少女(♂)の過ごす異世界冒険記   作:未来琴音

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湖にいる精霊さん

 湖といえば、青く澄んだ色で水も冷たく、場所によっては飲める水という所もある。

 夏にプールとは違うくらいの広さと温度の低さで泳いだり、水面近くから釣りをして楽しむ一興も出来るくらいの自然が生み出したものだ。

 

 森を抜けた先から獣道を通り近くで見えていた湖までたどり着き、背負っていたヴェルを起こす。

 俺の耳元で少しだけ呻き目を開け正面を見る。

 

 

 「湖着いたんですね」

 「そうだね、ここでようやく半分なのかな?」

 

 

 ヴェルを降ろし、水面付近まで足を進めしゃがみ込む。

 地面との境目で揺らいでいるのを見ながら、その水を手で触る。

 今の季節はわからないけど、夏に近いのだろうか水が丁度良い温度で感じていた。

 

 

 「朝ごはんにしよっか」

 

 

 湖に釘付けになっていたヴェルを呼び、湖畔に座り、朝食の準備をした。

 簡単な物で済ますために、大きめの柄模様のスーツケースから長方形のバスケットを取り出して、蓋を開ける。

 視界に見えたサンドウィッチを一つ取り出し、ヴェルに渡して食べ始めた。

 

 

 「ノルン様の手料理は本当においしいですね」

 「昔に一度作ったことあったのを思い出しながら作っただけだよ」

 

 

 本当はこの世界の母親の手元を思い出しながら見様見真似で作っただけどね。

 嬉しそうに食べるヴェルを横目に俺も手元にあるサンドウィッチを食べながら湖の先を見た。

 奥側の水面が太陽の光の反射でキラキラと輝き、濁りの少ない水中からはそこそこ大きい魚が元気に泳いでいる。

 朝食を先に食べ終えて両腕を上に伸ばして背中を伸ばした。

 この場所でゆっくりと休息を取れそうだ。

 

 

 「流石にもう誰も襲ってきたりとかしないよね?」

 「もぐもぐ……大丈夫かと思いますよ。この先すぐ目的の場所ですから」

 

 

 隣で小さな口で少しずつ食べているヴェルが答えた。

 湖を沿うように出来た道を辿ってすぐに城壁が見えるらしい。

 途中でもその一部が垣間見えるのだが、開けた場所ではない湖畔の隅なので見れないとか。

 

 

 「なので、すぐと言っても、もう少し時間掛かりますよ」

 「そうなんだ」

 

 

 歩きで時間かかるというのなら、湖を突っ切ればもしかすると早いのかもしれない。

 その手段を俺は持っている。

 

 

 「ねぇ、ヴェル」

 「はい?」

 「ここを飛んで湖を突っ切っていけば、短縮するよね?」 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 湖の全貌を見る様に真上に一回風魔法で飛んで、そこから高さを調整しつつ水面から少し離れた場所で浮遊する。

 もちろん、ヴェルも一緒に手を繋いで飛んでいる。

 そこから低空飛行をしてゆっくりと今いた湖畔から向かい側の方へと近づいていった。

 

 

 「そうだ、少し遠回りしようか」

 

 

 途中で方向転換をして湖の縁を沿う様に飛行する。

 ヴェルが少し驚いたり、水面から魚影を見て泳いでるところを見ては感動もしていた。

 

 

 「前までは、こういうのは見れなかったの?」

 

 

 ヴェルは頷く。

 

 

 「奴隷の頃はずっと部屋の中でしたので、こうしてノルン様と外で色々なものが見れてとても嬉しいですっ」

 

 

 子供のように無邪気に喜んで楽しそうにしている。

 釣られて俺も楽しくなってきた。

 水中の様子を上から覗いて自由に空を飛び、湖の大きさを改めて実感している時だった。

 

 

 「そこの飛んでいる冒険者、止まれ!!」

 

 

 空中から聞こえてきた高めの声に飛行を止め、湖の中心に丁度良く留まった。

 今の声、何処から聞こえて来たんだろう。

 辺りを見渡しても広大な景色だけしか見えない。

 すると目の前の水面が激しく揺れ、影が浮かび上がる。

 そして、その大きさは徐々に広がりやがて水飛沫を上げて飛び出してきた。

 

 そこには露出のあまり少ない水着姿をした女の子が水面から足つけずに立っていた。

 

 

 「こらこら、湖で遊んじゃいけないって両親から教わらなかったの?」

 「……」

 「ていうか、冒険者なら危険を顧みずに飛んじゃいけないでしょ。さっさと地面ある所に戻りなさい!」

 「…………」

 「ねぇちょっと聞いてる?ねぇってば」

 「ノルン様?」

 

 瞬きを繰り返す。

 そしてヴェルに呼びかけられて我に返った。

 身長は俺より少し小さいだろうか、水色のしっとりとした髪で両側に一つずつまとめ上げられていて、所謂ツインテールで水色の瞳で少し釣り目の女の子。

 ジト目でこちらを睨んでいたので、すかさず返事をした。

 

