メガテン三次創作(カオス転生二次)   作:古井京魚堂

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フォーミダブル登校する

 フォーミダブルの朝は遅い。

 

 午前十時を回ってから目を覚ますのが常だった。

 

 生存に睡眠を必須としない今の彼女にとって眠りとは生体マグネタイト(MAG)の節約モードに過ぎない。だからこそ純然たる娯楽として睡眠を楽しんでいる。

 

 その日もいつものように十一時近くまで二度寝を楽しんだ後、彼女はゆっくりと瞼を開いた。天井が遠い。この高さにも馴染んだなと考えながら、寝台の中で仰向けのまま伸びをする。

 あくびをして目尻に浮かんだ涙の粒を指先で拭うと、枕元の脇の机から真鍮の小さな鐘を手に取りチリリンと鳴らした。

 

 持ち手の部分が優美な角を持つ雄鹿を象った金色の呼び鈴。おそらく本来の用途はディナーベルと思われるそれは、半年ほど前にインターネットのオークションサイトで一目惚れして落札した物で、最近のお気に入りだ。

 

 主人の合図からほどなく、朝食を載せた角盆を手に黒髪のメイドが部屋に入ってくる。主従で遅い起床の挨拶を交わすと、フォーミダブルはそのまま寝台の上で食事を摂る。

 

 その背景でまた別のメイドたちがカーテンを開け、ラジオを点け、脱ぎ捨てられていた服を回収して行く。

 

 ブレックファスト・イン・ベッド。優雅なる貴族的な悪癖。あるいはただのズボラ飯。

 

 起きてすぐ歯も磨かずベッドから出ず、素っ裸にシーツを巻いただけの姿で朝ご飯を食べるという自堕落を窮めた生活が、世話をするメイドを噛ませると、あたかも格調の高い淑女の生活のように見えてくる。

 

 朝食あるいはブランチの後。

 下着姿で椅子に座り、就寝中はほどいていた豊かな灰金の髪を二人がかりでメイドに梳かさせる。その間、スマホをいじりながらグレープフルーツジュースを飲む。

 次いで、この日の気分はポニーテールだったので、そのように指示を出す。

 それに併せてお化粧のスタイルも普段より活動的な印象を抱かせる陽性の物をと注文する。

 

 ラジオから流れる正午の時報を聞きながら、私服と制服とどちらに着替えようかと思案する。

 

 表向きの身分として、ガイアのグループ企業が経営する学園の高等部に籍を置いているが、気が向いたときに遊びに行く程度である。

 

 午後の過ごし方には大きく三つの選択肢がある。

 一つ、指揮官(サマナー)つまり友人である星川リリィが遊びに来るまで屋敷の中でゴロゴロして過ごす。二つ、市街の繁華街に繰り出してショッピングやティータイムを楽しむ。三つ、学校に行って生徒会の面々をからかって遊ぶ。

 

 スマホの着信音。メッセージアプリを起動する。

 

「あら残念。指揮官さまはテレビのお仕事でスタジオで拘束中ですか」

 

 ならばもう一人の友人の顔を拝みに行くとしよう。

 

「決めたわ。今日はこれから学校へ向かいます。おまえたち制服を持ってきてちょうだい」

 

 特別誂えの制服に袖を通す。

 原作におけるKAN-SENフォーミダブルのドレスのテイストを制服に落とし込んだゴスロリ調の物である。

 ちなみにシャツも着ているので北半球は隠れている。大きすぎる胸が不格好にならないように裁断と縫製に工夫のあるドレスシャツだ。

 

 傍若無人で遅刻上等、学園を遊び場としか考えていないフォミ子だが、制服の改造自体は合則である。校則で制服の自由な改造が許可されている。

 それどころか自主自立の精神を育むというお題目で独自の制服を着るのが推奨すらされているのは、学園創設を計画した連中の「学園ものと言えば改造制服だろう」という思考(嗜好)が透けて見えるようだった。

 

 屋敷から学園までメイドの運転する自動車で十分ほど。

 

 学園に降り立ったフォーミダブルはメイドを引き連れながら悠然と歩く。

 

「見て。フォーミダブルさんよ」

 

「今日も優雅だわあ」

 

「俺はイギリス貴族のお姫様だって聞いたぜ」

 

 昼休みの校舎に物見高い学生たちの歓声が上がる。

 

「フォーミダブル・ジャーヴァス!」

 

