ありふれない不適合者が世界最強   作:シオウ

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少し間が空きましたがミレディ戦です。


19話 魔王と解放者

 俺達が入った場所は、超巨大な球状の空間だった。目算で直径二キロメートル以上ありそうな空間には、様々な形、大きさの功績で出来たブロックが空中に浮遊して不規則に移動している。

 

「重力を完全に無視しているわね」

「そのようだな。どうやらこれがここで手に入る神代魔法らしい」

 

 この空間は完全に重力を無視した空間でありながら、不思議なことに俺達はしっかりと重力を感じている。おそらく、この部屋の特定の物質だけが重力の制限を受けないのだろう。

 

 そんな空間をゴーレム騎士達が縦横無尽に飛び回っている以上、この大迷宮で使われている神代魔法が重力を操るものであることは明白だ。

 

「来るぞ。全員備えろ」

 

 この空間の頭上にて特別大きな気配が近づいてきたのを感じた俺は警告する。

 

「ッ!」

 

 雫達は俺の言葉を聞いて、反射的に後ろに跳んだ。その瞬間、俺達がいたブロックが粉々になりその下にあったブロックに激突する。

 

 中々の速度と質量だ。その上重力までコントロールしているとあれば、その威力は脅威となろう。

 

 そして、俺達の前に現れたのは、一際大きなゴーレムだった。

 

「ほう……」

「これは……」

「……すごく……大きい」

「お、親玉って感じですね」

 

 俺達の目の前に現れたのは、宙に浮く超巨大なゴーレム騎士だった。全身甲冑はそのままだが、全長が二十メートル弱はある。右手はヒートナックルとでも言うのか赤熱化しており、左手には鎖がジャラジャラと巻きついていて、フレイル型のモーニングスターを装備している。

 

 その姿はロボットアニメに出てくるようなフォルムをしていて中々興味深い。父さんなら喜ぶかもしれぬな。

 

 巨大ゴーレムの周囲には、旋回していたゴーレム騎士達が音を立てながら飛来し、俺達の周囲を囲むように並びだした。整列したゴーレム騎士達は胸の前で大剣を立てて構える。まるで王を前にして敬礼しているようだ。

 

 そして巨大ゴーレムは……

 

「こらぁぁぁぁ──ッッ! 私の、私の大迷宮になんてことしてくれるんだ──ッッ!」

 

 可愛らしい少女の声で、俺に対して文句を言い始めたのだった。

 

「せっかく……せっかくミレディちゃんが面白おかし……もとい挑戦者への大いなる試練のために、丹精込めて作った大迷宮だったのにぃぃ……」

 

 その声からよほど大迷宮の壁を壊して強引にここまで来たことが腹立たしいようだ。だがそれはあくまで製作者の立場としての意見であり、挑戦者である俺たちには関係のないことだ。

 

「そう言われてもな……この大迷宮で壁抜けしてはいけないというルールはなかったはずだが?」

「そりゃ魔法であんな強引に突破することなんて想定してなかったから……というかどうしてこの場所であんな理不尽な威力の魔法が使えるんだよ!」

「使えるものは使えるのだから仕方なかろう」

 

 正確にはちょっとしたコツはあるのだが、目の前で怒っているゴーレムには言っても無駄だろう。

 

「ふざけんなぁですぅ。こんなふざけた大迷宮百害あって一利なしですぅ。アノスさん。この大迷宮を攻略したら跡形もなく壊しましょう! ぜひそうしましょう。そうした方が世のため人のためですぅ!」

 

 この大迷宮で常に多大なストレスを受けてきたシアがそう言うが、俺個人としては中々愉快だったので壊すのには反対だ。それに攻略以外にも利用価値はありそうだしな。

 

「そんなことより、貴様がミレディ・ライセンでよいのだな?」

「えっ、うん、そう。おほん……やほ~、はじめまして~、皆大好きミレディ・ライセンだよぉ~」

 

 改めて気の抜けた挨拶をするミレディに対して俺は魔眼を向ける。

 

 どうやら根源は別の場所にあり、これは今までのゴーレムと同じ傀儡の一体らしい。本体はすぐそばにあるが、あまり力を感じぬな。

 

