ハジメのパワーアップイベントとスルーされた奈落イベントを発生させます。
皆さんのご評価のおかげで久しぶりに自作品がランキング入りしました。
本作から入った人は神座万象シリーズとのクロスオーバーである「ありふれた日常へ永劫破壊」の方も連載してるのでぜひ読んでみて下さい。
初めての実戦訓練を終え、誰一人欠けることなく無事に戻ってきた俺達は一旦王都に戻ってきていた。
本来ならしばらくホルアドに滞在し、大迷宮にて訓練を続ける予定だったが、俺達が発見したトラップが王国が把握していない未知のものだった挙句、六十五層の最深部へ強制転移するという極めて危険度の高い罠──罠自体は俺が壊したので、メルドにグランツ鉱石に刻まれていた転移術式を提供した──だったため、しばらく王国騎士団による調査が入ることになったのだ。
これには大迷宮を利用して生計を立てている他の冒険者からの文句も出たようだが、見つかったのが即死トラップに近い代物だとわかってからは大きな声で文句を言う奴らはいなくなった。
そして王都に戻ってきて早5日。俺は王宮外の訓練場にて、一人の生徒の修練の結果を待っていた。
「アノス……これが現状の僕の最高傑作だよ」
緊張の面持ちをしながら俺に一本の剣を差し出してくるのは錬成師南雲ハジメ。
ここにいるのはハジメだけではなく、ハジメがこの世界に来てからずっと世話になっている王国お抱えの錬成工房の錬成師達、他のメンバーの訓練の合間に様子見しに来たメルド。そしてどこからか聞きつけた香織と付き添いの雫。
ここにいる全員が、これから行われることの是非を見守っていた。
「では、始めるぞ」
俺はハジメから剣を受け取ると、ハジメが錬成した剣と同じものを<
固唾を呑む気配を感じながら俺は、自分で作成した剣をハジメが作成した剣に叩きつけた。
訓練場に、金属同士がぶつかるカン高い音が響き渡り、今までハジメが作った剣では起きなかった快音に、場の緊張が高まる。
響き渡る音が鳴り止む頃に手元に残ったものは、俺の剣を打ちつけられてなお、刃こぼれ一つない鋼の刃。
「ふむ、細かいところを上げればまだ改善の余地はあるだろうが……これなら次のステップに進んでもよいだろう」
「ほ、本当に!?」
「おめでとう、ハジメ君!」
「やったな! ハー坊」
俺の評価に対し、安堵の表情を浮かべるハジメと我が事のように喜ぶ香織。
そしてハジメに錬成の基本から教えた錬成工房の責任者のウォルペンが、ハジメの頭をガシガシ撫でながら喜びの表情を浮かべている。
「ほう……俺にも見せてもらっても良いか」
「私にも見せてちょうだい!」
ハジメが他の錬成工房の職人達と香織に揉みくちゃにされている間に、メルドと雫がハジメの作った剣に興味を示す。
「これ……すごい。なんて綺麗な刀身」
「ああ、素晴らしいな。これを錬成を覚えてたった数週間の若造が作ったんだからな。超一流の錬成師が作った業物とまったく遜色ないぞ」
ハジメの作った剣を見て感嘆の声を漏らすメルドと雫。どちらも剣に精通する者同士、ハジメの作った剣の出来栄えがわかるようだ。
「これでようやく土台ができたというところだな。だからハジメにとってはこれからが本番になる。訓練が終わったら俺の元に来い。お前に渡すものがある」
そして俺も、この時のために準備していたものがある。
思っていたよりも早く出番が来て何よりだ。
***
そして訓練が終了後、ハジメが一人俺の部屋までやってきた。
「それで、僕に渡したいものって何かな?」
「ああ、それは俺がお前用に調整、開発した魔法でな。その前に錬成だけではなぜアーティファクトが作れないか把握はしてるな?」
「うん。普通の武器とアーティファクトの違い。それは物に魔力が宿っているか宿っていないかだよね」
どれだけ優れた錬成師であろうとも、錬成の魔法だけでは魔力を持った剣は作れない。
極めて優れた業物は作れても、魔力が宿っていない以上、鋼の剣以上の物にはならないのだ。
もちろん武器に魔力を付与して一時的に強化する魔法は俺も確認しているし、メルドの騎士団でも普通に使われているが、それは一時的なものに過ぎない。
