そんなこと考えてました、はい。
二章スタートです!
小さな同居人
「洋服をどうにかしないといけないんだよなぁ」
朝、ベッドで静かに寝息を立てて眠っている少女を置いて早く目が覚め、誰もいない静寂なリビングで呟く。
木製の椅子に座り、背もたれに体を預けながらそんなことを思ってたら言葉にしていた。
ヴェルを匿い、助けると言った数日から今日まで策をどうするかと悩んでいた。
この中小都市では、フェイアス家についてのことや学校の話をあまり聞かないらしい、と出店で野菜や果物をたたき売りしていた頭巾被ったおばちゃんからの話だ。
それともう一つ、考えなければならないことがあるのだ。
この静寂に響いた事についてだった。
「家にあの子にぴったりなサイズの服がない訳だし、ヴェルも私はこのままでもいいですよとか遠慮しちゃってるし」
節々の穴から少しだけ見える少女の肌とか人の手によって出来た傷跡やミミズ腫れとか色々な意味で、落ち着かない。
外見は女性といえど中身はごく普通の25歳の男性なのである。
一応、寝る時は必ずあのボロくなった服ではなく、あの少女がまるまる入ってしまうぐらいの装備屋の防具一覧の棚にあったローブを買っては着させて寝かせている。
「おはようございます……」
リビング奥から眠そうな声でとてとてと歩きながらヴェルが来る。
ローブも着ているおかげで、頭以外の身体は全て隠れているので大丈夫そうだ。
「よし、今日も見えない」
今の姿のヴェルをじーっと見て思わず口にしたら、疑問符でも浮かび上がるような不思議そうな顔で首を傾げられてしまった。
「ノルン様。今日はどうしますか?」
テーブルを挟んだ向かいの椅子に座って尋ねられる。
やや不安そうに見つめてくるヴェルの視線が少し気になるが、今日こそは後回しにしてしまったことをしよう。
「今日こそはヴェルの服をどうにかするよ」
「私は別に、このローブだけでも嬉しいですしこのままでも」
そんなのはダメに決まってんでしょう。
と反論しかけたところでローブの襟を少し寄せて頬が緩んでいるのを見て止まってしまった。
いやいや、それは違うでしょ。
必死で首を振る。
「そうじゃなくて!これからまた外に出る時に、ひょんなことからローブの中が見えたらどうするの」
「それは……えーと」
どうやらヴェルにも恥じらいはあるようだ、少しだけ言葉に詰まっている。
よかった、この子にも一応理性が残っていたようだ。
「た、確かに困りますね」
顔を真っ赤にして小さくなって照れてそう呟いていた。
最初からこう言っておけば、理解してくれてたのかなと出会って匿うと決めた初日の俺を呪いたい。
「ヴェルも女の子なんだからその辺はしっかりしないと。とにかく、今日も外で服屋とか装備屋とかで探しに行ってくるよ」
ヴェルに留守番を頼み、今日もこの子に似合いそうなサイズの服を調達しに外へ向かった。
◇
玄関からノルン様の背中を見送り、扉を閉める。
そして私は今日も帰りを待つためにリビングの椅子に座って犬のように待つ。
「……」
フェイアス家とは違い、こじんまりとした室内で最低限の物しか置いておらず、料理場の場所も私があの家から見ていた景色も全く違っていた。
ノルン様曰く、貴族のような生活とか贅沢な生活するよりもこういう実用的で動ける家でゆっくりくつろげる空間がノルン様の好みなのだとか。
「前までいた場所よりは狭いけど、なんか落ち着くかも」
目を閉じて、その唐突に来る安心感に身を任せて椅子の背もたれに体を寄せた。
私が前までいた過酷で残酷で残虐な家、リカン・フェイアスが主人の官邸。
この身をあの家に売られて奴隷として人々の命令を貰いながら当時はその生活を過ごしていた。
