メガテン三次創作(カオス転生二次)   作:古井京魚堂

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完結と言った舌の根も乾かないうちにまた別のネタを思いついたので投稿します。フォミ子たちとは別の現地人と転生者のお話です(予定)。今回は導入。


とあるペルソナの話
ペルソナ


「最初はな。逆行転生と謂う奴かと思ったんだ」

 

 大日本帝国の敗戦から二か月余りが経過した1945年10月20日に鈴木好古はこの世に生を受けた。下の名は秋山好古(あきやまよしふる)から取ったものだという。南方で戦死した父親が彼の大将の熱心な信奉者で「男児なら好古と名付けて貰いたい」と戦地から送って寄越した。奇しくもそれが生前最後の手紙となり、遺言となった。

 

「一家の大黒柱が戦死し爺様、祖父もまた公職から追放されたりとそれは苦労したらしい。幸か不幸か儂が前世の記憶を思い出したのは六つの時で、その頃には多少なりと家政は落ち着きを取り戻しておったんで、当時の事は話でしか知らんわけだが」

 

 どのみち記憶が有ったところで六つにもならない子供が一人、賢しら口を挟んだとして何の助けにもならないどころか、狐が憑いたと母と爺婆の心労を増やすだけに終わっただろう。

 

「通いのねえや。つまり女中だな。子守奉公に来ている近所の娘がおったんだが、十五六だったか、それはもう薄っ気味悪そうな顔で儂を見るんだ。無理もない話ではあるが、幼心に傷ついたもんよ」

 

 漫画の世界なら何でも言うことを聞いてくれるお姉さんメイドヒロインの枠だが現実は無情であった。二年くらい後に嫁に行ったと聞いている。

 

「中身はオッサンだろうって? お互い様だろうが。オッサンだって傷つくんだよ。あと前世の儂は享年十四の紅顔の美少年だったからな」

 

 悪相という言葉の見本のような老人が半笑いで(のたま)った。ジョークのつもりだったのだろう。紅顔の美少年というところで本人が失笑していた。

 

「十四歳というのは本当じゃぞ。じゃから、中学までは前世の冥利も利いたがな、高校と大学は苦労したわい」

 

 十で神童、十五で才子、二十歳過ぎれば只の人を地で行った人生だったと呵々と笑った。

 

「ガイアグループの中核企業の一つの創業者が凡人の訳が無いんだよなあ」

 

 神主がおざなりに突っ込んだ。

 

「なあに。半分は家の力よ。逆に言うと追放される公職に祖父は就いておったわけでな。孫の儂もつまるところの『ええとこのボン』という奴よ」

 

 ここで言う良家の子弟(ええとこのボン)は、公家大名に連なる貴公子ではなく、小学校の校長や郵便局長、医者、地主の類の話である。鈴木家の場合は宝暦七年創業と伝わる累代の薬種問屋で祖父は戦前戦中と町会議員として幅を利かせていた。

 鈴木好古は継承した問屋を一代で発展させ、国内シェアの四割を一社で占める医薬品卸売業界の大巨人へと成長させた。

 

「あ。そういう老人の自慢話はいいんで」

 

 長々と自慢話が始まりそうな気配を察した神主によってバッサリと切って捨てられる。そもそも逆行転生云々の自分語りがまず要らなかった。

 

「つまらんのう」

 

 端的に換言すると地方に基盤を持つ中小企業を全国的な大企業に育て上げた経済界の怪物の一人である。金を払ってでも鈴木の話を聞きたい人間も世の中には多数存在するだろうが、生憎とこの場に集まった参加者たちの半数は彼と同格の経済人であった。

 

「今から考えると、本物の名族権門に産まれて神童ムーブをしておったら、メシア教に取り込まれておったかもしれんな。そう考えるとゾッとするわい」

 

 実際、鈴木の友人知人の中には一神教の洗礼を受けた者も数多く、その中にはメシア教の入信者も少なからず居た。またビジネス上の付き合いでアメリカや韓国の巨大教会(メガチャーチ)、テレビ伝道師に再三寄付を無心されたが、メシア教の走狗と目される者も存在した。

 

