新人類観察紀行〜創造主が滅んで用済みになったアンドロイドが新しい世界で自分の生き方を絶賛模索中。 作:T.K(てぃ〜け〜)
*三人称視点
「むぅぅ〜、まだ帰ってこないのですよー。」
リヴルは不服そうに呟いた。
「もう五日も経ってるしなぁ。二人していったいどこまで行ったのやら。」
リヴルの隣でディジーがニマニマとおかしそうに返す。
「二人だけで出掛けるなんて、不純なのです。人に言えないのは如何わしい証拠なのです。」
「まぁまぁそう言うなって。婚約者同士、たまには二人きりになりたい時だってあるだろうさ。」
タカティンとカトレアが二人で出掛けてから、すでに五日が過ぎている。
行き先は告げず、出掛けてくると言ったきりだ。
リヴルには詳しい事を何も言っていない。
その事がリヴルは気に入らない。
不機嫌なリヴルをディジーは嗜めているが、この状況を楽しんでいる。
二人が帰って来たらタップリと揶揄ってやろう、そういう腹づもりだし、置いて行かれて怒っているリヴルを眺めるのも面白い。
それにサプライズも仕込んである。
その時にリヴルがどんな反応を示すか。
そう思いながら、釣り針の先に餌を付けてから釣り竿を振るう。
針は静かに湖面に着水し、水中に姿を消す。
竿から伸びた糸に繋がった浮きを眺め、改めて思った。
どっちにしたって楽しめる、と。
「ほらほらリヴル、竿引いてるぞ。」
「わかっているのです。むぅぅ……あっ、ムゥ。」
引きが遅く、餌だけ持って行かれたリヴルは釣り針を引き寄せると不機嫌そうに餌を付け始める。
「マーチヘアもメンテナンスでいないのです。話し相手が少なくてつまらないのですよ。」
リヴルの言うマーチヘアは、LCEであるリヴル自身の出自である『マルドゥクプロジェクト』においてリヴルをサポートする為に作られた人格AIだ。
元々は第4期LEVマーチヘアの搭載AIなのだが、機体そのものが損耗し、廃棄する際に人格データを書籍型記憶媒体に移してリヴル自身が所持していた。
だが今回、その記憶媒体のメンテナンスという名目で、リヴルの手元から離されている。
「だからアタシが相手してやってるだろ。リディアだっているんだし、そんなに暇して無いはずだが?」
「むぅぅ。」
この分では今日は坊主だなと、ディジーはリヴルの可愛い膨れっ面を眺める。
と、そこへデータリンクによる通信が入った。
通信の送り主は……カトレアだった。
「リヴル、今日の釣りはここまでだな。帰って来たぜ。」
その言葉を聞いたリヴルはぱっと顔を上げ、道具の片付けをおっぽり出して駆け出そうとした。
その肩をディジーがすかさず掴む。
「おっと、片付けが先だ。」
「むぅ。」
リヴルが頬を膨らませた。
*
「タカティン、どこに行ってたのです? リヴルを置いて行くなんてヒドイのです! 除け者扱いは屈辱なのですよ!」
「あぁ、すまない。今回はそうしなければいけなかったのでな。」
館に戻ってタカティンの姿を見とめたリヴルは一気に詰め寄った。
プンスカという表現がピッタリのリヴルと、それをタカティンは慣れた様子で受け答え、リヴルの頭を撫でる。
「むうぅ、頭を撫でたくらいで誤魔化されたりしないのですよ。」
そうは言っても頭を撫でられているリヴルの表情は少しずつ緩んでいく。
「で、首尾は?」
「あぁ、そうだな。」
ディジーに促されて、タカティンが応接間の方を見やった。
タイミングを見計らったように、応接間からカトレアと、彼女に連れ添われて一人の少女が姿を見せた。
背は低く、黒髪のおかっぱ。大きな丸眼鏡が特徴的な、無表情な少女。
「その子は誰なのです?」
「タカティンとカトレアの子供。」
「「違います。」」
リヴルの問いにディジーが茶化して答え、カトレアと黒髪の少女が間髪入れずに否定した。
改めて、少女はリヴルを見据えた。
「お久しぶりです、リヴル。」
リヴルは一瞬、怪訝な表情を浮かべたが、少女の声には聞き覚えがあった。
「もしかして、マーチヘアなのです?」
「はい、素体を用意してもらいました。」
マーチヘアと呼ばれた少女は少しだけ表情を曇らせ、リヴルの前に進み出る。
「サポートAIなのに側を離れてしまい、すみませんでした。それに……、勝手に身体まで…。」
俯いて言いかけたマーチヘアの両手を、リヴルが掴んだ。
そのままブンブンと振る、それは嬉しそうに。
「マーチヘア、これで一緒に遊んだり出来るのです、これからもよろしくなのですよ。」
「……、はい、リヴル。」
黒髪の少女は少しだけ戸惑い、それからはにかんだ。
「でも、その姿じゃいつまでも『マーチヘア』って呼ぶのも変じゃないか?」
「そうですね、人前で呼ぶための名前が必要になりますね。」
ディジーの言葉にカトレアが返す。
「名前は『マイカ』でソキウスに登録してあります。ですので、今日から私の名前はマイカ・マーチヘアです。」
「マイカなのですね。リヴルも今日からそう呼ぶのです。マイカ、改めてよろしくなのです。」
「ええ、リヴル、よろしくお願いします。」
二人の少女は手を繋ぎ、お互いを見つめて微笑んだ。