煌びやかで美々しい衣装の少女たちが舞台上で脚光を浴びながら歌い踊っていた。その中には星川リリィの姿もあった。
「指揮官さまがセンターなのですね」
フォーミダブルはリリィが所属するアイドルグループのアーカイブ映像を見せられていた。
「星川リリィは全国の小中学生の憧れですから!」
そう言うのはリリィのマネージャーを務める中年女性だ。未覚醒の転生者でガイア連合が経営する芸能プロダクションに勤務している。
原作では天才子役、星川リリィの生前のマネージメントは彼の父親が行っていたが、この世界では芸能事務所に所属して専任のマネージャーが就いている。
「ファンの皆さんは星川リリィが男の子だって知っているのかしら?」
「ちゃんとカミングアウトしてるよぉ」
「リリィちゃん効果でスカートを履く男の子が社会現象になってます」
「……それはそれは。この世界の日本は未来を生きてるわね」
感心すべきか呆れるべきかフォーミダブルは迷った末にそう言った。それ以上に気になることがあったというのもある。
「それにしても。私たちの知る前世と比べて20年くらい進歩が速いんじゃなくって?」
動画共有サイトの企業チャンネルで公開された動画をタブレット端末で視聴する。とても90年代とは思えない。既に前世の2010年代半ばのレベルには達しているように思われた。
「いわゆる知識チート、技術チートって奴だね。僕らの先輩が盛大にやらかしてくれたみたいだよ」
この世界に転生者が産まれだしたのは終戦直後に遡る。成長した彼ら転生者第一世代が社会に出たのは折しも高度経済成長期。半世紀先の高度情報化社会へのロードマップを持つ富豪・オピニオンリーダーたちが多数生まれた。
その大半は異能者ではなかったが、後のガイア連合の素地となる転生者同士のコミュニティが構築されていったのもこの頃である。
官僚や政治家、名家に生まれ落ちた転生者たちも少なからず存在したのは追い風になったろう。
彼らは後のITやSNS社会へと繋がる研究への投資を惜しまず行い、法整備へのロビーイングも熱心に行った。
「まだまだ黎明期だけど動画配信者も現れだしてるし、そのうちバーチャルなチューバ―も現れるんじゃないかなあ。あとこれ。知り合いの転生者が空っぽの式神用ボディに憑依して動画配信やってるんだだけど、これなんかこの世界ならではだよねえ」
バーチャルならぬリアル美少女受肉おじさんと呼ばれている。
「それだと私もバ美肉おじさんみたいに聞こえるので複雑なのだけれど」
式神の肉体に入っているという意味では同類である。
「んー。フォミ子は普通にTS枠で良いんじゃないかなあ。割といるよ前世と性別違う人。後天的に式神ボディに換装した人の話も聞くし」
「そうなのですか。完全に同じではないにしても、似たような境遇の人がいるという話は心頼もしく感じますわ。ところで」
フォーミダブルはもう一つ気になっていたことをたずねる。
「このグループの子たち。見たところ全員異能者に思えるのだけど」
「うん。メンバー全員覚醒済みの転生者と式神だよ」
リリィは首肯した。11歳から14歳までの幼年異能者とロリータ型の式神とから成るジュニアアイドル――この時代だとチャイドルのグループである。
「フォミ子も一緒にアイドルする?」
「姉と違って私には
「それは残念」
わりと本気で残念がるリリィ。横で聞いていたマネージャーの女性も同様に残念そうな様子だった。
ガイア連合の転生者たちはそのほとんどがオカルトとは無縁な一般家庭の生まれなので「悪魔退治で学校を休みます」とはいかない。学校もそうだし親が納得しない。
一方の転生者からすれば、成人する頃にはとっくに終末が来ていて不思議はない以上、呑気に大人になるのを待ってはいられない。
「大人なら出張や旅行の言い訳が立つけど、未成年の小中学生が学校を休んで泊まり込みでお仕事は無理があるからね。何か適当なカバーをってなった時に思いついたのが芸能活動なんだ」
「すると。もしかして発案も指揮官さまなのですか?」
