ありふれない不適合者が世界最強   作:シオウ

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久しぶりにランキングに乗りました。

本作だけでなく、ありふれた日常へ永劫破壊の方もよろしくお願いします(ダイマ)


16話 魔王とバグウサギ

「まさか……まさかこれほどとはな。これが、忌み子の可能性か」

 

 ジンの敗北が確定した事と既に混成部隊が戦闘続行不可能になった事を察したアルフレリックがハウリアの勝利宣言をした後、漏らした言葉がこれだった。

 

「いや、それは違うぞ。忌み子の可能性でない。お前達亜人族の可能性だ」

 

 俺の言葉に耳を傾ける気になったのかアルフレリック以外の族長もこちらに意識を向けたことがわかった。

 

「確かに魔力持ちが数人程度では数で勝る人族や魔人族には勝てぬであろう。だが魔力は顕性遺伝だ。もし貴様達が見捨て続けてきた忌み子が生きて成長し、子を成し、その子孫達が現代で生きていれば、貴様達を取り巻く環境はまた違ったものだったやもしれぬな」

 

 差別はあったかもしれないし、結局境遇が大きくは変わらなかったかもしれない。だが少なくとも、人族や魔人族と戦うという選択が増えた可能性は大いにある。

 

 俺の言葉にどう思ったのかはわからない。だが全員が俺の言葉を受け取ったことだけは伝わった。

 

 変われるかどうかは、後はこいつら次第だ。

 

 ***

 

 そして試合が終わった翌日、俺達は霧が薄くなった大樹の元へ足を運んでいた。

 

「……枯れてる?」

 

 アレーティアの言葉の通り、俺達が目的としていた場所にあった大樹は枯れていた。

 

 魔眼で見た限り本当に枯れているのだとわかる。

 

「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」

 

 俺とアレーティアは大樹の元まで歩み寄った。近くに寄るとそこにはオルクスで見たのと同じ紋章があることがわかった。

 

「アノス、後ろ見て」

「ふむ、これは……」

 

 アレーティアが注目していたのは石板の裏側だった。そこには、表の七つの文様に対応する様に小さな窪みが開いている。

 

 俺はそこにオルクスで見つけた指輪を近づけた。

 

 すると……石板が淡く輝きだした。

 

 何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も集まってきた。しばらく、輝く石板を見ていると、次第に光が収まり、代わりに何やら文字が浮き出始める。そこにはこう書かれていた。

 

 〝四つの証〟

 〝再生の力〟

 〝紡がれた絆の道標〟

 〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟

 

「どうやら現状では攻略できぬ大迷宮のようだな。再生の力が再生魔法のことを言っているなら代用できなくもないが、四つの証がないな」

「……残念」

 

 再生の力だけなら<時間操作(レバイド)>で再現できなくもないが四つの証はおそらく他の大迷宮を攻略した証のことであろう。つまりここに来るためには後三つの証がないとダメということだ。

 

 大迷宮攻略が出来ないとあっては俺とアレーティアはここに残る意味がなくなる。

 

 という訳で俺とアレーティアは森の入口にてハウリア達に見送られていた。

 

「えぐっ、ぐず、アノズざん、アレーディアざん、えぐ、まだ、会いに来で下ざいね」

 

 そして大号泣しながら俺達を見送ろうとしているシア。どうやらこのまま別れるのだと思っているらしい。

 

 ……ふむ。

 

「何を言っているシア」

「へっ?」

「お前は俺の配下になることを希望していたと思っていたが?」

「えっ、だって……私アノスさんに勝てませんでしたし」

 

 どうやらシアは俺に勝たねば旅についていけないと思っていたらしい。

 

「俺に勝てとは言ってはおらぬ。俺はお前に力を示せと言ったのだ。そしてお前の力は先日の戦いで見せてもらった」

「…………えっ、それじゃあ……ついて行っていいんですか?」

「そうだ。お前がもし外の世界に、新しい世界に興味があるのなら、着いてくるがいい」

 

