デビルサマナー星川リリィ(本名:豪正雄)は転生者である。
今年十二歳になる彼がはっきりと前世を自覚したのは数年前、父親の転勤で一家揃って生まれ故郷の佐賀県から山梨県へ引っ越して来た時だった。
最初に違和感を覚えたのは新しい町の名前。沖奈市。それがお隣りにあるという八十稲羽市と併せて、どちらも初めて聞く名前のはずなのにずっと昔から知っていたような不思議な気分になった。
奇妙な焦燥感のままにインターネットで調べると――それまでろくに使ったこともないパソコンを使いこなせた時点で前世を思い出し始めていたのだろう、思いつく言葉が次々にヒットするのは恐怖だった。
「その時点でもう半ばメガテンかペルソナの世界だと確信していたから、父さんが勤務している建設会社がガイアの傘下企業だと知った時は恐慌を起こしかけたよ」
少年は彼のシキガミに語りかける。
「ガイア教のフロント企業だと思ったんだ。だってガイア連合だよ? ガイア教と多神連合が呉越同舟野合している風にしか見えないと思わない」
後になって知ったことだが、当時はガイア連合の発足と山梨支(部と言う名の本)部の建設、それに伴う周辺地域の開発の為に多くの建設・土木作業員が求められており、その中にリリィの父親も含まれていた。
「同感ですわ。よりにもよってメガテン世界で自らガイアを名乗るだなんて、ヒーホー族しかいないのかしら。案外、前世の記憶が目覚めなければ、普通にガイアーズになっていたのでは?」
呆れた様子を見せるフォーミダブルだったが、リリィの見るところ、わざわざ指揮官と呼んでみたり、似非お嬢様口調を使ってみたり、彼女もまたその場にいたら率先して悪ノリしていたタイプである。
半眼で睨みつけられても素知らぬ様子だった。
「それより指揮官さま。佐賀県出身の星川リリィですか。子役やアイドルをされてそうなお名前ですわね」
「やっぱり分かる?」
「それはもちろん。一世を風靡したアニメでしたもの」
『アズールレーン』のフォーミダブルと『ゾンビランドサガ』の星川リリィ。
「私はそのように造形された式神ですけど、指揮官さまは天然のお姿ですよね。正直不思議です。クロスオーバー物の世界ですか?」
初めてリリィの顔を見た時、フォーミダブルはどこかで見た顔だと思った。
既視感も当然だった。2次元と3次元の
特に今のリリィは初対面の時に着ていた小学校の制服である白いシャツと半ズボン姿から、特徴的な星の髪飾りをつけて、下もスカートに履き替えているので分かりやすい。
常識的に考えるならきわめて気合の入ったコスプレイヤーだが、本名まで同じというのは出来過ぎである。
「あはは。クロスオーバー言い得て妙だと思うよ」
「なんですかそれ。冗談のつもりだったのですけど」
「ところが。僕たち以外にも前世のアニメやゲーム、漫画に映画、創作物の中で見たような顔をした連中は割といるんだ。名前や性格、経歴まである程度なぞった様な人たちがね」
「なにそれこわい」
「コスプレガチ勢とかロールプレイヤーとか揶揄されたりもするけどね、僕らにとってはとても自然なことなんだ」
魂の形がそうなっているとでも言おうか。心の命じるままに、自分らしさを貫いたら独りでにそうなっていた。
「これはあくまでも仮説なんだけど、僕らは本当にそれらのフィクションの中で語られたキャラクターたちの転生した姿かもしれない」
「はい?」
唖然とするフォーミダブルを見ながら、リリィはしてやったりという笑みを浮かべた。ようやく一矢報いてやった。
「どうしたのさ。そんな大口を空けてるとバカみたいだよ」
「失礼な。さすがにあんまり突拍子のない話に呆れただけです。……それで、仮説とのことですが、どれくらい信憑性のある話なんです?」
「根拠はあるけど証拠はなく、検証も証明もできないかな」
「ただの妄想か思いつきレベルじゃないですか」
真に受けて損をしたと言いたげに、やれやれと両手を横に広げるジェスチャをする。白人っぽい見た目のせいか妙に様になっている。
リリィはわりとムカついたがグッと我慢して話を続ける。
「僕たちは異世界転生者なわけだけど、『女神転生』の世界だと転生者にはもう一つ意味があるの知ってる?」
少し考えてフォーミダブルは答えた。
「
「そそ」
「なんとなく言いたいことは分かる気がしますけど、星川リリィは神でも悪魔でもないですよね……ゾンビだったわ。第一フィクションですよ?」
「フィクションだからというのは早計かな。戯曲・講談の登場人物だった『西遊記』の孫悟空は現実に21世紀になっても信仰されていたし、日本にも『源氏物語』の登場人物を祭神として祀った神社があるよ」
架空の人物を神・聖人として崇敬するのは世界中で普遍的に見られる。
そしてこの孫悟空こと斉天大聖が次なる鍵だ。
広範な信仰や恐怖、認知による十分な存在強度があれば神魔として成立するという格好の例。
女神転生においても、セイテンタイセイは天魔だったり幻魔だったり破壊神だったりと種族にはブレがあるが、結構な頻度でお呼びがかかる大物悪魔だ。
「それに。神でも悪魔でもない。まさにそういう存在を指す『英傑』っていうカテゴリーがあるじゃないか」
神魔ではない英雄豪傑聖者の類。歴史上実在した人物の場合もあれば、明らかに架空の人物だろうと思われる者たちも含まれる。
「君は英傑ジャンヌ・ダルクやヨシツネが生前の本人と同じ存在だと思うかい? ハゲネやジークフリードと言った
自分の好きなことを捲し立てるオタクみたいだなとフォーミダブルは思った。
あと慎重に例の神話体系への言及を避けているのに気付いたが、その判断には賛成だったので俎上に上げられることはなかった。
「生前どうだったかなんて知りようがないのでその質問はナンセンスです。でも叙事詩の英雄はたしかに架空の存在ですね。我田引水というか詭弁味が強い気もしますけど」
ある程度まで受け入れる気になった様子。
「でも。この世界にはまだ『ゾンビランドサガ』はないのでは。あれは21世紀の作品ですよ」
「僕らがいるじゃないか」
世間には知られていないが、転生者である自分たちが知っている。それだけで十分だという理屈である。
「英傑 星川リリィの転生者であり異世界転生者でもある。さしずめ『二重転生者』とでも言うべき存在かな」
「なんだか格好好い響きですね。二重転生者。何か特殊な力とかあるのですか?」
「え? なにもないけど。ただ見た目と性格と運命が前の世界にあった創作物のキャラに似てるってだけで」
「なんですか。指揮官さま。散々引っ張っておいて、それではただ珍しいだけではありませんか」
「うん。ただ珍しいってだけだよ。ところでその指揮官さまっていうのそろそろやめない? あ、やめない。そっかー」
「あら。私も心の命じるままに振舞っているとは思わないのですか」
「君のそれはただ面白がってるだけでしょうに」
「御明察ですわ」
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「え? ゾンビィ6号の種族は屍鬼じゃないのかって? それ言っちゃあおしまいだよ」
ちなみにフォーミダブルはリリィの主張している内容を「自分がゾンビになる未来への恐怖から心を守るための妄想」だと考えている模様。
イタコ長老とか転生者が日本神たちに呼ばれる前から存命の人たちにもAA宛てられてるよねという銀の弾丸はお仕舞いください。