「おいおい。そんな嫌な顔をせんでくれ。儂だって好きでやったわけじゃあない。アメリカで商売をしていく以上、一神教とは付かず離れず、税の一種と割り切って寄付や慈善活動をせんと立ち行かんのだぞ」

 

 進出を計画している地域の支配的な宗派がメシア教だったので、そこの代表的な教会に寄付をしただけだと釈明する。

 

 前世で『女神転生』に触れたことがなかった鈴木にとって――鈴木の前世は2002年に産まれて2016年に死んだ――メシア教は星の数ほどある一神教系新宗教の一つに過ぎなかったのも大きい。

 

 第一、アメリカ国内での経営とコネクション構築はアメリカ支社の裁量に任されている。特定団体への過ぎた利益誘導やよほど異常な額を持ち出さない限りは通常の業務の一環である。そんな細かいことでいちいちグループの総帥の決裁を仰ぐ無能は経営陣に居なかった。

 

「鈴木のおっさんを庇い立てするわけじゃあないが、実際その通りだと思うぞ、ショタおじ」

 

 顔中に(きず)のある強面の男が鈴木を弁護した。

 メシア教排斥派の筆頭と目される男の思わぬ言葉に場がざわついた。

 

「心外だ。俺はペ天使どもとそれに盲従する狂信者連中が嫌いなんであって、メシア教と少しでも関係のあった奴らを根切にしろとか言ったことはないぞ」

 

 近頃外様の霊能集団や小神たちが彼の意を汲んだと称して、内外のメシア教の末端信者たちへの攻撃を繰り返しており、頭を痛めている。

 

「だが。その御老体が軽率に渡した金がメシア教の連中を肥え太らせた一因というのは事実ではないか?」

 

「大袈裟な。二十年間で五十万ドルちょっとなんだろう。連中の規模を考えたらまあまあの端金だろ」

 

 糾弾と擁護の声が錯綜する。

 

「はい。ストーップ! やめやめ。ここは査問の場じゃありませーん。と言うかアメリカで商売しててメシア教と一切関係がないよって人間だけが石を投げるように」

 

 神主の鶴の一声で場内が沈静化する。

 

 メシア教は恐るべきカルト集団であるが、同時に巨大な経済主体でもある。好むと好まざるとに関わらず、完全に無関係を貫くのは現実的ではなかった。

 

 そして、それでお開きとなった。

 三々五々、出席者たちが帰って行く。

 

「やれやれ。つまらん会議だったな」

 

 鈴木は渋面で溜息を吐いた。

 会議の結論は満場一致でお咎めなし。最初から結論は決まった上での儀式、パフォーマンスの一種に過ぎない。

 実際鈴木以上にメシア教と蜜月状態にあった者は何人も存在する。ガイア連合に加入して、メシア教の実態を知らされてからは戦々恐々としていた事だろう。

 さきほどまでの茶番の真意は彼らへのメッセージだ。

 

「ごめんねえ。鈴木さん。悪役を押し付けちゃって」

 

「サンドバックか木人の間違いだと思うが。まあこれも最年長者の役目じゃろうて。神主こそ時間を取らせてすまんな。お前さんこそ多忙だろうに」

 

 掲示板での『俺ら』というペルソナを被った時には気楽に無責任に話せるが、大企業経営者や旧家の当主というまた別のペルソナを被った時には全ての言動に下の者への責任が付き纏う。

 

 運営に参画するお歴々は、豪放磊落なようでいて、臆病なくらいに慎重だった。

 

「ままならないものだ」

 

「本当にねえ」

 

 しみじみと相槌を打つ神主の姿に、あるいは超越者然としたショタおじもまた何らかのペルソナを被っているのかもしれない、鈴木好古はふとそんな風に思った。




鈴木さん
鈴木好古。本作初の名有りキャラ。まさかのアラ還男性。
前世はリアル中二までしか生きていないのでほぼ知識チートなしで家業を躍進させたすごい人。現実の医薬品卸業界は最大手4社で市場の8割を分け合う業界なので(らしい)、一社で4割を占める鈴木さんの会社の怪物ぶりがお分かりいただけるかと。
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