 騒動を聞きつけた生徒会書記がバタバタと遠方から駆け足で走ってくる

 

「あ。魔女っ子」

 

「誰が魔女っ子よ!」

 

 中学生くらいに見える金髪のロリっ子だ。魔女術(ヘクサライ)を修めた日独ハーフの異能者。雪と霜とを自在に操る強大な魔女。

 ちなみに怒っているのは「っ子」を付けるなと言っている。もちろんフォミ子は分かった上で相手を刺激する言葉を選んで使っている。からかうと面白いから。

 

「いま何時だと思っているわけ。重役出勤にもほどがあるでしょ。それも、もうちょっとくらい神妙な態度で入ってくるならまだしも、なによこの大名行列は」

 

 まるで風紀委員のような物言いだが単純にフォーミダブルのことが嫌いなだけである。これが生徒会長だった場合、彼女自身が取り巻きになる。

 

「なにキョロキョロしてんのよ」

 

「魔女さん今日はお一人なのねと思って」

 

 いつもなら生徒会長の側にひっついて離れないのに。

 

「何言ってんのよ。それはそうでしょう。だって魔王様は……あぁっ! なるほどねえ」

 

 怪訝そうに応じた後、途中でハッと何かに気づいた様子でニヤニヤとしだした。

 

「あんたさては教えられてないんだあ。へえっそうなんだあ。いっがーい。仲良さそうに見えたのにねえ。くすくす。魔王様は今日は退魔生徒会のお仕事で邪神征伐に赴かれてるわよ」

 

 勝ち誇るように嘲け笑った。

 

 それはつまり自分も連れて行って貰えなかったということよねとフォーミダブルは思ったがなけなしの慈悲心を発揮して指摘しなかった。

 それはそれとしてムカついたのは確かなので一殴りはしておく。

 

「そう。それは残念だわ。暇だったから会長さんと遊ぼうかと思っていたのだけれど」

 

 訳すとこうなる。

 

『お前が崇拝し寵愛を求めてやまない魔王様とやらは私からしたらアポなしで遊びに誘える友達に過ぎないんだぞ』

 

 顔を憤怒の朱に染めて怒り狂うロリの罵声を馬耳東風聞き流しながら、フォーミダブルは踵を返した。

 追い縋ろうとする魔女の前に、すすっとメイドの一人が立ちはだかる。

 

「どきなさいよ! 使い魔(ファミリア―)なんかに用はないんだから。あっ待てっ待ちなさい! フォーミダブル・ジャーヴァス」

 

 取り合わずにさっさと立ち去る。

 

「当てが外れたわねえ。どうしようかしら」

 

 午後の授業に出席するという選択肢は無い。学ぶこと自体は嫌いではないが、いまさら高校の授業を受けるというのも気乗りしない。

 

 帰りがけの駄賃に会計の子から貢物でも徴発して行こうか。

 

 見鬼の浄眼を持つあの娘は、また道教の道士ゆえの親和性もあってか、自分の中に宿っている神仙(悪魔)の素性に薄々感づいている節がある。

 その物とは考えていないようだが(正解)、仙猴の縁者が下凡したと思しき存在(不正解)と繋がりを持っておきたいのだろう。

 

公主様(ひめぎみ)。かかる東瀛(とうえい)の地にて御目文字(おめもじ)叶いましたこと道者の末席を汚す者として嬉しく存じます。祖師東遊の折に行者様の御助勢を賜りました恩、我ら未だに忘れておりません。御不便あれば貧道になんなりとお命じくださいますよう」

 

 初対面からしばらくして一対一になった時、いきなり跪拝された時は内心面食らった。

 あとでオカルトに詳しい知人に聞いたら「八仙渡海。八人の仙人たちが竜王と抗争を起こした際に孫悟空が加勢した『東遊記』での話だろう」と教えられた。

 

 口上も実際は単なる口実だろうが、それでも礼節を弁えて接触してくる人間を無下に拒むのは難しい。以来、彼女とは菓子やら噂話、グッズなどをやりとりする仲である。いわゆる互酬性の原理という奴だ。

 

 恋に血迷ってたった一人に全賭けしているどこぞのロリと違って抜け目ない機会主義者は打算的で付き合い易い。

 

 そんなことを考えながら、ふらふらと当てもなく校内をさまよい歩く。

 