「なるほどな。死を免れるために、根源……魂をゴーレムに定着させて生存を計ったのか。中々面白い」

 

 根源を物に宿すというのは俺の世界では中々難易度の高い魔法だ。世界が違うというのもあるが、どうやら神代魔法は俺の想像以上に可能性のある魔法らしい。もしかしたら一部は俺の世界の魔法より優れているかもしれぬ。

 

 俺が神代魔法の可能性を考えていると代わりに雫が前に出てミレディの相手を始める。

 

「うちのアノスがすみません。なにしろ彼はこう……非常識が服を着て歩いているような人なので……滅茶苦茶にした大迷宮は後で必ず直させるので、どうかここはひとつ穏便に……」

「あ、これは丁寧にどうも……」

「……絶対面白おかしくって言おうとしてたから正直、直さなくてもいいと思う」

 

 ゴーレム相手に丁寧な謝罪から入った雫は、アレーティアのツッコミを他所に、さっそく本題に入っていく。

 

「私達はオスカー・オルクスの大迷宮を攻略してここに来ています。訳あって神代魔法が必要なのでここを訪れました」

「へぇ〜、オーちゃんの大迷宮の攻略者かぁ。じゃあ私達の事情は知ってくれているよね? それでそれで、神代魔法を手に入れてどうするの〜? あのクソ野郎共を滅殺してくれたりしちゃうのかな?」

「それは成り行き次第だな。それよりまず優先することがある。ここにいる俺と雫は異世界からエヒトに召喚されてな。元の世界に戻るための方法を探している。それを調べている内に7つの神代魔法に行き当たった訳だ」

「ん~、そっかそっか。なるほどねぇ~、別の世界からねぇ~。うんうん。それは大変だよねぇ~よし、ならば戦争だ! 見事、この私を打ち破って、神代魔法を手にするがいい!」

 

 どうやら神代魔法を求める理由についてはある程度納得したらしい。巨大ゴーレムが戦闘態勢になったのがわかった。

 

 そして戦闘態勢になるのに合わせるようにミレディは、左腕のフレイル型モーニングスターを俺達に向かって射出した。投げつけたのではない。予備動作なくいきなりモーニングスターが猛烈な勢いで飛び出したのだ。

 

 

 予備動作なしの攻撃だったが、この中でこの程度の攻撃が避けられぬ者は存在しない。各自バラバラにブロックの上に跳び、ミレディの攻撃を凌ぐ。

 

「流石にこれは避けちゃうか~。ならねぇ~~これならどうかな~」

 

 大剣を掲げたまま待機状態だったゴーレム騎士達が一斉に動き出し、こちらに突っ込んでくる。

 

「はぁぁぁ!!」

「やぁぁあ!!」

 

 迫るゴーレムを気合一閃で切り裂く雫にドリュッケンで叩き潰すシア。そして……

 

「”破断”」

 

 この環境でありながら、水のレーザーを用いてアレーティアもまたゴーレムに対処する。魔眼で診たところ、通常よりも膨大な魔力を圧縮して魔法を使用したらしい。

 

「あはは、やるねぇ~、でも総数五十体の無限に再生する騎士達と私、果たして同時に捌けるかなぁ~」

 

 軽快な口調で、ミレディが再度、モーニングスターを射出した。シアが大きく跳躍し、上方を移動していた三角錐のブロックに飛び乗り、その勢いでミレディの頭上を取る。

 

「見え透いてるよぉ~」

 

 そんな言葉と共に、ミレディは急激な勢いで横へ移動する。

 

 

「くぅ、このっ!」

 

 目測を狂わされたシアは、歯噛みしながら手元の引き金を引きドリュッケンの打撃面を爆発させる。

 

 シアのドリュッケンにはハジメが施した様々なギミックが搭載されており、火薬の推進力を利用した打撃力の強化に加え、身動きの取れない空中で軌道を変えるという芸当もできる。ドリュッケンを手にしてまだ日が浅いにも関わらず、大したセンスだと俺は内心シアを褒める。

 

 

