ありふれない不適合者が世界最強   作:シオウ

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オルクス大迷宮突入。
魔王が一番最初のダンジョンを真面目に攻略しようとするシュールな光景です。


5話 魔王と大迷宮

【オルクス大迷宮】

 

 何でもそれは全百階層からなると言われている大迷宮であり、冒険者や傭兵、新兵の訓練に使われるなどこの国の生活に欠かせない施設なのだと言う。

 

 そして俺の訓練とメルドの基礎訓練を経たクラスメイト達が実戦のために明日挑戦する場所でもある。

 

 俺を含むクラスメイト達と王国騎士団の一部がオルクス大迷宮があると言われている宿場町【ホルアド】に到着し、そこの宿屋に泊まることになった。

 

 その日の夜、クラスメイト達が明日に想いを馳せながら、それぞれの形で夜を過ごす中、俺は一人で椅子に足を組みながら座り、月を眺めていた。

 

 否、正確に言えば、この場にいるのは一人ではないのだが。

 

「やはり反逆者についての情報は出てこなかったか」

「ああ、信徒だけが入れる書庫に潜入してみたんだが、それっぽい情報はなかった。俺の勘になるけどやっぱり意図的に削除してるみたいだな。歴史書なんかを見ると明らかに不自然に消えてる部分がいくつか見当たるし」

 

 俺の呟きに対して、背後から気配が現れる。

 

 全身黒ずくめの少年は、俺が地球にてその天性の才能を見出したことをキッカケに、色々諜報活動を依頼していた時からの付き合いだった。

 

 この世界に来て、クラスメイトと同じ訓練を受ける中、一人度々抜け出しては俺の要望に応えるために教会内部などに潜入して貰っている。

 

「教会の様子は?」

「アノスが魔王の天職を持ってることが一時的に問題になったっぽいけど、今のところは静観って感じだな。怪しくても人族の利益になるなら放置するって方針で固まったみたいだ。何だかんだ言って魔人族が力を付けて追い詰められているのはマジみたいだから、現状圧倒的に強い上に俺たちのリーダーのアノスは切り捨てられないってことだろ」

「なるほど、魔王の手も借りたいほど焦っているわけだな」

 

 この世界に来た当初は侵略戦争の捨て駒として呼ばれた可能性もあると言ったのは俺だが、調べていく内に本当に魔人族が力を付けているのは間違いないとわかった。

 

 数の上で圧倒的に有利だったはずの戦場が、魔人族の魔物によって形勢を逆転され敗走したという事例も増えてきているらしい。

 

「ちょっと調べたけど、近い内に魔人族が大規模な作戦を展開するんじゃないかという噂もあるみたいだな。俺達に縋らなきゃやばいってのも間違いじゃない」

「そうか。ならお前たちが成長するまでは教会と事を構えるのは避けた方が面倒がなくていいな。それで、魔人族についての情報は?」

「……アノスの言ってた通りだな。教会が教える魔物の上位種という認識よりかは人間に近い。寿命は多少魔人族の方が長いみたいだけど、基本的に人間と食性も趣向もさほど変わらない。言葉も普通に通じるらしいぞ。そんで魔人族の方はどうやらアルヴ教ってのを信仰しているのが大半らしい」

 

 訓練を行いつつ、僅か二週間でここまで情報を揃えたことに感心する。どうやらこいつもこの世界に来て才能に目覚めたらしい。

 

「となるとこの戦争の本質はやはり宗教戦争か」

「だな。だからこのままだと俺達は人殺しをさせられる。しかも正義とか悪とかはっきり定義されてない戦いでな」

 

 地球においても宗教に関する戦争は現代でも続いている。過去の有名どころでは十字軍などがあげられるが、その戦いはどれも悲惨の一言だ。

 

