少女(♂)の過ごす異世界冒険記   作:未来琴音

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大魔法使いとしての戦い

 背後からアナが呼びかけてきたが、後から行くと伝え、先に行かせる。

 後ろで扉の回る音が静かになったのを耳で確認した後、間合いを詰められないように回転扉の前まで後ずさる。

 鬼気迫る表情を向けられてるのを睨み返すが、足が少しだけすくんでいるのがわかった。

 自宅で鳩尾に柄を落とされて飛ばされた痛みが身体で記憶しているのか、はたまた性別的な本能なのかはわからないが、相手に悟られないように顔を崩さず見る。

 

 

 「貴様、あの時の小娘か。下の惨状は貴様の仕業だな?」

 

 

 重く低い声が少し離れていてもよく耳に届く。

 薄暗く少しだけの密閉空間の階段で洞窟のような形を取っているから少しだけ離れていても響いている。

 

 

 「そうだと言ったら?」

 

 

 声のトーンを少し落とし低めに返すとリカンは眉を引くつかせ更に怒りの表情を顔に映し出し始める。

 とはいえすぐに襲い掛かってこないのは、俺が以前に風魔法で吹き飛ばした事で学んで警戒をしているのだろうか。

 だが、相手も触発寸前。

 ここはやられる前にやった方がいい、悟られないように背中で水魔法を手の上に作り、魔法弾を精製する。

 

 

 「逃がした連中から話は聞いたのだろう。ならば、ここで生かして帰すはずもない」

 

 

 武器もないのにどう戦うのかと疑問を投げかけようとした時、その答えはすぐに出た。

 リカンが右手で壁に手を押し当て何かを唱えると、その壁からいきなり長剣を創り出した。

 前に見かけた銀色の長剣と同じ大きさの土色の剣で、硬度はかなりありそう。

 

 

 「壁から剣……魔法?」

 「察しがいいな小娘。魔道具の腕輪を使い、地魔法で作り上げた長剣だ。これは接近戦と魔法戦を踏まえた武器となる」

 

 

 よく見ると、リカンの右腕に銀製の腕輪が装備されていて、そこから鈍く茶色に光る物を見つけた。

 

 

 「これは相手が遠距離戦でも大丈夫なように作り込まれていてな。このように!」

 

 

 分析しているのも束の間、リカンがその剣を地面に乱暴に叩きつけ、煉瓦や片手に収まりそうな石がこちらて目掛けて矛となって飛び掛かってくる。

 俺はすかさず後ろで作った水魔法で全弾撃ち落とし、隙を与えずに反撃へ乗り出す。

 風魔法を使い、下側から突進で襲い掛かってくるリカンの勢いを殺すように風圧の盾を作る。

 リカンはその盾を割る勢いで手にしている剣を振り下ろして衝突させた。

 

 「勢いが強い……!」

 「遠近どちらでも戦えるように生み出した魔法だ」

 「くっ!」

 

 

 盾に亀裂が入り込んだのを視界で捉え、盾ごと真上に突き飛ばした。

 一瞬浮かび上がった大男の身体は宙を舞うが態勢を整え、綺麗に着地する。

 その隙を見逃さず、俺は水魔法で再び散弾銃のような魔法弾で牽制するように撃ち始める。

 剣で前をガードしつつ押されているのが見え、ようやく間合いがさっきの距離と同じになる。

 

 

 「どうした?魔道具を付けてその程度なのか?」

 「……今度はこっちの番!」

 

  

 無傷を主張する相手に今度は両手を前にして魔力を少し多めに放出し、水魔法を精製して相手に向かって突き飛ばした。

 スピードに乗った水弾はリカンの前まで到着するのにすぐだった。

 再び守りに入ろうとする行動をする寸前、追い討ちをかけるように風魔法を水玉の背後から撃ちだす。

 突風を呼び、相手にカードする動作を鈍らせた。

 結果、速さの乗った水玉が直撃しリカンを飛ばすことに出来た。

 飛距離は少し小さめだけど、進歩である。

 

 

 「風と水……ほう、魔道具2種類持ちとは中々考えたな」

 「魔道具無しで出せるけど、ね!」

 

 

 間髪入れず、次に水玉を風に乗せて銃弾より少し早めの弾を手から撃ちだす。

 何発かはじき返しながらもちょっとはダメージを感じているのか、大男の表情に苦戦を強いられるような顔が見られた。

 よし、このままなら勝てる!

