意識が戻ってくると、朝日が直接顔を照らしていた。
眠かった眼を擦り、ベッドから降りて照らしている窓を開き、朝の風と外の空気を体全体に染み込ませる。
あの後、普通の家庭に産まれて育ち、16歳になったある日に両親から独立してそれほど大きくない街の平家で暮らしている。
ノルン・アーネスト、16歳。それが今の俺である。
俺といっても、それは意識だけの呼び方になっている。何故かといえば、身だしなみを整えるために買った全身の見える鏡の前で立ち自分を見る少女を見てため息ついた。
「今のお……私、女の子なんだよなぁ」
そう、女の子なのだ。
元の性別ではなく、胸もそこそこあって母から譲りうけた遺伝子の、茶色のロングヘアで体つきがごつごつしてない一般の女性なのだ。
生まれてから数年後の7歳の時に、自分の姿を今の実家の鏡で見た時には現実を突きつけられた感覚で呆然としていた記憶がある。
これが神様の気ままなお任せの一つなのだろうか。
鏡の前でまた一つため息をついた。
「なっちゃったもんは仕方ないしな」
そう自分に言い聞かせながら朝を過ごすのが日課になっている。
ちなみに、口調についても母親に女の子がそんな乱暴は口調はだめですよと怒られてしまい、呼び方も私に定着しつつある。
「さて」
着替えを一通り済まして、スカートの乱れや上着のチェックを確認して玄関から外へ出る。
私の住むここ中小都市のような街「ペリト」は出店とか喫茶店などといった店がちらほら存在しているところもあれば、少し進んだ先が畑とかになっているのどかな街。
そして、異世界ならではの店も見れたりする。
武器や防具が売っている冒険者向けへの装備屋や、ポーションや回復薬を専門とする魔法店とかも街中で見かけている。ここは元とは違うんだなと実感できるところだ。
「今日も平和だな」
などと呟きながら、大通りで売っている店で丸形のパンを買っては頬張り、中央広場に見える木製のベンチに座って休息を取る。
ここに来てからまだ数ヶ月、この街でのことを詳しくは知らないがある程度は分かったような感じ。
美味しいお店とか野菜とか果物が置いてある八百屋のような出店。
毎回外を歩いては、流れゆく人々の顔がいつも新鮮で飽きない。
「お嬢ちゃん。今日もここで休んでるのかい?」
ふと隣で杖をついた老婆が話しかけてきた。
その言葉に頷きながらベンチにもう一人分のスペースが空くように移動する。
「そうですね。ここだと色んな所が見れて飽きませんから。貴女もこちらで?」
「そうだねぇ、わしもここで失礼するよ」
よっこいしょ、と隣で腰を下ろす老婆。
そしてその老婆と今日も楽しく話をした。
*
暫くしてその老婆と別れた後、次の目的地へと足を進めて到着する。
それが、この目の前に書かれている扉に明記された冒険者ギルドの隣にある依頼掲示板のリストだ。
一応、この街に冒険者が寄って来た時に依頼を受けるための冒険者専用のギルドがある。
その扉前に置いてある掲示板の依頼を受けにやってきた。
依頼と言っても、運搬や店の手伝いなどと言ったRPGゲームでよく見るおつかいクエのような感じがほとんどで、討伐や護衛任務とかは全てギルド内にある依頼掲示板に記載されている。
その外の依頼掲示板の中から魔法店で必要な薬草を採取という依頼の紙を取って、ギルド内に入って一番右側にいる受付の人に渡す。
「これ、お願いします」
「承りました。手続きしますので少々お待ち下さい」
喧騒な受付所を一通り見渡しながら受付の人から専用の依頼カードというのを渡される。
そこから外に出て、カードに記された場所へと向かっていくのが一連の流れになっている。
ペリトから少し出てからの草原で依頼内容の薬草を採取する。
「エンテリ草……5つ」
主に草原内に小規模で生えている花であり、ぽつぽつと出ている花畑のようなところで採取出来る薬草の類。
ポーション系とかで主に体力回復とかの材料として使われるものらしい。
「でも、これどうみてもパンジーだよね」
元の世界での道端で小さく咲いてたりとか、花屋とかで綺麗に保存されている花でよく見かける。
ちょっとだけ花の形とかが違うので、それによく似た感じなのかな?
「よし、これで全部かな」
決められた数を布製の小袋に入れてペリトに戻り、看板にポーションのマークが入っている魔法店へと向かう。
「こんにちはー、依頼の物を届けに来ましたー」
入店して少し怪しげな雰囲気を醸しながらも暗い出口から三角帽子の被った女性が出てくる。
そして小袋に入っているエンテリ草5本と依頼カードを渡して、ギルドからの依頼は完了する。
これは外に出ている依頼掲示板限定の手続きで、受付の人からそのカードを製作して依頼主にそのカードが終わったと同時に報告されるようになっている仕組みだとか。
その辺は最初に来た時に説明された気がする。
「ありがとね、可愛い女の子ちゃん。報酬の銅貨15枚よ」
少しばかり妖艶な三角帽子の被った女性から報酬をもらいその店を出る。
ちょっとだけ変な店だったような気がする。
だけど、棚に置かれてる値札のついた物とか見たらちゃんとした店なんだな。
「後は今日の夕飯を買うくらいかな、ぎゃんっ!」
頭の中で晩御飯の候補を挙げていたら、何かに衝突されて尻もちをついてしまった。
腹部がすごく痛い、みぞおちに何か重い一撃をくらった感じで痛かった。
「いったぁ……誰だよ、ぶつかってきたの」
「……あ」
馬乗りになっているぶつかってきた敵を睨む。
その目の前で見たのは、ボロボロのワンピースを着ていた銀色の髪で短い私より年下っぽい少女だった。
罰が悪そうにこっちを見て如何にも泣きそうにしている。
「ごめんなさい。ぶつかるつもり無かったんです、その逃げるのに夢中で前を見てなくて」
「逃げる?一体何にーー」
逃げているの、と言いかけたところでその正体は大通りの奥から聞こえてきた。
「どぉぉぉこに逃げやがったぁぁぁぁ!!!!!!」
この街で似つかない大声で、低く野太い男性の声が何かを探し回っている。
その声を聴いた少女は恐怖に満ちて体を震わせていた。
「た、助けて下さいっ。あの人にまた捕まったら殺されちゃう……」
「……わかった。事情は分からないけど、今はここから離れよう」
震える少女を前にして置いていくわけにもいかず、助けを求められてしまったのでとりあえずその少女を立たせて手を握り、この場から逃げることにした。
どこに逃げたらいいかわからないけど、大通りの方なら人混みで見えにくいはず。
少女の手を握りながら走りながら逃げるルートを考える。
ああいうタイプは、視野が狭くて細かいところは見えてないような感じだろう。
「私の家で暫く匿ってあげる。過ぎるまで居ていいよ」
「ありがとう……ございます」
今はやり過ごすことが先決、とりあえず少女を自宅に匿う方針で走りを進めることにしたのだった。