新人類観察紀行〜創造主が滅んで用済みになったアンドロイドが新しい世界で自分の生き方を絶賛模索中。   作:T.K(てぃ〜け〜)

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第九話 冒険者

聖華暦830年 夏 中央都市アマルーナ商業地区

 

中央都市アマルーナは自由都市同盟の首都と言って差し支えない大都市だ。

差し支えない、というのは、同盟が都市国家の連合であるが故の表現だ。

文字通り、同盟の政治的な『中央』なのだ。

 

そのアマルーナの商業地区、私は広場の一角で露店を開き、商売をしている。

日差しの暑い、夏の午後である。

 

「うぅうむむむ…」

 

一人の男が二冊の『本』を前に苦悶の表情を浮かべて唸っている。

獣牙族の青年で、ホワイトタイガー種だと思われる(以後、白虎と呼称)。

無造作に後方へ撫で付けた髪、鋭い眼光、袖の無いコートから覗く鍛えられた筋肉質な身体、背には使い込まれた大剣を背負っている。

 

「やれやれ、かれこれ2時間ぐらい悩んでるじゃねーか。良い加減どっちかに決めねぇと、商売の邪魔になってるぞ。」

 

呆れたような口調とは裏腹に、身悶える白虎の様子を面白そうに眺めているのは、この場では珍しいカナド風の衣装を着こなし、手には煙管、腰には刀、飄々としていて、何処か油断ならない雰囲気を纏った赤毛の男(以後、赤毛と呼称)。

 

「判ってる、判ってんだよ。だが、こればっかりはすぐに決められねぇ。後悔したくはねぇんだよ。」

 

「手持ちが足りないだけじゃねーか。どうだ、トイチで貸してやるぞ?」

 

「うるせぇ、お前からは死んでも借りん。」

 

そんなやり取りをしながら、赤毛が言うように、2時間ほども二冊の『本』のどちらを買うかを必死で考えているのだ、この白虎は…。

一冊は、同盟では名の売れた絵師が描いた冒険活劇。表紙にその絵師の直筆サインの入った限定500冊のプレミア物。10000ガルダの値札を付けている。

 

もう一冊は、所々傷んで擦り切れ、表紙の色も色褪せている。可能な限り修繕を施したが、お世辞にも美品とは言い難い。中身は複数の絵師が物語を描き連ねた物、雑誌の類いだ。だが、これは旧人類の遺跡から発掘された代物である。

故に20000ガルダの値札を付けている。

 

どちらも『漫画』である。

白虎は真剣に、どちらの『漫画』を買うかを、それは真剣に悩んでいるのだ。

二つ合わせて30000ガルダ、対して男の所持金は22000ガルダ。

単純に足りないのだ。

 

最初は必死に値引き交渉を行ってきたが、私も商売で『本』を商っている。流石に8000ガルダの値引きには応じられなかった。

それ故に、今こうして目の前で必死で悩んでいるのだ。

実に度し難い。

 

さて、この男達だが、彼らは所謂『冒険者』という類いの者だ。

ある者は富と名声、またある者は英雄に憧れて、過去の遺跡に浪漫を求めて、己の知恵と力で困難を乗り越え、大いなる目的に果敢に挑む勇者達………

 

………などと言えば聞こえは良いが、実態は金の為なら何でもこなす何でも屋。

一攫千金を夢見て、遺跡に眠る金銀財宝を目当てに盗掘を行うコソ泥の群れ。

荒事を好み、おおよそ平穏とは程遠い、命の綱渡りを生活の糧とする無法者共。

一般社会的機能(システム)(リンク)に組み込む事が出来ず、溢れた異端者達(イレギュラー)

読んで字の如く、『好き好んで危険を冒す者』。

それが冒険者である。

 

実に度し難い。不可解で興味深い。

 

「お客さん、夕刻までは取っておくから、一旦帰ってもらえるかね?このままでは他のお客の迷惑だよ。」

 

「すまねぇ、ホントにすまねぇから。もう少し、もう少しで決めるから待っててくれ。」

 

