ありふれない不適合者が世界最強   作:シオウ

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今回はアレーティア視点の話。ちょっと短めですがご容赦を


17話 吸血姫と人間の街

 マサカの宿でアノスが宿をとって最初にやったことは、シアを他の仲間達に紹介することだった。

 

「か、可愛い。兎さんだ」

「本当、まさにファンタジー世界の住人ね」

 

 アノスの<転移(ガトム)>によって連れてこられたのは私が出会ったアノスのクラスメイト達の一部だ。

 

 まず鈴というちびっこはシアを見て感激しているようだ。私を初めて見た時も同じ反応をしていたことから可愛いものには目がないらしい。奈落の底で過ごした時間を抜きにしても私の方が年上なのだからあんまり可愛がられても正直困る。これでも見た目ほど幼くはないつもりなのだ。

 

「見た目は可愛いがシアは中々高い潜在能力を秘めている。混ざって訓練することもあるかもしれぬから覚悟しておくことだ」

 

 シアが見た目より強いことを強調する。シアはアノスに可愛いと言われたことに照れているが勘違いしないことだ。アノスはそんなつもりで言ったわけじゃないのだ。

 

「それで……シアが可愛いのはいいけど、どういうことなの、アレーティア。あなたがついていながら、どうしてああなったのよ」

「……私だって不本意」

 

 そして早速雫はシアが自分達のライバル足り得る存在であることを認識したらしい。だが私とて頑張ったのだ。

 

『アレーティアさん、私……アノスさんのことが好きなんです!』

『それは違う。あなたは助けられた恩を恋愛感情と勘違いしているだけ。恩義と恋愛は別物』

『えっ、でも……』

『そんなことを考える暇があるなら訓練する。それ……"緋槍・十連"』

『えっ、そんないきなり!? あふんッ』

 

 時には恋愛脳になりそうなシアを文字通り叩きのめして感情を変えようとしたのだ。その甲斐あってかシアもまだ恩義と恋愛感情の狭間にいるはずだ。

 

「そんな……私が世界で一番可愛いだなんて……」

 

 ……本当にそのはずなのだ。

 

「という訳でアノスさんの仲間の皆さん。初めまして、シア・ハウリアです。これからよろしくお願いします!」

 

 とはいえ元々根明なシアだ。女の子達には好評ですぐに仲良くなっていた。この辺りは正直シアの性格が羨ましいと思う。

 

 その反面、男子達はシアの格好を見て目のやり場に困っているみたいだったが、そのあたり無遠慮にジロジロとシアを見ていたこの街の野蛮な男連中よりはマシだろう。どうやら童貞が多いらしい。

 

「さて、お前達に来てもらったのは他でもない。これからアレーティア達にはこの街で物資の補給をしてもらうが、その際に何人か二人の側にいてほしいのだ」

「それはこの街の治安が悪いから?」

 

 雫はそういうが、受付のキャサリンはこの街はそれほど治安は悪くないと言っていた。私が見る限りそこまで街の暗部は濃くなさそうなので、私も比較的安全だと判断している。

 

 だがアノスの判断は違うらしい。

 

「街自体はそこまで悪くはない。だが二人は特別目立つからな。ここに来るまでも好奇の視線が絶えなかった。俺が着いててやればいいが、俺は少々ハジメに用があってな。だからお前達に二人の護衛をしてもらう」

 

 私とシアの容姿は人目につきやすい。私は割と自分の容姿が優れている自覚はあるが、肝心のアノスには通じないのに他の有象無象に好かれても困る。それに街に出るだけで多数の人間に絡まれるのは、正直まだ怖い。

 

 だからこその同伴なのだろうが、鈴が残念そうな顔をしながら声を上げる。

 

「あー。アノス君、せっかく誘ってくれて悪いんだけど、私は王都に返してほしいかな」

「ふむ、鈴よ。それは光輝がこの場にいないことと関係するのか?」

「そうだね。実は光輝君は明日王城で勇者として社交パーティーに出なくちゃいけないんだよ。そのパートナーとして恵里が随伴するんだけどね……」

 

 この場に光輝がいないが、どうやら勇者として仕事が忙しいらしい。人が良さそうだったので断れないのだろうと勝手に判断する。そして恵里というとちょっと腹黒そうな女の子のことだったか。私に会った時も表面はにこやかだったが内心探るような目が苦手だったから、ここにいないのは正直ありがたい。