 

 

 「小賢しい真似を……するなぁ!」

 

 

 全ての水弾を斬り払い、大地の剣を地面に突き刺す。

 そしてリカンがその剣の柄を両手に持ち替た途端だった。

 

 

 「大地よ!我に鼓動せよ!」

 

 

 リカンの周りから地殻変動が起き、そこから衝撃波がこちらへ目掛けて走ってきたのだ。

 飛ぼうとして風魔法を身に纏わせ宙を舞うがその上が天井だった為、衝撃波の攻撃範囲内に留まってしまった。

 

 

 「くうぅぅぅっ!」

 

 

 歯を食いしばりその衝撃波を身体ごと受けるが、持つことはなく身体が飛ばされる。

 出口側に思い切り鞭打ちを食らい、その場で倒れ込んだ。

 ダメージが遥かに強く、全身に力が入らずにいた。

 

 

 「か……はぁ……」

 「ふんっ!!」

 

 

 追い討ちが来るようにいつの間にか上がっていたリカンから蹴りを貰い、一気に立場が逆転し崩れた階段下まで投げ飛ばされる。

 やがて身体から赤い液体が滲み始め、鉄の匂いが鼻をくすぐった。

 足を奮い立たせるような気力が残らず、重く顔を上げながら侮蔑のような表情で見てくるリカンを睨んだ。

 

 

 「付け焼刃の魔法など、俺には届かぬ」

 「ヴェルを……ヴェルを解放しろっ」

 「藻屑は藻屑だ。解放などしてやらん」

 

 

 心の奥底で願ったことを鼻で笑ったリカンが出口の近くまで歩みを進めた。

 

 

 身体に鈍痛が走り、目も霞み始める。

 あのまま行かせてしまえばヴェルは今度こそ帰らぬ人になってしまう。

 そんなのは、心から嫌だった。 

 

 小さなきっかけから過ごしたけど、久しぶりに1人以外の生活も悪くないなって思っていた。

 だけど、ここで終わらせたくない。

 少しの旅路で見せたあの笑顔を守りたいと、心に誓ったから。

 

 

 「ま、だ」

 

 

 まだ、終わっちゃいない。

 重くなった両手を今踏み込める気力を使って相手に向ける。

 残す一撃は少ないかもしれない。

 少ないのならいっそ、魔力を全部使って一気に倒す。

 そう、思いっきり一発でかいのを当てるように。

 ここで頭に過った詠唱と魔法が言葉に出る。 

 

 

 「水の精霊よ、風の精霊よ。荒れ狂う業を統べてその力を矛へと化せ!その矛は、空を裂く一撃!」

 

 

 『怒り暴れる嵐の雨(テンペスト・レイン)!!!』

 

 

 

 大声で叫んだその魔法名を放った途端、前方が厚い風で全てを遮った。

 暴風とも言えるその轟音は殴りつける雨と共に周りの壁を掘削しながらも出口へ求めて前進する。

 そして雨で掘削した煉瓦が崩れ刃となって肥大したまま、扉に手をかけたリカンへ目掛け進軍して飲み込んだ。

 俺の持つ最大の魔力の膨大さに、その暴風と殴りつけるような雨は扉ごと破壊して執務室が丸見えとなり、リカンをその先の壁へめり込むように叩きつけた。

 その一連を目にして、俺はそこで意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 下で囚われていたと言っている捕虜達の話をレストが聞いている時、凄まじい轟音がこの執務室内に鳴り響いた。

 その元へ視線を向けると、私では見たことのない風の魔法が見知った顔の人間を殴りつけ壁に激突させていた。

 レストもその光景に驚きを隠せず、捕虜の安全を私に任せて突然現れた洞穴の方へ確認していく。

 奥へ続く通路の中を遠見でしていたら、レストが何かを発見した。

 私もそれに続いて、通路の奥を見ていく。

 そこには、白く細い手が地面に倒れ込んでいた。

 

