少女(♂)の過ごす異世界冒険記   作:未来琴音

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旅の始めは準備から

 装備屋から離れ、自宅に戻り玄関から入るとヴェルがリビングの方から出迎えてきた。

 そのタイミングで今日買ったローブを渡すと嬉しそうに抱きかかえ、お礼をして自室に戻っていく。

 

 

 「直接ラズリーに、かぁ」

 

 

 オジさんに言われたことを脳内で反芻する。

 確かに、リカンがいる都市に出向いて調べた方がいいのかもしれない。

 ペリトよりは情報が沢山あるし大都市だから人口も多い。

 自室に戻り、観音開きのクローゼットを開けながら考える。

 

 

 「確か、遠いんだっけ」

 

 

 ヴェルが2日かけてここに来たと言っていたから、かなり歩く距離ではありそうだ。

 だが、悩むのは止めよう。

 ヴェルを助けるための手がかりや重要なものがそこで手に入るのなら行くしかない。

 

 

 「よし」

 「ノルン様?」

 

 

 俺の心が決まった所で、自室の扉から声がしたので、その声の主の部屋の扉の隙間から顔を覗かせている少女に振り向き目を合わせる。

 その後に部屋に入り、今の俺の行動に少し戸惑っていたようだ。

 

 

 「私、ラズリーに行ってヴェルを助ける手段を考えてみるよ」

 

 

 大都市の名前を言われたヴェルは数秒硬直して言葉に詰まっていた。

 だが、その後すぐ何かを決心したような目で俺を見てきた。

 

 

 「私も……私もラズリーに行きます!」

 「でも、その都市から逃げてきたんでしょ?この家で待っていた方がいいんじゃないかな」

 

 

 ヴェルは奴隷が嫌で逃げる様にここに来たのだ。

 それで戻ってしまうとまた同じように捕まってしまうのかもしれないし。

 ここでゆっくりと俺の帰りを待っていた方がヴェルも戻らずに済むのでは。

 そう思ったが、その考えは少女に抱きつかれ揺らぎ始めた。

 

 

 「数日間ずっと一人で留守番して寂しいんです。それでもし、ノルン様が何かあって帰らなくなったらって思うと私……」

 「ヴェル……」

 

 

 自宅に匿ってから数日、確かにこの子と一緒に外に出ることはなく少女の御身優先にして意図的に留守番をさせていたのだが、寂しさはその事情で紛らわすことは出来なかった。

 そういや、俺もここで一人暮らしを始めた1ヶ月間は寂しかったっけ。

 

 

 「わかった。一緒についてきてくれる?」

 「っ!……はいっ!」

 

 

 明るく笑顔を見せてくれた少女を、新しい二人目の仲間として迎えることになった。

 大都市へ向かう仲間が増え、その子の頭を撫でつつその支度をするべく準備を始めた。

 ある程度の荷物をまとめた頃には日が真上で最大の照りを出していた。

 俺とヴェルは、旅に出る準備をした後にリビングで昼食を取る。

 

 

 「そうだ。ヴェルはここで冒険者ギルドの方で身分の登録とかして外に出られるって制度知ってる?」

 「そんな制度があるんですか?」

 

 大都市ではそれが当たり前と、一度ギルドの受付の人に聞いたことある。

 旅や冒険をする時にその身分登録したカードが無いと都市でその制度を用いている場所は基本入ることは出来ない。

 その他にも通行証とかが存在するらしいのだが、商人という職の人が基本持っていること前提とか。

 前世の言う運転免許証とかそういうシステムらしい。

 

 

 「それがないと基本外で厄介払いされるんだってさ。だからこの後にギルドに向かう予定だよ。ヴェルもおいで」

 

 

 その言葉に頷き、黙々とパンを食べ進めた。

 俺もそれに気を取られつつも、昼食を食べ進めた。

 ヴェルって、少しずつ食べるんだなぁ……小動物っぽいや。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 冒険者ギルド内は至って静かな日というのはない。

