俺達がウィル・クデタの護衛任務を引き受けて3日が経過した。ここまで特に何事もなく順調に進んで来ている。
北の山脈地帯に魔物が増えているという割には大した魔物も現れぬ。幾度か魔物の群れに遭遇することはあったが、青ランクだからと侮られている俺達は隊の後方に位置されていたので戦う機会もない。
日の出前に出発し、日が沈む前に野営の準備に入る。どうやら今日も依然変わらぬ行程を繰り返すらしい。各々野営の準備と共に食事の準備に入る。
冒険者達も任務中は酷く簡易な食事で済ませてしまうらしい。ある程度凝った食事を準備すると、それだけで荷物が増えて、いざという時邪魔になるからだとゲイルから聞いている。代わりに、町に着いて報酬をもらったら即行で美味いものを腹一杯食うのがセオリーなのだと言っていた。
もっとも、それは俺達には関係のない理屈なのだが。
「カッ──、うめぇ! ホント、美味いわぁ~、流石シアちゃん! もう、亜人とか関係ないから俺の嫁にならない?」
「ガツッガツッ、ゴクンッ、ぷはっ、てめぇ、何抜け駆けしてやがる! シアちゃんは俺の嫁!」
「はっ、お前みたいな小汚いブ男が何言ってんだ? 身の程を弁えろ。ところでシアちゃん、町についたら一緒に食事でもどう? もちろん、俺のおごりで」
「な、なら、俺はアレーティアちゃんだ! アレーティアちゃん、俺と食事に!」
荷物が増えるから凝った食事が出来ぬというのなら、逆に荷物の問題さえ解決してしまえば任務中であろうと食事に不自由することはない。もともと空間収納の魔法が使える俺は持ちろん、アレーティアもオルクス大迷宮攻略を果たした際に手に入れた〝宝物庫〟という名の空間収納のアーティファクトが使えるゆえに荷物の問題は起きない。
シアが気合を入れて作ったシチューは冒険者達にとっても美味らしい。大鍋で作ったシチューは次々に冒険者達の胃袋の中に納まっていく。
「あはは……お誘いは全部お断りします」
「同じく……」
冒険者達はアレーティア達に振られてショックを受けて引き下がる。この3日間でよく見るようになった光景だった。
「あはは、彼らは自分の顔が分からないんだろうね。ところで君たち……照れるのはわかるが、そろそろ僕のところに来てもいいんじゃないかな?」
「あはは……お誘いは全部お断りします」
「同じく……」
自分だけは例外だと思っているらしいアベルも同じ言葉で断りを入れるアレーティア達。その顔に少々疲れが見える気がするな。
「ふむ、すっかりアレーティア殿達は人気者じゃな。おぬしは不安になったりせぬのか?」
「ふむ、あいにくだが何も不安になることなどないな」
そして、ここ数日の道行で俺達とそれなりに会話するようになったティオ・クラルスが俺の横に座りながら話しかけてくる。
「それにしてもアレは便利なアーティファクトじゃな。宝物庫といったかの。何もない空中から鍋やら食材やらが出てきた時は驚いたものじゃ。あれほど便利なアーティファクトをどこで手に入れたのじゃ?」
どうやらアレーティアの持つ宝物庫はこの世界では相当珍しいものらしい。確かに地球でも空間収納の技術はないからな。文明レベルに大きな差がある地球とトータスの関係において、宝物庫は数少ない地球の道具より優れたアーティファクトの一つだろう。他の冒険者も注目しているのがわかる。
「あなたには関係ない」
「というか……なんでいっつも私たちに話しかけてくるんですか?」
俺とティオの間に無理やりアレーティアとシアが割り込んでくる。ここ数日関わるようになったティオだが、どうやらアレーティアとシアは未だに警戒しているらしい。少し威嚇しながらティオをにらむ。
「よいではないか。こうして旅の中で出会ったのもなにかの縁というものじゃ。それに優秀な者との縁はいくらあっても良い」
ほう、俺達を見て優秀だと判断しているか。
