メガテン三次創作(カオス転生二次)   作:古井京魚堂

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ペルソナ様

「ペルソナ様、ペルソナ様、おいでください」

 

 中学校の空き教室。四人の子供たちが『ペルソナ様遊び』に興じていた。

 

 中央にテレビを置いた部屋の四隅にそれぞれ一人が立ち、「ペルソナ様、おいでください」と唱えながら、順番に次の人の所まで歩く。そうして四人で部屋を一周するとテレビの中に『ペルソナ様』が現れて、未来を教えてくれるという他愛もないおまじないだ。

 

 流行りの漫画の中で主人公たちがやっているのを見て、リーダー格の少女が自分たちもやろうと言い出した。言った本人も単なるごっこ遊びのつもりだった。

 

「でもテレビはどうするの?」

「スマホでよくない?」

 

 誰の案かは忘れたが、すぐにみな賛同して、そういうことになった。教室の中央に机を置いてその上に全員のスマートフォンを並べる。おまじないの文言も即興でアレンジされた物になる。

 

「ペルソナ様、ペルソナ様、スマホの中においでください」

 

 そして最後の一人が始点かつ終点の一隅に到達する。当然何事も起こるはずなく「あはは。なんにも起こらないねー」と一同笑って撤収する……はずだった。

 

 最後の呪文が唱え終わったのと同時に全員のスマホがけたたましい着信音を鳴らした。

 

「なにっ! なんなのっ!」

 

 心をざわつかせる不穏な響き。誰も聞いたことのない奇妙な旋律は気味が悪く聞く者を怖がらせた。

 

 それぞれ目線を交わし合い「どうしよう」「どうしよう」と無言で会話する。その間も音は一向に鳴りやむ気配がなかった。四人の中で一番勇気のある短髪の子が恐る恐るスマホに近づいて「あっ!」と驚きの声をあげる。

 

「なにか映ってる! おかしいよ! 電源が切れない!」

 

 画面全体を霧か靄のような物が覆っていた。その奥で影の様な何かが蠢いている。人のようにも獣のようにも見えた。そしてどちらにも似ていなかった。悪夢を題材としたホラーゲームのクリーチャーのようだと思った。

 

 気持ち悪い。見たくない。なのに音量を下げても音は止まず、電源を切ろうとしても落とせない。

 

「ばっばかだなあ! 心霊現象なんてあるはずないだろ! やっかいなウイルスに引っかかっただけだって……そうだと言って」

 

 一番腰の引けているポニーテールの子が懇願する。誰に対するものかは本人にも分からなかった。

 

「先生を呼んできましょ!」

 

 リーダー格の少女が意を決して扉に向かう。そして絶望した。

 

「なんで扉が開かないの」

 

 ありえない話だった。この空き教室の扉の鍵は何年も前に壊れたきりずっとそのままになっている。締まるはずがないのだ。

 

「だめだ。こっちも開かない」

 

「ま、窓から逃げよう!」

 

「馬鹿言わないで。ここは三階よ!」

 

 恐慌を来す子供たち。

 無情にも怪奇現象は止むことなく、さらに勢いを増して行った。ガタッガタタッと地震でもないのに机と椅子が鳴動し、スマートフォンが浮きあがり、クルクルと空中を回転したかと思うと、バチバチと火花を伴う雷のような物が室内を乱舞した。

 

「ひっ! ポルターガイス……痛いっ! 痛っ痛いっ……! 何かが足を掴んでる! 放してっ放してよおっ!」

 

 目に見えないナニモノかに足首を掴まれた子が引きずられて行く。勇敢な子が飛び掛かって引き留めようとしたが、その子もまた掴まって空中の何もない所で逆さ吊りにされた。

 

「まさかペルソナ様……ペルソナ様なの? テレビじゃなくてスマホなんかで呼び出そうとしたから怒ってるの?」

 

 へたり込んだリーダーが呆然と呟く。

 

「待って! 待ってください! あたし、あたしなんです! ペルソナ様遊びをしようだなんて言い出したのは! だから連れていくならあたしを連れて行って! 二人を放してよう!」

 

 悲痛な声で泣きじゃくる。不可視の『ペルソナ様』はそんな彼女にも容赦なく襲いかかった。透明の腕が彼女の全身を無遠慮に掴むと少女をスマホの中へと引きずり込んでしまった。