 薬莢が排出されるのを横目に、シアは爆発の反動で軌道を修正。三回転しながら、遠心力もたっぷり乗せた一撃をミレディに叩き込んだ。

 

 

 咄嗟に左腕でガードするミレディの左腕が凄まじい衝突音と共に大きくひしゃげるが、ミレディは大して堪えてはいない。そのまま腕を払い、シアを攻撃する。

 

「きゃぁああ!!」

「シア!」

 

 悲鳴を上げながらぶっ飛ぶシア。何とか空中でドリュッケンの引き金を引き爆発力で体勢を整えると、更に反動を利用して近くのブロックに不時着する。

 

 シアが無事であることに安堵したアレーティアが再び魔力を圧縮して魔法を行使する。

 

「”緋槍”」

 

 アレーティアの得意魔法だが、過剰な魔力に物を言わせて使っているせいで、いつもの繊細な魔法構築が鳴りを潜めている。その証拠に命中したミレディに大した傷はない。

 

「そんなの効かないよ~」

 

 狙われないようにブロックを飛び跳ねて移動するシアを置いて、ミレディはアレーティアと雫のいるブロックにゴーレム騎士達を差し向ける。

 

「~~~~ッッ、流石にきついかも」

 

 雫は的確にゴーレムの構造上脆い部分を狙い破壊していたが、流石に数の多さに捌ききれないでいる。

 

 そして、アレーティアには早くも魔力切れの傾向が現れていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

 悔しそうな顔をして魔法を使おうとするが、いつもの十倍以上の魔力を使って魔法を構築していれば、いつもより消耗が十倍以上速いということだ。現状のアレーティアではここが限界だろう。

 

「仕方がない。これは後で反省会だな」

 

 俺は足に力を入れ飛び出し、一瞬でアレーティアと雫が戦っているブロックに着地した。

 

「飲め、アレーティア。そうすればもう少し戦えるであろう」

「……ごめんなさい」

 

 俺が差し出した指に滴る血をアレーティアは複雑そうな顔で口にし、血を飲んだ瞬間アレーティアの魔力が回復する。

 

「あれあれ~? さっきから何もしないけど大丈夫なの~? ミレディちゃんの大迷宮を壊したせいで魔力が足りないんじゃないのかな~」

 

 どうやらミレディは壁抜きで俺が魔力を使い果たしたと思っているようだ。だがそれは間違いだし心外だ。

 

「なに。見に徹するというやつだ。おかげでお前の神代魔法の詳細がわかった」

「……へぇ~~」

「どうやら単純に重力だけでなく、慣性や引力や斥力、摩擦力なども制御できる魔法のようだな。この空間に不自然に浮かんでいるブロックも、周りの騎士も全てその魔法を駆使して操作しているのであろう」

 

 落ちるように移動するのは単純に重力の向きをその方向に変えることで発生する現象だが、まるで人のように自然な動きでゴーレムを操れるのはもっと複雑に重力魔法を使っているのだとわかった。

 

「へぇ~わかっちゃったんだ~? 大~正~解~。ミレディちゃんの魔法は重力を操れる重力魔法だよ~。だけど~それがわかったからって絶体絶命には変わらないよ~」

「ふむ、絶体絶命とは相手に傷一つ負わせていない状態のことを指すのか」

 

 確かに周囲には50体を超えるゴーレムに囲まれており、一見すると絶体絶命に見えるのだろうが、それは違う。

 

「俺が今まで手を出さなかったのは神代魔法授与魔法陣の仕組みを案じてだ。俺が前に出て一人で攻略してしまうと、雫達が神代魔法を習得できぬかもしれぬからな」

 

 俺一人なら難なく攻略できても、それでは配下達に肝心な神代魔法が与えられぬ。だからこそ今まで傍観に徹していたわけだが、何故かミレディはくすくす笑い出した。

 

「ぷーくすくす。そんなこと気にしてたの~。残念でした~。この大迷宮の魔法陣には攻略過程読み取り機能はありませーん。だってミレディちゃんここにいるしー。無駄に仲間が疲れちゃっただけだね~」

「ほう……」

 

 ミレディ自身が見極めるから、魔法陣に余計な物が付いていないと言うことか。

 

