ノルンが俺の時は基本一人の時で、それ以外で他の人とかいる場合は私でいることが多い。
人助けとかは、昔からよくやっていた方だと思う。
テストの勉強を手伝ってあげたり、階段で困っていた老人を助けてあげたり。
一部からは偽善者とか言われたこともあったが、それは学生時代の話。
その人助けが日常と化していた時に母親から
『人助けと自分の身を守ることは一緒よ。それは覚えておいて』
と注意され、自分の事を見るようにもなっていた。
それがよく刺さる言葉になって実感したのは死ぬ数日前の出来事だった
*
少女をリビングの木製の椅子に座らせ、台所に立ってお茶の準備をする。
私の家の景色をちらちらを見ながらおとなしく待っているのを尻目に、隣にある臨時の食糧貯蔵庫から丸型のクッキーを数枚取り出してお皿に盛りつける。
「どうぞ。あまりいいものじゃないけど」
明日のおやつにと、とっておいた物だけどまた買えばいいか。
クッキー入りお皿を少女のテーブルの前に置いた。
少女は、そのクッキーをおっかなびっくりで一枚とりながら少しずつ食べ始めた。
「……おいしい」
「君、名前は?」
向かい側の椅子にすわって、改めてその女の子の容姿を見る。
ところどころに穴の空いてある布製のワンピースでショートヘアの銀髪。顔も少し幼げが残っていることから私よりは年下だと判断できる。
そして、時々見える両腕や鎖骨から首元にかけて打撲痕やミミズ腫れの傷跡も少し残っていた。
「ヴェル。ヴェル・スカリールです」
「私はノルン・アーネスト。この街に逃げた理由って何?」
ヴェルという少女は拙いながらもゆっくり話してくれた。
簡単に言うと、人身売買で引き渡された先の主が酷く暴力的で、機嫌を損ねると端くれみたいな存在という理由でいつも道具のように強く叩かれたりストレス発散のごとくに使われていたらしい。
DV夫が気に食わない時とか発散の時に妻やその子供に暴力振る時と一緒なのだろうか、それがこの世界でも起こっているという。
「酷い、話だね」
「……はい。でも、私達のような人はそうすることしか生きられなくて、親も親戚失った子達は皆そのように扱われることが多いそうです」
孤児を引き取って後は自分の思うがまま、か。
「私も、その一人です。小さい頃に親を失ってそれから」
「それ以上言わなくていい。今日はもう休んでいって」
私のその言葉でヴェルが一瞬目を見開いた。
だって、話してる途中に泣きそうになってるのを見たら止めたくなるじゃん。
「いいんですか……?」
「うん。なんか壮絶だっていうことは分かったし」
「騙しているのかもしれませんよ?」
「いいよ。それでも」
ありがとう、ございますというお礼の言葉の途中でヴェルが少しずつ泣き出した。
私は、目の前で顔を手で隠しながら泣いてるヴェルの頭を静かに撫で始めた。
あれから数十分ほどで泣き止んだヴェルは安堵を得たのかとても眠そうにしていたので、私の寝室にあるベッドに運んで寝かせた。
そして、この後についての事をリビングで椅子に座りながら考える。
まず、ヴェルの語っていた人身売買についてのこと。
あれは世間一般で言う『奴隷』ということなんだろうか。
漫画やゲームでの話でよく見かける物で、人として扱うのではなく道具として扱われていることがほとんどだ。
そしてこの世界でお決まりのような感覚でいる端くれみたいなもの。
「決まった悪役ってのは、どこでもいるんだな」
空気が抜けたようにため息をつく。
そして次に今後のヴェルについてだ。暫くは匿うということ約束付けてさらにバックでは物扱いされている。
ただ、俺が平和な日常を歩むのであれば匿う期間を設け、そこからヴェルを安全な場所に連れて何も知らなかった出来事にするのもある。
「魔法も何も持たない私があの子を保護するにしても、相手が押しかけて来て何も出来ずにすぐに終わるな」