「この道中では碌に活躍の場のない青ランク冒険者なのだがな」
「謙遜するでない。妾とてそれなりに腕に自信があるのじゃ。魔物の襲撃にも一切動じておらぬお主らを見ていれば、ある程度実力も分かるというもの」
確かに幾度かあった魔物の襲撃に対し、アレーティアやシアは全く動じることはなかったが良く見ているものだ。
「もっともそれだけでは真の強さまではわからぬがの」
どうやら俺達の実力に興味があるらしい。それは単なる冒険者としての感覚なのか、それとも他に意図があるのか。
「ふむ、実力を知りたいというのならいずれ機会もあろう。この道中までなら同行しても構わぬ」
俺としてもこのティオという女には少し気になることもあるしな。
「シア……わかってる?」
「はい、アレは……やっべぇです。私や雫さんを遥かに超える胸囲の戦闘力ですよ」
「ティオは超危険人物、これ以上アノスに近づけさせない」
「がってんですぅ」
***
ウルの町へ向かう旅も早5日。あと一日ほどで目的地に到着というところまできて、順調な旅路に試練が訪れる。
「敵襲です! 数は百以上! 林の方角から来ます!」
魔物の大群が押し寄せていることを察知したシアが周囲の冒険者に警告を発する。
その警告を聞いて、冒険者達の間に一気に緊張が走った。もとより俺達は北の山脈地帯の魔物を調査するために来たのだ。おそらく発生した魔物の一部ということもあり今まで以上の警戒をしているようだ。
「落ち着け。もとよりこちらは北の山脈地帯の魔物を調査するために来たんだ。すぐに隊列を整えろ!」
ここにいるのは俺達とティオを除いて皆緑ランク以上に位置する中堅以上の冒険者たちだ。一部若い者が混乱しそうになっていたが、ベテランの声に気を引き締めたようだった。
「ふむ、流石に大迷宮の魔物ほど強くはないようだが、この数では苦戦するかもしれぬな」
俺も魔眼にて魔物が向かってきている方向を見るが、魔物の群れの規模を見て、今の冒険者達だけでは苦戦するかもしれぬ。それに加え、俺達の本来の依頼であるウィルの護衛もしなければならない。
「アレーティア、シア。二人は戦線に加わり魔物を蹴散らせ」
「了解」
「了解ですぅ。よ~し、久しぶりに暴れてやるですよー」
ここ数日まともに戦闘をしていなかったからな。シアなどは鈍った身体を動かしたそうにうずうずしている。
「おいおい、まさか嬢ちゃん達が戦うのか」
「これから押し寄せてくる魔物は都市周辺の弱い魔物とはわけが違うんだ。危ないから下がっていなさい」
アレーティアとシアという一見戦いなどできないように見える二人が戦闘に出ると知り、ベテランと思わしい冒険者が忠告してくる。
「ご心配なく。私達これでも強いんですから。ね、アレーティアさん」
「ん……軽く蹴散らす」
シアがドリュッケンを構え、アレーティアもやる気を出している光景を見て、一応引き下がる冒険者達。
迫るは複数の魔物の群れ。種族もまちまちだ。
「ふむ……」
その現象に少し違和感を覚えたが、答えが出る前にまずはシアが接敵する。
「いきますよ~~」
ドリュッケンを構えたシアが先頭にいる体長3㎜以上のオーガに向かって踏み込む。
以前に増して滑らかになった身体強化の恩恵を受け、シアが一足でオーガの眼前に現れドリュッケンを振るう。
「ぶっとびやがれですぅ!」
シアより遥かに大きいオーガが後続を巻き添えに吹き飛んでいく。
「ええ~~~~~~~~~~!!」
はらはらしながら見ていた冒険者達が驚愕の表情を浮かべる。
「うそだろ……」
「今の、オーガロードだよな……?」
「熟練の冒険者でも数人がかりで相手しなきゃいけない奴なのに……」
どうやらあの魔物は冒険者達にとってそれなりに強力な魔物だったらしい。だがこれならオルクス大迷宮の表50階層を超えたあたりにもっと強い魔物が出てくる。