「なるほど、なら俺が動いても問題ないわけか」

「余裕ぶってるけど~これでぺしゃんこだよ~」

 

 周囲に浮かんでいたゴーレムが一斉にこちらに襲い掛かる。いつの間にかシアも俺達のブロックに来るように誘導されており、ここでけりを付けようとしているのがわかった。

 

 だからこそ俺は、一つの魔法陣を展開し、魔法を発動させた。

 

「<重渦(ペイド)>」

 

 俺の魔法発動と同時に周囲に複数の重力の渦が発生し、50体のゴーレムをまとめてミクロ単位まで圧砕した。

 

 

「…………は?」

 

 ミレディが道化のふりを辞め、素の顔で驚いているのが伝わる。なぜなら俺がやったことはまさに重力操作魔法なのだから。

 

 

「重力魔法を使えないからといって、重力を操れぬとでも思ったか?」

 

 

 重力操作は何もトータスの神代魔法の専売特許ではない。ディルヘイドの魔法にも重力を操作する魔法は存在する。ただそれだけのことだ。

 

 そして明確な隙を晒すミレディに対し、ただ立ち尽くしてばかりいる配下ではない。

 

「八重樫流……”風牙突”」

 

 此処が勝機と見たのか、雫も今まで温存していた魔力を解放する。足元に集束した風を爆発させ、現状雫が取れる最大加速でミレディに接近する。

 

「ふ、ふふーん。ちょっとびっくりしちゃったけど、この程度で倒れるミレディちゃんじゃ……」

「”凍柩”!」

「ッッ!? あー、もう君達さっきからさぁッ、ここでそんなにポンポン魔法使わないでくれるかな~ッ」

 

 ミレディは再び重力加速で雫の射線から外れようとしたようだが、アレーティアが回復した魔力を練り上げて作った氷属性魔法で凍結され動けなくなる。

 

「はぁぁぁぁ──ッッ!」

 

 そして風を纏って切れ味と貫通力を増した雫の刺突がミレディの胸に突き刺さる。

 

 この中に魔眼を使えぬものはいない。診れば胸部に核に当たるものがあることは明白だ。

 

「くぅぅ~~ッ」

「……あはは、ざんね~ん。後少しだったね~」

 

 だが雫の刀は深く胸部装甲を貫いたものの、核に届かず半ばで停止する。

 

 だが……これでチェックメイトだ。

 

「雫!」

「ッ!」

 

 俺の声で悟ったのか、雫が刀をそのままに別のブロックに飛び移る。

 

 その背後には、回転しながらミレディ目掛けて落ちていくシアの姿。

 

「シア……止めを刺せ」

「了解ですぅぅ」

 

 単純な身体強化に重力を加算した攻撃は、雫の刀の柄尻に叩きこまれ、見事刀の先端がミレディの核を破壊した。

 

 

 

 

 ***

 

「やった……やりましたよ~アノスさん!」

 

 ミレディの核を見事破壊したシアが嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる。

 

「ふむ。最後の一撃は中々だった。よくやったぞ、シア」

「えへへ、有難うございます」

「ちょっとアノス。私達も頑張ったんだけど?」

「シアだけずるい」

 

 シアばかり褒められているのが気に食わないのか雫やアレーティアもこちらに近づいてくる。

 

「雫は八重樫流と魔法の組み合わせが形になり始めたな。雫ももうすぐ次のステップが見えてくるころだろう」

 

 元々雫が持っている技術に加えて魔法を使用できるようになってきた。これなら、次は”武器”の見直しの段階に行けるだろう。

 

「私は?」

「ああ、アレーティアに関しては……」

「あのぉ~、いい雰囲気で悪いんだけどぉ~、そろそろヤバイんで、ちょっといいかなぁ~?」

 

 アレーティアについて言う前に、ミレディが声を上げる。

 

 それに対し、雫達は警戒して再び倒れるミレディのゴーレムに対して戦闘態勢に入った。

 

「ちょっと、ちょっと、大丈夫だってぇ~。試練はクリア! あんたたちの勝ち! 核の欠片に残った力で少しだけ話す時間をとっただけだよぉ~、もう数分も持たないから」

「ふむ、今の身体で持たぬなら今からでも本た……」

「これは忠告だよ」

「……ふむ」

 