 

 「精霊様でこざいますか?」

 「!? 何故この偉大な私が精霊だってことがわかったの!?」

 

 

 偉大な精霊は驚愕し身体を仰け反らせた。

 こういう姿をした子は、主にRPGの中盤とかでも見た精霊の服装で少し思い当たりがあった為だ。

 ちなみに後ろでヴェルも驚いていた。

 

 

 「あー、えっと。なんとなく?」

 「なんとなくってあなたねぇ……いやそうじゃないわ!」

 

 

 ペースに吞まれまいと精霊は立て直し、指をさしてきた。

 

 

 「早く戻りなさい!でないとあんた達の冒険者の魔道具を全部奪うわよ!」

 

 

 そして語気を少し強め、俺の身体を嘗め回すように見てきた。

 単に、向こう側のラズリーの入口付近の先に向かいたいだけなのだが。

 話を聞いてくれるかわからないけどとりあえず説明しよう。

 

 

 「いや、ラズリーに行きたいだけなんだけど」

 「……ラズリーですって?」

 

 

 今度は眉毛を引くつかせ殺意ありそうな目で睨みつけた。

 あれ?なんかこの子表情がころころ変わって面白い。

 そう思うのも束の間だった。

 

 

 「あんなクソみたいな街の住人だったのね!!絶対にこの先は行かしてやらないわ!!さっさと帰りなさい!」

 「とは言っても用があるんだし、引けないんだよね」

 「絶対に駄目!」

 

 

 強情にも程があった。

 聞き分けのない子供を相手してるようで少しだけイラついた。

 いや、落ち着け。

 俺は、中身は25歳の男で大人なんだ。ここは大人らしく毅然とした態度で済ませなきゃならない。

 

 

 「……吹き飛ばすか、この精霊」

 「ノルン様!?」

 

 

 身体が言う事聞いてくれませんでした、何故だ。

 魔力を身体から引き出しつつ、それを空いている左手に集中させ風魔法の弾をを作り上げる。

 精霊はそれに気づいたのか、臨戦態勢を取る。

 しかし、その魔法を見て顔が少しずつ青ざめていった。

 

 

 「魔道具無しで詠唱なしの魔法ですって?……え、まさか」

 

 

 臨戦態勢から一変、ノーガードになって無防備と化す。

 俺の姿をもう一度見つめ、そして

 

 

 「大魔法使い様ーーーーー!?」

 

 

 俺の職を叫びながらその場で素早い土下座をした。

 咄嗟の出来事に貯めた魔力を戻し、土下座で頭をずっと下げている精霊を見つめた。

 というか、そんなに偉大なのか大魔法使い。

 

 

 「先程の無礼をお許しください!送還だけは、送還だけはご勘弁をっ!」

 「えーーっと。ヴェル、これは一体?」

 「は、はいっ。精霊は大魔法使いに仕えてた時代もあったと以前の伝説の本の一部でそのようなことが書かれてました。そして、それぞれの祀り物の場所を作って精霊を自由にさせたっていう一説があります」

 

 

 つまり、俺は今この精霊を自由に言いつけることが出来るって訳だ。

 

 

 「……へぇ」

 「ノルン様、お顔がとても怖いですよ」

 

 

 隣で怯えているヴェルを後に、さっきまで邪魔してくれた精霊をどうにかしてやろうか。

 イラつきもそこで再び蒸し返してきた。

 

 

 「この大魔法使いの行く道を遮るなんて、偉そうになったもんだねぇ?精霊よ」

 「ひぃっ!」

 「その非道たる行い、我が命を以って下す」

 

 

 ガタガタと言わんばかりの左肩に手をそっと添える。

 精霊が敏感に反応して縮み込んだ。

 そして無理やり顔を上げさせて完全に怯え切った目を見つめる。

 

 

 「お咎めなし!」

 「へ?」

 

 

 呆然とする表情をしている精霊さん。

 よく考えたら、俺は昔の人じゃないし。

 精霊を虐める様な思考も持ち合わせてないからな。

 

 

 「聞こえなかった?」

 「い、いえ!慈悲深い言葉ありがとうございますぅ!」

 

 

 助かったぁ。

 と緊張が一気に解けたのか、目の前で精霊がへたり込んだ。

 後ろでヴェルも称賛の言葉をあげていた。

 

 

 「そもそも、そんな加虐趣味ないし、あとそんな堅苦しい言葉はいいよ。さっきの口調で全然いいから」

 「そ、そう?変にへりくだった言葉は疲れるからそっちの方が助かるわ」

 

 

 気楽になった途端に強気になる辺りはちょっと気に入らなかったけど、怯えながら話されるよりはマシだろう。

 その精霊を立ち上がらせ、とりあえず話をすることに湖のほとりまで飛行するのだった。

 




一本にまとめ上げようとしたらなぜか前後編になりました。
後編は次回です。
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