 

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「――いな。映名(えいな)ってば」

 

 自分の名を呼ぶ友人の声に瀬良(せら)映名はハッと我に返った。

 

「あ。気づいた」

 

「おかえー。自分のスマホをじぃっと見つめながら微動だにしないんだから心配したよお」

 

「ほんとほんと。でも結局何も起きなかったなあ。やっぱりスマホじゃなくてテレビじゃないと駄目だったのかねえ」

 

「ふふん。だから言ったでしょう。ペルソナ様だのエンゼルさんだの、そんな子供だましのスピリチュアルな現象、起きるはずがないんだって」

 

「お。ビビり倒してたくせによく言う。おまえ一番ノリノリだったじゃんか」

 

「あ、あれ? みんな居る……なんで?。お化け……ペルソナ様にスマホの中に連れていかれたはずじゃ」

 

 何事もなかったようにじゃれあう友人たち。その姿に映名は喜びよりも戸惑いを覚えた。三人の顔とスマホを順繰りに何度も何度も凝視する。

 

「えぇ……どうなってるの」

 

「なにを変なこと言ってるの。早く教室戻らないと午後の授業始まっちゃう」

 

 呆れた様子で「先行くわよ」と空き教室から出ていく三人。

 映名もまた後ろ髪を引かれながら後を追いかける。

 

「夢……だったのかな?」

 

『ところがどっこい……夢じゃありません……! 現実です……! これが現実……! なんて。ガキに。それもこの世界のガキに通じるわきゃあないか』

 

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「でさあ。私見ちゃったんだよねえ」

 

 自慢そうにポニーテールが言った。

 

「高等部の噂のお姫様が歩いてるのをさ。ビックラこいたね。マジもマジ。本当にメイドさん引き連れてるんだから。美人だったなあ。あれが同じ人間とは思えないね。嫉妬どころか羨望すら湧きゃしない」

 

 放課後。映名たち四人組はハンバーガーショップで駄弁っていた。ハンバーガーにかじりつき、ポテトやナゲットをつまみながら、校内の有名人の噂話や最近視た動画、アプリゲームのことなどを雑多に話す。

 

「思わず直談判して一緒に写真撮ってもらっちゃた。見る? 見る?」

 

 普段小心な割に変な所でミーハーな行動力を発揮する事がある。

 

「忘れ物持って来なって昨日姉ちゃんにパシられた時は、マジふざけんなよ愚姉がって思ったけど。いやあ。ファインプレーだわ。でも次からは忘れんなよ」

 

「無理じゃね。おまえの姉ちゃん三日に一度は何か忘れてるじゃん」

 

「ミソギ姉さんは相変わらずねえ」

 

 ショートカットが突っ込みを入れ、リーダー格が呆れてみせる。

 

「あはは」

 

 映名は笑った。いつもの光景だ。

 

「本当に?」

 

 何かおかしなところがないか? 何か、何かが変だ。でもそのおかしな所が分からない。

 

『なあガキ。オマエ、ダチの名前思い出せるか?』

 

 また幻聴が聞こえる。揶揄するような意地の悪い調子の声だ。

 授業中も下校途中も遊んでいてもひっきりなしに、ペルソナ様ごっこを終えてからずっとこの調子だ。頭がおかしくなりそうだった。

 

 友達の名前を思い出せるかだって? 馬鹿を言うな。そんなの当たり前だ。この子たちは幼稚園の頃からの幼馴染。忘れるはずがないだろう。

 

 まずはリーダー。いつも私たちを引っ張るガキ大将。彼女の名前は……名前は……。

 

 さあっと血の気が引く音が聞こえた気がした。

 

 ポニーテール。ミーハーな内弁慶。ショートカット。短気で喧嘩っ早いけど友達思いの勇敢な子。

 

 え? 待って、どういうこと。どうして名前が思い出せないの。映名は愕然とした。

 ミソギ姉の名前は分かる。ポニーテールの姉だ。噂のお姫様。確かフォーミダブル。担任の名前。これも覚えている。クラスメートたち。だいたい分かる。だというのに幼馴染の三人の名前だけが思い出せない。

 

『ヒヒヒッ。そのガキどもはちょっとずつ存在を齧られてるのさ』

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