 なぜか話を遮られてしまったので、黙ってミレディの話を聞くことにする。

 

「訪れた迷宮で君達の目当ての神代魔法がなくても、必ず私達全員の神代魔法を手に入れること……君の望みのために必要だから……」

 

 ミレディの力が尽きかけているのか、次第に言葉が不鮮明に、途切れ途切れになってゆく。まるで今にも死にそうなその姿に、雫が代表して前に出る。

 

「では、他の大迷宮の場所を教えてくれないかしら? 調べても全然出てこないのよ」

「あぁ、そうなんだ……そっか、迷宮の場所がわからなくなるほど……長い時が経ったんだね……うん、場所……場所はね……」

 

 いよいよ、ミレディのゴーレムの声が力を失い始める。どこか感傷的な響きすら含まれた声に、アレーティアやシアが神妙な表情をしていた。長い時を、使命、あるいは願いのために意志が宿る器を入れ替えてまで生きた者への敬意を瞳に宿しているようだ。

 

 ミレディが語ったのは大迷宮のある場所だった。

 

 砂漠の中央にある大火山 "忍耐の試練" "グリューエン大火山"" 

 

 西の海の沖合周辺にある "狂気の試練" "メルジーネ海底遺跡"

 

 教会総本山 "意志の試練" "神山"

 

 東の樹海にある大樹ウーア・アルト "絆の試練" "ハルツィナ樹海"

 

 南の果てのシュネー雪原 "鏡の試練" "氷結洞窟"

 

「以上だよ……頑張ってね」

 

 

 今にも消えそうなミレディの気配に対して、アレーティアが一歩前に出る。

 

「何かな……あっ、言っとくけど、この大迷宮に関する苦情は……」

「……お疲れ様。よく頑張りました」

「……」

 

 アレーティアから発せられたのは労いの言葉。たった一人で、深い闇の底で希望を持ち続けた偉大な存在への、今を生きる者からのささやかな贈り物。

 

 それは労いの言葉。たった一人、深い闇の底で希望を待ち続けた偉大な存在への、今を生きる者からのささやかな贈り物なのだろう。本来なら、遥かに年下の者からの言葉としては不適切かもしれないが、やはりこれ以外の言葉を、アレーティアは思いつかなかったのかもしれないな。

 

 俺はアレーティアの頭を撫でながら、倒れているミレディに語り掛ける。

 

「こう見えてアレーティアは中々情が深い女なのだ。今言った言葉も本心だ……だから()()()()()()()()()()()()()

 

 俺の言葉に対し、ミレディはこれ以上何も言わなかった。

 

 辺りを静寂が包み、余韻に浸るようにアレーティアとシアが光の軌跡を追って天を見上げる。

 

 

「……最初は、性根が捻じ曲がった最悪の人だと思っていたんですけどね。ただ、一生懸命なだけだったんですね」

「……ん」

「それは確かであろうがな……やはり愉快な性格に間違いないようだ……そら、行くぞ」

 

 俺達が移動する前に、足元のブロックに現れた光のゲートに向かって動いていく。シアとアレーティアはその仕組みに素直に驚いているようだ。

 

「……ねぇ、アノス」

 

 そんな中、一人だけ俺の側に来た雫が声を落として囁くように口を開く。

 

「ミレディなんだけど……もしかして」

「気づいたか。その答えはすぐにわかるであろう」

 

 俺達を乗せたブロックは、()()()()()()()()()()()()真っすぐに突き進む。そしてしばらくして解放者の部屋の壁を潜り抜けたその先には……

 

「やっほー、さっきぶり! ミレディちゃんだよ!」

 

 小さなミレディ・ゴーレムがいた。

 

「「……」」

「ああ、やっぱり」

 

 アレーティアとシアは沈黙し、雫は額に手を当てて項垂れる。

 

 根源はあの戦闘用ゴーレムとは違う場所に感じていた。謂わば先ほどは今まで出てきたゴーレムと同じく、端末の一つにすぎぬ。だからこそ、ミレディが生きていることを俺は知っていたわけなのだが。

