高校生の頃だ。
自宅に友人を招き入れて遊んだ家庭用ゲーム機のソフトで、RPG系をやりこんでは駄弁りつつも時間を過ごしていた時
『そうだ。お前が魔法を使えるようになったらどんなのがいいんだ?』
RPGの戦闘画面で三角帽子の被った魔法使いが炎の魔法を使ってるアニメーションを見ながら興味津々でその友人は投げかけてきた。
『そうだな。この魔法使いが使ってる魔法とか使いたいな』
『なんだ、普通な回答だな。てっきりお前の幼馴染にいたずらする魔法を作りたいとかじゃねーのかよ』
口を尖らせ、人のベッドの上でポテトチップスを貪りながら残念そうにした。
そんな友人を尻目にして再びゲーム画面に視線を戻すと戦闘勝利という文字が浮かび上がり、気前のいいBGMが流れていた。そして丁度その魔法使いがレベルアップして楽しそうなモーションをしている。
魔法……ねぇ。
*
懐かしい前世の記憶を思い出した辺りでゆっくりと目を開ける。
目の前には見知っている木製の天井が見えていた。
「……眠ってたのか、私」
ゆっくりと身体を起こしてさらに意識を覚醒させる。
外は既に暗くなっており、静けさが広がっていた。
そうだ、ヴェルを助けるために、心の奥底から湧き出る何かをぶつける様に大男を飛ばして、その反動で疲れと一緒に気絶したんだっけ。
「そうだ!ヴェルは?」
周りを見ても視界に映らない銀髪の子がいないので、ベットから降りて部屋から出ようとした時に、足先でぶつかった柔らかい感覚があった。
足元を見ると、床でヴェルが丸くなって寝ていた。
気配で起きたのか、重い瞼を開きながら見上げてくる。
「大魔法使い様……?」
「良かった。女の子が床で寝てると、身体が痛くなるよ」
ひょいとヴェルの体をお姫様抱っこして抱え、さっきまで寝ていたベッドへと運ぶ。
この少女を持ち上げた時、すごく軽かった。
日本の全国平均年齢基準の体重感覚で言ったらそれよりかなり軽く感じる。
ていうか、この子幾つなんだろう?俺が見てる範囲では一応年下と思えるし、14歳とかその辺なのだろうか。
「あ、あの。お身体は大丈夫なんですか?」
「大丈夫。ちょっとだけ気絶してたみたい」
ベッドにヴェルを寝かせて安否を告げる。
そして目の前で安心している少女の頭を撫でてあげる、少しばかり強張っていた様子だったけどちょっとずつ緊張がほぐれる様に表情も柔らかくなっていた。
少し時間経って、ヴェルがベッドの上で座り直して俺を見据える。
「大魔法使い様、このような私を助けてくれて」
「ちょっと待った」
「え?」
キョトンとした顔で首を傾げながら俺を見てくる。
その仕草に少しだけ可愛く感じてしまったが、それよりも気になることがあった。
「その、大魔法使いって何?私、知らないんだけど」
「……えっと」
ヴェルは私の知ってる範囲でという言葉で大魔法使いとこの世界について話してくれた。
大魔法使い「マジックマスター」
この世界で、魔力や属性魔法を自分で生み出して身に着けて道具も要らずに自由自在に魔法を操る滅多にいない職。
世界のほとんどは道具や装飾品とかの魔力を借りて魔法を生み出したり、詠唱を使って魔法を生む杖や棒をを装備して魔力の媒介を武器に充てて生み出すのが主流となっていて、純粋な魔力を個人で持って無尽蔵に生み出す魔法使いはいなくなっていったのだとか。
「そして、過去に起きた大陸戦争の日にその大魔法使い様が自分の魔法を使い、全ての戦争に終止符を打ち付けたという伝説があるんです」
「そう、なんだ」
なんだかヴェルの言葉がすごく生き生きしているような気がした。
黄色い瞳を輝かせながら俺がその伝説の大魔法使いの生まれ変わりなんじゃないか、とか色々話してくれた。
「憧れなの?」
「っ!」
熱弁している少女にふと疑問を投げかけた。
そしたらその少女は少し固まり、頬を赤らめて目を泳がせて焦り始めた。
「いやそのっそういうわけじゃ無いんですけど!ほら、物語みたいな伝説で本当にこういうのになりたいなとかぐらいで、目の前の大魔法使い様には程遠いっていうかっ」
