それから地上でクラスメイトの訓練を行うのと並行するようにオルクス大迷宮の地下を探索する日々が続いた。
クラスメイト達はメルドの教えによる基礎訓練を終え、それぞれ専門分野を鍛える段階に入ったので大魔王教練も一段階上の訓練を開始した。
「きゃぁぁぁぁ──ッッ!!」
訓練所に俺の風魔法を受けて吹き飛ばされる雫の声が響き渡る。
「雫ッ……クソ、アノスッ!」
雫がやられたことに触発された光輝が身体強化を施した上で俺に猛然と迫る。
元々八重樫流道場にて鍛えられた剣術にこの世界の戦闘術が加わることで、光輝の剣は以前よりもより洗練され、実戦的になっている。だが……
「お前の剣はいささか素直すぎる。もう少し駆け引きを覚えねば俺には届かぬぞ。そら……」
「くっ!」
光輝の聖剣を弾き返し、今度は俺から攻める。今の光輝が必死になれば対処できるレベルの攻撃を行う俺に対し、負けてなるものかと光輝が顔を歪ませて喰らいつく。
「貰ったぜ!」
「そう思うなら声に出すな。せっかくの奇襲がバレバレだぞ」
背後から肉体強化した上で迫る龍太郎に対し、光輝を身体ごと吹き飛ばすことでまとめて壁まで吹き飛ばす。
「「ぐはっ」」
「アノスッ!」
そして吹き飛ばされた光輝達に入れ替わるように、香織による治癒魔法によって回復した雫が風魔法を纏った状態で俺に接近してくる。
「ほう、風魔法を常時纏うことによって魔法制御を効率化したのか。魔力消費量の問題を考えなければ悪くない選択だが……果たして使いこなせるか、見させてもらうぞ!」
「行くわよ!」
風の力で速力と膂力を増幅した雫の剣が俺に迫る。
その姿はまるで近づいたものを切り刻む小型の竜巻。
ジェット噴射のように加速した剣速とようやく馴染み始めた八重樫流の剣術との組み合わせはこの世界レベルで非常に凶悪なものになっている。
とはいえ欠点がないわけではない。
「その状態はやはり魔力消費量が多いな。短期決戦であるなら有用かもしれぬが、戦場で魔力枯渇のリスクを考えれば改良しなくてはならんな」
「どうしてッ、あんたはッ、解説しながらッ、私の剣を躱せるのよ!」
「ふむ、それは慣れだな」
潜在能力こそ高い雫だが、まだまだ発展途上。剣士としてはかつての俺の右腕と比較して足元にも及んでいない。こればっかりは長い修練と多くの戦場を越えねば身につかないだろう。
「では、今日の訓練はこれまでとする!」
それから数十分後、訓練の終了を言い渡すと、ほぼ全員がその場に倒れ込んだ。光輝は俺に弱みを見せないように聖剣を杖替わりにして必死に立っているが足が震えているのが印象に残った。
小物四兄弟などは精魂尽き果てたのか、倒れたままピクリとも動かない。意識はあるようなので成長したほうだろう。以前は四人とも気絶していたからな。
「明日からは大迷宮に戻るわけだが、今のお前達ならば六十五階層、ベヒモスも容易に突破できるであろう。一先ずよくやったと言っておく」
「どうして、はぁはぁ、わかるのよ」
「実際一人で赴いて戦ってみたからな。今のお前達なら倒せると判断した」
「…………もうツッコミを入れる気もおきない」
流石の雫も息も絶え絶えだった。とはいえこの程度の訓練で根を上げられては困る。なぜならある魔法がこの世界で正しく使用できるかわかるまでは、本気の訓練は控えているのだから。
「さて、後は他のグループも見てやらねばな」
訓練を開始して三週間くらい経過するが、成長度の差や、得意分野の明確化により、クラス内でもいくつかのパーティーに分かれ始めている。
光輝がリーダーである最も成長度が高く、戦闘にて最前線で戦うチーム。通称勇者パーティー。
柔道部の永山重吾がリーダーである勇者パーティの次に成長度が高く、辻綾子の医療院での治療活動や遠藤浩介の諜報活動など、戦闘以外にも臨機応変に対応するチーム。通称遊撃パーティー。
天職を活かすために旅に出る教師、畑山愛子の護衛を買って出た者達。園部優花がリーダーの通称護衛パーティー。