 しかし。その後は特に目立ったイベントにエンカウントすることもないまま時間が過ぎて、午後の授業の開始を告げる予鈴が鳴った。

 

「残念。時間切れか」

 

 ホイップクリームの載ったシフォンケーキを口に運ぶ。

 

 濃厚なクリームと爽やかなレモン風味が舌を楽しませ、しっとりとした生地は綿雪を噛んだようにほろほろと崩れる。

 そして上質の抹茶は薫り高く仄かに甘い。

 

 学園からの帰り道、フォミ子は立ち寄ったケーキ屋のカフェスペースでケーキとお茶を堪能していた。二つの味が口の中を幸せにする。

 

 メイドたちも思い思いのケーキとお茶を楽しんでいる。

 

 余所の飲食店で従業員を差し置いて給仕させるほどフォミ子は非常識ではなかったが、喫茶店で屯するメイドの集団はそれ自体が客観的に言って異様な光景ではあった。

 

 SNSにでも上げるつもりかスマホを手に無断で撮影を始める礼儀知らずとそれを制止した店員とが揉め出すのを我関せずお茶を続ける。

 

 モンブランにガトーショコラ、フルーツたっぷりのタルトも素敵だ。

 

「あら。このハーブティーとても良い薫り。お店のオリジナルのブレンドなのね。販売もしているの? そう、なら一袋買って帰りましょう」

 

 意を享けたメイドがレジへと向かう。

 

 コスプレと断じるには精度の高すぎるメイド集団とお嬢様の姿にざわついた店内もようやく落ち着いてきた頃。

 

「ああやっぱり。邪神ってこれのことね」

 

 目当ての記事を見つけた。

 

 邪神アリオク。

 

 あるいは魔王。ミルトンの『失楽園』で名を高めた堕天使である。近年では『永遠の戦士』の混沌の神アリオッホ(アリオッチ)としても知られる。

 

 その顕現を周知し注意を喚起する記事が数日前にSNSで拡散されていたのをフォーミダブルは思い出して探していた。

 

「それはあの霜の魔女を連れて行かないわけだわ。相性が悪すぎるもの」

 

 メガテンではしばしば氷結に対する強い耐性を持ち、手にした剣で痛烈な物理攻撃を繰り出す悪魔として登場する。手札の大半を氷結に寄った生徒会書記には荷が重い。

 

「肉盾として使いつぶされない程度には愛されてるんじゃないの」

 

 足手まといを嫌っただけかもしれないが、それなりの情はあると見える。

 

 本来、現在のGP(ゲートパワー)で此の世に降臨できる格の悪魔ではない。かならずやなんらかのカラクリが隠れていると見込まれる。

 

 情報を求めて深堀りすると、掲示板の一部が祭りになっていた。無理もない。あの強烈な造形は一度見たら忘れられない。ご立派様(マーラ)と双璧をなすメガテンの裏の顔の降臨だ。

 

「って。犯人はもうわかってるんだ」

 

 続報が来ていた。一読して脱力する。わりとしょうもない理由だった。

 

「いえ。深刻ではあるのでしょうけど」

 

 一言で言うと邪教の館案件である。

 悪魔合体を再現しようと秘密裏に研究していた転生者が実験中に合体事故を起こして制御不能の高位悪魔を出現させてしまったというのが真相であった。

 ガイア連合上層部に通報したのも本人だと言う。

 

 不幸中の幸いは研究所の防御設備が設計の段階からそのような事態を想定した造りになっており、現時点では外部に被害が及んでいないという事だろう。

 

 前世の『愚者』であった頃の感覚だと「遠く離れた土地の住宅街にクマが出没した」というニュースに接した時が近い。その時は恐ろしいな大変だなと思うが十分もすれば忘れてしまう。それくらいの距離感だ。

 

「異界化した研究所に潜入して内部で待ち受けるボス悪魔を討伐する。いよいよゲーム染みてきたわね」

 

 そう独り言ちると、事件への興味をあらかた失ったフォーミダブルは、スマートフォンを片付け、ケーキ屋を後にするのだった。




登校する。そして下校する。
姫プレイに余念のないフォミ子。
書いてるうちに書記は中二病というかメスガキっぽくなってきた。

Q.六十年代に書かれた小説(邦訳は八十年代)を近年と言うのはあまりにもインターネット老人会案件が過ぎるのでは?
A.この小説の時代設定は九十年代だから(震え声)
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