その後も向かってくる魔物に対し思う存分ドリュッケンを振るうことで蹴散らすシア。
「ここに焼撃を望む──〝火球〟」
一方でアレーティアの方は、炎属性最下級魔法である火球を発動し、指先に炎の玉を出現させた。迫るのはゴブリンやウルフ系の魔物。シアを避けるように行動し始めたのでアレーティアの方に魔物が集中する。
「いや火球って……」
「アレーティアちゃん……いくら何でも最下級魔法であの群れは倒せないよ」
「せめて中級魔法『爆炎』くらい使えないと……」
後衛職の冒険者達がアレーティアの出現させた火球を見て心配そうに声を上げる。どうやらあの魔法に込められた力に気づいていないらしい。
「…………パン」
冒険者達の声を他所に、アレーティアの指先から火球が放たれ、そのまま先頭にいた魔物に直撃する。
直後発生するのは爆炎。周囲の魔物を丸ごと消し飛ばし、その爆風で範囲外の魔物にまで被害を与えていた。
「ええ~~~~~~~~~~!!」
シアの時と同様、冒険者達が驚愕する。ふむ、冒険者にしておくには惜しいほど良いリアクションだ。旅芸人の才能がある。
「今の……火球?」
「馬鹿言うな。火球なんて駆け出し冒険者でも使える最下級魔法だぞ。それがこんな……」
「爆炎と聞き間違えたんだろ。でなきゃこんな威力でねーよ」
今アレーティアがやったのはライセン大迷宮での修行にて精製できるようになった純度の高い魔力の利用だ。
ライセン大迷宮では魔力分解作用があったため、その真価を発揮できなかったが大峡谷から離れてしまえばこの通りだ。
その後もシアとアレーティアは活躍した。シアがドリュッケンを振り回すだけで魔物の群れが吹き飛ばされていき、アレーティアの使う最下級魔法はその位階では考えられない威力で魔物を屠る。
「おぬしは戦わぬのか?」
アレーティアとシアが無双する様子を観察していた俺の横にティオが現れる。
「あの様子を見て、戦いに参加する必要があると思うか?」
「確かにの。強いとは思うとったがまさかあれほどとは……兎人族が魔力で身体強化を行うのも驚いたがアレーティア殿が使う魔法の威力も通常では考えられぬ。あれはおぬしが教えたのかの?」
「そうだが……お前はやけに俺達のことを知りたがるな。……そんなに俺の力が気になるのか?」
この旅の最中、ティオが俺達に話しかけるのは定番になっていたが、何故俺達をそこまで気に掛けるのか。
「気にならぬわけなかろう。あれほどの力を振るう二人をみたらなおさらじゃ。あの二人がおぬしを心底信頼しているのは見る者がみれば歴然じゃからな。そんな二人が慕う男の力を知りたいというのは不自然かの?」
俺がお前を怪しんでいると暗に告げたが、何の動揺も見せずに言葉を返してくる。以前から思っていたがティオからは見た目不相応の知性と理性を感じる。かつて俺の国にも存在した古き魔族などはそう簡単に揺るがぬ精神を持っていたものだが、それに近いものを感じるな。
俺がティオの正体について思案している間に、アレーティアがこちらに戻ってきた。
「どうした?」
「……実は以前から考えてた魔法が二つある。まだ魔物もたくさんいるし、実戦で使ってみたいけど……目立っても大丈夫?」
どうやらかなり派手な魔法を使うつもりらしい。現状でも十分目立っているし、目立ったからと言って旅に支障が出るわけでもあるまい。
「構わぬ。その魔法とやらを俺に見せてみよ」
「ん……」
森の方から大量の魔物が出てくることを確認したアレーティアは手を掲げ詠唱を行う。
「彼の者、常闇に紅き光をもたらさん、古の牢獄を打ち砕き、障碍の尽くを退けん。偉大なる暴虐の魔王の名において、我ここに誓わん。我が力、汝と共にありて、天すら呑み込む光となれ」
「〝雷龍〟」
詠唱の途中で発生した暗雲より雷で出来た龍が出現する。
どうやら雷属性魔法に重力魔法を組み合わせて操っているようだな。
