ありふれない不適合者が世界最強   作:シオウ

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相手は頑丈な魔族でもないし、戦闘経験皆無の人間です。まだ本気を出しません。
最初だけ雫視点です。


4話 大魔王教練_入門編

 私、八重樫雫から見て、アノスという人間は一言で言うと万能の超人だ。

 

 幼少の頃に出会い、今に至るまでアノスは、あらゆる分野に興味を持って何事も積極的に取り組んできたが、何をやらせても非凡な才能を発揮してきた。

 

 

 剣道は高校生にもなれば家の道場の()()()()である大人ですら勝てなくなり、学力テストにおいては満点以外の点数を取ったところを見たことがない。

 

 

 スポーツをやればどんなジャンルであっても短期間で全国レベルの成績を叩き出し、芸術分野では指先サイズの町のミニチュア模型を提出してコンクールで金賞を獲得したこともあるし、歌でもびっくりするくらいの美声を発揮したりする。

 

 

 または小学校の自由研究で『野生の希少キノコの生態と保護、栽培方法について』と書かれた分厚い論文のような紙束を提出して学校が大騒ぎになったこともある。

 

 

 そんなあらゆる分野で非凡な才能を発揮するアノスはいつも大胆不敵にして傲岸不遜。目上の人であろうと尊敬に値しない人間だと判断した場合、敬語も碌に使わない俺様野郎だが、一度認めた人間に対しては懐が深い。光輝などは何度もアノスに挑んでは返り討ちに合うと言う行為を十年も続けているが、光輝の挑戦に対しアノスが嫌がったことは一度もない。

 

 

 そんな天上天下唯我独尊を地でいくアノスだが、両親をとても大切にしているし、私のことも何度も守ってくれる。光輝が行ったヒーロー活動も裏でアフターケアをしているのを知っている。

 

 

 だからこそ私は、そんなアノスのことが……はっきり言ってしまえば好きなのだ。

 

 

 とはいえ、どうやらアノスはそういう恋愛方面のことに関して恐ろしく鈍い。というより高校生になった今でもさっぱり興味がないようだ。当然のようにモテるから幾度も告白されているにも関わらず、興味がないの一言でバッサリ斬り捨てている。

 

 

 いや、一度だけ興味を持ったことがあったか。

 

『雫よ、この本に載っていたのだがな。どうやら学生時代の青春の半分はなんと学生同士の恋愛で出来ているようだぞ。思えば確かに俺は恋愛というものを経験したことがない。青春の半分を占めるものを体験しないのはもったいないとは思わないか? だから雫……』

『な、なによ(ドキドキ)』

『……俺と付き合ってもよいという女子生徒を紹介してくれぬか』

『紹介するわけないでしょッ! この馬鹿ッ、朴念仁!!』

 

 正直あの時は本気で殴ってやろうかと思った。

 

 誰でもいいと言うのなら、なぜ目の前にいる、一応女神扱いされてたりする幼馴染にまず真っ先に頼まないのか。私に言ってくれたらいつでも魔王の配下から恋人にジョブチェンジしたというのに。

 

 結局しばらくするとアノスの興味が別のものに移ったことでこの話はなかったこととなったのだが、アノスの興味が恋愛から別のものに移るまで私はアノスに対する告白を義妹を使うというなりふり構わない手段で妨害したりした。

 

 

 このように少々常識に問題がある困った幼馴染だが、基本的にいつでもかっこよくて頼りになって、子供のような笑顔で大好物のキノコグラタンを食べる大好きな幼馴染なのだ。

 

 

 そして異世界に飛ばされて早二週間。どうやらアノスの才覚は異世界でも遺憾なく発揮されたようで……

 

 

「さあ、待たせたなお前達。今日も楽しい……大魔王教練の時間だ」

 

 

 たった二週間で、アノスは教わる側から教える側になっていた。

 

 

 ***

 

 この世界に来て二週間が経過した。

 

 本格的に訓練が始まった際に俺がやったことは二つ。一つはこの世界の魔法について知ること。そしてもう一つがこの世界の情報を集めることだ。

 

 魔法についてはメルドが率いる騎士団に所属する魔導士が、クラスメイト全員に基本から教えることになっていたのだが、それが面倒だと感じた俺はもっと手っ取り早い手段を行使した。

 

『なんでもよい。お前達が使える魔法をありったけ俺に見せてみよ』

 

 当然最初は生意気なことを言う俺にいい顔をしなかった者の方が多かったが、一目見た魔法を完璧以上に再現してやれば誰も文句を言わなくなった。むしろ魔法式に無駄が多かったのでそれならともっと短い詠唱で効率を上げる術式を提供してやったくらいだ。

