これは夢だ、何度も見た悪夢だ。
舞台は全国中学大会の団体戦でここを勝ち上がれば私達の中学が初の全国大会出場へと進める大事な試合。
そこで私は中堅選手として前半の半荘戦を少しではあるがプラスで終えた、ここまでは良かった。
そしてインターバル中に控え室でみんなからのアドバイスや応援の声をもらう、私は3年生で副将も大将も3年生で最後の大会だった。
精一杯悔いのないようにって言ってくれてた、まだ私達が残ってるんだからあんまり気負わないでとも言われたかな、みんな優しかった。
私もみんなの応援に応えたかった、この世界とは違う世界の前世なんてものを持っていてちょっとひねくれて育ってしまった私だけどこのチームのみんなで全国で戦ってみたいって素直にそう思えてた。
だから全力で頑張ろうってそう思ってた
だから私は全力で全力でがんばったんだ
だから私は今まで感じたことのないような
だから私は力を今まで私にこんな力があるなんて知らなかった
だから私はそんなことになるなんて思ってなくて
だから私はその時の私は自分ではないようで私ではないようで
だからあんな結果になってしまった
だからみんなを裏切ったんだ
だから私は一
そこで目が覚めた
最近はこの夢はみることも無くなったからもう吹っ切れたと思ってたのにな、まだあの時の夢を見るなんてもう1年近くも経っているのに。
いやまだ1年近くとしかいうべきなのだろうか。
朝から憂鬱な気分だが時間は待ってくれない、気分が落ちたまま学校へ行く準備を整える、鏡を見ると今日も変わらず可愛い顔だなーと自分のことながら他人事のように考えてしまう。
ナルシストってわけではないがいかんせん慣れない
その理由はやっぱり前世ってものがあるからだろう、前世とは行っても自分が男で特筆のない大学生活を送っていたということ以外はほとんど思い出せない、親の名前はおろか自分の名前すら欠片も覚えていないのだから前世と言えるのかも怪しいものだ。
さらに言えば前世で覚えている知識や常識と違うことがいくつもある。
特に顕著なのはこの世界における麻雀の立ち位置だろう、前世ではこんなに国民的な競技ではなかったし賭け麻雀も合法化されてはいなかった。
嫌な夢をみた事を忘れるために色々考えながら朝食を食べ終え家を出る。
「いってきます」
一人暮しをしてから早1ヶ月この習慣はいまだ抜けそうにもない、一緒に登校するような相手もいないので一人寂しく通学路を歩き学校へと到着する。
特に何事もなく1日の学校生活を終える。入学してから1ヶ月もたつがいまだに友達どころか少しでも話す相手がいないのは情けなくなるが、どんな風に声をかけたらいいかなんて分からないしする気も起きない。
「ただいま」
これからバイトなので制服から着替えてすぐに出かける。
「いってきます」
自転車に乗り15分ほどでバイト先に到着する。
少し年季の入ったこの場所が私のバイト先の雀荘だ、ここの店長は私が中学生の時に客として来たときに知り合いその時からの縁で今働かせてもらっている。
「おはようございます店長」
ドアを開けて店長に挨拶をする、店の様子をみると3卓ほど埋まっている。
「ああ、おはよう沙世ちゃん早速で悪いんだけどあそこの卓が1人待ちでね着替えたらお願いね」
「はーい、分かりました」
更衣室に行きロッカーに荷物を入れて着替え始めると言っても店のエプロンを上から着るだけなんだけど。
この世界は前世と違って麻雀が国民的競技になっているからなのか賭け麻雀が合法化されている、レートの上限は法で決められているしこの店ではテンゴと言われる1000点50円までのレートなら賭けられる。
前世なら低レートと言われるレベルだな、雀荘のバイトは特殊で基本は飲み物や食べ物を提供する接客の仕事だけど、お客さんが4人揃うまでの間のメンバーとしてお客さんと麻雀をすることもある。
しかもその勝負での勝ち負けが給料に反映されるので麻雀の腕に自身がなければ長いこと続けられない仕事だ。
ここの店は負け分が一定までいけばその月はメンバーとして打てずに接客と代走だけをすることになっているので最低限の給料は保たれることにはなっている。
私は今のところは順調に稼がせてもらっているからありがたいバイトだ。
「よろしくお願いしまーす」
そう言って卓に座る下家と対面の人は常連の人だな上家の人は初めて見るな、この店は男性客が多いこれは自惚れとかではなく私目当ての人が一定数いるんだと思う。別に女性のメンバーは私だけではないのだがこの辺の雀荘だと女子高生が働いてるのは珍しいらしい、ある程度強い子じゃないと長続きしないし強い子は麻雀部に入ることが多いしな。
「お、今日は沙世ちゃんと打てるのかラッキーラッキー」
対面の常連鈴木さん今月はかなりのマイナスになってるって店長に聞いた
「鈴木さんそんなこと言ってるとまた嫁さんに怒られるよ」
下家の常連橋本さん今月はちょっとだけプラス
「どうもよろしくね」
新規のお客さん特に嫌な感じもしないこれなら警戒して打つ必要もないだろう
「レートはテンゴですよね?
それじゃあ始めましょうか」
順調に局は進んでいきオーラス現状の順位は私>斎藤さん>橋本さん>鈴木さんとなっている。
斎藤さんというのはもちろん新規の人のことだ
しかしこのまま鈴木さんがラスなのはまずいな‥と考えていると店のドアが開いた、今日は私と店長だけしかいない店長は今厨房で料理を作っているので対応できない。
「ごめんなさいお客さんがきたのでちょーっと待っててくださいね」
そう言って手を伏せてドアの方へ行くと私の通う姫松高校の制服を来た女の子がいた。
「いらっしゃいませーお一人様ですか?」
「いやーお一人様なんやけどここってノーレートちゃうよな?」
「えーっとノーレートで対局するお客様はこのお店だとかなり少ないですね」
「あーそやんな、いやなちょっと急に雨が降ってきてなー雨宿りがてら入ってみたはええねんけどうち今月財布がピンチやったなーとなってなー」
「あーいいよいいよ雨宿りぐらいしていきな席も空いてるしね」
話を聞いていたらしい店長が厨房から出てきた
「いやー助かるわありがとーな」
「あ、それと場代は払うから暖かい飲み物が欲しいんやけど」
後は店長が対応してくれるだろう長く待たせる分けにはいかないし私は卓に戻ろう
「それじゃあ店長後はお願いしますね」
「お待たせしました」
結果は鈴木さんにトップをとらせて私がラスになった。
女の子もいつの間にか帰っていたら。
その後は何事もなくバイトが終わり家に帰ったこれが最近の私の日常だ。