 受付前でパーティの誘いをするされる人とかもいれば掲示板前で依頼の品定めをしている人もいる。

 休憩スペースで同士で話している人とかもいるなど様々で静かになったことはない。

 昼食を終え、ヴェルと冒険者ギルドに向かいその中で他の様子を見ていた。

 賑やかだよなぁ、ここ。

 毎回入る度に思ってしまう。

 

 

 「人多いですね」

 「そうだね。えっと登録所は、と」

 

 

 特別依頼の受付の反対側の場所がそうらしい。天井から登録はこちらへという看板が垂れ下がっている。

 俺とヴェルはそこへ向かい、旅に出るという理由で身分を登録するために受付して貰った。

 

 

 「ノルン・アーネスト、ヴェル・スカリール。お二人様の冒険者カードをお作り致します。お間違いはありませんか?」

 「問題ないです」

 「では種族や職業鑑定の為、この魔道具に手を置いてください」

 

 

 淡々としたお団子ヘアの受付の人から言われた平型の道具。

 どうやら生き物の情報をこの平型の表にある画面に乗せて診断するらしい。

 レントゲン撮ったものを貼るためのボードのような感じだ。

 その表面に左手を置き、読み込ませる。

 次にヴェルにも同じように左手で読み込ませた。

 

 その後すぐに受付の人が小さく驚きはじめ、俺を見たのは一瞬だった。

 

 

 「ノルン・アーネスト……職、マジックマスター、種族人間。まさか伝説と謳われた職業がここにいるなんて」

 「どうしました?」

 「い、いえ別に。次にヴェル・スカリール。職は無し、種族人間。特例、奴隷……」

 

 

 あれ、ヴェルの所で今度は冷たく軽蔑するような目で睨んできたんですけど。

 受付の人から無様に見る目をいただくのは、なんかちょっと変な感じがした。

 

 

 「ヴェルさん。この奴隷についてなんですけど、ノルンさんの奴隷ですか?」

 「違います!ノルン様はそのようなことをしません、むしろ助けてもらった恩人です」

 「えーと」

 

 

 こらそこ、本人おいて話すんじゃない。

 そうか、登録されるカードにそれが出ちゃうのか。

 そうなると、ラズリーに入るのは幾分厳しくはなるのか……?

 

  

 「受付さん。そこの項目って消すことは出来ますか?」

 「一応、出来ます。その消す理由には何かおありですか?」

 

 

 ここでごまかすのも何か違うし、改めて俺の中で目的を固めたいというのもあるので受付の人に経緯とその理由を話した。

 受付の人は真剣に聞いており、理解したような感覚で項目の所をいじってもらえた。

 

 

 「しかし、ラズリーにそのような裏事情があったとは知りませんでした。一応、冒険者管理協会の方でも題として挙げておきます」

 「ありがとうございます」

 

 

 出来る受付の人だった。

 登録の方が終わり、名刺よりちょっとだけ大きい冒険者カードを受け取ってギルドから外に出る。

 それから一度自宅に戻って、まとめた荷物を持ち家の中の戸締り等を確認した。

 

 

 「そろそろ行くよ」

 「はいっ」

 

 

 玄関で2人並びながら扉を開け、自宅から離れる。

 こうして俺とヴェルの最初の旅が始まった。

 だけど、目的はヴェルを助けるだけのもの、目標が終わったらこのペリトに戻ろう。

 街の出口を目指しながら歩く。

 道中、後ろから追いかけてきた、さっき相手してくれたお団子の受付の人からヴェルに洋服をプレゼントしてくれた。

 

 

 「私のおさがりですけど、使ってください」

 「何やら何までありがとうございます。えっと」

 「コリュ・リンケージです。新たな冒険者さん、これから頑張ってくださいね」

 

 

 コリュさんの見送りと前から丁度欲しかったプレゼントを受け取り、ペリトの街を出るのだった。

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