「良い加減、意地を張らずに俺に『金を貸して下さい、お願いします』って言えば良いんだよ。

そうすれば、お前は『漫画』が手に入る。主人は本が売れて邪魔者は居なくなる。俺はお前に貸が出来る。

三方丸く収まるじゃねぇか。ナニを迷う事があるよ。」

 

「その、『お前に貸が出来る』っつうのが気に食わねぇんだろうが!」

 

赤毛はこちらを見て大袈裟に肩を竦めた。

 

「ところでご主人、あんたのその『嬢ちゃん』は、いったい何処で手に入れたんだい?俺はそっちのが、よっぽど気になるな。」

 

赤毛は私の露店の奥、木の椅子に座るように立て掛けている『本』(リヴル)を見て、そう言った。

 

「お客さん達は変な人達なのです。リヴルの事を驚かなかったのは、お客さん達が初めてなのですよ。」

 

「冒険者をやってるとな、大概の事は珍しくなくなるんだよ。」

 

彼等は、初見でリヴル相手に普通に会話をしている。普通なら、リヴルの事を事前情報としてして知らない限り、驚いたり、気味悪がったりするものだ。

だが、この男達は少しもそんな素振りを見せもせず、さも当然のように、一個の人格として認めるように会話をしている。

だが、赤毛のこの男は何を考えているのか読む事が出来ない。油断ならない相手だ。

 

「お客さん、さっきも言ったが、この子は帝国のバザールで手に入れた物だ。

なんでも、元はここ同盟のダライ某という有名な技師が精霊魔法の実験で作った物で、失敗作だから手放した物だと、この子を買った商人からの受け売りしか知らないのでね。」

 

これは嘘だ。

リヴルは書籍型AIであり、LCEの記憶を宿している。旧人類の科学技術の塊であって、微塵も魔法で産み出されたモノでは無い。

これは、リヴルの出自を気にする相手への方便である。

同盟で有名な技師のダライ某というのは、実在する人物らしいが、名前がハッキリしないので本当にその人物かは判らないようになっている。

だが、大抵の者はそれで納得してくれる。

 

「ダライ某ねぇ。いまいちハッキリしねぇなぁ。」

 

「申し訳ないね。でも私はその事はどうでも良いんですよ。

私はこの子の事を気に入っている。手放す気などないのでね。」

 

そっとリヴルの表紙を撫でた。

 

「そうなのです。タカティンは頼りないから、リヴルがしっかりしないといけないのですよ。」

 

「お前に助けられた覚えは無いのだがな。」

 

「はっはっは。仲が良いな、お二人さん。」

 

茶化す様に赤毛は戯けて言った。そんな我々のやり取りを余所に、白虎は未だ『漫画』を選んでいた。

 

「おいっ、お前ら!お前らは『栄光の宴』とか言う新参だろう?」

 

不意に6人の男達がこの二人に声を掛けて来る。冒険者風のこの男達は、およそ友好的な態度では無かった。

 

「新参者がここで何してるんだ?ここいらは俺たちのギルドの縄張りだぞ。挨拶も無しにうろつくタァ、いい度胸だなオイ!」

 

「オイコラっ、兄貴が聞いてるんだ!シカトすんな‼︎」

 

コイツらも冒険者か…

やはり冒険者という人種は荒事を好む傾向があるようだ。

ともかく、柄の悪そうな男達が(いかにも三下な台詞で)捲し立てて来るのを、白虎は()()()()()()漫画を選ぶ事に余念がない。

男達はその清々しいまでのシカトっぷりに頭に血を昇らせて、益々頭の悪そうな挑発を行なっていた。

 

男達の一人が白虎の側の本の上にドカッと腰を下ろして、横目に睨みながら何やら喚き散らす。

 

「あぁ、悪いが商売物に腰を掛けないでくれるかね。傷んでしまう。」

 

「ウルセェ、こっちは大事な話してんだ!口挟むんじゃねぇよ!」

 

男は啖呵を切ってから、『本』を数冊、乱暴に手で払い除けた。通りの方へ飛んで行って地面に落ちる。

 