 

『これはッ、詠唱時間六割減ッッ! しかも魔法効果は……に、二倍ッッ。そ、そんな馬鹿な!!』

 

 その後驚愕の表情を浮かべた魔導師を筆頭に、むしろ進んで魔法を見せてくれるようになったのでこの世界の魔法を習得するのにさほど苦労はしなかった。

 

 だが問題はこの世界の情報だ。それには現在進行形で苦労している。なぜならハイリヒ王国の大図書館の本を大体網羅してみたが、中身が明らかに偏っていたからだ。

 

 

 一番多かったのはエヒト教について。この世界の創世神話とエヒトが起こした数々の奇跡。そして神の残した教えとそれを受け継ぐ教会の栄光と繁栄について。それらについては歴史書から物語に至るまで幅広く存在していた。

 

 一方でほとんどなかったのは魔人族についてだ。かつて神に反逆したという反逆者の話はあれど、魔人族については出てきても理性の無い魔物の上位種でありこの世界から滅ぼすべき邪悪であるという情報しか出てこず、魔人族の文化などについて語っている書物が全くない。

 それは亜人族についても同様で、神が存在を認めぬ畜生でしかないという記載ばかりだった。

 

 

 これらからわかることは、実は人族は魔人族の文化や生態についてほとんど何も知らないということだ。そもそも戦争以外の交流もほとんどなく、あっても数百年に一度あるかないかという具合だ。

 

 

 他の者なら異世界の別種族同士の戦争なのだからこんなものかと思うかもしれないが、俺だからこそこれはおかしいと思った。

 

 かつて魔族の国ディルヘイドと人間の国アゼシオンとて多少は交流があったのだ。魔王である俺が人間が愛しい恋人に送る貝殻の伝説を知っているくらいに。だからこそ、お互いのことを知り、勇者カノンとも和解の道を探ることができた。それに千年時間が離れればお互いの憎しみも薄れるだろうと信じることができたからこそ、俺は千年前に死んだのだ。

 

 

 だがこの世界の人類と魔人族はどちらも互いを知ろうとすらしていない。北と南で食糧などの物資が不足しているということもない。ただお互いが神敵だからこそ滅ぼそうとしている。

 

 

 俺達の場合、人間や精霊、神の戦う理由は暴虐の魔王であり神の定めた秩序を乱す俺がいたからだ。そして俺が戦ったのは同胞である魔族のためと破壊に寄っていた秩序を創造の方に寄せるためだった。

 だがこの世界は何もかもが神ありきで動いている。

 

 

 こうなってくるとこの世界の宗教は信用できない。元々俺個人は神など信じて縋ったことなど一度もないが、最終的に敵対するというのならクラスメイトの訓練を他人任せにするのは不安が残る。

 

 だからこそ……

 

 

「メルドからも許可を貰ってある。だからこそ今日から俺が、お前達にこの世界で生き抜く方法を教えてやる」

 

 大魔王教練を行う決意をしたのだ。

 

 

「とはいえお前達に訓練を課すにも、俺が手を入れる段階まで至っていないのがお前達の現状だ。だから基本的にはメルドから教わった通り訓練を行うことになる」

「じゃあアノスは私達に何を教えるのよ?」

 

 教練と言ってもメルドとて素人ではない。本当の素人であるクラスメイト達に基礎を叩きこむためのメニューは俺の目からみてもしっかり組まれている。現状ここに俺が介入する余地はない。

 

 なら何を教えるのか。決まっている。この世界出身のメルドでは教えられないことを教えるのだ。

 

「俺が教えるのは魔力の使い方だ。お前達全員に魔力操作を習得してもらう」

 

 この世界の魔法を見て俺がまず驚いたのは、誰も魔力を自力で操作できないということだ。聞いてみたところそれは魔物固有の技能であり人族にも魔人族にも魔力の直接操作ができる者はいないという。

 だが俺からしたら呆れるばかりだ。魔法を使う前に魔力の操作を学ぶのなど常識。魔族では物心ついた子供すら魔力を使うことができたのだ。根源から魔力を発生させる以上、自力で操作できないなどありえない。

 

「けど魔力操作って確か魔物しかできないんじゃなかったっけ?」

「そんな技能だれも持ってないしよ」

「いや、アノス様は持ってたよ」

「アノス様だもん。この世界の人より優れてるのはあたりまえじゃん」

「だよね~。アノス様はここでも強靭、無敵、最強」

 

 どうやらいまいち反応がよくない。普通に詠唱することで魔法が使えているからだろうが……

 

