少女(♂)の過ごす異世界冒険記   作:未来琴音

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三つ目の特典とこれから

 机に伏せて寝ていたのか、目を覚まし顔上げると見知ったパソコンから検索サイトを映し出していた。

 一日の半分を過ごすときに寝床にしている部屋は、柔軟性を少し落とした休めの白いベッドと正方形の黒い白いテーブル。

 作業や本を身体を休ませながら読める机やその上に置いてあるデスクトップパソコンとキャスター付きの椅子が俺の日常でなくてはならない存在の家具達だ。

 実家暮らしとはいえ、自分で揃えられるものは揃える。

 その手段で仕事しては買い続けてた結果がこれだ。

 

 それにしても、随分と長い夢を見ていた気がする。

 検索サイトでいつものように何かを調べようとした途中で俺自身が異世界で過ごす夢を見るというのは我ながら欲望丸出しとしか言いようがない。

 

 

 「それが本当の事で、貴方の転生した先の世界がそうなんですけどね」

 

 

 聞いたことあるような高く落ち着いた声を耳にしてその元へ振り向く。

 ベッドの上で不機嫌そうにこちらを見つめ頬を膨らませている女性がいた。

 その部屋に似つかわしくない姿と異端を見て、俺は再びパソコンの画面に視線を戻す。

 いつの間にか電源の切れていた黒い画面から薄く見える少女の顔を見てようやくここが現実世界ではないということが実感できた。

 

 

 「なんで死にかけてるんですか、バカなんですか?」

 

  

 そして背後から子供じみた罵倒する言葉を貰いながら今までのことを思い出した。

 そうだ、あの時魔法を全魔力使って放ってそれから。

 

 

 「魔力無くて満身創痍で肉体が大変な状況に陥ってるのが貴方の今ですよ」

 「ああ、そうだ思い出した。神様か」

 「なんで忘れてるんですかぁ!!」

 

 

 いよいよもって泣きそうになっている神様を宥めると、咳払いをして座り直し、態勢を整えた。

 

 

 「今、貴方は最初の頃とちょっと似た場所に魂が落ちたところで私がそこに介入して話している現状です」

 「死んではないということか?」

 「あちらの人間の世界で言う、三途の川というのがありますよね?その川の中心で渡ろうとしているのが貴方で私はそこから引っ張り上げて、戻したというのが正しいでしょうか」

  

 

 簡単に言うなら生死を彷徨っている状態で、この俺の部屋はその戻した場所ということらしい。

 神様は一通り説明を終えるとため息をついてジト目で睨んでくる。

 

 

 「というか、せっかく送り届けて新たな道を歩ませたのに短い人生で終わらせるつもりなんですか。神への冒涜ですよ」

 「それは、まぁ……面目ない」

 

 

 普段なら地獄へでもすっ飛ばしてやりたいと恨みの入った言葉が刺さる。

 俺からしたら16年、いや前の世界と含めて約41年は長い方だと思うのだが、幾千年を眺め続けていた神様にとってはほんの小さく短い年数だと思ってしまうんだろう。

 

 

 「反省があるならいいんです。次は繋ぎ止めることはないと思っていてください」

 

 

 釘を刺すように言われて言い返すことも出来ず、精進するとしか口にする事は出来なかった。

 

 

 「そうだ、忘れるところでした。繋ぎ止めた理由はそれだけじゃないんです」 

 

 

 それから、神様は何かを気づいた顔をしてその理由を俺に伝えてきた。

 

 まず、転生の特典についての内容。

 お任せとして付けた後に言うのが義務となっていたのだが、それを言う前に転生させてしまい遅れてしまったので改めてその内容を知らされた。

 

 一つは性別が変わった事。

 これについては産まれてから7歳の時に実感出来た。

 

 二つ目に魔法使いで魔力を無限に生み出し撃ち放題に出来た事。

 新たな世界で大魔法使いなんていう大それた職とかは思わなかったのが意外な情報で、実力はそれを手に取るくらいにわかった。

 

 

 「でも、何故あの時急に目覚めたように出せたんだ?」 

 「16歳で使えるというのは私の趣味……こほん!幼い頃ではまだ魔法を使う際に出る反動が大きかったり不安定であった為ですよ」

 

 