後は常に楽をしたがるが、俺が許さず前線に居続ける小物四兄弟。そもそも性格的に戦いに向いておらず、戦闘以外に技能を活用しようとする居残り組。俺のファンユニオン。その他俺やハジメなどのパーティーに囚われず活動するものなど多種多様だ。
現在メインで取り組んでいるオルクス大迷宮攻略は極めて順調。もし光輝達がベヒモスを倒し、人類前人未踏の境地に到達すれば、俺抜きでも人類にとって替えの効かない戦力を保有することを意味する。そうなれば俺はもっと本格的にこの世界の探索を行うことができるようになるだろう。
今俺が行っている奈落攻略はその先駆けだ。
***
そしてそのオルクス大迷宮の奈落は歯応えはないが、退屈はしない場所だった。
石化攻撃を行ってくるトカゲ。
羽を銃弾のように撃ってくるフクロウ。
可燃性の高い液体の中を自由に泳ぎ襲ってくるサメ。
虹色のカエルに巨大なムカデに樹木の魔物。
まるで魔物のテーマパークのようである。魔族であり、どちらかというと魔物を使役したり魔物を<
「とはいえ魔力が戻らんのは変わらんがな」
多種多様な奈落の魔物だが、残念ながら俺を満足させるレベルの強さを持っていない。
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アノス・ヴォルディゴード 17歳 男 レベル:2
天職:魔王
筋力:20000
体力:20000
耐性:20000
敏捷:20000
魔力:20000
魔耐:20000
技能:全属性適性・全魔法適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・魔法解析・術式改竄・魔法生成・魔力操作・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・即死無効・状態異常無効・瞬光・格闘術・剣術・豪腕・豪脚・縮地・無拍子・先読・威圧・魔眼・魔言・言語理解
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とはいえ多少錆落としの効果はあったのか、ようやくトータス基準でレベル2程度の力は戻ったらしい。だがこれ以上の力を求めるのであれば、本気で俺が死闘を演じるレベルの戦闘を行う必要があるだろう。
そして奈落の探検も五十階層に到達する頃、明らかに異質な場所に出てきた。
それは、なんとも奇妙な空間だった。
脇道の突き当りにある空けた場所には、高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。
「ほう、中々興味深いな」
俺がその空間に足を踏み入れた瞬間、今までの階層ではなかったプレッシャーを感じた。
その心地よいプレッシャーに身を任せつつ、扉に向かって前進する。
近くで見れば益々、見事な装飾が施されているとわかる。そして、中央に二つの窪みのある魔法陣が描かれているのがわかった。
「これは……封印か。いや、封印というよりも……中のものを守るための結界の方が近いか」
その扉は地上では見なかった魔法式で書かれており、そのことからかなり古いものであることがわかる。
その術式は中のものを出さないようにすることより、侵入者を警戒しての要素が強い構造になっており、無理やり動かすと仕掛けられたトラップが作動するようになっている。
「面白い。何者かがこれほど頑丈に封印を施してまで守りたかったものが、この先にあるというわけか」
ここまで到達できるものなど現代では一人もいないだろう。それにも関わらずこれほど強固な封印を施す理由は何か。この封印の術者は何を恐れていたのか。
俺は扉に手を付き、封印を順番に解体していく。
だがその途中でトラップが作動し、俺の手は弾かれる。
「貴様たちはさしずめ、この扉の奥のものを守るガーディアンというところか」
俺はすぐ側に合った石造から変化した二体のサイクロプスを見る。
──オォォオオオオオオ!!