「あはは。半分正解。ほら僕ってば『星川リリィ』じゃない。芸能活動は必然だなあって。そう思ったんだ。で、連合の交流会で芸能界に伝手のあるお金持ち転生者に売り込んだの」
元々リリィは芸能活動自体は行うつもりでいた。ただそれはアイドルではなく子役から俳優へのルートを想定していた。フランシュシュのほかのメンバーに相当する現地人や転生者も見当たらないのでアイドルにこだわる必要はなかったからだ。
「そうしたら話が盛り上がっちゃって。アイドル活動の裏で実は化け物と戦っている定番の展開を俺たちの手で実現するぞー! なんて妙な方向に転がりだしちゃった」
その時接触した「ティンときた」男がプロデューサーだ。社長ではない。
そして魂がカオスでヒーホーな連中が揃っているので、出資者と賛同者には事欠かず、トントン拍子で企画進行した。
もともと『戦うアイドルごっこがやりたい』という酔狂物の道楽なので採算度外視の一大プロジェクトだ。
「アイドル業は表向きで、本命は地方ロケや地方営業の名目で地方の異界の攻略や除霊に出かけるためのアリバイ作りに結成したんだけど、想定以上にリリィたち売れちゃってさあ。世の中分かんないものだよねえ」
「いいえ! 私は最初から確信していました!」
鼻息荒くマネージャー。
「彼女たちは90年代を代表する。いいえ2000年を越えても光り輝く伝説のアイドルになれると。ええ、そうですとも! 退魔仕事よりアイドル業に専念していただきたいくらいです」
「あはは。またそんなこと言って。社長やプロデューサーに怒られるよ」
マネージャーはリリィたちアイドルが除霊や異界を潰すことにあまり気乗りしていない様子だった。この分だと終末の到来もあまり信じてはいないのかもしれない。
果たしてこれは彼女が特殊なのか、覚醒者と非覚醒者との間の温度差なのだろうかとフォーミダブルは思った。
「そもそもウチのプロダクションの原点はカバーストーリー込みでのお仕事の斡旋。経験値とマッカが稼げないんじゃ続ける意味ないやって子が続出しちゃうよ」
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「岐阜県K市の農業協同組合と森林組合から連名での依頼です」
仕事モードに意識を切り替えたマネージャーが通知する。本人的には遺憾ながら、オカルト仕事のマネージメントこそが彼女の本業である。
「岐阜かあ。それでカバーストーリーは?」
「旅番組の収録です。三ヶ月後に封切りが迫った例のリリィちゃんも出演された映画に併せた特番で放映されるミニコーナー、もしくは映画の公式チャンネルで公開される予定です」
「織田信長が主役の歴史物。リリィは森蘭丸の役で出させてもらったんだ」
フォーミダブルに説明する。
「岐阜城跡や岐阜市内の博物館を巡りつつ岐阜時代の信長を紹介し、途中でリスの動物園に寄ってもらいます」
「なんでリス」
「子供と小動物の絡みはウケが良いので。むしろ尺的にはこちらがメインになります」
「りょーかい」
「次に依頼の詳細です。現在、同市各所で広い地域にわたって田畑と山林とが一夜にして枯死する怪奇現象が群発しています。被害額は二日前の時点で概算で150億円。これには汚染された土壌の再生に掛かる費用や、山林の荒廃によって見込まれる将来の土砂災害の被害額は含まれていません。また残留物には強い毒性が認められ、軍手越しに触れただけで手の皮膚細胞が壊死する二次被害も複数発生しているとの報告があります」
「150億……!」
淡々と解説される額面の大きさに、まだ前世の価値観が残っているフォーミダブルは大いに驚愕したが、リリィは気にした様子も見せなかった。
「ふうん。けっこう大規模だね。リリィたちに話が回ってきたってことはそういうことだろうし。それでポップした野良悪魔か、異界持ちのボス悪魔かどちらか判明してる?」
「被害箇所を地図上に並べたところ、明確に同心円状に発生しているのが見て取れましたので、現地に調査員を派遣したところ中心部に異界が発生しているのが確認されました」
