新人類観察紀行〜創造主が滅んで用済みになったアンドロイドが新しい世界で自分の生き方を絶賛模索中。 作:T.K(てぃ〜け〜)
聖華暦836年 1月
「ダリア、俺はもうすぐ配置転換で
私、ダリア・シュタールの目の前で一人の男が芝居がかった動作で片膝をつき、私に指輪を差し出してきました。
彼の名はクラレンス・アーチボルト。
オールバックに撫で付けた赤茶色の髪、黒い瞳、やや角張った顔立ちで、体育会系のガタイの良い男性です。
シャーリアンに駐留するクルセイダー師団『ヴァース・アンセム』に所属するクルセイダーの一人でもあります。
この方とはほんの二週間前に知り合い、以後はお食事などを四度ご一緒した程度の間柄。
特別親密というわけでもなかったのですが、何を勘違いなされたのか、それとも転属するから一か八かの賭けに出たのか。
なんにせよ、こうして私を自分のモノにしたいという願望を剥き出しにして迫って来ているのです。
私、罪な女でございますわね。
とはいえ……
「クラレンス様、お申出はとても嬉しく思います。ですが、私は貴方の申出をお受けすることは出来ませんわ。」
「何故だ? 俺は下位とはいえクルセイダーの端くれだ。地位も資産もそれなりにある。顔もそこそこはイケてると自負もしてる。デートでは常に奢ってきた。どこに不満があると言うんだ?」
まずはこの中途半端に根拠の弱いナルシシズム。
どうして数回、物理的接触の無いデートで食事を奢ったくらいで女が惚れると思っているのかしら。
それに、デートのコースはいつも同じ。
付き従って当然という態度。
常に自分の自慢ばかり。
私のコーデを褒めた事など一度も無い。
そしてそういう部分にまったく気がついていない。
こんな品の無い男、誰だって願い下げですわ。
「ご不満なんて。ただ、私では貴方には不釣り合いでございますわ。貴方ならもっと素敵な方と巡り会えると信じております。」
とてもそうとは思えないのですけれど、ハッキリ言ってしまうと角が立つ、というかきっとキレさせてしまいますわね。
なので丁寧にオブラートに包んでやんわりとお断りをしたのですが……
「なんと奥ゆかしい。ますますもって気に入った! 是が非でも俺の妻に!」
……はぁ、脳筋にやんわり言っても通じないのはいつの時代も同じ事ですかそうですか……。
困りましたわねぇ。
ますますもって鬱陶しくなってまいりましたわ。
「さぁ、勿体ぶらずに返事を聞かせてくれ。」
……コイツ。
流石にイラッとしてしまいました。
しかし、相手はアホでもクルセイダー。
ぞんざいに扱って後々禍根を残すような事になれば、どのような嫌がらせをして来るか、分かったものではありませんわね。
なにか良い方法は……。
その時、私の視界の端にある人が映り込みました。
丁度良い、少しだけ助けていただきましょう。
<タカティン、少しだけ助けていただけないかしら>
<断る。自業自得だろう、自分でなんとかしろ>
理由も聞かずににべもなく断ってくるなんて……
<あら、私が今どういう状況かお判りという事は、どこかで覗き見なさっていたのかしら?>
<覗き見などせずともあの大声だ、この距離からでも何があったかは知れる>
<そこをお願いいたしますわ。このまま放置していては業務にも障りが出てしまいますもの>
視界の端でタカティンが溜息を吐きました。
なんのかんのと言ってもこういう事には首を突っ込んでくれるのが、この人の良いところですわね。
「取り込み中、申し訳ない。」
「なんだ貴様? 今俺は人生最大……」
「まぁ、義兄さん! 迎えに来てくれたのですわね。」
「にい、さん…? 貴様、彼女の身内か?」
「そうだが? 貴方は
訝しむクラレンスから私を完全に隠すように、タカティンが立ち塞がります。