「さて、お前達はどの程度の力を持っているのか、試させてもらおう。<
俺の世界の最下級炎属性魔法を使う。ここに至るまでこの魔法を防げた魔物はいなかった。だからこれが防げるかで敵のレベルがわかる。
俺が出した炎を前に、赤い方のサイクロプスが腕を前に出し、結界にて俺の火炎を防ぐ。
「ほう、これを防ぐか。ならばこいつはどうだ?」
俺は適当にそこらに落ちている石を赤い方の目玉目掛けて投擲する。俺の筋力で石を投げれば、それだけで銃弾に匹敵する。だが今度は赤い方を庇うようにして青いサイクロプスが前に出て来て防御障壁を展開して攻撃を防いだ。
「なるほど、赤い方が魔法防御、青い方が物理防御を担当していると言うわけか。相手を倒すのではなく扉を守る守護者としてなら確かに合理的な考えだが……果たしてどこまで防げるかな」
俺は<
「グゥオオオオオオオ──ッッ!!」
その障壁をあっさり貫通し、目玉を撃ち抜かれて青いサイクロプスが倒れ込む。
「まあまあ頑丈だったが、こんなものか。さて次は貴様だが、これは耐えられるかな? ──<
俺がやったのは単純明快。魔法の威力を上げただけである。先ほどよりも一ランク上の炎魔法。その黒い炎を受けて多少後退しつつもその赤いサイクロプスは何とか攻撃を耐えきる。
「これを耐えるのか、では次だ。<
魔炎は炎属性魔法の中でも中間に位置する魔法になる。今の俺の魔力では千年前と比較して弱火くらいの火力しかないが、果たして。
果敢に魔炎に突っ込むサイクロプスだが、流石にこれには耐えられなかったのか、即座に障壁は破られ、全身炎上する。
「グゥオオオオオオ──ッッ!!」
結果奴は敗れた。だが青い方と共通すること。それは決して扉の前から動かなかったことだろう。
それほど、この扉の奥にあるものを守りたかったのだと伝わってくるようだった。
「この世界に来てからだとまあまあ強かった方だ、誇るがよい。なに、扉の奥にあるものもお前達の健闘に免じて悪いようにはせん。だから安心して眠るといい」
その言葉が通じたかはわからぬが、赤いサイクロプスは炎上しながら静かに目を閉じ、赤い魔石だけ残して消滅した。
「これが鍵になるわけか。つまり……この中のものを守るのと同時に、託すことも想定しているのであろうな」
そうでなければこんな仕組みにはすまい。俺は益々この扉の奥にあるものに興味を惹かれ、二つの魔石を扉にはめ込んだ。
直後、魔石から赤黒い魔力光が迸り魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。同時に部屋全体に魔力が行き渡っているのか周囲の壁が発光し、明かりが点灯する。
開いた扉の奥は光一つなく真っ暗闇で、大きな空間が広がっているようだ。
中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、光沢を放っている。
「……だれ?」
立方体の中に埋もれるようにして存在しているのはどうやら少女らしい。差し込んだ光がその正体を暴く。
上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗いている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。
「なるほど、これがこの部屋の創造主が守りたかったものか」
俺の声に反応して言葉が通じることがわかったのか、ぼんやりしていた少女は途端に慌て始める。
「……お願い! ……助けて……」
「ふむ……」
助けてと来たか。
封印の作りや先ほどの守護者のことから、この部屋の創造主のこの少女への想いやりの心が伝わってきたと思ったが、どうやらこの少女は違う認識を持っているらしい。
「どうしてこんな場所にいる? 一体何があった?」
「………………裏切られたの」
俺の言葉に対し、少し戸惑うような雰囲気を感じたが、ここで俺の質問に答えずに去られては困ると思ったのか、掠れた声で一言だけ発する。