「お前達には絶対に習得してもらう。なぜなら魔力を操作して魔法を使うのと詠唱で魔法を使うので天と地の差があるからだ。極論今のお前達は音声入力で家電を動かしているのとそうは変わらぬ。魔力操作で魔法を使ってこそ初めて魔法を使ったと言える」

 

 論より証拠。まずは魔力操作を体感してもらう。

 

「雫、前に出てくれ」

 

 俺が呼ぶと素直に雫が前に出てくる。

 

「何をすればいいの?」

「今から俺がお前に魔力を流すから魔力というものを実際に感じてみてくれ」

 

 そして雫の両肩に手を置くとゆっくり魔力を流していく。

 

「ひゃん。ちょ、アノス……これ……んんッ」

 

 思ったより気を使う。何しろ魔族にとって魔力は操作できて当たり前だったのだ。だからこそ他人に魔力の使い方をゼロから教えた経験は俺にもない。ここで手を抜けば雫が魔力を扱う際に変な癖がつくかもしれぬ。だからこそ、雫の身体の隅から隅まで撫でるように魔力を注ぎ込む。

 

「あん。ちょ、アノスゥ、まだなの?」

「もう少し耐えろ。後少しだ」

 

 他人の魔力を内側に流される気持ち悪さからか、雫は顔を赤くして膝をもじもじしながら悶える。

 

「もういいぞ。ゆっくり魔力を身体に巡らせるイメージを持て」

「んん、これ……すごい、これが魔力」

 

 思っていたより飲み込みが早い。既に雫は身体の外側に魔力を留められるようになっている。

 

「雫は風属性に適正があったな。ではあの的に向けて風魔法を詠唱なしで使ってみろ。魔法陣に魔力を流すイメージを持てばいい」

「ええと……こうかしら……”風撃”」

 

 言われた通り指ぬきグローブに刻まれた魔法陣に魔力を流し、魔法が発動した。発生した風の球が的に命中し、的を破壊する。

 

「すごい。詠唱してた頃と……全然違う」

「これが魔法を使うということだ。雫は今本当の意味で魔法に触れた。これから訓練を重ねれば、魔法陣も魔力で展開できるから魔法陣を持ち運ぶ必要もなくなる。さて、何をするかわかったな。早速順番に魔力を目覚めさせるから列を作って並べ」

「はい、アノス様」

 

 そう言って元気よく立ち上がったのはアノスファンクラブのメンバーそして女子生徒。だが男子生徒はほとんど立ち上がらない。

 

「どうした? なぜ立ち上がらぬ?」

「いや、あの……ちょっとたんま。今立ち上がれないからもう少し待ってくれ」

「よくわからぬが、では女子から始めようか。安心するといい。さっきコツをつかんだからな。次は不快感を与えることなく目覚めさせることができるはずだ」

「え~~~~そんな~~~」

「ちょっと、楽しみだったのに」

 

 何故か知らないが、アノスファンクラブから残念がる声が聞こえた。

 

 

 ***

 

 そして訓練開始から数日が経った頃、出来不出来はあれどクラスメイト全員が魔力の操作を覚えることに成功した。

 

 魔力を操作できるようになったことで皆の魔法レベルは飛躍的に向上している。もっともまだ初級の域を超えていないので大魔王教練を次のステップに進めるのはもう少し先になるだろう。

 

 

「”風刃”」

 

 そして現在、目の前で朝早く俺と模擬戦をしている雫もまた、この世界で習得した魔法と八重樫流の剣術を組み合わせた戦闘方法を構築中だ。

 

 雫の天職は魔剣士。メルド曰く、攻撃の剣を得意とする「剣士」の中で、魔法にも高い適性がある天職だという。

 

 その中で雫には風属性の魔法に適正があるため、風魔法を刀身に纏わせて風の刃を放ったり、身体に風を纏って立体機動能力を強化することによる素早い攻撃を行う方向で鍛えている。

 

 だがまだまだ完成には程遠い。

 

「雫、身体の動きと剣技に対して魔法の発動が遅すぎる。今のままでは魔力を活かしているとは言えぬな。これなら魔法を使わぬほうがまだ強い」

「はぁ、はぁ、そうは言っても……小さい頃からやってる剣術はともかく、アノスじゃないんだから魔法をそう簡単に上手く使えないわよ」

「だが状況は待ってはくれぬ。いつ戦争が始まるかわからぬ以上、巻き込まれることを想定して備えなければならない。俺が守ってやっても良いが……お前はそれで満足はせぬであろう」

 

 俺の言葉に対して、雫が顔に笑みを浮かべ、再び剣を構える。

 