「魔力を持った武器、魔剣や聖剣と言ったものを使いこなすことができれば、その持ち主に巨大な力を与える。人の身では到底太刀打ちできない存在をも滅ぼすことも可能になる」
恐らくこの世で俺を滅ぼすことのできる唯一の武器、霊神人剣エヴァンスマナ。あの規格外の聖剣を、勇者として隔絶した力と意思力を持っていたカノンが使うことで、暴虐の魔王であるこの俺に迫ることができた。
この世界でもその理屈は変わらない。相性のいいアーティファクトを使いこなすことができれば、その人間の力を何倍にも何十倍にもすることができる。
「アノスはそれを僕に作れって言うんだよね」
「そうだ。お前がアーティファクトの製造に成功したとあれば、影でお前を侮辱している連中の口は永久に閉ざされるだろう」
「まぁ影で何を言われようと気にしないけど、聖剣や魔剣を作れるようになるのは純粋に楽しみかな。実はこの世界に来てからずっと構想してたりして……」
元々聖剣や魔剣といった物が好きなハジメだ。実際それを作れるようになるとあって気炎を燃やしているらしい。
「では早速その魔法を教えるわけだが……少し普通とは違う形での授与になる」
「魔法陣を教えてくれるだけじゃないってこと?」
「現状俺だけが使える魔法をこの世界の魔法で再現したものだ。普通の魔法より複雑だからな。魔法陣として管理するより、直接脳に刻み込んだ方が利便性が高いと判断した」
「なるほど…………えっ?」
そのまま頷いたハジメだが、俺の言葉に反応する。
「えーと、今……直接脳に刻むって聞こえたような……」
「聞き間違いではないぞ。なに、心配はいらぬ。少しだけ痛いかもしれないがそれだけだ」
「えっ、いやちょっ……待って、あああああああ」
後ろに後退して逃げようとするハジメの頭を素早く手で掴み、魔法を流し始めた。
「あばばばばばばば──ッ!」
ハジメが愉快な声を上げるもすぐに処置は完了する。
「これで施術は完了だ。これでお前は、物に魔力を付与する魔法を行使できるようになった」
「痛たた。えーと、どれどれ……」
頭を抱えながらよろめくハジメはステータスプレートを確認し始めた。
「あ、確かに技能欄に魔法が増えてる。この『生成魔法』ってのがそうなのかな」
「生成魔法?」
「えっ、違うの!?」
「いや、特に魔法に名を付けた覚えはなかったのでな。おそらくそれで間違っておるまい」
俺がこの世界に合わせて作った魔法だが、どうやらこの世界では生成魔法というものに分類されるらしい。
「早速なんだけど……試してみてもいい?」
「構わぬ」
ハジメが作ったばかりの鋼の剣を机の上に置き、思案する。
「……この魔法、鉱物に魔法の効果を持たせられるみたいだけど、まずは炎属性の魔法を付与して……あっ、それなら形も少し変えて……」
ハジメが楽しそうに錬成する剣について思案している間に、俺は王国の図書館に通った際に詰め込んだ知識の中から『生成魔法』について探り出す。
生成魔法……エヒトがこの世界を作った際に使用された神代魔法に分類されるものだと記されていた。現代に伝わる魔法はその神代魔法の劣化であり、七つあるとされる神代魔法そのものは遥か神話の時代に失われたらしい。
つまりこのままこの世界の神代魔法を再現することができれば、地球に帰還するのに役に立つかもしれない。
いかにしてこの世界から地球へ帰るのかをずっと考えてきたが、思わぬところで方針が見えてきた。俺の世界の魔法で帰還用の魔法を一から作るより、この世界にある魔法を再現したほうが早そうだ。
「よし、これでいこう。アノス、準備できたよ」
「よし、ならやって見せよ」
準備ができたハジメは剣の側に炎魔法が刻まれた魔石を置き、息を整える。
「”錬成”」
ハジメは一度作った剣を崩し……
「そして”生成”」
手に入れた神代魔法を加え、再び再錬成した。
「よしッ、完成だ!」
出来上がった剣は、シンプルだった直剣が禍々しい形に変わっている。どうやらハジメは聖剣よりも魔剣寄りの剣を作ったらしい。
「鋼の剣に炎属性の魔法と魔力放出の基礎魔法を生成魔法で付与してみた。後はこれに魔力を籠めれば……」