「裏切られたか。ならどうしてこんな場所に封印された?」
「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」
「吸血鬼……確か血を魔力に変換する能力を持った種族だな。つまりお前は吸血鬼の中でも特別強力な力を持って生まれたがゆえに、存在自体を危険視され封じられたということか」
首を縦に振って工程する吸血鬼の少女に対し、俺は再び考え始める。
特別に強力な力を持っているがゆえにその存在を危険視されるというのは俺も過去に経験したことだ。俺という世界の不適合者を殺すために神や精霊、人があらゆる手を使ってきたのだからな。
だがそれにしてはこの封印は丁重すぎると思うが、ひとまず思考を中断する。
なぜなら無言でいる俺に対し、焦った吸血鬼の少女が必死な顔でこちらに懇願し始めたからだ。
「……助けて……」
その言葉は短いながらも、切実な何かを感じる。演技ではないし、そもそもこの部屋の持ち主は守護者を破ったものに彼女を連れ出して欲しいと願っている。
「まあよかろう。動くなよ」
どうやら特殊な魔法が付与された魔石で封印されているようなので俺は<破滅の魔眼>にて魔石の魔法を破壊した。
すぐにひび割れ、崩壊していく魔石から体の全てが解き放たれた少女は、地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。どうやら立ち上がる力がないらしい。
俺が手を伸ばすとその少女が俺の手を弱々しく握ってきた。
「……ありがとう」
「なに、奈落の底を探索していた際に偶然見つけただけだ。礼には及ばぬ」
どれほど長きに渡り封印されていたかはわからないが、少なくとも文献では吸血鬼は300年前に滅びたとされている。もしその頃から封印されていたとしたら、ずっと暗闇の中で一人過ごしてきたことになる。
「……名前、なに?」
「アノス……アノス・ヴォルディゴードだ」
「アノス……アノス……」
少女は俺の名を刻むかのように何度も繰り返し続ける。
「それで、貴様の名はなんだ。こちらが名乗ったのだ。名乗り返すのが礼儀であろう」
その言葉に対し、ようやく自分の名前を名乗っていなかったことを思い出し、少女は答えようとするが、何を思ったのか俺に懇願してきた。
「……名前、付けて」
「それは、名前がわからぬということか?」
長い時を封印されてすごしたのだ。もしかしたら記憶の一部を喪失しているのかもしれない。
だが封印されていた少女は首を横に振った。
「もう、前の名前はいらない。……アノスの付けた名前がいい」
──前の名前はいらない。
この言葉から察するに、どうやらこの少女は自分の名を忘れたわけではなく、前の自分を捨てて新しい自分と価値観で生きたいらしい。
そういう理由であるのなら、俺の答えはひとつだ。
「断る」
「えっ……」
断られるとは思っていなかったのか、呆然と俺を見る少女に対し俺は再び名を告げる。
「俺の名はアノス・ヴォルディゴードだ」
「……さっき聞いた」
「そうだ。それこそが俺の名であり、俺が俺であることの証明だ」
<
だがそれは前世を、過去の全てを捨てるという意味ではない。現代でどのような名前を名乗ろうとも、俺が俺である限り、俺はアノス・ヴォルディゴードなのだ。そしてそれは、目の前の少女も同じだ。
「名前を変えたからといって、過去を捨てられるとでも思ったか?」
「ッッ!」
「自分の在り方を他人に委ねるな。俺は自分の名前も満足に名乗れぬ者など信用せぬ」
「あっ、ああ」
「もう一度だけ聞くぞ、小娘。お前は何者だ?」
「ああ、あう」
少し威圧を込めて問うと、少女は恐怖と焦燥が入り混じった顔に変化する。どうやら自分の態度が俺の気に障ったことに気づいたらしい。今少女はいかに俺に見捨てられないかを必死に考えているのが手に取るようにわかる。
さて、この問いに何と答えるのか。俺は少女に対し、ステータス閲覧魔法を使用して既に少女の本名を把握している。