「つまり戦争が本格化する前にこの世界から脱出するか、この世界の問題の根本から解決するかのどちらかというわけだ」

「簡単に言うなぁ。たった百年歴史を遡ってみても人族と魔人族はずっと戦争してばっかりで泥沼状態だぞ。けどアノスが言うと本当に何とかしそうというか……まあ、それは置いといて、俺はこれからどうすればいい?」

「しばらくは無茶をせずともよい。訓練を受けつつ活動するのは中々辛い物があるであろう。また必要な時はこちらから依頼する。今夜はもう明日に備えて休んでおけ」

「御意」

 

 そう言って影は闇に溶けるように消えていく。相変わらず見事な隠形だった。俺も魔法を使えば似たようなことができるが、これは天性のものだろう。間違いなく極めれば、俺でもたどり着けぬ境地に至る才能を持っている。

 

 

 その後、一人部屋を選択したがゆえに静寂の戻った部屋にてどうするか悩んでいたが、扉をノックする音で扉に意識を向ける。

 

「アノス、ちょっといい?」

「構わぬ。入ってもよいぞ」

「そう、失礼するわね」

 

 そう言って入ってきたのは雫だった。既に就寝準備を済ませていたのか、いつもと違い、着心地が良さそうな服を着ている。

 

「なんだ。まさか眠れぬから添い寝でもして欲しいのか?」

「ば、馬鹿。そんなんじゃないわよ。ただ一人はちょっと寂しいと思って」

「一人? 香織はどうした?」

 

 雫は香織と同室だった筈だ。なのに部屋には今雫一人というのはどういうことなのか。香織は普段から夜遊びなどしない奴なのだがな。

 

「香織は南雲君の部屋に行ってるわ。もしかしたら今夜は帰ってこないかも」

「ほう、ならハジメもようやく受け入れる気になったということか」

 

 地球にいる時は香織の押しが強すぎて若干引き気味のようだったハジメもこの世界に来て思うことはあったのかもしれない。

 

「そういうことなら仕方あるまい。このままこの部屋に泊まっていくが良い。なぁに心配せずとも俺以外にはおらぬ」

「…………だから困るんだけど」

「困る?」

「別に、アノスはどこに行ってもアノスだなと思っただけよ」

 

 そういってベッドの端に座る雫。普段のはきはきした様子とは違い、しおらしい態度をしていた。

 

「本当に……変わらないわよね、アノスは。出会った頃からいつも自信満々で失敗するなんて考えてないような顔して」

「たしかに、俺の辞書に後悔と不可能の文字は無いな」

 

 前世も今も、できぬと思ったことなど何一つない。だからこそ……

 

「だから雫。お前はなにも心配することはない」

「アノス……」

「お前が内心不安でいっぱいなのは見ていればわかる。だが、それは無用な心配でしかない。なぜかわかるか?」

「アノスがいるから?」

 

 雫の言葉に対し、笑みで返答を行う。

 

「お前はただいつも通りにしていればよい。そうすれば絶対に、俺がお前達を地球に返してやる」

 

 だから何も心配いらぬのだと伝えると、雫はやっと安心したのかほっと息を付く。

 

「不思議……アノスが言うと全部本当になんとかなる気がしてくるわ。異世界に来たって言うのにすぐに順応するし。……案外アノスの前世は、本当に魔王なのかもしれないわね」

「別に隠しているつもりはないのだがな」

「ふふふ。なら……明日も頼りにさせてもらうわね。私の魔王様」

 

 そう言うと雫がこちらに向けて頭を倒してきたので肩を貸してやる。

 

 それから無言で外の月を眺めている間に、雫が眠りに落ちる気配を感じた。

 

 

 ***

 

 

 

 オルクス大迷宮は緑光石という発光する特殊な鉱物の鉱脈を掘って出来ているらしく、特別魔法などで灯りを用意する必要がない場所だった。

 

 

 通路は縦横5m以上あるが、大人数での戦闘を考慮すると決して広いとはいいがたいだろう。よって迷宮の攻略は基本的に縦に隊列を組み、各人が前後左右を警戒しながら進んでいくのがセオリーらしい。

