新人類観察紀行〜創造主が滅んで用済みになったアンドロイドが新しい世界で自分の生き方を絶賛模索中。 作:T.K(てぃ〜け〜)
※今回は三人称視点でお届けします()
聖華暦835年 12月
「おはようございます。昨夜はお楽しみでしたね。」
朝。
カトレア、ディジィー、ダリア、スクルドの四人が顔を合わせるなりディジィーの開口一番。
「ディジィー、あまり揶揄うとカトレアがキレますわよ。とは言え、婚前だというのにお盛んですわねぇ。」
『なるほどなるほど、今後の参考に是非とも詳細を教えていただきたいですね。』
「三人ともお黙り。」
しかし、カトレアの表情は曇っていた。
先日、久しぶりにタカティンとリヴルがシュタール邸を訪れているのだ。
いつもの周期からするとかなり早い、数ヶ月ぶりの来訪に、カトレアはずいぶんと喜んでいたのだが。
「どうしたの、カトレア。ディジィーの言った事が気に入らなかったのかしら?」
「別にそういう訳では、って、それを言ったら貴女も。……でもまぁ一応、事実ではあるし。」
ダリアの表情が緩む。
それはオモチャを見つけた子供のそれと大差無いくらいに。
「あらあらあらあら、どうしたの? タカティンとの夜の営みは不満があったのかしら?」
「もしかして下手くそだったか?」
『アンドロイド同士の行為には興味がありますね。是非詳細なデータを。』
「三人とも、本当にお黙り。」
カトレアが怒気をはらんだ視線で三人を睨め付ける。
「まあまあ、私達は貴方達の心配をしてるだけよ。決してオモチャにしようとか思ってませんわ。」
「ダリア、本音も漏れてるぞ。」
はぁ、とカトレアがため息をつく。
「まぁいいわ。……下手なんじゃなくて、上手いというか、慣れてるような感じが……。」
あぁなるほど、と、三人は思った。
相手が初めてでは無さそうなのが気がかりなのか。
「まぁ、あの人は私達より100年以上長く稼働していますからそれまで経験が無い事も無い可能性はありますわね。」
ダリアの言葉にカトレアの表情がさらに曇る。
「案外リヴルだったりしてな。ま、流石にそれは……。」
ディジィーは言いかけて言葉を止めた。
……ありえる……。
カトレア、ディジィー、ダリアの三人は同時に思った。データリンクしてるわけでもないのに。
「い、いや、流石に無いだろ。いくらなんでも。」
「ですが、思えばタカティンのリヴルに対する態度は他の人へのそれとは明らかに違いますわ。執着してるような……。」
「もし……、もし、そうだとしたら……。」
『ウジウジ悩むより、本人に確かめた方が早いんじゃありませんか?』
スクルドの一言をきっかけに、三人は動き出した。
リビングでくつろぎ、リヴルとリディアが話しているのを微笑ましく眺めているタカティンを、一糸乱れぬ連携でもって一瞬で拉致ると連れ去った。
*
「これはどういう余興なのか、まずは説明をしてもらっても良いか?」
カトレアの部屋、椅子に座らされたタカティンを取り囲み見下す三人と一機のAI。
「説明しないとわかりませんか?」
「当たり前だ。」
いざ拉致ったはいいものの、どのように切り出すべきか、三人とも思案していた。
『タカティン、貴方はあのリヴルと肉体関係がありますか?』
「ちょっと!」
「おま、ストレート過ぎ!」
スクルドの右ストレートが華麗に炸裂し、カトレアとディジィーが慌てふためく。
「は? お前達はわざわざそれを聞く為にこんな真似をしたのか?」
「そうですわ。それで、どうなんですの?」
ダリアは努めて冷静に、あえて念押しする。
「論外だな。私はリヴルに手を出したりはしない。」
『それは絶対ですか?』
「絶対だ。」
その答えに周囲に安堵の空気が生まれる。
『だそうですよ、カトレア。良かったですね。』
「お前達、私とリヴルの仲を邪推したのか。まったく興味深い反応を見せるな。」
