※この話から視点が少しずつ切り替わりながら進みます。
◆
仄暗く冷たい壁に背を預けてため息をつく。
あれから人に捕まった日から同じように尋問を繰り返されてはこの光の見えない牢屋に送り込まれる。
これでもう何日目なのだろうか。
横の壁に掘られた傷を数えた。
「これで5日目か……」
森林内で食糧調達の用で狩りに出ている最中、山賊と言われる卑劣な人間に捕まりそのままこの街での人質となっている。
目的は大体わかっている。
私を含めたエルフ達の制圧と支配、そして領土の拡大に向ける為の政治利用にするつもりだ。
「けっ、誰が教えてやるかっての」
この言葉を吐くのも、人質に取られてから何回言ってるのだろうかわからなかった。
だが、静寂な牢屋と先の見えない闇の通路ではその言葉が静かに響くだけだった。
ため息をつき膝を抱える。
目の前に広がる暗闇とそれに沿うような明かりの蝋燭を眺めていたら眠気が襲い掛かってきた。
最近、この牢屋に入ってから体に傷負ったり寝ることしかやることない。
そう思ったら不安が少しずつ募ってきた。
「いつまで、これが続くんだろうな」
弱音を吐いても誰も聞いてないことに虚しさを感じつつ、心のどこかで助けが来ると信じながら今日も就寝することにした。
*
騎士養成学校は通称のようで、正式は王国騎士学校。
その学び舎で騎士としての掟を教育し、戦争に向けての育成もすることから養成もついている。
冒険者ギルドの案内所にいるガイドがら聞いてきた話だ。
あの後、俺とヴェルはかなり探し回ったのだが、自力では見つけることは出来なかったのでラズリー内にある冒険者ギルドを探して入室し、ガイドに聞いて話を貰った。
ちなみに、何故その学校のことまで詳しいかと問うと、その生徒内には冒険者を兼業している人もいるのでそこから知識を得たりしたのだとか。
つまり、ここにいるギルドは、情報を得るにはもってこいの場所なのだ。
そして今の俺達は、ギルド内の食堂にあるテーブル席で座りつつその生徒を目で探していた。
受付を済ませながら手続きをしている人々を飽きせず見ていると、1人の黒髪ショートの男性が窓口へ向かうのを見かけた。
「あの人がそうなのかな?」
「ノルン様、私が見てきます」
席を立ち追いかける様にヴェルが向かっていく。
大きめのローブの影が少しずつ小さくなって、それと同位置の男性の隣についた。
数分何かを話している様子を見ていると、ヴェルが戻ってきて元の席に腰を下ろす。
「ここに出るパンケーキはとても美味しいって話ですよ!」
「食堂のおすすめを聞きに行っただけ?!」
食べ物の話じゃなくて、学校の生徒かどうかの話が欲しかったんだけど。
ヴェルがまだ幼く小さい部類だから子供と勘違いされたのかもしれない。
頭を抱えてため息をつき、仕方ないので食堂のカウンターに向かってメニュー表からパンケーキを2つ頼んだ。
しばらくして、おいしそうな3段のパンケーキが俺とヴェルのテーブル席に運ばれてくる。
丸型で綺麗に形取っており、上からかけられているメープルが彩度を明確にしている。
「確かに、美味しそう」
きゅるる。
俺のお腹から虚しそうに鳴ってしまった。
ヴェルにも食べたかったのですね、と笑顔で言ってきて余計に恥ずかしさが出てしまったので銀製のフォークで刺して一口食べた。
うん、メープルの甘さが生地に染み込んでしっとりとしていいね。
「食堂のスイーツの部類で人気の品物なんですよ」
食べてる途中に隣から男性の声がしたので、振り返るとさっき目のつけた黒髪の男性がこっち来ていた。
さわやかそうな見た目の顔で腰元に片手剣と呼ばれる武器が鞘に仕舞われている。
「っ!?ゲホッ!ゲホッ!」
「大丈夫ですか?!」
まさかそっちから来るとは思わなかったのでむせてしまった。
男性に背中を擦られて息を整える。
「助かった、ありがとう」
「どういたしまして、お仲間さんでしたのね」
「ヴェ……レブラのこと?そうだね、見習い魔法使いの子で修行中なんだって」
感心してヴェルの方へ視線を移すと、パンケーキをゆっくり食べて幸せそうにしているのが見えた。
男性は少しだけ笑って、再び視線を俺の方へ向ける。
「ところで、何かご用でしょうか?」
「そうだった。貴方は騎士養成学校の生徒さんなの?」