 

 

 以前からの通達の通り、クラスメイト一同は揃って大迷宮の奥に向かって少しずつ進んでいた。

 

 俺が周囲に気を配っていると大半の生徒は緊張で身体を硬くしている。今まで命のやり取りなどに縁がなかったとはいえ、そのままではよくない。とはいえそもそも今回の訓練の目的がまさに新兵に向けたものなので、この訓練を終えるころには全員それなりに身体が動くようになるであろう。

 

 

 俺が一番後方を歩いていると、先頭を歩いていた光輝達が止まる。

 

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

 

 魔力が小さすぎて見逃していたがどうやらネズミがでたらしい。

 

 俺からしたら敵とすら呼べないレベルではあるが、これが初戦闘となる光輝達は緊張しているように見える。特に気持ち悪いものが苦手な雫は不気味な姿をしたネズミに若干引いているようだった。

 

 

 間合いに入ったネズミを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃し、その間に、香織と恵里、鈴が魔法を準備して待機する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ──ッッ!!」

「おらぁぁぁぁぁぁ──ッッ!!」

 

 

 光輝がハイリヒ王国の秘蔵らしい聖剣に魔力を纏わせ、ネズミを数体をまとめて葬り、龍太郎が籠手に付与されている衝撃波の魔法でネズミを吹き飛ばす。

 

 

 雫は、俺が<創造建築(アイリス)>で作った刀を腰だめに構え、一息にネズミを通り過ぎ、まとめて切り払う。抜刀術という概念がないらしいこの世界の住人からしたら、雫の剣技は真新しく映ったのか騎士達が感嘆としていた。

 

 そして前線メンバーがあらかた暴れると後衛に控えていた香織達にスイッチする。

 

 

 ハジメ達が光輝達の戦いぶりに見蕩れていると、後衛組の魔法が発動した。

 

 

「「「”螺炎”」」」

 

 魔力操作を習得したことで詠唱いらずとなった炎魔法が螺旋を描きながらネズミ達に直撃し、灰にする。

 

「よっしゃぁぁぁぁぁ──ッッ!! 楽勝だぜ!!」

 

 戦闘終了を察した龍太郎が真っ先に勝鬨の声を上げる。それにつられるように、今回戦闘に参加しなかったクラスメイト達にも喜びの声が上がる。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

 メルドが油断しないように注意しているが、テンションが上がったクラスメイト達の興奮は収まらない。メルドの顔を見れば多少はしょうがないといった表情を浮かべていた。

 

「はは、みんなすごいなぁ。もう一端の戦士じゃないか……」

 

 ただ一人の非戦闘職ということで、後方に控えていたハジメが苦笑いする。

 

 確かに初陣にしてはよくやった、と言ってやりたいところだが、俺からしたらこの結果は少しお粗末だった。

 

「油断するな。今の光輝達の戦い。初陣だということを差し引いても出来がいいとは言えぬぞ」

 

 俺の声に対し、テンションが上がっていたクラスメイト達が我に返って俺の方を注視する。

 

「まずは後衛組三人。はっきり言って攻撃が過剰すぎる。お前達が今やったのは普通のネズミを駆除するために、火炎放射器を持ち出したに等しい。ここは広いからいいが、場所によっては周囲を巻き込む危険もある。相手を良く見て適切な魔法を使うように心がけよ」

「……あはは」

 

 やりすぎを自覚したのか、香織達は揃って顔を赤くした。俺の魔眼で見た限り、炎魔法に適正があるわけでもないのに、香織が一番過剰攻撃だった。もしかしたら誰かにカッコいいところを見てもらおうと気合を入れたのかもしれない。

 

「次に光輝、お前も力みすぎだ。見よ、無駄に力が入っているせいでネズミ共が粉々ではないか」

「うっ、確かに……」

 