 

 ちなみに香織もいないが相変わらずハジメに付きっきりらしい。こちらと違って順調そうでなによりだ。

 

「つまり恵里を見張るために鈴も社交パーティに参加すると」

「そうッ、このまま放置してたら恵里が大変なことになりそうだし」

「わかった。ならこのまま王都まで送ってやろう」

 

 

 そして話し合いの末、この場に残るのは雫と龍太郎と重吾の三人になった。

 

 

 そして次の日、ブルックの町に買い出しに出たのだが……

 

「へい、そこのお嬢さん。よかったら俺とお茶でもどう?」

 

 私目当てに声をかけてくる男や……

 

「やぁ、兎人族の君。よければ私の奴隷にならないか? 今の主人より贅沢な暮らしを約束しよう」

 

 シア相手に不遜な声をかけてくる男が次々に現れて来る。

 

「悪いのだけど、私達は忙しいのよ。後にして貰えるかしら」

「そんなこと言わずに、綺麗なお姉さん。俺達に着いて来ればいい思いさせてやるからさ」

 

 おまけに、一応護衛の名目でついてきたはずの雫目当てに声をかけてくるものもいる始末。本当にモテすぎるというのも考えものだ。

 

 だがそんな中で活躍したのは、アノスの仲間の中でも飛び抜けて体格が良い坂上龍太郎と永山重吾の二人だった。

 

「おい、兄ちゃん。ウチのお嬢達になんかようか? ああん?」

「ひっ、な、なんでもないっす」

 

 龍太郎が凄むだけで逃げていく優男。龍太郎は満足気だが、雫が龍太郎にジト目を向ける。

 

「龍太郎……あんたそれどんなキャラなのよ」

「ああ、ほら、あれだ。お嬢様の護衛ってこんな感じじゃなかったか?」

「いや坂上。お前のそれは組長のお嬢を守る若頭だ。もっとこう……おい、そこの男。そこの彼女はお嬢様の友人だ。手を出すのは控えてもらおうか」

「ひう、す、すみませんでした!」

 

 丁寧に対応したものの、重吾から発せられる威圧に耐えられなくなって逃げ出すチンピラ風の男。

 

「ほら、永山だってビビられてるじゃねーか」

「そのようだ。中々難しいものだな」

 

 身長190cm以上の巨漢かつ、素人目に見ても鍛え上げられた肉体を持つ二人は、護衛として周囲に威嚇するにはうってつけだ。

 

 見た目というのは案外重要で、明らかに強そうに見える護衛が側にいると浮ついた気持ちの奴は近づいてはこないものだ。私が女王だった時も、城下町を視察する時は屈強なボディーガード同伴だったのを思い出す。

 

 その甲斐あってか風魔法で情報収集したところ、私達のことは『どこかの貴族令嬢が遊び相手として与えられた兎人族の奴隷と護衛を連れて遊びにきた』という風に認識され始めたらしい。高貴な身の上だと思われれば、貴族に睨まれるのを恐れる平民は中々手を出し辛くなるだろう。

 

 そんなことをしている間に、目的の店に到着する。

 

 そこはキャサリンがお勧めしてくれた店であり品揃え豊富、品質良質、機能的で実用的、されど見た目も忘れずという人気店らしい。

 

 

 そしてその店主は……龍太郎や重吾を超える巨漢の筋肉乙女だった。

 

「あら~ん、いらっしゃい♥可愛い子達ねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~、た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん♥」

 

 

 そこにいたのは身長二メートル強、全身に筋肉という天然の鎧を纏い、劇画かと思うほど濃ゆい顔、禿頭の天辺にはチョコンと一房の長い髪が生えており、三つ編みに結われて先端をピンクのリボンで纏めている男(?)であり、動く度に全身の筋肉がピクピクと動きギシミシと音を立て、両手を頬の隣で組み、くねくねと動いている。

 

 そして服装は……一言で言えば乙女。それもゴン太の腕と足、そして腹筋が丸見えの服装だった。

 

「す、すげぇ……」

「ああ…………色々な意味でな」

 

 龍太郎はその乙女を呆然と見上げ、重吾は出口を背にして、戦慄している。

 