 

「アノスは……気づいてた?」

「ふむ。あの端末が壊れそうなのは確かだったのでな。直々に本体の元に向かうと言おうとしたところで遮られた」

「駄目だよ~そこは空気読まなくちゃ~。ねぇねぇどうだった。驚いてくれたのなら大成功なんだけどな~」

 

 

 その一言でシアとアレーティアの何かが切れる音がした。

 

「……ぶっちKILL!」

「……私の感動を返して」

「ま、待って! ちょっと待って! このボディは貧弱なのぉ! これ壊れたら本気でマズイからぁ! 落ち着いてぇ! 謝るからぁ!」

 

 殴る蹴るの暴行を加え始めたシアとアレーティアを他所に、俺は周囲を観察する。

 

 部屋の仕組みはオスカーの部屋と似ているが、こちらの方が簡素な造りになっている。生身のオスカーに必要だった食料などの供給が不要だったからだろうか。

 

「こらこら、君。いい加減助けてよ~」

「そうだな……アレーティアもシアもそこまでにしておけ」

「……アノスさんがそう言うなら……」

「……」

 

 シアもアレーティアも不満がありそうな顔をするが、俺の顔を立ててミレディへの暴行を辞める。

 

 そして、ようやくここに来た目的を果たせるようになったと言える。

 

「さてミレディよ。ここまで到達した俺達には神代魔法を手に入れる資格があると言うことで良いな?」

「それはそうだね。おめでとー。君達が記念すべきミレディちゃんの大迷宮攻略者第一号だよ~」

 

 どこからか取り出したクラッカーを鳴らすミレディ。

 

「それはいいから、早く魔法陣まで案内して」

「わお、冷たい眼。さっきは私を尊敬する目で見てくれたくせに~」

「…………」

「ああ、わかった、わかった。案内するから無言で魔法を撃とうとしないでってば」

 

 アレーティアの剣呑な気配を察したのか、ミレディが素直に魔法陣のところまで案内してくれる。

 

「ささ、乗っちゃって。魔法陣起動させるよ~」

 

 そして俺達は神代魔法を授ける魔法陣の上に乗った。

 

 実はアレーティア以外はこの魔法陣に乗るのは初めてだ。俺の時は記憶探知工程を避けるために途中で辞めたからな。

 

 しばらくすると脳裏に重力魔法の知識が浮かび上がってくる。

 

「ふむ、なるほどな」

 

 重力魔法と呼ばれているが、本質はもっと別のところにあるのだろう。摩擦や慣性をも操作できるのはそのほんの一部でしかない。

 

「重力魔法とは紛らわしいな。勿体ぶらずに自然干渉魔法と名付ければよいものを。重力魔法などと言われているが、本質は自然の魔力に干渉する魔法であろうに」

 

 重力魔法の本質とは、世界自体が保有する魔力に干渉することにある。星の重力に干渉するから重力を操れるし、応用すれば地震や火山活動などの自然現象を意図的に引き起こすことも可能になるであろう。

 

 だが、俺以外にはピンと来ていないようだ。自然干渉魔法に高い適性があるアレーティアも首をかしげている。

 

 だが、一人だけ。驚愕の気配を漂わせている者がいる。

 

「だが当然貴様はこの魔法の本質について知っていよう、ミレディ・ライセン」

「そんな……まさか、重力魔法を手に入れて早々本質を理解するなんて……」

「なるほど。どうやら魔法の深淵を覗けぬ者に、神代魔法の真価は発揮できないようだな」

 

 ハジメに渡した生成魔法も今のハジメは使いこなしているとは言えない。それと同じく他の神代魔法にも魔法の深奥に至らないとわからない境地があるということ。

 

「残念ながらアレーティア以外は適性が高いとは言えぬ。だからこそ各々工夫して手に入れた重力魔法を使うことだ」

 

 シアは自身にしか行使できぬであろうし、雫もせいぜい自分と刀、そして唯一適正のある風魔法に干渉することしかできないだろう。アレーティアのみが真の意味で重力魔法の本質に迫れるだろうな。

 

 