 シアはまだまだ発展途上だ。そしてその力は大迷宮などのより困難な試練を前にして開花するであろう。そう思えば旅に連れて行くのはシアはもちろん、俺達のためにもなるだろう。

 

 俺の言葉を理解したのか、泣き顔だったシアが花開くような笑顔に変わる。

 

「はい!」

 

 さて、シアはこれでいいとして……残りのハウリア達にも告げておかなければならぬことがある。

 

「さて、お前達もと言いたいところだが。貴様たちはまだまだ弱い。先日の戦い……お前達が圧勝することができたのは、お前達が相手だからと敵が慢心し、油断しきっていたからだ。仮にもう一度戦うことになれば、次は此度ほど上手くはいかぬだろう」

 

 確かにハウリア達は強くなった。だがそれはあくまでハウリア達の特性を生かした奇襲、暗殺に特化した成長であり、本来は敵と面と向かって戦うのには向いていない戦闘スタイルだ。

 今回あらかじめ宣戦布告した状態で始めた戦いにおいてハウリアが勝てたのは、敵が必要以上の準備を怠ったからという面が強い。

 もし敵が慢心せず、ハウリア達に対して全力で挑んでいた場合、結果は変わっていた可能性がある。

 

「だからこそ貴様たちはもっと強くならねばならぬ。この十日間で貴様たちは己に秘められた力を知った。貴様たちは無力で哀れな獲物ではなく、戦うための鋭い爪と牙が生えていたことを知ったのだ。ならばこそ貴様たちは、この森にて修練を積み、その爪と牙を研ぎ澄ませよ」

『はッ!』

 

 ハウリア達は次々と俺に膝を付き、威勢よく返事を行う。

 

 ふむ、特に跪けと命じた覚えはないが、やはり兎人族は根っからの奉仕種族なのかもしれない。

 

「たまに訓練の様子を見に来てやるから心配するな。一度関わった以上独立できるまでは面倒をみよう。……ふむ、そうだな。一人だけ特殊な訓練を受けてもらいたい」

 

 他にもハウリア達に伝えるべきことを伝え、再び旅に出る時が来た。

 

「父様ッ、皆ッ、私……行ってきます!」

「ああ、気を付けて行っておいで。世界を知り、より成長したシアに会えるのを楽しみにしているぞ」

 

 シアは後方を振り返り、大きな声と大きな身振りで残していく家族に別れを告げる。

 

「さて、シアよ。これから旅に出るわけだが、お前は何のために旅に出る? お前の眼が写したい未来はなんだ?」

 

 そして最後に、シアの望みを聞く。

 

 当初は家族に迷惑が掛かるから旅に出る。そんな気配を漂わせていたシアだったが、それはこの十日間で変わった。

 

「……私、一人だけ魔力を持って生まれて……ずっと一人だと思ってました」

 

 ぽつりと、そう漏らす。

 

「でも……アノスさんや、アレーティアさんと一緒にいられて……こんな私にも優しくしてくれて……」

 

 そこで一度言葉を区切る。そして、意を決したようにシアは口を開いた。

 

「だから私は……二人と一緒に旅をしてみたいです! 私に与えられた力で何ができるのか、知りたいです」

 

 自らの可能性を知るために旅に出る。それは、確かに……以前のシアからは出てこない言葉だろう。

 

「ならばシアよ。俺の後ろを歩むがいい。そうすればいずれお前だけの道を知ることもできるであろう」

「はい! ……それであの……やっぱり着いていく理由はそれだけではなくてですね……」

「ん? どうした?」

 

 先程とは違い、何やら歯切れが悪くなったシア。言いたいことがあるようだが……

 

「構わぬ、申してみよ」

「で、ではッ。私がアノスさんについて行くのは、私がッッ、アノスさんのことをッッ……すッびびびびび!?」

 

 何かを伝えかけたシアだが急に痺れて喋れなくなる。

 