出来立ての魔剣を両手で握り、魔力操作にて魔力を流す。
すると刻まれた魔力が引き出され、刀身に炎を纏いだす。
「できた……すごい……本当に魔剣だ……」
出来たばかりの魔剣を見たが、正直千年前のディルヘイドに落ちていた木の枝の方が魔力が籠っている。だが、初めて自分で作った魔剣に感動しているハジメにわざわざ水を差すこともない。
「けど想定してたより出力が低いなぁ。やっぱり炎属性に適正のある人か、もっと魔力が多い人が使わないと……あと、いつもより疲れるね。これ……」
途中で苦しくなったのか、ハジメが魔剣の炎を消して一息つく。ハジメを魔眼で見ると、慣れない魔法を使ったせいか、いつもより多めに魔力を消費していることがわかった。
「出来に関しては初めて作ったのだからこんなものだろう。疲労に関しては生成魔法は他の魔法より魔力消費が激しいみたいだからな、これまで通り魔力を鍛える鍛錬は日々こなせ。それに生成魔法とて他の魔法と同じだ。鍛えれば鍛えるほど、深淵を理解すればするほど、できることが増えていくはずだ。そうすれば錬成したアーティファクトの質も上がっていく。そういう日々の積み重ねの果てに伝説級の魔剣や聖剣は生まれるのだと心得よ」
「そうだね。生成魔法……まだまだ色々できそうだし、明日からも頑張るよ」
「そうしろ。今後は生成魔法も含めた訓練カリキュラムも考えておこう。ああ、それと……作ったものには名を付けるとよい。名前が力になることもあるからな」
「そうだな~。よし、この魔剣の名前は……」
──魔剣ゼフリードなんてどうかな?
***
南雲ハジメがアーティファクトの錬成に成功した。
この事実はすぐに王国や教会に広まるに至った。
翌日、ハジメが錬成した魔剣をメルドに提出したところ、あの程度の出来でもメルドにとっては十分な価値のあるものだったらしい。ハジメが鋼の剣を作った時以上の驚愕を見せていた。
そしてハジメがアーティファクトの錬成ができるとわかった結果、無能だと評価されていたハジメの評価は一瞬で掌を返すことになった。
アーティファクトの錬成は記録に残っている限り数千年ぶりの快挙らしく、王国上層部や教会の者どもは飛び上がるようにして喜んだ。
使えば普通の武具より遥かに強力な力があるのに、貴重ゆえに手に入らなかったアーティファクトがこれから増産できるかもしれないのだ。敵の魔人族が魔物を率いるのなら、こちらはアーティファクトの増産で対抗できるとも考えているのかもしれない。
ともかく、この成果を持ってハジメの境遇は大きく変わり、王都にハジメ専用の錬成工房まで作られることになった。
どうやってアーティファクトの錬成に成功したのか多方面から聞かれたハジメだが……
「日々神への祈りを捧げ、精進していたところ、エヒト神に与えられた奇跡の力が覚醒しました。これも全てこの力を人族の未来のために使えというエヒト神のお導きに違いありません」
などといかにも教会の連中が好みそうな回答でお茶を濁した。
生成魔法については他言無用だとハジメには言ってある。神代魔法について確実に知っているであろう教会の連中に知られるのは面倒なことになるだろうからな。少なくともハジメを含め、光輝達が独り立ちできるようになるまでは教会とことを構えぬほうがいい。
これからハジメは色々な意味で注目を集め、時には狙われるようになるかもしれない。そのことは皆には伝えた。
その結果、何を警戒しているのか香織が以前に増してハジメと行動を共にするようになり、クラスメイトの躍進に対して自分も負けないように訓練に精を出す生徒が増えた。
メルド曰く、この調子でいけば次のオルクス大迷宮への遠征では倍の40階層まで行けるようになるとの見込みだ。
とはいえ、それはあくまでクラスメイトの都合だ。
クラスメイトがしばらく王都にて訓練に勤しむ間、俺が何をしていたかというと……
「少しは期待してきてみれば……所詮はこの程度か」
「グルルルゥゥゥゥ……」
俺は一足先にオルクス大迷宮六十五階層の最深部まで来ていた。