その問いに男性は頷く。
生徒であるか確認するための物を要求すると、腰元の鞘の紐にそれらしきマークが記入されているのを見せ、これが学校に通っている生徒としての証と告げられる。
「その学校に何か用事とか?」
「用事ある訳じゃないんだけど」
そそくさと立ち上がり、男性の耳元まで口を寄せ何かその学校に黒い噂が無いかを聞いた。
だが、ハズレのようで男性は首を横に振る。
何か情報を得られないか機会あったけど、ダメか。
気分が少し下がり、元の席に座る。
「引き留めてごめんね、用事はそれだけだから」
「……黒い噂とかはないんですけど、理事長の執務室から何か悲鳴が上がったっていう話なら生徒間で聞いたことがあります」
今、重要な言葉を口にした気がする。
その情報に思わず立ち上がった、そして男性の手を握る。
少し照れくさそうにしていたようだったけど、気にせずにお礼する。
更に、続きが聞きたくその話に食いつくように顔を近づけた。
「その悲鳴が女性だったとか何かなかった?あと、奴隷とかエルフとかいう単語とかなかった?」
「い、いやそこまではわからなくて聞いた本人に確かめてみないといけないというか」
なんか、男性が少し赤らめてそっぽ向いてるけどどうしてだろう。
何やらヴェルがジト目で見てくるのを感じ取ったので気持ちを落ち着かせ一歩引いた。
どうやらその話を聞いた人がいるということなので改めて学校の位置と道順を尋ねた。
しかし、関係者以外の立ち入りは理事長の許可を得ないとダメらしい。
それをしちゃうと、一度顔合わせてる上に吹っ飛ばしたこともあるから一発でアウトになるのは間違いない。
「それ以外に何かない?」
「学校の生徒の知り合いまたは冒険者パーティの一人とかなら許可なくても入れることができま」
「それにしよう!!」
いい案を思いついてくれた男性に称賛したい。
だがその前にこの人を仲間に引き入れて学校でその人を探そう。
そう考えたらすぐ行動、早速案内所のガイドから窓口への手続きを行い仲間として加入するのだった。
そういや、名前聞いてなかったけどあとで聞いてみるか。
◇
ノルン様が食い気味でお相手の男の人と話してるのを見て、何か嫌な気持ちになった。
顔にも出ていたらしく、ノルン様がチラ見で私の顔を見ると一歩下がって態度を改めた。
残ってるパンケーキの一かけらを口に運んで食べ終わると、即行動に移ったノルン様の後ろ姿を見ることとなった。
何やらこの呆然と行方を見届けているこの人と仲間になるみたい。
「ノルン様は偉大なお方ですから、仲間に入ったということを誇りに思っていいですよ」
男の人は、私に話しかけられてから我に返り先ほどまで座っていたノルン様の向かい側に座って待つことにした。
「ええと、君がさっきの女性の仲間だったのかい?」
「ノルン様です!名前を覚えて下さいっ」
すっごい恥知らずだったので注意した。
「その、ノルン様?の仲間が君なのね」
「はいっ、さっきはパンケーキ教えてくださってありがとうございました」
「お礼なんて大丈夫だよ、それであの人が学校に行きたい理由ってのを知ってる?」
話してもいいかわからなくなって言葉に詰まってしまった。
どうしよ、伝えていいのかわからないしノルン様がいないと私がリカンの奴隷ってことも説明できない。
ええと、ええと……視線があちこちにいったり焦っていると男の人は諦めたようにため息をついて苦笑いした。
「大丈夫、これから仲間になるんだから話してもいいよ。それにさっきの話のこと、本人にも聞いてみたいこと僕もあるから」
「……」
途中で真面目で声質を少し落とし低い声で私に言ってくる。
目つきも先ほどまで真面目になっていたらしい。
……話しても、いいよね?
「わかり、ました。ですけど、ノルン様が来てから説明してもいいですか?」
「いいよ。3人でその話をしよう」
男の人は私の条件に快く受け入れ、窓口の方で時間かかっているノルン様を2人で待つことにしたのだった。
おまけ
男性に聞く時までの思考
ヴェル
(あの人が学校の生徒なのかどうか聞かなきゃ。)
ぐぅ~~
ヴェル
(……お腹減ったなぁ)
ヴェル
「すみません、ここの食堂でおすすめってなんですか?」
男
「それ、僕に聞くの?えーと、パンケーキかな」
そんな経緯がありましたとさ。