新人類観察紀行〜創造主が滅んで用済みになったアンドロイドが新しい世界で自分の生き方を絶賛模索中。 作:T.K(てぃ〜け〜)
聖華暦834年 9月 聖王国領シャーリアン
この街は聖王国でも『水の都』と呼ばれている、とても美しい街です。
街の中は至る所に水路が張り巡らされ、水面を反射した陽光がキラキラと街を飾っていました。
その水路をいく艘もの小舟(ゴンドラ)が渡ってゆきます。人も物も水路を行き交い、街を動かしています。
水路は人々の生活を支えるだけでなく、観光の目玉でもあります。
小舟(ゴンドラ)で街を遊覧する事も出来るのです。
「お久しぶりですね、タカティン・モーントシュタイン。
お変わりないようで何よりです。」
そのシャーリアンに足を踏み入れた早々、三人の女性達に取り囲まれました。
「……あぁ、久しぶりだな。
待ち構えていたのは、どういう事だ?」
タカティンが正面に立つ女性に言います。
長い黒髪、細くて色白の美人です。他の二人もそれぞれ金髪、銀髪で端正な顔立ちの美人なのです。
三人ともタカティンとは知り合いのようでした。
どういった知り合いなのかは、後で問い詰めなければなりません。
「言わずとも判っている筈ですが……
『お母様』がお待ちです。今回は逃げずについて来て下さい。」
私はただならぬ雰囲気に不安を覚え、タカティンの袖を摘みます。
「逃げた覚えは無かったのだがな……」
タカティンに促されて私も三人と共に歩き出しました。
いったい何処へ連れて行かれるのでしょう……
「ふふん、アンタがリヴルか?
アタシはディジー・シュタールだ。安心しろ、何も取って食おうって訳じゃないんだ。
アタシらじゃなくて、『お母様』がタカティンに用があるだけだからよ。」
私の隣を歩く銀髪のショートヘアの女性、ディジーと自己紹介をしてきた人に恐る恐る聞きました。
「貴女達はどういう人達なのです?」
「ああ、アタシらは『ソキウス』のアンドロイドさ。言ってみりゃ、アンタ達の『お仲間』なのさ。」
「ちょっとディジー、そんな事を普通に話さないでくれるかしら。
誰が聞いているか、わからないのだから。」
後ろを歩く金髪の人がディジーさんを睨みつけて苦言を言います。
「はは、わりぃわりぃ。
先頭を歩いていんのはカトレア、後ろのおっかないのがダリアだ。どっちもしょうもない事を言ってると怒るから気をつけろ。」
「貴女がそういう事を言うから怒るのでしょうが。」
雑に紹介されたダリアさんが不満を漏らしました。
悪い人達ではないようなのです。
「貴女達、少し黙っていてくれるかしら?」
黒髪の、カトレアさんが少しだけ振り向いて二人を睨みます。
「あら、ごめんなさい。」
「おぉ、怖っ。はいはい、チャック。」
二人はそこで黙ってしまいました。
カトレアさんは一瞬だけ私を見ましたが、すぐに前を向いてました。
*
「モーントシュタイン、久しぶりですね。
元気にしていましたか?
それと……はじめまして、ゾンネンシュタイン。」
柔和な笑みを称えた妙齢の御婦人が、私達の目の前にいます。
彼女の名前は『モリディアーニ・シュタール』。
このシャーリアンで織物の卸売を商う『オルドール商会』の社長、そして先程の三人、カトレアさん、ディジーさん、ダリアさんの『お母様』だそうです。
オルドール商会の社長をしているだけあって、大きい部類ではありませんが、お屋敷を持っていらっしゃいます。
シュタール家の応接間へと通されると、モリディアーニさんとカトレアさん、私達の4人でシックなテーブルを挟んでソファに座っています。
モリディアーニさんは笑みは柔らかいのに、眼光が鋭く感じられます。
なんだか値踏みされているようで落ち着きません。
落ち着く為に、目の前に用意された紅茶を口に含みます。
紅茶のふわっと心地よい香りが口の中に広がり、仄かな渋みが気持ちを引き締めてくれました。
「……さて、今日はこちらには用件は無いのだがな。」
「そっちには無くてもこっちには有るの。
そろそろ、『ザフィーア』を交代する時期が近づいてるのよ。」
「待て、まだ5年先の筈だ。」
タカティンとモリディアーニさんの会話の中に、『ザフィーア』という単語が出てきました。
『ザフィーア』というのはアンドロイド達の組織である『ソキウス』において聖王国でのアンドロイド達を統括管理する役目の通称。
言ってみれば『ソキウス』の幹部なのです。
「そう、5年先の事です。ですが今から準備しておくのも、決して早過ぎる事ではなくてよ。」
「それを、私に手伝えと?」
「端的に言えばそう。
厳密に言えば少し違う、かしらね。」
少し間を開けてモリディアーニさんが宣言しました。
「タカティン・モーントシュタイン。貴方に次の『ザフィーア』になって貰います。
その為に、このカトレアと『婚約』して貰います。」
「プっ‼︎」
危うく飲みかけていた紅茶を吹き出すところでした。
え?なんですって?婚約?誰が?だれと?
「ふぅ、前回も断った筈だぞ。
私のような不良アンドロイドには務まらないと。」
「卑下するのは良くありませんね。
貴方は偵察指揮官型(スカウトリーダー)、能力的にはなんら問題はありません。」
「だからと言って婚約までする意味はあるのか?」
「もちろんです。貴方にシュタール家に婿養子として入籍してもらい、そのままオルドール商会の相続と一緒に『ザフィーア』の役目を引き継いで貰う。
世間的にも違和感なく交代が可能です。」
???
今の私は混乱してしまって、二人が何を話しているのか、サッパリわかりません。
………いえ、本当は判っています。判っていますが、理解したく無かったのです。
「タカティン……」
不安でタカティンを見つめ、袖を摘みました。
「もういいでしょう、お母様。
本人もあんなに嫌がっているのです。これで引き取って頂きましょう。」
カトレアさんが不快感を滲ませた声を上げ、二人の会話を中断させました。
「カトレア、貴女は…、これはそんな簡単な事案では無いのですよ。」
「失礼致します。」
カトレアさんはモリディアーニさんともタカティンとも目も合わせず、でも私を一瞥……一睨みして退出してしまいました。
「やれやれ、怒らせてしまったか……。」
「しょうがありませんね。モーントシュタイン、この話の続きは後日行いましょう。
部屋を用意してあります。今日は泊まっていきなさい。」
そう言うと、モリディアーニさんも席を立ち、応接間を退出して行ったのです。