「ビビビビッ! て、何するんですか!? アレーティアさん」

「……言わせるわけがない。そういうのは私を倒してから言うがいい」

「う──。いつか絶対に勝ちますから、覚悟して下さい!」

「ふっ、そんな日は永遠に訪れない。いつでもかかってくるがいい」

 

 何やらわからぬが、どうやらアレーティアと何やら競い合っているらしい。お互い競争心があるのは結構なことだ。お互いがお互いを意識し合っていれば成長も早くなるであろう。

 

 ***

 

 睨み合っている二人を諌めて俺達は旅を再開する。

 

 平原を自動車にて快適に走る中、後部座席に座るシアが質問してきた。

 

「そういえば次の目的地ってどこなんです?」

「次の目的地はライセン大峡谷だ」

 

 王国の図書館や浩介の報告などの情報を精査したところ、ライセン大峡谷に大迷宮の一つがある可能性が高いことがわかった。

 

「だがその前に一度街に寄るつもりだ。他の仲間の様子も見てやらねばならぬし、準備するものもあるしな」

 

 大迷宮探索は重要なことだが、他のクラスメイトの様子もたまに見に行かねばならない。そうなると俺が移動している間は待機する予定のまだ人に慣れてないアレーティアや、この世界では被差別種族であるシアにはちゃんとした拠点があったほうが良かろう。

 

 しばらく車を走らせているとそれなりに大きい街に到着する。

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

「物資の補給だ」

 

 門番に中身を誤魔化したステータスプレートを差し出すと、今度はアレーティアとシアの方を注目した。

 

「この二人は訳あってステータスプレートを持ってはおらぬ。後で用意する故今は通してもらいたい」

 

 王都やホルアドでは使う機会がなかったが故に、身分証を兼ねていたことを失念していた。見たところ簡単に複製できるようなので後でアレーティアとシアの分も用意しておこう。

 

 だが、門番が気になるのはそれだけではないらしい。

 

「ああ、ステータスプレートを紛失したなら後で再発行してもらえればいいいけどな……その兎人族は奴隷だよな? 何で首輪を付けてないんだ?」

 

 どうやらこの門番はシアのことを俺の奴隷だと思っているらしいが首輪をしていないことが気になるらしい。

 

「ふむ、絶対に首輪を付けねばならぬのか?」

「首輪は奴隷に主人がいる証だからな。主人がいる奴隷に他の奴が手を出すことは法で禁じられているが、首輪が付いてないとフリーの兎人族だと思われるかもしれないぞ。見たところかなり綺麗どころだし、狙ってくる奴は多いかもな」

 

 事情がわかったところでシアの意志を確認することにした。

 

「ということらしいが、どうする?」

「ええー。私、首輪なんて付けたくないですぅ」

「それでも構わぬがその場合、ひっきりなしに人攫いに狙われるかもしれぬぞ。せっかくの街なのに観光どころではなくなるかもしれぬな」

「うっ……あ、アノスさんが守ってくれれば」

「あいにく色々やることがあってな。ずっと側にはいてやれぬ」

「むむむ……」

 

 しばらく悩んだシアだったが、せっかく新しい街に来たのにひっきりなしに人攫いに狙われるのは勘弁と思ったのか首輪を付けることを容認する。

 

「では、これでよかろう」

 

 俺は<創造建築(アイリス)>にて水色のチョーカーをシアに付けてやる。

 

「それはシアに邪な想いを向けるものには首輪に見える魔法が掛かっている。それなら気になるまい」

「えっ、あ、はい! ありがとうございます」

 

 どうやら物々しい首輪をイメージしていたシアは、可愛いチョーカーをつけられたことに喜んでいるようだ。

 

 

 準備が整った俺達は門を通り街に入る。そこでまず最初にすべきことは拠点とする宿を確保すること。そしてその情報を得るために俺達はこの街のギルドへと向かった。

 

「ふむ、意外と清潔にされているな」

 