 光輝は自分が倒し、潰れた肉塊になったネズミを見て嫌な顔をする。クラスメイトも気分が悪くなるからか光輝が倒したネズミの方は見ないようにしているようだった。

 

「次に龍太郎……お前は先走りすぎだ。勢いは買うが、それだけではいずれ勝てない敵が出てくるぞ」

「おう! もっと頑張ればいいんだな!」

「龍太郎……本当にわかってるのかしら……」

 

 俺の言葉に対し、龍太郎がいかにもわかっていない返答を返し、雫が呆れてため息をつく。

 

「最後に雫だが……剣捌きに関しては現状言うことはない。ネズミの死体をみればそれは明らかだろう」

 

 崩れて原型が留めていない光輝のネズミの死体と比較して、雫が倒したネズミの死体は綺麗な形を留めている。通りすがりの一撃で確実に急所のみを斬り裂いて倒したことがよくわかる。

 

「アノスの言う通りだ。魔物から取れる魔石は冒険者の貴重な収入源だが、光輝や香織達が倒したラットマンは損壊が激しすぎて魔石が回収できない。魔物によっては魔石だけでなく毛皮なども高く売れる魔物もいる。だからこそ腕の立つ冒険者ほど魔物は綺麗に殺す。みんな覚えておけ」

 

 そう言いながらメルドが雫が倒したネズミから小さい魔石を取り出すと、生徒達から雫に向けて感嘆の声が上がる。

 

「雫ちゃん凄い!」

「えーと、そうなのかしら」

 

 雫は香織に褒められて喜ぶべきか、それが生物の殺生による結果であることに嘆けばいいのかわからないというような顔をしていた。

 

「素直に喜んでもよかろう。だが剣については言うことはないが、魔力操作に関しては別だ。このネズミには死ぬ間際に暴れた形跡が残っているが……お前の魔力操作がもっと上達してくれば、ネズミを死んだことにも気づかせずに倒すことができるようになる」

「……うん!」

 

 俺がアドバイスを送ると雫はほっとしたような顔をして笑みを浮かべた。やはり緊張自体はしていたらしい。だが初陣を果たした以上、今度はもっと余裕をもって対応できるだろう。

 

「ねぇねぇ。アノス様だったら、一体どうやって倒しますか?」

 

 ファンクラブの一人の発言により、俺に注目が集まる。

 

「そうだな…………ふむ、丁度良い。何かお前達の手本になるように倒してやろう」

 

 丁度数匹のネズミがやってきたので俺は光輝達より前に出る。

 

 こちらに寄ってくるネズミに対し、魔眼を向けながらどのように倒すか思案する。

 

 ここは剣を使うのがいいか。それとも他の武器を使うか。それとも魔法を使ってみるか。

 

 俺がしばらく思案していると……

 

「きゅっ! きゅ、きゅうぅぅぅ」

 

 俺に見つめられていたネズミ共が突如痙攣を始め、泡を吹いて倒れてしまった。

 

 

「……」

 

 沈黙が場を支配する中、俺はネズミ達に魔眼を向ける。

 

「ふむ…………事切れておるな」

「なんでよ!!?」

 

 俺の呟きに対し、ツッコミを雫が入れてくるが、何度見ても結果は変わらない。

 

「アノス……あなた一体何したのよ?」

「いや、本当に何もしておらぬのだがな……ふむ、どうやら俺の視線に当てられて、矮小なネズミの心臓が止まってしまったらしい」

「いやそれって……何の参考にもならないじゃない」

「どうやら俺はしばらく前に出るべきではなさそうだな。俺が視線を向けるだけで魔物が死んでしまっては、お前達の訓練にならぬ」

 

 この事実に周りが唖然としている中、ハジメが一人納得する。

 

「そりゃまぁ、最序盤のモンスターが魔王に睨まれたらああなるよね」

 