素直に本名を名乗るのも良いし、偽名を名乗ることも否定はせぬ。場合によっては、真の名を隠さなくてはならない時もあるだろうしな。自分で決めた偽名を名乗るなら、自分が何者かを自分で決めるのなら構わない。だがそれができないというのなら俺と少女の縁はここまでだ。再封印したりはせぬが、これ以上関わるつもりはない。
しばらく悩んで、何度も躊躇って、少女が出した結論は……
「………………アレーティア」
──素直に真の名を言うことだった。
「アレーティア……良い名だ」
俺は少女、アレーティアの頭を優しく撫でてやる。
俺に頭を触られた時は強張った表情を浮かべたアレーティアだったが、俺に敵意がないとわかると身体の力を抜いていく。
「さて、アレーティア。もう用は済んだことだしここから出ようと思うが、その前にその格好ではいかんな」
今のアレーティアは裸だった。おそらく服までは長き時に耐えられなかったのかもしれないがこのままでは不憫だ。
彼女の体に指を伸ばし、鎖骨あたりに触れた。
「アノス?」
「じっとしていろ。そうだな……うちの学校の女子制服でよいか」
俺はアレーティアに対して、<
「!? これ……アノス。今何やったの? 見たことない魔法だった」
どうやらいつのまにか青を基調としたブレザーに身を包んでいる事実に相当驚いているようだ。この世界の住人は俺が<
「俺の世界の魔法だ。詳しく説明してやりたいところだが、どうやら客人が来たようだ」
上空に迫る気配を感知した俺は上に手を伸ばし魔法障壁を展開し、その気配を弾き飛ばした。
向かい合う形で着地したのは魔物だった。
その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。
一番分かりやすいたとえをするならサソリだろう。二本の尻尾は毒持ちであると考えるべき。明らかに今までの魔物とは一線を画した強さを感じる。
「<
俺はそのサソリモドキに対して魔炎を放った。先程この部屋を守っていた守護者なら一撃で倒した攻撃だ。
だが直撃して炎上するも、たいして効いているようには見えない。
「ほう、先程のサイクロプスは一撃だったのだがな。ここにきて中々面白くなってきたではないか」
<
俺が相手の出方を待っている間に、サソリモドキも俺を敵だと認識したらしい。
「アレーティア。しばらくその中で籠っていろ」
俺はアレーティアの周囲に結界を構築した後、サソリモドキが射出した毒液をかわす。
「炎が効かぬなら……雷はどうだ? ──<
雷属性の中では魔炎と同じ等級の魔法を放つが、サソリモドキにはあまり効いているように見えない。
それどころか怒ったサソリモドキが黒き雷を受けてなお平然としながらこっちに突進して四本の爪バサミで襲い掛かってくる。
一本目を避け、二本目を避けた段階で射出された散弾針を魔風で払い、三本目を空中で避け、四本目を蹴り砕いた。ハサミの一本を粉々にされたサソリモドキが悲鳴を上げる。
「キィィィィィィィィ」
「さて、このまま倒してしまうのがいいか……それとも」
僅かな戦闘でこいつの強度を把握した俺は、これ以上上級の魔法は不要だと判断した。
そうなってくるとどうやって倒すべきか。こいつの殻はどうやら特殊な鉱物で出来ているようであり、ハジメへの良い土産になりそうなのだ。四本目のはさみのように力を入れすぎて粉々にしてしまうのはもったいない。
「アノスッ!」
そこで結界内に大人しくしていたアレーティアが俺を呼ぶ声が聞こえた。
「<
俺はサソリモドキを拘束魔法で縛り付け、アレーティアの元まで降りてくる。
「どうした?」
「私も戦う」
「その気概は買うがな。ほとんど魔力を使い果たしているその状態でどう戦う?」
「私は吸血鬼だから……その……」
「なるほど、血があれば戦えると」
暗に血を分けてほしいとアレーティアは言っているわけだ。躊躇しているのは俺を怒らせると思っているからか。