「あたりまえでしょ。もう一回お願いするわ」

「そう来なくてはな」

 

 そして再び、雫との剣戟が始まった。

 

 それから俺が雫を転ばせ、雫が立ち上がるということを繰り返している内に、朝の修行時間が近づいてきたので特訓を切り上げる。

 

「そこまでだ。それなりに形になってきたな。魔法発動の基礎は掴んだようだからこれからも修練を続ければもっと上手く魔力を使えるようになるだろう」

 

 実際雫の上達速度は大したものだった。元々他のクラスメイトと違い、八重樫流を収めている雫は戦闘の基礎はできているのだ。これから磨いていけば、すぐに前線で活躍できる戦士になれるだろう。

 

 

 そしてほどほどに雫との訓練を終わらせた俺は光輝達と合流し、朝の訓練に向かう。そして隣を歩く光輝に対し、俺は魔眼を向けてみる。

 

「ふむ、見たところ基本的な魔力操作は身に付きつつあるようだな」

「あたりまえだ! 俺だって成長してるんだ。いつまでも後塵を拝すると思うな」

 

 威勢よく光輝が叫ぶが、確かにそれに相応しい成長はしているように思える。

 

 この世界に来たばかりの頃、根源から滲み出す魔力がそのまま垂れ流しになっていたが、今ではしっかり身体の周辺にとどめられるようになっている。これができるだけで今後の成長度が変わってくる。見たところ龍太郎も負けないように頑張っているようで感心するばかりだ。

 

 だがどうやら感心ばかりもしていられないらしい。

 

 少し先でハジメを囲って攻撃を加えている小物四兄弟が見えたからだ。

 

「何やってるの!?」

 

 香織が血相を変えて小物四兄弟に問いかける。

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

 

「ハジメくん!」

 

 香織がハジメに向かって駆け出し、回復魔法をかけ始める。

 

 治癒師の天職を持つ香織は回復魔法に適正がある。そして魔力操作を覚え始めた香織はすでにこの国に存在する並みの治癒師を超える力を発揮し始めていた。

 

 

「特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?」

「いや、それは……」

「ふむ、中々悪くない訓練ではないか」

「えっ!? アノス!?」

 

 しどろもどろ言い訳をし始めた小物四兄弟に俺が素直な感想を言うと全員俺を驚いたような顔で見る。

 

「魔力とは根源から生まれるものだ。そして根源が最も魔力を放つのは、それが消滅の危機にさらされたときだ。灯滅せんとして光を増す。簡単に言えば、魔力は命の危険に晒されれば晒されるほど力を増していく性質がある。その観点で見れば小物四兄弟がハジメに行った訓練とやらは狙いとしては悪くない」

「え、へへへ、そうそう。俺達は南雲のことを想ってだな」

「アノス! いくら何でもこれはないだろ! いくら効率がいいやり方だとしても、限度ってものがあるはずだ!」

 

 俺の思わぬ援護に小物四兄弟が途端に調子づくが、光輝が義憤に燃えて俺に抗議してくる。

 

 だが、俺とて小物四兄弟にいい気分のままさせるつもりはない。

 

「いやいや、中々感心ではないか。お前達の熱意は伝わった。……なら次はお前達の番だな」

「「「「えっ!?」」」」

「何を呆けた顔をしている。先ほど言ったではないか。魔力とは命の危険を覚えれば覚えるほど伸びていくものだと。実際お前達はハジメに対してそれを実践したわけだ。他人にその努力を強いた以上、自分もやらねば筋が通らぬ」

「あ、あ、あ」

 

 なにやら顔色を真っ青にしながら口を開けている小物四兄弟の眼前で<火炎(グレガ)>を見せてやる。

 

「お前達のやる気を尊重して、お前達の大魔王教練は一足先に次のステップに進むことにしよう。何、言った通り少し死ぬような思いを何度も繰り返して、魔力の底上げを行うだけだ。安心しろ、仮にやりすぎてうっかり死んでしまってもちゃんと蘇生してやろう」

「「「「ひ、ひ、ひぃぃぃぃぃぃ」」」」

 

 すっかり怯えている小物四兄弟に対し、雫達は哀れな生贄を見るような目を向け、香織の魔法によって回復した被害者であるハジメですら、小物四兄弟に対して同情の視線を向ける。

 

 

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──ッッ!!』

 

 

 その後、小物四兄弟は訓練の度に瀕死になるため、ハジメにちょっかいをかけることはなくなったという。

 

 

 ***

 

 さて、今回は庇う形になったハジメだが、非戦闘職だからといって楽をさせているわけではないのだ。

 

 

「アノス……できたよ」

 