 今、聞き捨てならない単語が聴こえてきたような気もしたが、生殺与奪の権限があっちにあるから逆らわないようにした。

 

 

 「そして、三つ目の特典があります」 

 「三つ目?」

 「三つ目、それは――」

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 意識が覚醒し、重い瞼を少し開く。

 視線の先には宿屋でよく見る天井とは違い、壁際に続く柱を目で追うと上にランタンが設置されていた。

 外が暗くなっているのか、ランタンの光が強く輝いている。

 身体をゆっくり起こし、辺りを確認しようとしたところで右手に何か柔らかい感触。

 端でベッドに頭を預けて静かに寝息を立てているヴェルがいた。

 右手は、布団に投げ出されている少しだけ小さな両手にぶつかっていたようだ。

 とりあえず、寝ているヴェルの頭を優しくなでてあげる。 

 

 

 「ここ何処だろ」

 

 

 しかし、宿とは言っても構造が違う。

 床も木製ではなく、絨毯で暗めの色が敷かれていて目に優しい。

 木造の扉があり、その左隣には薬品棚のような物になっていた。

 もしかすると、ここは医務室か何かだろうか?

 高校生の頃に学校にあった保健室と似ている気がする。

 

 

 「ふぁ……ノルン様……ノルン様!?」

 

 

 睡眠から解放されたのか、頭を撫でられることに気づいて、ようやく眠気から覚めたヴェルが顔を上げて私の事を見て驚愕してきた。

 そしてあたふたと身体を往生させた後、レストさんに伝えてくると風のように部屋から出て行った。

 あんな行動力を隠し持っていたなんて、ヴェルも成長したものだな。

 感心をしていると、腹部から痺れるような痛みが全身に走る。

 

 

 「いった……あー、そうだ」

 

 

 確か、俺はリカンとの戦闘で辛勝して満身創痍で意識が飛んでいったんだっけ。

 詳しくは魔力を魔法に全部乗せ放ち、その衝動で身体に影響出て傷の痛みとそれで気絶した。

 さっきまでの出来事を思い出すように回想していると、扉からノック音が3回聞こえてきた。

 それに答え、扉を開いた先に来る知り合いを迎え入れた。

 

 

 「やっと目が覚めたんですね、よかったです」

 

 

 爽快な顔をして笑顔を出すレストが安堵の息を漏らして近くにある椅子に座った。

 その後ろから戻ってきたであろうヴェルも来る。

 

 

 「あの日から10日眠ったままだったのでもう起きないのかと思っていました。回復専門の魔法使いを呼んでも癒えたのが傷くらいで意識までは帰ってこなかったので」

 「10日も眠ってたのか……」

 

 

 長いようで短く感じた期間があまりにも長すぎたらしい。

 レストも少し不安な表情を出して心配してくれていた。

 眠ってる間、肉体と精神が離れないように変な場所で神様と話していたのは本当に正解だったのかもしれない。

 レストは体勢を立て直し、リカンのあの後についてのことを語ってくれた。

 

 あの事変をきっかけに、奴隷を所持していることが明るみに上がったリカンは自宅にメスが入って、中にいたボロボロの奴隷の子達を保護した。

 その後、リカンは理事長という肩書が抹消され罪人として牢屋に閉じ込められた。

 それからの尋問で、リカンがこの都市にある法とは逸れた計画を奴隷商人と企てていたことが判明、商人を確保してから芋づる式に摘発されただとか。

 

 

 「奴隷になっていた子達の中で、もう手遅れな子もいました。傷が深く息をするのがやっとな子や、病で薬を貰えずに悪化して回復するのが困難だった子も」

 「今、その子達は?」

 

 

 レストが目を閉じ沈黙する。

 そう、その内の何人かが死んでしまったのか。

 ヴェルもそれを聞いて少しだけ涙ぐんでいたので頭を撫でてあげる。

 

  

 「確認出来てる中で4人は保護出来て、今この治療院で療養しています」

 

 

 最初見つけた時に、警戒されていて保護しに来たと言っても信用されてもらえず襲撃されたことを苦笑気味で口にした。

 

 

 「だけど、私が皆に伝えてちゃんとした味方であると言ったら信じてくれましたよ」

 「ヴェルも行ったんだ。皆を救いに行ったの?」

 「はい!ノルン様という大魔法使いにもう大丈夫だって伝えたら皆、信用してくれました!」

 