俺は先ほど見たアレーティアのステータスを思い出し、決断する。
「良いだろう。ただし、ひとくちだけだ」
「……ひとくちじゃ足りない」
「それは俺の血を飲んだ後で言え」
俺は指先を切り、血を滴らせ、アレーティアの眼前に差し出す。
俺の指先から滴る血を見たアレーティアの反応は劇的だった。
「あっ……あ、はぁ、はぁ」
目の瞳孔が開き、熱に浮かされたように息が荒くなる。
「三百年ぶりの血だ。ゆっくり味わって飲むがいい」
アレーティアは俺の差し出した指先を熱に浮かされたまま口に含む。
「ん……ちゅぷ……ちゅぱ……はぁ」
俺の指に舌を絡め、夢中になって滴る血を飲むアレーティア。
「ちゅぱ……」
そして俺の血を取り込み、指から口を離すアレーティアに俺の血の効果が現れる。
「あ……これ……たったあれだけなのに……すごい」
その身から黄金色の魔力が溢れ出す。それは本人すら想像してた以上の力なのか、湧き上がる力にアレーティアは顔を赤くしながら若干陶酔する。
「ぎぃぃぃぃぃぃ──ッッ!」
そしてちょうど俺の仕掛けた拘束魔法をサソリモドキが引きちぎったらしい。そのことを察したアレーティアが陶酔していた頭を正気に戻す。
「これなら……〝蒼天〟」
その瞬間、サソリモドキの頭上に直径十メートルはありそうな青白い炎の球体が出来上がる。
直撃したわけでもないのに余程熱いのか悲鳴を上げてサソリモドキが離脱しようとする。
「ほう……」
その魔法を見て俺は感心する。地上で見たどの魔法よりも複雑かつ繊細に編まれた魔法式で出来ている。
炎属性最上級魔法〝蒼天〟
その存在自体は王国の宮廷魔導士から聞いていたが、どうやらその魔法を使うためには長大な呪文詠唱が必要だという理由で見せてはもらえなかったのだが、こんなところで見れるとはな。
最上級魔法を苦も無く操るアレーティアが指揮した炎球はサソリモドキの背中に直撃した。
「グゥギィヤァァァアアア!?」
極大の炎に包まれたサソリモドキは炎上して悶え苦しむ。<
全身丸焼きになり、瀕死状態に追い込まれたサソリモドキを尻目にアレーティアを称賛する。
「中々やるではないか。いい魔法だ」
「これ……以前とは威力が違う……」
だがどうやらこの結果はアレーティアにも予想外だったらしい。依然自分の身から溢れる魔力を魔眼で見て確かめているようだ。
「以前なら最上級魔法を使ったら疲れてたのに……今はまだ力が溢れてくる。……アノス、何者?」
「それも含めて後で話してやる。あいつの外殻は良い材料になる。だからここで待っていろ」
俺は死に体になっているサソリモドキに向かって悠然と歩いていく。だがサソリモドキはそれを待っていたとばかりにその巨体を動かし、最後の力を振り絞る。
自身の巨体を利用した体当たり。アレーティアの魔法により高温に熱せらられた外殻付きで突っ込んでくるサソリモドキに対して俺は片手で受け止め、上空に放り投げた。
「なっ……」
アレーティアの驚く声を背景に俺は魔眼にてサソリモドキを診る。
「魔石はあそこか」
丁度いい位置に降りてくるので俺はそのままサソリモドキに手刀を突き刺し、中の魔石を破壊した。
>アノスによる奈落の底の冒険
冒頭普通にクラスメイトの訓練を行なっているアノスですが、転移(ガトム)が使えるので普通に行き来できます。クラスメイトの訓練の合間に奈落の底を探検して、見つけた珍しい鉱石をハジメにお土産として持って帰ったりしています。
>だが断る
魔王とは己が己であることだと言い切るくらい自分に誇りを持っているアノスが、自分の名前がわからなかったり、自分で偽名を名乗るならともかく、名前を他人に決めさせ、自分の在り方を他人に委ねる行為を許すわけないと思う作者です。
>アレーティア
アノスに名前を付けられなかったので仕方なく本名を名乗ることになった彼女。今後は原作の彼女をユエ、本作の彼女をアレーティアと区別します。
>アノスの血
超高純度の魔力の塊。ただし飲み過ぎは身体に毒なのでひとくちだけ。
次回も吸血姫の話