なにもそこまでしなくても良いですのに。
「俺は今、彼女にプロポーズをしているのだ。家族だろうと邪魔せんでもらおう!」
「ならばダリアが断ったのだから、話はここで終わりだ。帰りたまえ。」
「っ、なにを! 彼女は恥ずかしがっているだけだ! 勝手に決めるな!」
それはアナタの事ですわよ。
大声でそれを言ってやりたい衝動に駆られそうになりますわね、まったく。
しかし、二人の男が私を巡って争うというのは、まだ経験した事がありません。
………正直言って、私はなんて罪作りな女なのでしょう。
<勝手に浸っていないでお前がキチンと断らないか>
<あら、ごめんあそばせ>
「いいか、俺はクルセイダーだぞ! その気になればどうとでも出来るんだぞ!」
あーあー、とうとう自分の地位を持ち出して来ましたわね。
本当に、この手合いは自分の思う通りにならなければ手段を選ばないのですわね。
「なるほど、クルセイダーか。ならば少し待ってろ。」
そう言うと、タカティンは懐から
通信が繋がると、クラレンスに背を向けて話始めました。
「お仕事中申し訳ない、いつも御贔屓にありがとうございます。……いえいえ、とんでもございません。……はい、はい、………ええ、少し頼みがございまして…………はい、ええ、……それではよろしくお願いします。」
一部はよく聞き取れませんでしたが、何かを頼んでいたようですわね。
そのすぐ後に、クラレンスの
「なんだ、こんな時に…、ハイ、アーチボルト……ハイっ‼︎ 」
クラレンスはぞんざいに返事をしてから、すぐに背筋をピンと伸ばして姿勢を正し、裏返ったような声で通信相手に返事をいたしました。
「あ、ハイ、イエ、ソノヨウナコトハ……、ハイ、ハイ、……ワカリマシタ、シツレイシマス……」
通信が切れると、クラレンスはガックリと項垂れました。
<なにがあったんですの?>
<彼の上司に連絡を入れた>
<上司?>
<この街のクルセイダー師団『ヴァース・アンセム』の副団長だ。彼女は私の上得意様なんだよ>
この人……
「………うがぁっ! 貴様ぁ、卑怯者め。正々堂々と勝負、決闘しろぉ!」
いきなりクラレンスが叫び、手袋をタカティンに投げつけました。
タカティンはその手袋をあっさりと叩き落とします。
「なにが決闘だ、この野蛮人め! 自身の間違った行いを身分や地位で正当化しようとした挙句、それが叶わなかったら暴力に訴えるか! それが自身が護るべき民草相手に取る態度か! クルセイダーを名乗るのならば、まずは己が行動を正せ!」
猛るクラレンスに対して、タカティンは一歩も引かないどころか、猛然と叱責しました。
これにはクラレンスも顔を真っ赤にして怒りの形相になってしまいました。
「こんのぉっ!」
クラレンスがタカティンに掴み掛かりました。
けれど次の瞬間、タカティンはクラレンスの腕を捻り上げ、引っ張って体幹を崩し、足を払って投げ飛ばしました。
クラレンスは背中から派手に地面に叩きつけられて、目を回してしまいました。
「まったく、こんなのがクルセイダーとは随分と質が落ちたものだ。……それからダリア、お前もお前だ。これに懲りたら付き合う気もない恋愛ごっこを控えろ。」
「……はぁい、仕方ありませんわね。」
「う、ぐっ……、かはっ、はぁはぁ……」
「……呆れたな、もう気がついたのか。」
「……お義兄さん、申し訳ありませんでした! ダリアさんを独り占めしたいばかりに、とんだ粗相をしてしまいました。貴方に打ちのめされて、目が覚めました。確かに、今の俺では彼女を護る事などできない。一から修行をやり直し、必ずや彼女に相応しい男に生まれ変わって参ります!」
クラレンスの言葉を聞いて、私は気が遠くなるような感覚を覚えました………