「な、なんだあれ……」
目の前に魔物の群れがいるにもかかわらず、冒険者達の誰もが暗示でも掛けられたように天を仰ぎ激しく放電する雷龍の異様を凝視している。護衛隊にいた魔法に精通しているはずの後衛組すら、見たことも聞いたこともない魔法に口をパクパクさせて呆けていた。
そして、それは何も味方だけのことではない。森の中から獲物を喰らいつくそうと殺意にまみれてやって来た魔物達も、商隊と森の中間あたりの場所で立ち止まり、うねりながら天より自分達を睥睨する巨大な雷龍に、まるで蛇に睨まれたカエルの如く射竦められて硬直していた。
そして、アレーティアの意思に合わせ、天すら呑み込むと詠われた雷龍は魔物達へとその顎門を開き襲いかかった。
結果は一瞬。雷の龍に飲み込まれた魔物達は跡形もなく消滅する。
「なるほど、良い魔法だ」
俺は素直にアレーティアの魔法を称賛する。やはりアレーティアの魔法センスはかなりのものだ。ライセン大迷宮での修行にて質の高い魔力を生成できるようになったこともあり、かなりの威力を誇る。かつて俺が魔王であった頃の時代の魔族でも、まともに受ければ痛いでは済まないだろう。
「ん……この魔法の出来は上々。だからここからが本番」
森の魔物は殲滅したのでアレーティアは逆の方へ手を翳す。
「座標……設定。仮想砲台……構築」
先ほどの魔法は周囲の冒険者に対してカムフラージュ用の詠唱を加える余裕があったが、今回の魔法は先ほどの魔法より集中しているのが伝わる。
「仮想砲台展開……集束開始」
アレーティアの眼前に魔力で出来た砲台が出現する。その砲身は真っすぐ魔物の群れに伸びて、魔力が集中する。
ふむ、何の魔法を使うかと思えばまさかこれとはな。
「集束完了。ヨシ、行ける!」
「<
極限まで溜められた魔力が一気に爆発するように、それは黒い太陽と化した。そしてその黒い太陽は魔物の群れに直撃し、大爆発を起こす。
他の冒険者達はもう言葉もないようだ。先ほどからほぼ全員が口を大きく開けてアレーティアの魔法を見ることしかできない。それは金ランクだというアベルも同様だ。
「一度しか見せていないはずだがな。まさか再現できるとは思わなかったぞ」
「……けどやっぱり失敗。以前アノスが大迷宮最深部で見せてくれた<
「落ちこまずともよい。その気概を忘れねば更なる魔法の深淵に辿り着けるだろう」
あれだけの魔法を行使したにも関わらず、アレーティアは不満そうだ。確かに一応<
そして、この魔物の襲撃があった翌日。俺達は湖畔の町ウルへと到着した。
***
湖畔の町ウルへ到着した俺達は本格的な調査は明日に行うということで一時解散することになった。ウルはこの辺りではかなりにぎわっている町であるらしく、他の冒険者達は長旅の疲れをいやすべく、各自宿を取るために行動を開始していた。
「私たちはどこに泊まりますか?」
「それに関してはイルワから事前に話を聞いている。どうやら『水妖精の宿』という宿屋がおすすめらしい」
どうやらここらで一番の高級宿らしく一階のレストランで出される料理が絶品だそうだ。例のキノコグラタンもここで出るらしいので実に楽しみだ。
「それで……いつまで付いてくる気?」
アレーティアがちゃっかり後ろについてきたティオに向けて言う。
「なんじゃ、やはりダメかの?」
「駄目に決まってる。そもそも事前に予約は3人分しかとってない。あなたの部屋はない」
イルワには3人で泊まれる部屋をあらかじめ取ってもらっている。もちろん護衛対象のウィル・クデタ一行も同じ宿を使用する予定だ。この辺りで一番の高級宿という話だからな。飛び入りで泊まれるとは限らぬ。
「仕方ない。では、また明日会おうぞ」
あっさりした反応でティオが去っていく。流石についていくのは無理だと判断したようだ。
「アノス……ティオのことが気になるの?」
