新人類観察紀行〜創造主が滅んで用済みになったアンドロイドが新しい世界で自分の生き方を絶賛模索中。   作:T.K(てぃ〜け〜)

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第二十一話 決闘

 聖華暦833年 秋 帝国リンドブルム領 ラトール綿農園

 

私達が今いるラトール綿農園はリンドブルム侯爵家の領地の一つです。

主に綿を栽培しており、それを主産業として周辺都市に出荷しています。

また、同じリンドブルム領の第一都市グリディーンへの街道沿いにあり、宿場町としても機能しています。

 

「エリック、今日こそは決着をつけよう!」

 

「ケイン、望むところだ!」

 

それは突然起こりました。

場所は商店や露店が立ち並ぶ大通り、二人の男性が通りの真ん中で声を張り上げ、睨み合いをしています。

 私達の露店の真ん前です。

 周囲には人集りが出来、往来は完全にストップしています。

 

 二人とも、まだ若い青年のようです。どちらも小ざっぱりとした身なり、装飾品を身に付けている所を見ると、おそらく貴族の子息と思われます。エリックと呼ばれた青年は、身長が高くて線が細い、少しヒョロっとした印象を受けます。

 ケインと呼ばれた青年は、熱血漢と言うのが似合いそうな風貌です。

 

 二人とも腰に下げていた剣を引き抜くと胸の前で一度掲げ、構えます。

 周りの人達は一斉に囃し立て、今まさに決闘が始まろうとしていました。

 

 そんな時です。

 

「まって、二人とも。争うのはやめて!」

 

 一人の女性が割って入りました。その人は流れるように長い金髪に質素ながら上品なドレスを身に纏った、美しい貴婦人でした。

 

「メルフィナ様、御下がり下さい。これは私達二人の問題なのです。」

 

「その通りです、危ないのでどうぞ御下がりを。」

 

 二人は構えを解く事なく、女性を諭すように言葉を発します。

 

「そうではありません。この様な場所では民に迷惑が掛かると言っているのです。」

 

「御心配には及びません。すぐに決着をつけます故。」

 

「左様、卿の敗北は決まっているからな。」

 

「減らず口を!」

 

 メルフィナと呼ばれた女性の呼び掛けも虚しく、二人は争う姿勢を崩しません。もう一歩踏み出そうとした彼女はお供の侍女に制止され、私達の露店の前まで下がります。

 もう、二人を止める事は出来ない様です。

 

「御迷惑をおかけします。」

 

 彼女は、私はメルフィナと申します、と名乗り、私に頭を下げました。

 

「全く、貴族の嗜みというのは迷惑なものだ。

リヴル、いつでも[本]を守れるようにしておくんだ。」

 

「判ったのですよ。」

 

 私は警戒して、二人の動きを注視しました。

 

 数秒の睨み合いの後、決闘は始まりました。

 ケインさんが、踏み込んで剣を横薙ぎに振りました。

 エリックさんはそれを剣で受けつつ、力を逃していなします。

 いなした流れで剣を振り上げ、エリックさんが斬りかかりますが、すぐさま体勢を立て直したケインさんがガッチリと受け止めました。

 

 幾度となく二人の剣は交わり、攻防を入れ替えながら、人集りで出来た小さな決闘場の中を駆け回ります。

 

 二人が何度目かの鍔迫り合いをしていた時です。

 ケインさんがエリックさんを力任せに押し弾きました。彼は体制を崩され、よろめきます。

 そこへすかさずケインさんが体当たりをしました。エリックさんは堪らず吹っ飛びます、私達の露店目掛けて。

 

「逆巻く風よ、疾風の加護を、ウィンドフロー‼︎」

 

 私は間髪入れずに風魔法でエリックさんが露店へ突っ込むのを防ぎ、そのまま、ケインさんの方へ彼を押し出しました。

 

 ……しかし、風の勢いが強過ぎたのだと思います。

 凄い勢いで飛んで行き、二人は盛大に激突、通りの端まで吹っ飛んで動かなく…気を失ってしまいました。

 