 

 生き生きと報告してくるヴェル。

 そっかぁ、ヴェルも成長してるんだなぁ。

 ふと、レストの方に視線を送ると目を逸らされた。

 怪しい、視線を固定し反らし続けて気まずそうにしているレストを睨みつける。

 

 

 「……サリと2人で押されて仕方なく連れて行ったんです。ヴェルさんも保護対象ではあったんですよ、ですが自分が伝えると強く言われたので」

 

 

 頬を掻きながら観念したように気まずそうに言葉にしてきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 療養生活から数日後。

 すっかり体の調子も良くなり、治療院から出て、ラズリーで暫くの間に拠点としていた宿へと向かう。

 道中、レストから治療院を抜けた先にある教会にお祈りをして欲しいとの事で治療院の隣にある大聖堂に入室し、この世界では初となる修道女さんに挨拶をしてお祈りを捧げた。

 その聖堂を後にして宿でやる事をやってから今日の引き上げを行うことにする。

 そういえば、パーティの解散はどうしようか。

 今後とも役に立つだろうし、残しておいていいのかもしれない。

 

 久しぶりの都市内を踏みしめるように散策しつつ、一番最初に来た木造で形のいい宿に到着する。

 入店をして店主に部屋のチェックアウトを頼むと少しだけ手続きの時間を要した後、拠点としていた部屋が空いたことが確認できた。

 宿から出て、次に向かうのはラズリーの城壁、俺達が最初に踏み込んだ入口へ向かう。

 

 

 「これでもう、ここでの目的はなくなったね」

 

 

 軽く背伸びをしつつ、門番達の所まで到着した。

 ヴェルが少しだけ寂しそうに表情を曇らせてポツリと呟く。

 

 

 「そうですね……私も、ここでノルン様とお別れかぁ」

 

 

 リカンからの奴隷の解放はもう終わっており、レストに自宅に戻ると言って引き留められてはいたけどここにいるよりペリトでゆっくり暮らしていたいというのが本音だった。

 大都市での賑わいでのんびりくらすのもありなのかもしれない。

 けど、顔出す程度なら行ってもいいかなとは思う。

 だけど、ヴェルがそのように口惜しく寂しく言ってくるのはわかっていた。

 

 

 「何言ってんの。ヴェルも一緒に来るの」

 「ふぇ?」

 

 

 泣くのを堪え我慢しているヴェルの頭を優しくなでる。

 

 

 「ペリトの時に一緒に暮らして、悪くなかったからさ。一人暮らしに戻るのはちょっと寂しいなーなんて」

 

 

 一緒に暮らすことを伝えると、一瞬にして萎れた花が輝くように咲いた明るく笑顔でヴェルがそこにいた。

 

 

 「おーーい!!もう待っててくたびれちまったからとっとと行こうぜ!」

 

 

 城壁の先で顔出して手を振っているアナの所へ俺達は向かった。

 その後、大森林でエルフ達と遭遇してアナを長もとい父親の元へ戻したり、湖で魔法で飛行している間にデナが下からこちらを見てまた来なさいよと見送りされたりして俺とヴェルは数十日開けていた我が家とペリトへ戻っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 「三つ目、それは従者です」

 

 

 神様が三つ目の特典がヴェルであることを伝える。

 どうしてヴェルが三つ目の特典なのか、人であるのに物みたいになっているのか。

 それを問いても神様は答えることはしなかった。

 

 

 「従者と共にこの世界を暮らして、暫く経った時にわかります」

 

 

 つまり、今の世界で元の世界で生きるはずだった余生を過ごせばわかる事だっていうのだろうか。

 それなら、ここで死なせるわけにもいかないっていう神様の焦燥は的を得ている。

 

 わかった、その時になるまであの世界でのんびり暮らすよ。

 そう伝えると神様は微笑み、その姿を消した。

 

 長く座っていた椅子とおさらばし、いつの間にか開いていた自室の扉から出る。

 ヴェルの事は謎だらけだけどいずれは公に出ることだからそれまでは異世界で楽しく過ごし冒険することにしよう。

 心にそう銘じながらずっと眠っている意識を引き上げ目を覚ました。





二章終わりました!
ちょっと長すぎたって思ってます、反省。

 
次は少しだけ間章が入ります。

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