 周りもどうやらハジメの結論で納得することにして、先を進むことにしたようだった。

 

 

 ***

 

 それから非戦闘職のハジメと、視線を向けただけで魔物が心筋梗塞を起こして勝手に死んでしまう俺を除いて、ローテションで一通り戦闘を経験した。

 

 その間ハジメは俺が命じた通り、周囲の鉱物の鑑定と錬成の行使を繰り返していた。

 

 大迷宮というだけあって、地上にはなかった鉱物なども多数存在することもあって、錬成師であるハジメのレベルアップにもちょうどいいと考えた結果だ。

 

 

 それでは俺だけ何もしていないのかというともちろんそうではない。クラスメイトが戦闘を行うたびに評価するべき点と反省点を伝えて成長を促していた。それを繰り返し、もうすぐ目標の二十階層に到達する前に、クラスメイト達に教えたいことができてきた俺はそれを伝えるために前に出る。

 

「さて、お前達も戦闘に慣れてきた頃であろう。だからここからは魔力操作の応用編だ」

 

 魔力操作の応用編と聞き、クラスメイトが期待の眼差しを向けてくる。

 

 二十階層に到達するまでに、メルドが率いる騎士隊と連携を取ることが幾度かあったが、魔法を詠唱して発動するメルド達に対して、クラスメイト達は無詠唱で魔法を使ってきた。その発動速度はどちらが早いか言うまでもなく、魔力による身体強化も自然にできるのだ。クラスメイト達はメルド達と実戦で比較して、自分達にどれだけアドバンテージがあるか肌で実感した。

 

 

 そしてそれはクラスメイト達だけに留まらない。魔力操作は魔物だけのもの、つまり教会においては禁忌とされる技術でありながら、神の使徒ゆえの例外だと目を瞑ってきた騎士達も、今回の訓練で魔力操作の恩恵が自分達の想像以上に高いことがわかり、周囲を警戒しつつもこちらを注目している。

 

「魔力操作の応用編、お前達には……魔眼を習得してもらう」

 

 

 魔眼という言葉を聞き、一部は首を傾げ、一部がむず痒そうな顔をする。むず痒そうな顔をした代表であるハジメが少し遠慮がちに聞いてくる。

 

「あの……アノス。魔眼って言うのはさ。見たら相手を石化させるとか、物の死を見るとかそういうやつ?」

「ふむ。ハジメの言う魔眼は特殊能力を持っているものだな。だがそれは個人の才能によるもので中々努力で手に入れられるものではない。俺が言っているのは魔力を観る眼と言う意味だ。言うより体験したほうが早いだろう。雫、来てくれ」

 

 

 俺の言葉に素直に従って傍まで来る雫。だが、心なしか少し顔を赤くしているように感じるのは何故なのか。

 

「アノス……まさか魔力操作を習得した時みたいなことにならないでしょうね」

「そんなことにはならぬ。お前は既に魔力を操作できているし、後は使い方を教えるだけだ。まずは……目を閉じるんだ」

 

 素直に目を閉じる雫。

 

「今のお前は訓練により身体に巡る魔力をはっきりと感じられるようになったはずだ。その魔力の流れを操り、両眼に込めて見ろ。最初はゆっくりで構わぬ」

 

 雫の魔力の流れを魔眼で追うと、ぎこちなくはあるが少しずつ魔力が雫の両眼に集まってくる。

 

 魔眼も練度に差はあれど、魔族なら標準的に備えている機能だ。だが、人間も訓練次第では習得は不可能ではない。

 

「そのまま魔力を維持したまま、ゆっくり目を開いてみろ」

 

 言われた通り雫はゆっくりと目を開ける。その両眼には確かに魔力の輝きが宿っているのがわかった。

 

「周りを見渡してみろ。何が見える?」

「えーと、なんか……キラキラしたものが見えるけどこれって……」

「それが空間に漂う魔力だ」

「すごい……部屋中に光が満ちて……すっごく綺麗」

 