 場所はメルドにハジメの訓練用に用意してもらった王都の錬成場。そこで俺はハジメの錬成技能の鍛錬の成果を見ていた。戦闘職持ちが専門職に沿った訓練を開始し始めている中、愛子以外で唯一の非戦闘職であるハジメは、国お抱えの錬成師の工房で錬成の基本を学んでいた。

 

 もちろん基礎訓練や魔力操作の訓練は行っているが、俺の目から見ても直接戦闘に向いているとは言えないハジメに対して、まずはその特技を伸ばすことにし、今その成果を見ているところだ。

 

「どうかな。一応ウォルペンさんからは及第点を貰ったんだけど……」

 

 ハジメが抱えているのは一本の鋼の剣。確かに見た目や重厚感は中々の物に見えるが……

 

「どれ、試してやろう。”錬成”」

 

創造建築(アイリス)>ではなく、この世界に合わせて錬成の魔法で地面から一本の剣を作る。そしてハジメの剣に対して、俺は剣を振り下ろした。

 

 金属が砕ける音と共に、剣が破壊される。もちろんハジメが作った方が。

 

「駄目だな。この程度の完成度では実戦では使えぬ。もっと物質の構成を良く見て原子の一つ一つに魔力を行き渡らせて錬成するがいい」

「そっか、これも駄目かぁ……結構自信作だったのに……」

 

 肩を落としながらハジメが通算45本目の剣の残骸を回収する。

 

 錬成の基礎を学んで以降、ハジメは魔力操作の訓練と錬成の訓練をひたすら行うという行動を続けている。ハジメは魔力が少なかったのだが、俺が魔力を分けながら訓練を行い続けた結果、魔力量に関してはこの世界に来た当初よりはマシになったと言える。

 

「この程度で根を上げられても困るぞ、ハジメ。ゆくゆくはお前にアーティファクトを作れるようになってもらうからな」

 

 この世界に来てから教会や王宮を調査させている間者から聞いた話だが、どうやらハジメを無能扱いする輩が存在するらしい。本来立場上、神の使徒であるハジメを悪く言うのはまずいのだが、ハジメが非戦闘職ということもあり、偏見の目で見ている者が大勢いるということだ。

 

 もちろんメルドなどはハジメの努力を認めているし、ハジメに錬成を教えた錬成師達は内輪でハジメの扱いに不満があるようだ。そして俺が指導している以上、ハジメが舐められるということは俺が舐められるということでもある。だからこそ、ハジメには無能扱いを後悔するほどの成果を上げてもらわなければならない。

 

「アーティファクトかぁ。確かに魔剣とか聖剣とか伝説の武器っぽいものを作ってみたいけど……錬成だけだと無理っぽいんだよなぁ」

「そう腐るな。お前の努力は決して無駄にはならぬ。だから今はひたすら錬成と魔力操作を磨き続けよ」

「うん、わかった。ここまで来たら伝説の武器の一つや二つ作って見せるよ」

 

 そしてハジメの言葉通り、この世界の錬成だけでは限界がある。

 

 この世界の錬成魔法というものは簡単に言えば物質の形を変える魔法ということになる。例えば鉄に使えばその形を自由に変えることで剣にも槍にも、鍋などの雑貨を作ったりもすることができるが、所詮それだけだ。地球で機械を使って物を加工することと何ら変わりない。

 なにより錬成で作ったものには魔力が宿っていない。これではいくら錬成の技能を磨いたとしても、よく切れる剣を作ることはできても、魔剣や聖剣の類は作れない。

 

 俺の使う<創造建築(アイリス)>や<聖別(リヒド)*1が使えればその問題は解決するのだが、以前一番簡単な<火炎(グレガ)>の魔法を炎魔法に適正のある者に教えても習得できなかったことから、俺の世界の魔法はどうやら現状、俺以外に使えないことがわかっている。

 

 とはいえこのままにするつもりはない。今のところこの世界の魔法は俺の世界の魔法ほど種類があるわけではないようだ。ならば仲間の何人かには俺の魔法を教えればこの世界の限界を超えて伸びる可能性もある。

 

 だからこそ、いずれ俺の世界の魔法をクラスメイトにも使えるようにしておきたい。

 

 そしてその時のために、明日からもクラスメイト達に的確な訓練をしなければならないと俺は誓った。

 

 

 

*1
武器や防具、道具に聖なる力を与える魔法




>魔力操作
個人的にクラスメイト強化の一番の近道。アノスからしたら根源から魔力を発しているのに操作できないとか意味不明。

次回は大迷宮探索。アノスの出番は果たしてあるのか。

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