地図と数枚の写真の束が差し出される。
「民家?」
「民家ですわね。わりと大きい」
「地方の農村部だとこんなもんだよ」
「はい。家主は珍奇な鳥類の愛好家で、過去にもワシントン条約に違反する鳥を密輸入した疑いで書類送検されています。凶鳥の類を知らずに持ち込んでしまったのではないかというのが調査部の見解です」
そして最後にマネージャーから爆弾発言が投下される。
「併せてタツノオトシゴが空を飛んでいたという目撃情報が寄せられています」
「空飛ぶタツノオトシゴ」
「うっ……チンパトのトラウマが」
フォーミダブルとリリィ、式神とサマナーの暫定主従二人して顔をしかめる。
恨み骨髄のあん野郎である。
「指揮官さまもやはりそれを思いつかれますか」
「そりゃあね。本当にタツノオトシゴが空を飛んでましたなんていうトンチキな展開でもないかぎり、答えは『チン』一択でしょ」
「あのゲーミングなタツノオトシゴ野郎……!」
史実としての鴆は鴆毒の来源として考え出されたまったくの架空の存在であるか、現在では絶滅してしまった有毒の鳥類の一種にしか過ぎないが、後世伝説化されて、ただそこにあるだけで周囲の万物を汚染し破壊する凶鳥と成り果てた。
ひとたびその鳥が巣くえば近隣一帯は草木の生えぬ不毛の土地と化し、糞尿が触れれば木石は砕け散り、汚染された水は野の生き物を殺し尽くす。
「こうやって書き出すと、ほとんどBC兵器ですわね」
歴史的にもメガテン的にも格としては大した悪魔ではないのだが、無数の人修羅を死に追いやってきた恐るべき相手だ。
「けど凶鳥かあ。連中空を飛んでるから逃げに徹されると厄介なんだよなあ。飛行型の式神か仲魔を持ってる人に協力を要請できると良いんだけど。空いてる人いるかな」
現在、リリィが契約している仲魔は妖獣チャグリンと秘神ネコショウグンである。どちらもクラシカルな儀式魔術で召喚された存在である。そこにガイア運営から買った指環に宿る悪魔強化型アガシオンが加わる。
「
ただし、それでも空を飛ぶ敵を相手取るには心許ないのも確かな事実。
「もしもし指揮官さま。どなたかお忘れではなくて? 私、モデルは空母でしてよ」
自分を使えとフォーミダブルが挙手する。当人に飛行能力はないが、原作の航空機を模した簡易式神群を集団運用する機能が搭載されている。
「いずれデビュタントは必要。そうじゃなくって」
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チンの討伐自体はあっさりと終わった。
リリィのグループの仲間たちが異界の外で内外の見張りに立ち、最大戦力であるリリィと彼の仲魔たちが突入して片付けた。
結局のところ、戦力が整わない頃に集団で奇襲されるからこそのチンパトである。十分な戦力が適切に準備をした上で逆に強襲をかけたのだ負ける要素は一つもなかった。
想定と違ったのは一点。
「あれだけ大見得を切って航空攻撃が何の役にも立たないなんて。屈辱ですわ」
練度の足りない簡易式神での攻撃はほとんど当たらなかった。
業を煮やしたフォーミダブルが、リリィから護身用に持たされていた鋼の棒で殴り倒して決着した。走って、跳んで、ズバンッ! である。
「あれには目が点になったね。ネコショウグンたちもビックリしてたもの」
「白々しい。最初からああなるのを見越してわざわざ打撃武器を持たせたのではなくって?」
「えっへへー」
棘を生やしたフォーミダブルの疑問をリリィは笑顔で受けなおした。
異界から脱出したサマナーたちをマネージャーが出迎える。
「お疲れさまでした。リリィちゃん、フォーミダブルさん、仲魔の子たちも。LIVEの準備は万端出来ています。県と市との調整は事前に終わらせていますし、音響設備・配信機材の設置も完了、各SNSでの告知の準備もできています。いけますか」
「もちろん☆」
そしてライブが始まった。
彼らのグループ恒例のSNSでの告知直下のゲリラライブ。
それは壮麗かつ華やかな