 しばらく興味深げに周囲を見渡していた雫だったが、だんだん視覚化された魔力の美しさに見惚れるようになる。

 

「なぁ、アノス。俺は魔力感知という技能を持ってるんだが、それとは違うのか?」

「確かに光輝の持っている魔力感知でも魔力を感じられるがな。人間の五感による知覚の割合は視覚が八割だと言われている。肌で感じるよりも、直接目で見た情報量の方が圧倒的に多い」

 

 光輝と話している間も周りを観察していた雫だが、ある一点に目移りするとそこを凝視し始める。

 

 

「ねぇ、アノス。あの場所。魔力の……流れって言うのかしら。それが集まっているように見えるのだけれど……」

「よく気づいたな。アレは魔法で作られたトラップだ」

「なんだと? 雫、どこにある?」

「あそこの岩陰です」

 

 俺の答えに対し、過剰に反応したのは雫ではなくメルドだった。

 

「おい、フェアスコープで確認しろ!」

「了解しました。…………はい、間違いありません。魔法トラップです!」

「このように魔眼を用いれば、魔力の流れやその強弱、魔力の属性を読み解くことができるようになり、魔力で出来たトラップなら魔眼でわかるようになる。洗練され、深淵をより深く覗くことができるようになれば、魔法を見ただけでその構造がわかるようにもなる。例えばそのトラップは踏んだ瞬間炎上するようになっている」

 

 俺が石に魔力を宿し、トラップに投げ込むと、魔力を感知したトラップが発動し、その場に火柱が立ち上がる。

 

「おいおい、マジか。つまりその魔眼ってのがあれば……」

「そのおもちゃは不要だ」

 

 この二十階層に来るまで、メルドが所有していたフェアスコープという魔力の流れを追うことができるアーティファクトは大活躍していた。だが、このスコープは索敵範囲が狭いという欠点があり、長年の経験で怪しいと思った場所に照射しなければ効果を発揮しない。加えて言えばアーティファクトの一種ということで全ての冒険者パーティーが所有できるものでもないらしい。

 

 それが不要になると言われれば、魔力操作が禁忌であるとわかっていても習得する価値はある。少なくともメルドはその気になっているような気配を感じていた。

 

「ただし慣れない内は過信は厳禁だ。魔力感知を警戒して隠してあるものについてはそれ相応に熟練された魔眼でしか見破れぬし、魔眼に注意するあまり、身の守りがおろそかになっては本末転倒だ」

 

 そう言って、魔眼に気を取られるあまり、身体強化がおろそかになっている雫の背中を指でつく。

 

「ひゃんッ! な、何するのよアノス!」

「この通り。身体強化がおろそかになることもある。理想は魔眼を使いつつ身体強化や魔法を使うことだが、これは訓練あるのみだ。これから進む際にはまずは立ち止まって魔眼で周囲を確認することを心がけよ」

 

 

 ***

 

 そして俺達は二十階層の探索を開始した。

 

 その間も、魔眼を身に着けたクラスメイト達の訓練は続く。

 

「アノス。あの壁、魔力を放ってるけどこれって……魔物かしら?」

「正解だ。魔力の性質が理解できるようになると、それが魔法なのか魔物の魔力なのかがはっきりわかるようになってくる」

 

 雫が看破した魔物。メルド曰くロックマウントという魔物が擬態を解き、後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸い始めた。

 

「おい、なんか魔力が口周りに集まってきてるぜ。これビームでも出すんじゃねぇか!」

 

 魔眼でロックマウントを見た龍太郎が、ビームを出すと予想して魔力操作により金剛を発動しつつ身構えた。

 

「残念ながら違うな。もっと良く見ろ。魔力は口ではなく喉元に集まっている。その上で大きく息を吸い始めたということは……防御すべきは身体ではなく耳だ」

 

 俺の忠告のすぐ後、

 