次の瞬間、男の顔面に渾身の力を込めて拳骨を叩き込んでやった。白虎が反応して行動を起こすよりも速く。

男は通りの方へ飛んで行き、もう一人男を巻き込んで派手にひっくり返った。

突然の事にその場にいた全員が硬直した。

 

「『本』は大切に扱え‼︎これらはお前達の頭より有益な物なのだぞ‼︎」

 

「な、ナンだとテメェ。オレたちが役にも立たねえ本より下だと吐かすのか?」

 

「『本』こそは人類最大の発明であり、叡智の結晶だ。それを理解できないとは…その時点でお前達の価値などたかが知れている。」

 

5人の(元は6人だったが、1人は既に伸びている)男達は腰から下げた獲物を引き抜いて、私を取り囲もうとした。

 

「おい、お前らの相手はこの俺だろう?相手が違ってるぞ!」

 

白虎がドスの効いた声で吠え、臨戦態勢で前へ出る。

 

「少し教育が必要なようだな。」

 

私も腰から下げた中剣(ミドルソード)を抜いて、彼等に応じる。

 

「あーあ、やってしまったのですよ。」

 

「嬢ちゃん、どう言う事だい?」

 

「タカティンは『本』を軽んじたり粗末に扱ったりすると、手がつけられないくらい激昂するのですよ。」

 

「ほぅ、それは見ものだな。」

 

「乱暴な事はやめてほしいのですよ…」

 

男達の1人が私に切り掛かって来る。

振り下ろした剣を左へ半歩引いて躱し、腕を掴み、足をかけて前へ引き倒す。男は自身の勢いで前のめりに地面と衝突する。

 

そのまま三歩前へ詰めてもう1人の脇腹に中剣(ミドルソード)を押し当てる。一瞬の閃光(スパーク)とバチンという音。

中剣(ミドルソード)の芯に雷のミスライト鋼を通してあり、エーテルを流し込む事で、電磁警棒(スタンスティック)として使う事ができる。

つまり電気を流してやったのだ。

男はその場に()()()()とへたり込む。

 

あとの3人は白虎がすっかり畳んで、地面に伸びている。

2人相手にしていたとはいえ、一体どうやったのか、全く判らなかった。

 

「お、お前ら、どうなってんだ…」

 

私が引き倒しただけの男は両手を地面についたまま、白虎を見上げて絶句した。

 

「『栄光の宴』の軍師、エルトシャン・グレイブだ。よーく覚えておけよ、三下ども。」

 

「ちょっと待てエルト、お前はなぁんにもしてないだろっ!」

 

「いいか、ユーロ。軍師は直接戦わずに的確に指示を出すのが役割だからな。」

 

「ナニしれっと、もっともらしい事言ってんだ。結局なんにもしてない事には変わりないだろ。」

 

やれやれ、私とした事が、つい暴力に訴えてしまった。

 

「ご主人、あんたほんとにただの行商人かい?今の動きは訓練された戦士のそれだぞ。」

 

白虎、ユーロという名の男が聞いてくる。私とした事が本当にうっかりしていた。

 

「ユーロさんと言ったか、その漫画2冊、22000ガルダで売ろう。」

 

「本当か!ありがとう。恩に着るよ。」

 

「完全に誤魔化されているな…」

 

赤毛はその事には口を挟んで来なかった。

 

「さて、今日はもう店仕舞いだな。明日には出立するから、名残り惜しいが…」

 

「タカティンさん、リヴルちゃん、今日はなかなか楽しかったぜ。縁があったらまた会おう。」

 

「今度はゆっくりお話したいのですよ。」

 

「ええ、縁が有れば、また。」

 

これが、私が後の世に謳われる『栄光の宴』のそのメンバーとの最初の邂逅であった。

正直、二度と関わり合いになりたく無かったが、彼等とまた会う事になるのは、もっと先の事で、また別の話だ。

 

本当に、冒険者というのは度し難い。

不可解で興味深い者達だ。

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