 皆が私を見て、笑い声と喝采が上がりました。

 図らずも二人の決闘に決着をつけてしまいました。

 

「…タカティン…やってしまったのです…」

 

「………ゥゥン」

 

 タカティンが苦虫を噛み潰したような声で小さく唸りました。

 

「ありがとう、二人を止めて頂いて感謝します。」

 

「っはい?」

 

 メルフィナさんに急に声を掛けられて、少し変な声がでてしまいました。

 

「皆様、二人の為に御迷惑をおかけ致しました事を、お詫び致します。」

 

 彼女はこの場の皆に謝罪をしました。

 

「メルフィナ様、いつもの事です。お気になさらず。」

 

「そうですよ、貴方様が悪いのでありませんから。」

 

 周りの人達はメルフィナさんの事を知っているようなのでした。

 

 *

 

 私達はメルフィナさんの御屋敷、つまりこの街の領主の邸宅へ招かれました。

 庭のテラスでシックなテーブルに向かい合わせで座り、紅茶とクルミのカップケーキを頂きました。

 クルミのカップケーキは生地に細かくすり潰したクルミを練り込んで焼き上げてあり、ふんわり柔らかで舌の上で解けるようで、香ばしい香りと優しい甘さが口いっぱいに広がります。

 食べる程に幸せを感じました。

 

「改めて自己紹介をします。私はメルフィナ・フォン・ベルゼバッハ。ここラトールの領主、ベルゼバッハ男爵家の長女です。

 この度はあの二人の喧嘩を止めて頂いて、感謝致します。」

 

「いえいえ、こちらこそやり過ぎてしまったのですよ。お二人の怪我はどうなのです?」

 

「二人ともまだ気を失っていますが、問題ありません。たまには良い薬です。

 ふふ、あの二人、エリックとケインは私の従兄弟なの。どちらも分家なのですが、共にラトールで暮らしているわ。私達は同い年で小さい時は三人一緒に遊んだものよ。」

 

 メルフィナさんは懐かしむように庭に目を向けました。

 私も釣られて庭を見ます。大きな庭ではありませんが、草木や花々の手入れの行き届いた、素敵な庭です。

 

「いつの頃からかしら。あの二人、どっちが優れているか勝負をしようって言い出したの。

 それからは、事あるごとにああやって決闘の真似事やって……男って、あんなのばかりなのかしらね?」

 

「むう…それはよく判らないのですよ。」

 

「あら、ごめんなさい。なんだか愚痴を聞いてもらってるみたい。」

 

「大丈夫なのですよ。メルフィナさんは二人をとっても気にしているのですよ。二人の事が好きなのです?」

 

 その質問に彼女はくすりと笑いました。

 

「そうね…好きよ。あと何年かしたら二人のどっちかが男爵家の家督を継いで、私はその人と結婚することになってるの。」

 

「そうなのです?」

 

「そう。だから、二人が決闘しているのは、ある意味では私の所為なのかなって…これは思い上がりかしらね?」

 

 メルフィナさんは微笑みました。でもなんだか複雑な想いを抱えているようでもありました。

 私には、彼女が今何をどう感じ、考えているのかは解りません。

 

「すっかり引き止めてしまったわね。ごめんなさい。」

 

「とんでもないのです。美味しいお茶とケーキを御馳走になったのですよ。ありがとうなのです。」

 

「リヴルさん、またこの街に来たら遊びにいらっしゃい。色々とお話しましょうね。」

 

「ハイなのです。」

 

 すっかりと打ち解けた彼女とは友達になりました。

 邸宅を後にして、私は宿へ向かいます。

 あの二人には悪い事をしてしまいましたが、正当防衛なので、仕方ありません。

 あの場にいた皆がそう言っていました。

 

 きっとあの二人はメルフィナさんを巡って、また決闘をしていくのでしょう。

 

 でも本当は、メルフィナさんは二人の決闘に決着がつかなければ良いと思っているんじゃないか…何故かそう思えたのです。

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