 無事に神代魔法を手に入れて、俺達の用事は終わった。

 

「じゃあ君達の用事もこれで終わりってことで。さっそく大迷宮の外に出すよ~」

「それは良いが、見たところ外に出るための転移陣はないようだが?」

「フフフ……それはねぇ~」

 

 オルクス大迷宮には、ライセン大峡谷に繋がる転移魔法陣が存在したが、ざっと見渡した限り、そのようなものは存在しなかった。

 

 そしてミレディは、俺の質問に答えずに、いつの間にか天井からぶら下がっていた紐を掴みグイっと下に引っ張った。

 

「それじゃ、ミレディちゃんの大事な大迷宮を壊してくれた問題児君達は、このまま強制的に外に出すからねぇ! 戻ってきちゃダメよぉ!」

 

 その軽い口調とは裏腹に、部屋の中央でトラップが作動するような音が聞こえた。

 

「ま、まさかッ」

 

 雫がなにかに気付いたのか、今まで以上に嫌な顔をする。

 

 周囲に溢れ出す大量の水に中央に空いた穴ときたら、俺達地球人にはある物を連想させるからな。

 

 

 

「嫌なものは、水に流すに限るね☆」

「〝来……〟」

「させなぁ~い!」

 

 アレーティアが〝来翔〟の魔法を使おうとするが、ミレディの重力魔法に妨害され、水の中に引きずり込まれる。

 

「それじゃあねぇ~、迷宮攻略頑張りなよぉ~」

「ケホッ……許さない」

「殺ってやるですぅ! ふがっ」

 

 次々穴に吸い込まれていく中、ほどなく俺もまた水の中に飲み込まれていった。

 

 

 ***

 

 大迷宮から排出された俺達は、激流で満たされた地下トンネルのような場所を猛スピードで流されていた。だからこそ俺は全員に、水中でも行動可能になる魔法を行使した。

 

「<水中活動(ココ)>」

 

 ふむ、これで溺れる心配はあるまい。

 

「ごぼごぼッ!!」

「落ち着けシア。もう呼吸できるであろう」

「げほ、げほ。そんなわけッッ、今顔のついた魚がッッ、て、あれ?」

 

 何やら流されている間に奇妙な物でも見たのか咳き込んでいたシアだったが、途中で呼吸できることに気付いたらしい。

 

「本当……呼吸できる」

「<水中活動(ココ)>という魔法を使った。これなら水中でも息ができるし、溺れることもあるまい」

「皆、どうやら大きな湖みたいなところに出るみたい。私についてきて」

 

 一足先に出口をみつけた雫が、水上目掛けて泳いでいく。

 

「おのれぇぇミレディィィィ──ッッ」

 

 今回の件でシアは増々ミレディへの怒りを積もらせたらしい。恨みが籠ったうなり声を上げながら雫に続いて水上に浮上していた。

 

 

 そして、全員が浮上した後、俺達は再びブルックのマサカの宿に戻ってきていた。

 

「それでアノス。私達はライセン大迷宮の神代魔法を手に入れたわけだけど、次はどこを目標にするの?」

 

 ここにいる全員、ライセン大迷宮の神代魔法を手に入れることに成功した。よって当然次はどこを目指すかに話は移り変わることになる。

 

「ミレディは他の場所の大迷宮を教えてくれたけど……一番近いのは神山?」

「けどあそこは聖教教会の総本山なのよね。隠れていくにしても攻略しにくい場所かも」

「ならその次に近いのは西の大火山。流れで海の大迷宮も行ける」

 

 雫とアレーティアが二人で話し合って次の行先を考えているが、その前にするべきことがある。

 

「何を言っている。俺達がこれから向かう先など……一つしかあるまい」

「それって……どこです?」

「明日の朝、すぐに出発する。今日はもう眠るがいい」

 

 行先を聞きたそうにしているアレーティア達をあえて無視する。ここで言ってしまうとごねるかもしれぬからな。

 

 そして俺達は翌日、<転移(ガトム)>にてそこに降り立った。

 

 ***

 

「あーあ。これがこんなに壊されるなんてね。大迷宮も滅茶苦茶だし、自己修復で修理が終わるのにどれくらいかかるんだろう……」

 