間違いがあったら叩かれ、ストレスがあったら呼ばれて鞭で打ち付けられ、家事も全部やらされて失敗があれば殴られる。
最初は泣いて泣きまくって死にかけた。
暫くその生活をしていた影響で、慣れた頃にはもうその感情ですら無くなって、物言わぬ体が出来上がっていた。
そんなある日、他の奴隷の子が近くの憲兵に助けを求めた。
私達は一人のその勇気ある行動に安心して気持ちが楽になった。
もうすぐこの地獄のような所から解放される。
だけど、その安心はやがて絶望へと下り落ちた。
憲兵が家宅捜索でその勇気ある子と一緒に来た時、リカンの自室に入った後から暫く経ち、憲兵とリカンが部屋から出て来た。
だけど、その子が部屋から出てくる様子はなかった。
疑問に思った私はその部屋の入口を残りの子と確認した。
その目の前は赤く、鉄の強い臭いと共に誰かの死体と首が転がっていた。
顔を見て分かった、あの子は勇気あった奴隷の子だということを。
その場で吐いた私の頭上から重い言葉が圧をかかる様に、そして鎖を付ける様に重く響く。
――こうなりたくなければ、大人しく従っていろ。無駄なことをしたら殺す。
「っは!!!」
息が苦しい、体が飛び上がり辺りを見回す。
そして、洗面所へ向かい胃から込みあがってきた何かを口から出した。
嗚咽が止まらなく胃の中が空になってもそれは止まらない。
ようやく落ち着いた時には、その場でへたり込んだ。
足に力がはいらない……私はそれでも体を引きずり、リビングへ戻る。
「ノルン様に心配かけちゃ……だめ」
体に鞭を打ってさっき座っていた椅子に戻り、身体を寄せる。
あの後すぐに、不意をついてラズリーから飛び出しこの街にやってきてノルン様と出会った。
そして、ノルン様は私がこの前に読んだ大魔法使い様が活躍する伝説の本の中にいる大魔法使い様で助けてもらってそれから、この薄いけど暖かいローブをくれた。
「早く帰ってこないかな……」
そう願っていたら、きっと一人でいるこの時間が紛れる気がした。
*
装備屋は街中では一か所しかない。
そのためなのか、服屋とかの発展は少なく前世であった洋服とかは滅多にない。
防具の棚の一覧にあるローブなどを品定めしながら種類の無さに少し悩んでいた。
ちなみに、俺の今着てる膝下スカートと上着とインナーは母親に頼みこんで作って貰ったお手製の物だ。
素材はちょっと高かったらしいとか。
「うーーーーん、一応身体を隠せるものならこれかなぁ」
藍色の布製のローブを広げながら顔をしかめる。
あと、ヴェルは下着を着けていない。
前の主人は自分の趣味を露呈しているものだな。
「リカンって野郎、さてはロリコンだな?」
「そこの嬢ちゃん。今リカンって言わなかったか?」
不意に声をかけられて振り向くと、装備屋の店主で無精髭の黒髪単発の渋い男性だった。
「知ってるんですか?」
「知ってるも何も、俺はラズリーの出身からここに来た者だからな。あいつの黒い噂は聞いてるぜ」
意外な場所からの情報がまさかここで手に入るとは思わなかった。
店主さんがラズリーの産まれということらしい。
「そうなんですか?」
「そいつがどうかしたのか」
ヴェルの事を濁しながら店主さん……いや、顔がおじさん顔だからオジさんって呼ぼう。
その事を話した。
「人身売買の噂ねぇ、そりゃ案外当たってるかもしんねぇな」
「それはどういう」
詳しく聞くところで、手を前に出されて静止されてしまった。
「詳しく知りたいなら、直接ラズリーに向かうといい。俺はこれ以上言わずここで働くことにしたからよ」
オジさんの少しばかり影のある言葉を最後に、店を出ることにした。
ついでに手にしていた藍色のローブも買った。
胸糞でした。すみません
12/5
誤字修正報告ありがとうございましたm(*_ _)m