目の前には一際巨大な四つ足の恐竜のような姿の魔物。周囲には次々に湧き出てくる骸骨の兵士。
確かにベヒモスとやらも骸骨の魔物も二十階層の魔物と比べればレベルが高いのは事実だ。今の光輝達では攻略が難しいのも確か。
だが……
やれやれ、これではいつまで経っても俺のレベルは上がりそうにない。
俺を囲んでいた骸骨が俺に向かって一斉に飛びかかってきたので、指を弾く。するとその音と共に全方位に発生した風の刃が骸骨を一瞬で粉々にした。
「後はお前だけだ……来い」
俺はベヒモスに向かって魔力を放ち挑発する。それを持って侮辱されていると思ったのか、ツノを赤くした状態でベヒモスが猛然と突進してきた。
巨体による体重、魔力により強化された鎧のような皮膚。そして短距離でありながらトップスピードまで加速する足のバネ。
メルド達が防御魔法を重ねても容易く破られることが予想できるその攻撃を俺は……
──片手を前に突き出すことで受け止めた。
「グロォォ!?」
自身最強の技を受け止められたベヒモスから動揺したような気配を感じたが、俺は気にせずベヒモスを片手で持ち上げながらこの後のことを考え始める。
「グガァァ、ガァァ」
このまま普通に降りて行ってもよいが、正直俺に傷を負わせるレベルの敵が現れるのがいつになるかわからない。
「グルゥゥゥゥ、グゥグゥ(じたじた)」
俺が一人迷宮のトラップを再現してここまで来たのは、俺の力を呼び覚ますため。より身の危険を感じる環境に身を置けば、いつまで経っても目覚めない滅びの根源が目を覚ますと思ったからだ。
「だが現れたのがこれではな」
俺は手に持っていたベヒモスを天井近くまで放り投げ、キャッチするという行為を繰り返す。最初は抵抗していたこいつだが、力の差を感じ取ったのか抵抗せずに大人しくなってしまった。
人類最高到達域の魔物がこれでは、この先も期待できぬな。
そうやって遊んでいた俺だが、足元がひび割れて来ていることにようやく気づいた。
「む?」
「グルゥ?」
そしてベヒモスの重量に耐えられなくなった脆い橋は、耐久限度を超え崩れ落ちた。
「グウァアアア!?」
「<
足場が崩れたとて焦る必要はない。飛行魔法を使えば終わりである。だが飛行魔法など使えないベヒモスは抵抗も虚しく奈落へと消えていった。
ふむ、ベヒモスの魔力を辿ってみれば、どうやらこの奈落の底にも迷宮は続いているらしい。
わざわざ面倒な攻略をしなくてもいいかもしれない。
そう考えた俺はベヒモスに倣って、そのまま奈落の底に落下した。
***
奈落の底の世界は、上層よりも愉快な光景が広がっていた。
空中を素早くかけるウサギの魔物。
雷を纏う尾が二つある狼の魔物
そして風を放つ爪を携えた熊の魔物。
上層では見られないような愉快な魔物達が、人の手が入っていない自然を生き抜くためにサバイバルをしている光景は中々面白かったと言ってもいい。
とはいえ敵として見るなら準備運動くらいにしかならないわけだが。
俺は向かってきた爪熊が振り下ろして来た自慢の爪を一瞬で剥ぎ取り、カウンターの要領で爪を熊の心臓に突き立てながら今後の予定を変更する。
確かに現状ここでも準備運動くらいにしかならない。だが逆に言えばここなら準備運動くらいにはなるのである。
大迷宮は階層が深くなれば深くなるほど魔物が強力になるのなら、これから先を進んでいけば敵のレベルが錆落としができるくらいになるやもしれぬ。
<
未知の異世界に存在する未知の大迷宮。果たしてその奥には何があるのか。
「父さんや母さんに土産話の一つでもしてやれればよいがな」
せっかく異世界に来たのだから少しでも楽しまなくては損だろう。
その想いを胸に俺は奈落の底を一人探検するのだった。
奈落に落ちないとハジメが生成魔法を入手できないという問題に対する答え。アノスなら発想があれば神代魔法くらい自分で作れる。
アノスにとって奈落の底は珍しい動物がいっぱいいるテーマパーク。
もうちょっと無双シーンを入れようかと思いましたが、アノスがワンパンでひたすら無双していくだけなので省略。
次回はクラスメイトの訓練をやりつつ、一気に封印された吸血鬼との出会いまで行きます。