「グゥガガガァァァァアアアア────!!」

 

 

 部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「っっぅぅ」

 

 当てが外れた龍太郎と対応が遅れた光輝は、咆哮をもろに喰らってしまってしばらく硬直状態になり、辛うじて耳に魔力を集中させて防御した雫も耳が痛いのか手で耳を抑えている。

 

「魔眼を磨けば相手の行動が先んじてわかるようになり、その攻撃に対しより効果的な対処ができるようになる。そして魔力を集中させることができるのは眼だけではない。耳に集中させれば音響攻撃を防げるだけでなく、聴力を強化することもできる」

「ああああ、アノス君。解説してもらってるところ悪いんだけどなんか来てるからッ!!」

 

 香織が焦るように、俺が解説している間にもロックマウントは前衛を飛び越えてきていた。跳んだロックマウントの内一体は前衛で一人だけ無事だった雫が斬り捨てたが、内に二体が香織達の方へ迫る。

 

「香織ッ!」

 

 香織のピンチに駆け付けるべく。光輝が聖剣に魔力を集中させ、香織達に迫るロックマウントに向けて聖剣を向ける。

 

「”天翔閃”」

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

 

 メルドの声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 その瞬間、強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

「香織ッ、無事か!」

「光輝君。うん……私は無事だけど……その、後ろ」

「へ? へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

 香織がピンチだとわかり、力が入りすぎたのだろう。今回の攻撃は最初のネズミ以上の過剰攻撃だった。龍太郎もそうだが、熱くなると冷静な判断力を失う癖をどうにかするのが光輝の今後の課題だ。俺は密かに光輝の大魔王教練の内容に精神鍛錬を付け加えた。

 

 その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向ける。

 

 

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 

 メルド曰くグランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものなのだという。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるので、求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るらしい。

 

「素敵……」

 

 

 香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、雫と俺はその視線に気がついていたが……

 

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 

 そう言って唐突に動き出したのは大介だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルドだ。

 

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

 しかし、大介は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

 

 そこで生徒の多数が魔眼を、メルド隊の騎士がフェアスコープを同時に向けた瞬間、顔が青ざめた。

 

「ちょっ、檜山!」

 

 慌てたクラスメイトの一人、園部優花が慌てて大介を止めようとするが、もう遅い。

 

 その手は後数瞬でグランツ鉱石に触れるというところまで来て……

 

 

 

「待て、愚か者」

 

 

 俺は<森羅万掌(イ・グネアス)*1を発動し、大介の首根っこを引っ張った。

 

 

「ぐえッ!」

 

 鶏の首を絞めるような音が聞こえ、大介が上空に浮いた後、同じくカエルが潰れるような声を出しながら空中で落下した。

 

「げほ、げほ、何しやがるアノス!」

「何か怪しいものが現れたら魔眼で見よと先ほどから言っているだろう。アレはトラップだ。しかも今までの物よりかなり大掛かりな仕掛けになっているな。触れた者の周囲を巻き添いに、大迷宮の六十五階層の最深部に強制転移する仕組みになっている」

「六十五階層の最深部だとッッ。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかったベヒモスという怪物がいるエリアじゃないか!!」

 

 どうやらメルド達にとって思っていたより大事だったらしく騎士達も皆顔を青くしている。

 

「檜山ッ、あんたねぇ!」

「ほんと気を付けろよ!」

「危うく死ぬところだったじゃねぇか!」

「うう、わ、悪かったよ……」

 

 クラスメイト達もメルド達の様子から自分達が危うく死地に飛ばされる寸前だったと理解したことで、パーティー全滅の危険を招きかけた大介に非難の声を浴びせる。どうやら流石の大介も自分の行動が軽率だったと反省したらしく弱々しい声でクラスメイトに謝罪する。

 

「けど残念ね。せっかく綺麗なのに……罠じゃ取れないのよね。あの石……」

「いや、そうでもない」

 

