

 

 

「──弱虫だった自分と卒業して……」

 

 

 

「オラオラオラオラオラオラッ……」

 

 拳に魔力を集めて高速でラッシュを叩き込む。その動きに対応できない族長さんはただのサンドバックだ。

 

「オラオラオラオラ──ッッ ぶっ飛びやがれですぅぅ──ッ!」

 

 弱かった頃の自分と訣別するために、腰を入れた拳をガラ空きの胴体に叩き込み……

 

 ──森の奥までぶっ飛ばした。

 

「がはぁぁ──ッ」

 

 数十メートル先の巨木に叩きつけられて血を吐いた族長さんは地面に倒れ伏して動かない。

 

『そ、そこまで。勝者は……ハウリアとする!』

 

 そして同時に試合終了が告げられる。どうやら父様達も上手くやったらしい。

 

 僅か十日前まではどうしようもなかった。

 

 希望の未来など一つもなくて、この世界の神様は私達を助けてくれたりはしない。

 

 そんな神に見捨てられた私達を救い出してくれたのは、異世界から訪れたという魔王だった。

 

 未来視を使わずともわかる。私達ハウリアの運命は確かに変わった。

 

 それを噛み締めた私は遠くに見えたアノスさんとアレーティアさんに手を振る。

 

 アレーティアさんは控えめに手を振り返してくれたが、アノスさんに動きはない。

 

 だが代わりにニヤリと笑う姿がまるで、良くやったと言ってくれているように感じた私は、思わず笑顔になってしまうのだった。

 

 




>新生ハウリア族
原作と比較してヒャッハー度が大幅に下がり、戦闘力が大幅に上昇している。これは戦技教導の素人のハジメと魔王軍を率いていたアノスの差。
なお、厨二病化はする模様。

>シア・ハウリア
現状原作とはあまり違いないが、これから変化するはず。
ちなみにこれを書いていた時、ちょうどジョジョ6部がアニメ化してた時だった。
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