 私ことミレディ・ライセンは昨日嵐のようにやってきた数千年待ち望んだ挑戦者のことを思い出しながら作業をしていた。

 

「本当に嵐みたいな人達だったなぁ」

 

 最初は目を疑った。

 

 気の遠くなるほど長く待ち続けて、けれど一向に挑戦者は現れることがなくて……そんな中現れた挑戦者に私は不覚にも少しだけ泣きそうになった。

 

 良かった。私達が歩んだ道は、確かに未来へと繋がっていたんだって。

 

 そして……私は彼らが私の大迷宮に右往左往する姿を楽しんだ。

 

 神は悪辣だ。言ってしまえばこの程度の仕掛け、それこそアスレチックパークで遊ぶくらいの余裕を持って乗り越える実力がないと神はおろか、その使徒にも勝つことができないだろう。

 

 決して趣味全開でこの大迷宮を作ったわけではないのだ。それはそれとして楽しんだけど。

 

 散々苦労して、そして入口に戻された彼らを見て、私は観察していた。

 

 ここで先に進むか、撤退するか。

 

 先に進むなら覚悟してもらおう。この大迷宮は勢いだけで突破できるほど甘くない。ここからは精神的な疲労との戦いだ。少しの油断が命取りになる。

 

 撤退するならしっかり準備して再挑戦してほしい。持ち帰った情報を吟味し、研究し、研鑽を重ね、確かな勝算を持って挑んでほしい。だが日和った態度を見せるなら……もうここには来ない方がいいだろう。

 

 彼らがどちらを選ぶのか。それを観察していた私だったが……

 

「まさか壁抜きで来るとは」

 

 ライセン大峡谷は、魔法使いにとっては地獄のような環境だ。いかなる強者であろうとも魔法使いである限り、ここでは無力化される。

 

 かつて魔法を使えない場所で取った不覚から、そして私の運命が始まった場所だからこそ、ここに大迷宮を構えたわけだが、この環境のせいで大迷宮にも魔法式のトラップなどは仕掛けられなかったのだ。

 

 だからこそ、魔法を使ってあんな強引にこの大迷宮を突破されるとは思わなかった。

 

「彼は一体何者だったんだろうね」

 

 彼自身は異世界からエヒトに召喚された者だと言っていた。そう言われてみれば彼の使う魔法は私達が使う魔法とは形式が違う気がする。

 

 私は現在の地上の魔法形式がどのようになっているのかわからないが、金髪の彼女が使っていた魔法は私の知るモノだったから彼女は異世界人ではないのだろう。

 

 そういえば彼だけは私の大迷宮の攻略スタンスが他とは違っていたような気がする。

 

 煽り文を見てもただ愉快だと笑い。大迷宮のトラップを見ては感心するような眼差しを向け、楽しんで攻略してすらいたように思う。

 

 それこそ、まるでアスレチックパークに遊びに来た子供のように。

 

「……もう少し話をしても良かったかな」

 

 この大迷宮を乗り越えた以上、彼はもうここに来ることはない。もしあるとしても7つの神代魔法を全て揃えてからだろう。

 

 何となく、彼なら笑って他の大迷宮も攻略できそうな気がするし、もう気が遠くなるほど待ったのだ。だったら後少し待つことなんて苦でもなんでもない。

 

 私はその時が来るのを夢見て、今頃次の大迷宮に挑んでいる彼らの無事を、らしくもなく祈ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ。寂しいのか。なら話相手になってやろう。どのみち一週間くらいはここに滞在する予定だからな」

「そうだね~。一週間もあれば話相手には困らないかな~………………ん?」

 

 はて、何か幻聴が聞こえる気がする。

 

 私はゴーレムの首を横に向けた。そこに立っていたのは……

 

 

「アレーティア、シア、雫。聞こえているな。さて、では始めるぞ。今この時より……」

 

 

「大魔王教練──ミレディ・アスレチック・パーク編を開始する!!」

 

 

 ──私の大迷宮を勝手にアスレチックパーク扱いする、嵐のような攻略者だった。




次回、第二章完結。
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