新人類観察紀行〜創造主が滅んで用済みになったアンドロイドが新しい世界で自分の生き方を絶賛模索中。   作:T.K(てぃ〜け〜)

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第二十二話 昔話

聖華暦833年 秋 帝国グートシュタイン伯爵領第二都市カウスシュタット

 

この街は皇帝直轄領の中にある伯爵家の所領で、工業の発達した都市です。

街には工場区画と一般区画があり、私達は一般区画、その西側の通りの一角に、露店を出しています。

 

今日のお客さんは10歳くらいでしょうか?

少年が、おそらくなけなしのお小遣いを叩いてきたのでしょう。

一冊の本を手に取って言いました。

 

「あの、この本を…下さい。」

 

その本は白い鞣革の表紙に華の紋様をあしらった詩集でした。

 

「ありがとうなのですよ。」

 

お金を受け取って、本から値札を丁寧に外し、そっと手渡しました。

少年はとても嬉しそうに、大事そうに本を抱えると、ペコリとお辞儀をして駆けて行きました。

 

「とっても嬉しそうだったのです。」

 

あの子の嬉しそうな表情を見ていたら、なんだか私まで嬉しくなりました。

 

「ふむ、あれくらいの歳の男子で欲しい本があるのは珍しいな。ほとんどは10代半ば以上からだ。」

 

「そうなのです?あ、でもほとんどって事はたまにはそういう子もいるのです?」

 

「ああ、随分と昔になるがな。」

 

私の知らない、タカティンの知っている、昔の話。

その時の子供がどんな子だったのか、気になりました。

 

「タカティン、その子がどんな子で、どんな本を買ったのか、憶えているのです?憶えてたら、聞かせてほしいのですよ。」

 

「そうだな……23年前だ。季節は今と同じで秋、場所は自由都市同盟、中央都市アマルーナの市場だった。」

 

タカティンがぽつぽつと語り出しました。

 

「その子は12歳で、周りから『ダリー』と呼ばれていたが、おそらく愛称だろう。本名は聞いていないから知らない。

他の同い年の子供と比べるとヒョロっとしていて虚弱な感じだった。話を聞くと、やはり身体が弱い事にコンプレックスを持っていた。

その事を気にして少し鬱屈していたようだ。

 

だが、非常に頭が良かったな。難しい専門書でもスラスラと読んでいた。特に科学技術に関心があったようだ。」

 

「勉強が出来る子だったのです?」

 

「体力的に劣っているのを勉学で補おうとしている、ようだったな。だが、才能はあったようだ。」

 

「ダリー君はどんな本を買ったのです?」

 

「ああ、2日通い詰めて散々迷っていたが、WARES時代の発掘品だった基礎科学教本を買って行った。

彼はその時に、科学技術を魔導工学に置き換える事が出来れば、世の中はもっともっと発達する。自分はそれに貢献出来る仕事をしたいと言っていた。

今年35歳だから、あのまま勉強を続けていれば、優秀な技術者になっているだろう。」

 

タカティンが珍しく懐かしんでいるようでした。

余程印象に残っていたのでしょう。

私もダリー君に会ってみたくなりました。

 

「もし会えるなら、また会ってみたいのです?」

 

「どうかな?23年も経っているんだ。相手はもう忘れてしまっているかも知れないし、今の私は[本]だからな。お互い、見ても判るまい。」

 

「むう、でも、また会えるかもしれないのです。そうなったらリヴルも嬉しいのですよ。」

 

「どうしてリヴルが嬉しがるんだ?度し難い…」

 

何故かタカティンは訝しんでいました。

やっぱりタカティンはそういう情緒を分かってくれないのです。

 

「むう、リヴルも会ってみたいからなのですよ。」

 

「そういう事か……本当にお前は何にでも興味を持つんだな。

まあいい、また同盟へ行った時に探してみるか。あれからどうなったのか、興味もあるしな。」

 

「ふふ、楽しみが増えたのですよ。」

 

私も、今まで出会って別れた人達に、もう一度会ってみたくなりました。

でも、世界を回っていれば、いずれまた会う事が出来るはずです。

その時の再会が、今から楽しみでなりません。

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