だけど、ヴェルと話してる間に見せた沢山の傷跡と必死で縋って助けを求めたあの顔を見て簡単に切り捨てることは出来なかった。
そう、前のあの時のように。
前の世界で転生する数日前で長年付き添っていた幼馴染の子を助けた後に後ろ指で偽善者と騒がれてもそれでも幼馴染を助けていた、自分がボロボロになっていても。
目を閉じて少しだけ黙想する。
「私はーー」
言いかけたところで扉からノックの音がした。
数時間話したりしていたのか、外は日が傾き落ちている。
玄関に向かい、扉を開ける。
そして、一瞬にしてそのお客から感じたのはとてつもないものだった。
「ここに銀髪の少女がいると聞いて迎えに来たんですが」
声のトーンは違っているが、私の脳内で警鐘を鳴らしていた。
その大男は言葉こそ柔らかく言っているが、手元に持っているそれは言葉とは正反対のものだった。
銀製の長剣が、その右手に握られていたのだ。
「し、知りませんねそんな子。銀色の花束と勘違いしたんじゃないでがっ!!」
白を切る寸前で体が浮かび上がっていた。
長剣の柄で脇腹を殴られてリビング奥の壁に吹き飛ばされて叩きつけられる。
「っは……あぐぅぅ」
「ふん。いることは既にわかってんだよ、勝手に上がらせてもらうぞ」
呼吸が乱れ、息が苦しい。
脇腹からの痛みが尋常じゃなく、骨でも折れてるのではと勘違いするくらいに痛い。
立ち上がることも出来ず、その場で唸る。
大男はそのまま寝室に土足にで上がり込んで何かを見つけたか思うとその正体を左手に抱えながら……正確には引きずりながら出してきた。
「いやぁぁぁ!!離して!痛い!!痛い!!」
「黙れ藻屑!!勝手に抜け出しやがって、帰ったら処分してやる!!」
銀髪を引っ張りながら必死で抵抗するも無駄となっているヴェルを引きずり帰ろうとしていた。
「ま……待って」
「うちの物が世話になったな。後でこいつから出る金で詫びてやるよ」
「待てって……」
このままではヴェルは殺されてしまう。
そう思っていたら、いつの間にか悲鳴を上げていた体が急に軽く感じて髪を掴んでいる左腕を掴んでいた。
突然のことに大男はびっくりしている。
「お前!邪魔をする気なら殺すぞ!!」
「今でもこれが正解なのかわかんねぇ……はぁはぁ……だけど」
癇癪を起したその大男は長剣を俺の所に振りかざしてくる。
ヴェルはその行動を目の当りにするように涙を流した目で見開いていた。
幼馴染に嫌われたとしても。
俺があの時、ボロボロになるまで助けて母の言葉が痛感していた時でも。
俺がやったことに、やり方に満足していた。
だからーー
「ヴェルをその手から離せえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
瞬間、体の奥底から湧き出る何か。
長剣の刃先が俺の頭部まで当たる寸前にそれは爆発した。
長剣が弾かれ、掴んだその手を大男の腹部に押し付けてそのまま男を吹き飛ばした。
だがその飛ばした距離はとても遠く、姿が見えなくなっていた。
ヴェルは解放されてその場でへたり込んで座っている。そしてその出来事に驚いていた。
かく言う俺も驚いていた。
「……なんか出た」
自分の手を見つめる。
そしてまだ心の中で燻っているものがどんどん湧き上がっていた。
これは一体何なのかわからない、だけどこの世界で言う言葉なら代用として使えるかもしれない。
「魔法、なのか?」
「マジックマスター……あの全ての魔法を自由自在に扱う伝説の大魔法使い様ですか!?」
隣でヴェルが伝説の人を見たような憧れでその正体を言葉にした。
大魔法使いなのはわからないけど、なんか気が抜いたらどっと疲れてしまった。
「きゅう……」
「大魔法使い様!!?」
あー、なんかこう。馴れないものはするもんじゃないなぁと実感を味わってその場で意識が飛んでしまった。
これも神様の転生の特典の一つなのだろうか。
後、脇腹超痛い。
神様お任せ転生特典
・女性になった
・大魔法使い
・?????