どうも俺がティオのことを気にするのが気になるらしいアレーティアとシアが聞いてくる。とはいえ俺が気になっているのは彼女のステータスに書かれているある技能だけだ。
「いや、少々俺達を見る目が気にはなるがな、それだけだ。それよりもキノコグラタンはもうすぐそこだ。まずは腹拵えといこう」
早速『水妖精の宿』に入る。受付を素早く済ませると1階部分に広がるレストランに移動した。高級宿というだけあり、宿もレストラン内も細部に拘りのある装飾や従業員のサービスが行き届いているのがすぐにわかった。
「ああ、相変わらず美味しいぃ~異世界に来てカレーが食べれるとは思わなかったよ」
「まぁ、見た目はシチューなんだけどな……いや、ホワイトカレーってあったけ?」
「いや、それよりも天丼だろ? このタレとか絶品だぞ? 日本負けてんじゃない?」
「それは、玉井君がちゃんとした天丼食べたことないからでしょ? コンビニの天丼と比べちゃだめだよ」
「いや、チャーハンモドキ一択で。これやめられないよ」
そしてすぐに聞き覚えのある声が聞こえてきた。この町に滞在しているのは知っていたが同じ宿とは都合が良い。
「ふむ、どうやら噂通り料理が美味いらしいな。これは期待できる」
「えっ? あ……アノス君? えっ、いつここに?」
俺の言葉に気づいたのか料理に舌鼓を打っていた俺たちの教師、畑山愛子がこちらを振り向いた。
「ついさっきここに着いたばかりだ。ある依頼を受けたついでにお前たちの様子も見にきた。皆は息災か?」
「そうですね。皆体調不良もなく、元気にやってますよ。仕事も順調ですし。あっ、店員さん! 彼らは知り合いなので隣の席でいいですか?」
隣の席が空いていたので俺たちも座らせてもらう。早速メニューを見なくてはな。
「皆さん、お久しぶりですぅ、元気でしたか?」
「うんうん、元気だよー。シアちゃんも相変わらず元気だねー」
宮崎奈々がシアの元気のいい挨拶に返事をする。シアの明るい雰囲気はすぐさま愛子の護衛隊に歓迎された。
愛子護衛隊。本人達は愛ちゃん護衛隊と呼んでいるチームは基礎訓練を終え、適正ごとにチーム分けを行った際にできたチームである。
作農師という天職を活かすべく、世界各地を回ることになった愛子だが、主に聖教教会の神殿騎士が護衛に付くことになった。神殿騎士の中でも腕利きであるとされているが俺たちは聖教教会が信仰する神エヒトが邪神であることを知っている。そんなエヒトの息がかかっているかもしれない騎士に愛子を任せられないと立ち上がったのが彼女達だ。
「やっぱりアノス君はキノコグラタン? うちに来た時も絶対頼むよね?」
キノコグラタンを頼む俺に声をかけてきたのが園部優花。愛子護衛隊のリーダーであり、投術師の天職を持つ。ついでに地球では実家がウィステリアという洋食屋を営んでおり、俺も家族と共に幾度か食べに行ったことがある。
「アノス、ここの店なら天丼が超おすすめ。まじ美味いぞ。日本のものより美味いかもな」
「いや、だからそれは玉井が安い天丼しか食べてないだけだって」
俺に天丼を勧めてきたのが玉井淳史でツッコミを入れたのが仁村明人。
「ねぇねぇ、シアちゃん。アノス君と何か進展あった?」
「それがさっぱりですぅ。アノスさんのガード、まるで城壁のようですよ」
「まぁ、雫ちゃんも苦労してたしね。中々難しいと思うよ」
シアと仲良く話しているのが宮崎奈々と菅原妙子。
「ガウ」
「ん? お前かレオ。少し大きくなったか?」
「清水君……」
「えっ、あ!? こらお前、また勝手に抜け出したなッ」
俺に向かってきたのが清水幸利で幸利に声をかけたのが相川昇。
これで愛子護衛隊全員だ。いや、まだ紹介せねばならぬものがいるな。
「こいつ、いっつも勝手に抜け出して。いつになったら俺の言うことを聞くんだよ」
「ふむ、こやつも随分とお前に懐いてきたようだな」
「いや、どこがだよ」