俯いてもじもじしてしまった。
そんな行動に少しだけ和みつつもヴェルは顔を上げてまだ少し赤い頬を向けながら
「大魔法使い様っ」
「……ノルンでいいよ。なんかこそばゆいし」
制止された言葉に意表を突かれている。
俺は頭を掻きながらその呼び方を訂正するように求めた。
「私はそんな大それた伝説の人じゃないし、この魔法のような力もさっき目覚めたばっかりだから違う」
「そう……ですか」
肩を落としてしょんぼりしてしまうヴェルを前にちょっとだけ罪悪感を募らせた。
ただ、この世界で魔力を自分で半永久的に生み出し魔法を出すというのが滅多にいないというのは嬉しかった。
お任せの特典でついたものだけど、ちょっとだけチートじみてるような展開ではある。
前でしょんぼりしているヴェルを宥めながら気になることを聞いた。
「あの男が、ヴェルと一緒に暮らしている主人なの?」
「……」
さっき訪問してきた男について尋ねると、表情が曇り、青ざめていく。
縦に少しだけ首を頷くと、少しの沈黙の間
「私が暮らしている豪邸のご主人様です……名をリカン・フェイアスと言います」
「リカン・フェイアス」
少しだけ震えながらも口を開いてその主人のことを話してくれた。
ペリトよりも遠い都市「ラズリー」で有名とされているフェイアス家を継ぐ現当主。
騎士道やその下で学ぶ教え子を持つラズリー騎士養成学校の理事長を務めている。
だが、それは表の顔で裏は人身売買の商人から奴隷の子を買っては自分の物として扱う残虐非道の人らしい。
王道中の王道で裏表ある権力者みたいなものか。
「典型的っていうかなんていうか」
「?」
「いや、なんでも」
その中でヴェルは抜け出せるタイミングをうかがっては飛び出し、この中小都市に逃げ込んできただとか。
ちなみに、日にちで2日かかったらしい。道理で、服がすごくボロボロであることも頷ける。
「胸糞悪い話だね本当。憲兵とかそういうのには通報とかしなかったの?」
「通報した子はその中でいました。だけど、その後すぐ駆けつけてきた憲兵は主人の調査と言いつつその子の首を……」
と言いかけて、ヴェルは体を起こし膝を抱え込んでしまった。
つまり、憲兵とリカンという男はグルという話だ。
「こうなりたくなければおとなしく物でいろ。無駄なことをするな。と言われ憲兵にも言う事が出来ませんでした」
「……」
「もう、戻りたくないんです」
恐怖と怯えで血の気が引いてしまい震えが少し強くなったヴェル。
彼女の姿を見てもう一度頭を撫でた。
小さく縮こまった少女はなすがままに撫でられていた。そして少しだけ震えが止まる。
残酷な数年の人生を歩んだその少女を見て、俺は見てられなかった。
何かを守ってあげたくなるような感覚、これが母性本能というやつなのだろうか。
「目覚めたばっかりの力で、どうにか出来るって訳じゃないけど。助けてあげるよ」
意表を突かれた言葉なのか、ヴェルは顔を上げて俺を見つめた。
黄色く濁った眼は少しだけ輝きを取り戻していた。
「ノルン様……助けてくれるのですか?」
「まぁ、私もあの男思いっきり飛ばして標的になっているかもしれないから。ついでにだよついでに」
それに、女の子をあんな風に扱うのは同じ男として許せんからな。
身体は女性だけど。
顔を歪め、俺の胸に思いっきり飛び込んで抱き着いてきたヴェルを受け止めつつ、感謝の言葉を言い終わるまで頭を撫で続けた。
「そういや、ヴェルは年齢いくつなの?」
言い終わった後に胸の中で懐いている彼女に疑問に思ったことを言ってみる。
「14歳です」
「ぴったりだったか」
「それがどうかしましたか?」
上目遣いで聞いてくるので何でもないとはぐらかした。
しかし、14歳ですか。そうですか、の割には小さいけどちょっとだけ発育いいような気もするような
「何考えてんだ私!!?」
「??」
これも女性になったことの特権なの……かなぁ?
少しだけ不安な出来事を予想しながら夜を明かしていった。
これだと変態になるんじゃないか?
ノルン「誰のせいだ誰の」
次からは二章です。
更新までお待ちください