 この街にはアレーティアやシアに不届きな視線を向けている者が多数存在しており、その者達はとてもではないが、温厚そうには見えなかった。冒険者らしきそれらの不届き者が屯しているギルドならもっと荒れているイメージがあったが、秩序が行き届いているギルドを見ればどうやらここのギルドの長は中々優秀らしいことがわかる。

 

 アレーティアやシアに視線を向けつつも手を出してこない冒険者を横目に真っ直ぐギルドカウンターに向かうとそこには中々体格のいい女性職員がいた。

 

 にこやかにこちらを見つつも、俺達を一切油断なく観ているのがわかる。姿勢やこちらを不快にさせずに観察する視線といい、どうやらこの女傑がこのギルドの秩序に貢献している人物であるとわかる。

 

「すまぬが、少しいいか」

「構わないよ、両手に花の色男の兄ちゃん。ここは冒険者ギルドのブルック支部、要件はなんだい?」

「ここに来たばかりでまだ拠点がない。できれば良い宿を紹介してくれるとありがたいな」

「それなら、マサカの宿をお薦めするよ。ここらの宿の中じゃ防犯もしっかりしてるし食事も美味しいし、お風呂にも入れる。ただ当然それなりに値は張るが持ち合わせはあるのかい?」

 

 一応神の使徒は王宮から多少の金銭は持たされているが、それも余分にはない。

 

「そうだな。なら素材の買取をしてもらおうか」

「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」

「ふむ、買取にステータスプレートの提示が必要なのか?」

 

 その受付の女性、キャサリンが言うには冒険者として登録しておけば色々便宜が測れるらしい。

 

 登録された冒険者は色分けされ、最初は誰でも青から始まり、それから冒険者としての功績やギルドへの貢献度によって色が変わってくる。一流と呼ばれる冒険者は黒を持ち、一握りの猛者は金の称号を得ることができるらしい。

 

 金の称号を得るということは冒険者の頂点に位置すると言っても過言ではなく、それを得たものは富も名声も手に入れるという。

 

 とはいえ……

 

「あまり興味はないな」

「おや? 冒険者なら誰でも黒ランクを目指すもんだよ。男なら尚更ね。そこのお嬢さん達にカッコいいところを見せようとは思わないのかい?」

「他人からの評価など、どうでもいい。己の価値は己で決める。それに周りからの評価など、行動に伴って自然と付いてくるものだ」

 

 評価を得るために行動するのではなく、行動の果てに評価が付いてくるのだ。断じて逆ではない。もっとも行動の果てに望んだ評価が得られるとは限らぬが。

 

 前世での行動の果てに、暴虐の魔王などと呼ばれていたことを思い出す。

 

 そして俺が取り出した素材の鑑定を終えたキャサリンに聞いてみる。

 

「それで……俺はお眼鏡にかなったか?」

「……ああ。長年この業界に関わってるけど。ここまで底が見えない奴は初めてだよ。持ち込んだ素材も一級品だ。さっきの言葉もハッタリじゃなさそうだね。……いいよ、気に入った。この街で何か困ったことがあれば私に言いな」

 

 

 ニカと笑いながらキャサリンがこの街の詳細な地図と共に素材の金額を差し出してくる。

 

「ちょっと色をつけておいたよ。だからこれからも頑張りな」

「ふむ、感謝しよう」

 

 

 受け取るものを受け取った俺はギルドを出ようとするが、キャサリンがアレーティアとシアを呼び止めて何やら話をしていた。

 

『お嬢ちゃん達、中々いい男を捕まえたようだけど、どうやら色恋には疎そうだ。待ってるんじゃなくて、積極的に動いてちゃんと捕まえておくんだよ』

『当然』

『もちろんですぅ』

 

 ふむ、あえて聞かなかったが、女同士通じ合えるものがあるのだろう。

 

 俺は気にせずにマサカの宿に向かった。

 

 

 そこに入る際に、アレーティアとシアがやたら俺と二人部屋になりたがったが、俺は気にせずに三人部屋を確保したのは余談だ。

 




次回はブルックの街の話。アレーティア視点の予定です。
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