俺が言っているのは幸利が抱えている一匹の子ライオンのことだ。
名前はレオ。奈落の底で頭角を表していた魔物の内の一種、バーニングレオと呼ばれる種族の幼体だ。
なぜ幸利がバーニングレオの幼体を連れているのかというと幸利の天職が関係している。
清水幸利の天職は闇術師。文字通り闇系統の魔法に天性の素質がある天職だ。
闇系統の魔法は、相手の精神や意識に作用する系統の魔法で、実戦などでは基本的に対象にバッドステータスを与える魔法とこの世界では認識されている。幸利の適性もそういったところにあり、相手の認識をズラしたり、幻覚を見せたり、魔法へのイメージ補完に干渉して行使しにくくしたり、更に極めれば、思い込みだけで身体に障害を発生させたりということができた。
だが他の系統とは違い直接的な攻撃力に乏しいとあって伸び悩むことになる。そこで俺は闇魔法の中でも洗脳系統の魔法で魔物の使役が可能であるか試してみた結果、幸利は魔物を使役するということに関して天性の才能を示した。人族の世界で優秀とされる魔物使いでもせいぜい二、三体使役するのがやっとのところ幸利は大迷宮前半の魔物とはいえ数十体使役することに成功したのだ。
そこで俺は幸利にこの力を隠すことを進言した。
『どうしてだよ! やっと、やっと俺だけの特技がみつかったのにッ!』
『その特技が問題だ。魔物の使役というのはまさに魔人族が人族に対し有利になっている事象そのものだ。そのことが頭にある教会のものどもにお前の才能が知られれば、強制的に無茶なことをさせられかねん。教会とことを構えるのはまだ時期尚早だ。なに、安心しろ。その才を捨てよとは言っておらぬ。数よりも質。俺がオルクス大迷宮深層にて厳選した、とっておきの魔物をお前の使い魔にしてやろう』
そして俺が幸利に用意した魔物は三体。
一体はアルラウネの幼体。植物を操る能力を持った魔物であり、植物を寄生させて対象を操ることもできる。
二体目はアクアスライムの幼体。文字通り全身が水でできており、内側に取り込んだものを消化したり様々な症状を引き起こす粘液を作ることのできる魔物。
そして三体目がバーニングレオの幼体。奈落の底でも単純な戦力では中々の強さを持つ魔物であり上手く成長すれば心強い戦力になる魔物だ。
『草、水、炎ってポケモンかよ』
などとぼやきつつも幸利が選んだのがバーニングレオの幼体。名前をレオと名付け使役することに成功した。正確にいえば幼体とはいえ奈落の底でも屈指の強さを持つ三体。直接使役しているのではなく俺が使役した上での部下への貸し出しという形で使役している。バーニングレオの幼体も自我が失われたわけではなく幸利の才能、そして俺の部下という立場で使役されていると言う形だ。これ以上の成長を見せるかは幸利の成長次第だろう。
目の前で仲良く自身の使い魔と戯れる幸利を見ているうちに待望のキノコグラタンが到着した。さぁ、お楽しみの時間だ。
>清水幸利
普通に愛子護衛隊にいる少年。アノスがいない世界線においてのこの章のボスキャラ。
この世界に来た当初は異世界で俺tueeeeを夢見ていたが大魔王教練を受けて捻じ曲がっていた性根を折られた後、無理やり真っ直ぐ立たせられた。
アノスと敵対するとかありえない。魔人族の誘いがあったとしてもアノスの敵になるというデメリットを帳消しにできるメリットを魔人族は示せないので誘いに乗らない。
生意気で気分屋な使い魔の扱いに困るがなんだかんだ気に入っている。
>レオ
闇術師清水幸利の使い魔。元々は奈落の底にいたバーニングレオと呼ばれる炎の獅子の幼体。見た目はほんのりあったかい炎の立髪を備えた猫。家庭教師ヒットマンREBORN!のナッツがモデル。オス。
奈落の底のかなり深い階層のフロアボスになるレベルの強個体だが、現在はアノスの<
次回、アノス様キノコグラタン実食