「違う、そうじゃ無い!」
けれども真っ直ぐにタカティンを見据え、カトレアが叫ぶ。
「正直に答えて。私以外の女性と関係を持った事はあるの?」
タカティンは少しだけ瞑目し、それから答えた。
「私はバツイチだ。」
それを聞いたカトレアが膝から崩れ落ちた。
「あぁ、カトレア!」
「あっちゃぁ、そう来たか……。」
『なんとまあ、アンドロイドがバツイチとは。それも貴方の言うところの人間観察の一環なのですかね?』
タカティンは相変わらずの仏頂面で四人を見回す。
「ひとまずその事について説明してほしいのですよ。」
さらにもう一人現れる。
「リヴル。」
「リヴルもタカティンが結婚した事があったのは初耳なのです。これは詳細に話してもらう必要があるのです。」
「お前達はなんでそうゴシップが好きなんだ、まったく。」
「それで、いつ結婚してたんだよ。まさか知ってるやつじゃないよな?」
「そ、そうよ、相手は誰? 誰なの? まさかアポフィライト? アポフィライトなの?」
「ちょっと落ち着け、今からちゃんと説明する。だから銃を出そうとするな!」
タカティンは呆れ顔でみんなを見回して、それから語り出した。
「今から100年ほど前だ。自由都市同盟の地方都市で、一人の女性と知り合い、成り行きで結婚する事になった。彼女は事情を抱えていたが、すでに故人だしここではもう関係無いから省く。それと、彼女には8歳になる一人の娘がいた。もちろん私の子では無い。」
『おや、子連れの女性と所帯を持ったわけですか。』
「そういう事だ。私は二人を連れて旅をしたのだが、彼女は2年で死んでしまった。」
ここでタカティンは俯いた。
表情は少し沈んでいる。
「もともと身体が強い方では無かったから、無理をさせてしまったのだ。娘と二人になったが、それからが大変だった。慣れない子育てに四苦八苦したが、とても良い経験だ。」
優しい表情を浮かべるタカティンを見て、五人は彼がその娘をとても大事にしていたと感じた。
「16歳になった頃、娘は帝国のペールノエル子爵家の青年と恋に落ちてな、二人で結婚すると言い出した。もちろん私も相手の親も反対した。身分違い甚だしいのは不幸を呼ぶだけだ。……だが、二人は真剣に私達を説得して、結局、その子爵家と縁のある男爵家に娘を養子に出し、改めて婚姻する事になった。養子に出した時点で、根無草の私は娘の汚点になってしまうからお払い箱となったわけだが。二人の結婚式を離れた場所から眺めて、娘ともそれきりだ。」
話を聞き終わり、しんと静まり返る。
「ぐす、タカティン、可哀想なのです。」
「別に可哀想などと思っていないぞ。色々と貴重な経験も出来たからな。それに、あの子はその後も不自由無く暮らして天寿を全うした。あれはあれで良かったのだ。まぁもっとも、その家は20年ほど前に流行病で当主夫妻が亡くなり、息子も同盟へ出奔して絶えてしまったがな。」
みんなは、なんだかまずい事を聞いてしまったと、半ば後悔した。
もっとも、当のタカティンはまったく平気そうだが。
「さて、気は済んだか? 確かに私は過去に結婚して子供もいた。だが過去の話だ。今はカトレアが私の婚約者、大切な女性だ。」
そう言われたカトレアは両手で真っ赤になった顔を覆った。
「惚気はさておき、リヴルの事はどう思ってんのか聞きたいんだけど良いか?」
ディジィーがタカティンに問うた。
それにはリヴルも聞きたいという顔をする。
「まったく、次から次へと。リヴルの事は私にとって特別だ。強いて言うならかけがえの無い家族だな。」
「むう〜、相変わらずリヴルの事は女として見てくれないのです。」
「そうむくれるな。可愛い顔が台無しだぞ。」
そう言ってリヴルの頭を撫でるタカティンの顔には、とても優しい表情が浮かんでいた。