 まさか。

 そんなまさか。

 

 

 「ノルン様!!!!」

 「あ、待ってください!」

 

 

 レストの制止に耳を貸さず、崩れて割れている階段を降りて正体を確認する。

 満身創痍でぐったりとうつ伏せで倒れているノルン様がそこにいた。

 腹部から赤い血が少し溢れていて鉄の匂いが鼻を揺るがす。

 

 

 「ノルン様!ノルン様しっかりしてください!!」

 

 

 身体を揺さぶり、生死の確認をする。

 ノルン様がここで死んじゃいけない、私は恩返しも何もしていないのに。

 と、ここで瞼に反応が出てゆっくりと目を開けてくれた。

 良かった、生きている。

 

 

 「ヴェ……ル?」

 「ノルン様っ……!」

 

 

 力なくか細い声で呼びかけてくれたので涙が溢れ、応じた。

 すごく痛々しい恰好でいますぐにでも手当をしてあげたいくらいだった。

 膝の上にノルン様の頭を乗せて、後続で来るレスト達を待った。

 

 

 「ヴェル、リカンに勝った」

 「はいっ……!」

 「多分、これで解放されるよ」

 「……はいっ。私はその目的よりもノルン様が生きていて本当に良かったです」

 

 

 本当に、良かった。

 涙がノルン様の頬に落ちると、ノルン様は申し訳なさそうに顔を変え私の頬に手を添えてくれた。

 その手を私はしっかり握りしめる。

 

 

 「ごめんね。一人にさせちゃって」

 「大丈夫です。もう大丈夫ですよ」

 

 

 ……そっか。

 小さく呟いたノルン様は目を閉じ動かなくなった。

 添えた手も次第に重くなり始める。

 だけど、その手はまだ温かくて心地よかった。

 

 

 「間に合いました。彼女は気絶していますよ」

 

 

 後方からやれやれと言わんばかりに追い付いてきたレストが安否を告げる。

 魔力切れによるもので身体が休みを欲している期間だそうだ。

 道中の旅で突然倒れたノルン様がその状態のことだったのかな?

 

 

 「とはいえ、身体の傷と血が出ていて危険な状態なのは変わりありません。このまま僕が務める駐屯地で応急処置しましょう。今、手配を呼びます」

 

 

 レストはてきぱきと仕事をこなして、最後にノルン様を背負った。

 本当なら私がしたかったんだけど、仕方なかった。

 

 

 「ノルン様、あと少しですからね」

 

 

 崩れそうな階段を上がり、執務室でノルン様をソファーに仰向けに寝かせて緊急手当をする。

 血が出ているところに包帯を巻いて止血をする。

 回復魔法が出来る人がいいのだけど、今ここにいる人達の中ではいなかった。

 ここで、私が使えたらよかったのに。

 少しだけ悔しい思いをした。

 

 

 「後は……」

 

 

 レストが手当を終え、壁に項垂れているリカンに歩み洞穴に指を差して言及し始めた。

 

 

 「これはどういうことか、あとで王族護衛の下で話させて頂きます」

 「……く、エメル王族部隊か。いつの間に」

 「この学校で奇妙なものを見た聞いたという話が沢山あったので、潜入しました。そしてあの先にある物。洗いざらい吐いてもらいますよ」

 

 

 目を細めて殺意が見えるくらいに表に出たのを感じ取ったリカンは両手を上げ、降参した。

 これで私も解放されて終わる。

 奴隷という肩書が終わって、普通の人間に戻れる。

 そう思うと嬉しさで涙が出てきた。

 これも全部、皆ノルン様のおかげ。

 少しだけ安心して眠っているノルン様の頬を撫でながら、改めて心の中でお礼を言った。

 

 私を救ってくれて、ありがとうございます。ノルン様。

 




戦闘シーンって難しい。
主に詠唱内容とか魔法とか色々((

次で二章は終わりです。
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