 

「あらあらぁ~ん? どうしちゃったの二人共? 可愛い子がそんな顔してちゃだめよぉ~ん。ほら、笑って笑って?」

 

 どうしよう。正直色々衝撃的過ぎて言葉が出てこない。隣を見るとシアも硬直してしまっている。

 

 思わず人間か聞きそうになるが、その前に雫が動く。

 

「すみません。この子の服を探してまして……」

「あら~ん。そうだったのぉ。いいわ、私がコーディネートしてあげる」

 

 相手が異形であろうとも毅然とした態度を崩さない雫を尊敬する。一歩前に出て私とシアを後ろにするその姿は、確かにイケメンと言っていいだろう。香織から雫は同性からモテると聞いてはいたが、確かに納得だ。

 

 

 結論から言うと、筋肉乙女店長、クリスタベルの見立ては見事だった。

 

 シアのスタイルの良さを隠すことなく、その魅力を引き出している。正直私には似合わない服装なのでちょっと悔しい。

 

「いや~、最初はどうなることかと思いましたけど、意外にいい人でしたね。店長さん」

「ん……人は見た目によらない」

「ですね~。これならアノスさんも褒めてくれるでしょうか?」

「…………どうでもいい」

「ええ~ひどいですぅ」

 

 他愛もない話をしながら次に向かったのはランジェリーショップだ。

 

 女としては目に見える衣装だけでなく、中身にも拘りたい。もちろん男子の護衛二人は店前で待機だ。

 

「これでアノスさんを悩殺してやるですぅ」

「いや、シアの場合普段着と変わらないし……無駄だと思う」

「な、失礼ですねアレーティアさん。これと下着は別ですよ。それにやって見なきゃわからないじゃないですか」

 

 シアが気合をいれてランジェリーを選んでいるが、露出度で言えば今のシアの恰好と大差ない。そして、ハウリアの民族衣装をみてもアノスの視線はぶれたことがないのだ。

 

 

 アノスと二人──正確に言えば基本錬成室にこもりっきりだったハジメもいたが──でオルクスの隠れ家にいた時、私はアノスにそれとなくアピールしてきたつもりだ。

 

 アノスの持つ誇り高い精神から、あからさまに媚び媚びのはしたない誘い方は逆効果だと感づいてはいたので、本当にそれとなくだが、いまいち効果がない。

 

 痺れを切らして思い切ってオルクスの隠れ家にあった温泉に混浴までしたのだが、私の裸を直視してもアノスの視線は一切ぶれなかったし、アノスのアノスは魔王にならなかった。

 

 やはりあれくらいないと駄目なのか。私はシアと雫の方を向く。

 

「私もちょうどいい機会だし、下着を新調しようかしら。最近身体を立体的に動かすから、もっと胸が揺れない下着があればいいのだけど……」

「わかります……元々兎人族って戦闘種族でないのであんまり気にしてませんでしたが、いざ戦闘で激しく揺れると痛いですもんね。ちなみにクリスタベルさん曰く、この衣装は特殊な素材が使われててそういう悩みも解決してくれるそうですよ」

「へぇ、流石ファンタジー世界。いいわねそれ」

 

 私には理解できない胸の悩みを共有するシアと雫の巨乳を凝視する。

 

 私とて肉体年齢の割にはそれなりにある方だと思うが、やはりシアと雫と比較すると戦力差は明らかだ。

 

 アノスが大きな胸が好きなのだとしたら、私だけハンデを背負っていることになる。

 

「うーん。雫さん、アノスさんってどんなのが好みなんですかね?」

「えっ、うーん。そうねぇ……正直わからないわ。今までアノスが異性に興味を示したことなんてないもの」

「そうなの?」

 

 思わず私も会話に参加する。

 

 アノスは異世界の魔王だと言っていた。それなら王族として子孫を残すのは義務だろう。だから今はともかく前世では嫁の十人や二十人いてもおかしくないと思っていたのだが。

 

「なんというか……恋愛自体に興味がないみたいなのよね。地球にいた頃から当然モテるんだけど、誰が告白しても興味を持つことはなかったわ」

 

 話を聞く限り、そもそも恋愛に興味がないみたいだ。もしかしたら、何でも出来すぎて逆に繁殖行為に興味がそそられないのか。

 