 雫が残念そうにつぶやくので、ここで一つ魔眼の別の使い方を教えることにする。

 

「魔眼は基本的に見るだけの能力だ。もちろんこれだけでも有用ではあるが……才あるものが使用すれば、このようなこともできる」

 

 俺は天井に張り付いているグランツ鉱石に向かって、<破滅の魔眼>を使用した。

 

 そして使用直後、天井のグランツ鉱石が罅割れ出したことで、周りが一斉に距離を取るが、俺は落ちてきたグランツ鉱石を手で受ける。

 

「アノスッ、それ、触っていいの?」

「問題ない。反魔法の力を宿した破滅の魔眼という力で仕掛けられた魔法を破壊した。付与された魔法さえ破壊してしまえば、これはもうただの鉱石だ。さて……ではこれを…………ハジメ」

「えっ、ああ、ちょっ、とと」

 

 手にした鉱石をどうするかわずかに思案して、俺はハジメに向けて鉱石を投げる。

 

 急に投げられた鉱石をハジメは慌てて両腕で抱えた。

 

「錬成は様々な鉱物に使えば使うほど上達する。これが希少な鉱石なら錬成の訓練にはちょうど良い」

「えっ、じゃあどうしようかな。武器にするには脆そうだから本当に装飾品にしてみようか。それとも……武器の装飾に贅沢に使うべきか……ん?」

 

 ハジメは一人手にしたグランツ鉱石の使い道を考えていたようだが、すぐ側で香織がハジメをじっと見ていることに気付いたようだ。

 

「えーと……香織?」

 

 じ──

 

「あの……そんなに見つめてどうしたの?」

 

 じ────

 

 ハジメの疑問に答えず。擬音が聞こえそうなほど期待に満ちた目でハジメを見つめる香織。

 

「その…………ペンダントとかでいい?」

 

 ハジメも香織が何を欲しているのか察したのか。グランツ鉱石でペンダントを作る約束をすると、香織が花開くような表情を浮かべる。

 

「雫も欲しかったか?」

「えっ!? 私はそんな……別に……」

「そんなに物欲しそうにしていては説得力がないな。とはいえあれはハジメに上げたしな。他に何か面白い物を見つけたら加工して何か作ってやろう」

「本当に!?」

 

 先ほどからグランツ鉱石を物欲しそうに見ていたのが丸わかりだった。そう考えると雫も装飾品に興味を持つ普通の女の子なのだろう。

 

「さて、それはともかく……メルド。ここからどうする? 二十階層の最深部はすぐそこだが?」

「いや、今回は此処で終了だ。我々の把握していない新種のトラップが見つかった以上、一度騎士団で正式に調査しなければならんだろう。よって今から帰還する。帰りは今までの道を逆に進むことになるから、学んだことを復習しながら帰るように!」

 

 今回の演習では特に問題らしきものが起こることなく終了した。クラスメイトを見渡すと、特に大きな怪我を負ったものもおらず、今回の演習で少しは自信がついたのか皆表情は明るい。

 

 とはいえ、クラスメイトはそれでいいのだが……

 

「これでは俺がつまらんな」

 

 俺はこの大迷宮の下、すなわちより難易度の高い迷宮が広がっているであろう足元を魔眼で見つめるのだった。

*1
蒼白く光る手によって、距離を越えてあらゆる物を掌握する魔法。




ベヒモス「あれ? 俺の出番は?」
アノス「ありふれだからと言って、出番があるとでも思ったか?」
ベヒモスと戦う以前に、アノスがいてトラップに引っかかるとかない。

>魔眼
おそらく魔王学院の魔族は標準装備してると思われる能力。
ビ○ケ「いいこと? 何か怪しい雰囲気を感じたら何をおいても"凝"。いいね?」
つまりこういうこと

次回は躍進する錬成師と奈落を散歩する魔王のお話。
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