 考えても仕方がない。私達に今できることは……

 

「……似合う下着を探そう」

 

 少しでも朴念仁なアノスの気を引くために地道に努力することだけだった。

 

 

 ***

 

 宿に戻ると、そこには普段オルクスに籠っているハジメが、何やらアーティファクトを弄りながら待っていた。

 

「ふむ、戻ったか。どうやら楽しめたようだな。龍太郎と重吾もご苦労だった」

「ああ、流石に疲れたぜー」

「まったくだ。まさかあそこまで三人目当てで寄ってくるなんてな。常に気を張っているのも疲れるものだな」

 

 今回比較的穏便に買い物ができたのは、ボディーガードの役割を立派に果たした二人のおかげだと言える。途中有力貴族みたいなやつが出てきた時は少し騒動になったが、最終的には拳で解決した。キャサリンに連絡したら穏便に対処してくれたので助かった。

 

「ところでなんでハジメがここにいるの?」

 

 珍しく香織を伴わずにいるハジメに疑問が浮かぶ。そしてその問いにはアノスが答えてくれた

 

「なに、実はシアにプレゼントがあってな」

「えっ、私にですか?」

「うむ、シアとアレーティアの修行を見ていたのでな。シアには専用の武器があった方がいいと判断した」

 

 そしてハジメが前に出て、手に持っていた武器とやらをシアに手渡す。

 

「今更だけど、初めましてシア。僕の名前は南雲ハジメ。アノス達の仲間で専属錬成師かな。そして、これがアノスから依頼を受けて僕が作ったシア専用アーティファクト『ドリュッケン』だ」

 

 そう言ってハジメは、シアに直径四十センチ長さ五十センチ程の円柱状の物体を渡した。銀色をした円柱には側面に取っ手のようなものが取り付けられている。

 

「これ……なんですか?」

「シアはハンマーを使うという話だったから武器は戦鎚にしてみたんだ。魔力を流してみて」

 

 言われた通り、槌モドキに魔力を流すと、機械音を響かせながら取っ手が伸長し、槌として振るうのに丁度いい長さになった。そしてそれと同時にどうやら重さも変わったらしく、シアはあまりの重さに思わずたたらを踏みそうになり、慌てて身体強化の出力を上げていた。

 

「重ッ、これ、すごく重いんですけど」

「まだまだこの程度で音を上げられては困るなシア。俺が協力したことで、ドリュッケンはお前が魔力を流せば長さと重さを自由に変えられるようになっている。持ち運ぶ時は軽くすればよいが、戦う時はもっと重くすることもできる。なんなら城一つ分くらいは重くできるはずだ」

「僕はアノスが用意した魔石を使っただけだから、その辺りの仕組みはさっぱりだね。まぁ常時重かったら持ち運べなかったから助かったけど」

 

 そうしている間に、シアはドリュッケンに流す魔力の量を調節して、今の自分にちょうどいい大きさと重さに設定すると、満足げに振り回し始めた。

 

「体験した通り、そのアーティファクトはシアが魔力を使いこなせば使いこなすほど強力になっていく。これからも精進を続ければ、いずれお前に大きな力をもたらすことだろう」

「アノスさん……はいッ、私頑張ります!」

 

 シアはアノスが自分のために用意したとわかったことで大喜びだ。

 

 そう考えると、私だけアノスに何も貰っていない気がする。唯一貰ったのは出会った時の制服だが、あれをプレゼントとするのは少しもったいない。今度は何かおねだりしてもいいかもしれない。

 

「さて、シアへのプレゼントも済んだ。物資も補給した。ならば行くぞ」

 

 どこへなど言うまでもない。この町はライセン大峡谷の近くにあり、そこにあるとされるもの。

 

「ライセン大迷宮へ」

 

 私とアノスにとって、二つ目の大迷宮攻略が間近に迫っていた。




アノスは転移(ガトム)が使えるので、連れていくメンバーは原作でその場にいたメンバーに限りません。RPGでパーティーを入れ替えればいつの間にか背後にいるように、原作ではいなかったキャラが、この街にいるみたいな話も本作の醍醐味の一つにしたい。
という訳で今回は龍太郎と重悟に護衛をしてもらいました。見た目一番護衛に向いていると思うので。

次回、ライセン大迷宮の攻略開始
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