聖闘士星矢 9年前から頑張って   作:ニラ

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番外編 力を見せろ

 

 

 さて、黄金聖闘士の面々が沙羅双樹の園で会議(?)を開いている頃。

 場所は変わってとある山小屋の中。

 

 そこには一人の壮年男性と、少女が向い合っていた。

 少女は椅子に座って男性の方へ顔を向け、男性は眉間に皺を寄せて少女に視線を向けている。

 

「良いかシャイナよ……女性聖闘士は自ら女で有ることを捨てるため仮面を付ける事に成っている」

「……はい」

「そして、そこには厳しい仕来りがあるのだ……。

 それはもしその素顔を他人に見られた場合、見た相手を殺すか愛するかのどちらをしなくてはならんのだ!!」

「……」

「…………」

「えぇッーーー!!」

 

 その日、聖域の極一部に驚嘆の声が上がった。

 

 

 

 

 番外編 第2話後編 力を見せろ

 

 

 

 シャイナは頭を悩ませていた。

 それは先日師匠から告げられた一言『素顔を見られた女性聖闘士は――――』と言う言葉である。

 修業に入る際、その初日に仮面を付けるように言われていたが……それにそんな意味が有るとは思いもしてい無かったのである。

 

「どうすりゃ良いかね……」

 

 と、呟く『9歳児』。

 

 その言葉の意味は、前にクライオスに強請って『拳』を見せてもらった事に由来する。

 クライオスの放った拳の風圧でシャイナの仮面は割れてしまい、ものの見事に素顔をクライオスに晒してしまっていたのだった。

 

 その時の自分(シャイナ)は何も知らなかったので気にもしていなかったのだが、思い返してみればクライオスの反応は何か変だった――――

 と、今に成ればシャイナもそう思うのだ。

 

「クライオスを殺すか……」

 

 と、物騒なことを口走りながらシャイナは空を見上げる。

 だが、今現在それを実行に移した場合、シャイナは成功するとは思えなかった。

 

 仮面が割れた時から既に1年近くの月日が経っている。

 その間に、自分自身も小宇宙を感じて操る術を見に付けはしたのだが、それでも勝てるとは思えなかった。

 

「あの時に感じたクライオスの小宇宙……アレはこんなモンじゃ無かった」

 

 聖闘士の闘いの基本は原子を砕く事にある。

 そして、それは如何に小宇宙を高めることが出来るかと言うことに帰結する。

 シャイナ自身の感想としては、今の段階でクライオスの生命を狙ったとして討つ事は難しいだろう。という事だ。

 

 それに加え――――

 

「出来ればそんな事はしたくないからね――――」

 

 シャイナはクライオスの事が嫌いでは無いのだ。まぁ、別に異性として愛してるとかそういった事ではなく、

 単に『一人の人間として好きか嫌いかの問題』だが。

 

 聖闘士発祥の地であるギリシア、聖域。

 

 確かに神話の時代から女性の聖闘士は存在したし、彼等が称える神も女性神である。

 しかし、どうしても『闘いは男の仕事』といった風潮が抜けず、今なお聖闘士を目指す女性などは軽く扱われる事が非常に多いのが現実で有る。

 

 勿論それは同年代の候補生達の中にも言えることで、カペラ、シリウス、アルゲティ等も例に漏れず口には出さなくても態度には出ていた。

 だが、クライオスは違ったのだ。

 蔑むようなことはなく、普通に接してくれる。

 むしろ女性であることに敬意を持っているような素振りも見せていた。

 

 その為、シャイナは同期の中では同姓である魔鈴と同等か、またはそれ以上ににクライオスの事を好いているのである。

 もっとも、実際のところクライオスからすればシャイナが白銀聖闘士に成ることを知っているし、その後の聖戦に於ける貢献度も理解している。

 (主に海界や、アスガルド等の出来事)

 それに加え元々が現代日本の生まれなために、男尊女卑の考えが極端に少ないからなのだが……。

 まぁ、シャイナには知りようの無いことなので置いておこう。

 

 少なくともこの時のシャイナの思考回路は、

 

 聖闘士になりたい→しかし顔を見られてしまっている→クライオスを殺す? 恐らく無理→ならば愛するか?→愛に関して今ひとつ→どうしよう?

 

 といった所だった。

 因みに……『女性聖闘士』は顔をみられてはいけないが、現時点のシャイナは『聖闘士候補生』である。

 ある種の勘違いなのだが、今のシャイナにはそれが解らなかった。

 

 兎も角、勘違いでも何でもそんなふうに悩んでいると、近場――――森の奥で幾つかの小宇宙が燃えているのをシャイナは感じた。

 とは言え、攻撃的なものではなくただ前を見ているような感じだが……。

 

 シャイナは自身の悩みを一先ず他所に置くと、その小宇宙の高まりを確認するため現場へと足を向けるのだった。

 

 走るようにして現場へ行くと、そこには数人の子供が居た。

 皆が皆――――若干規格外も居るが、シャイナと同程度の体格をしている聖闘士候補生達だ。

 因みに規格外とはアルゲティの事。

 アルゲティの横にはカペラが居て、そしてその先にはシリウスとクライオスが向い合って立っていた。

 『成程……この小宇宙はシリウスとクライオスのものか』とシャイナは判断した。

 シリウスから感じる小宇宙は思いのほか大きい。

 シャイナ自身負けるとは思わないまでも、やり合えば唯では済まないと感じる程度には。

 だが一方のクライオスはどうだろうか?

 

 構えを取り、強い視線をぶつけてくるシリウスとは対照的に、今のクライオスは特に何もしてはいない。

 その場に立ったまま眼を閉じ、ただ身体だけは相手の方を向いている状態だった。

 小宇宙もかつて感じた力強さはなりを潜め、今では燻っているような感覚を感じる。

 

(……何だ?)

 

 シャイナがそう思った瞬間に場が動く。

 突如シリウスが拳を挙げて、クライオスに襲いかかったのだ。

 爆発するような突進力で持って襲いかかるシリウス、だが――――

 

「行くぞクライオス! グレートマウンテン・スマッシャー!!」

 

 音速を超えて放たれるシリウスの拳を、クライオスは見もせずに紙一重で避けて行く。

 腕はダランと下ろしたままに、上体を動かすだけで対応しているのだ。

 

 普通なら信じられない光景だ。

 それは当のシリウスは勿論、近くで見ているカペラもアルゲティも同じだろう。

 当然シャイナとてそうだ。

 

 確かにクライオスは避けている。

 避けているが、時折シリウスの拳は当たっているようにも見える。だが――――

 

「くぅ……馬鹿な」

 

 シリウスの呟きが漏れた。

 詰まりはクライオスには当たっていないのだろう。

 直撃したと思えた拳は全てすり抜け、ダメージを与えるには至っていないという事だ。

 

 シリウスがその結果に呻き声を挙げると、今度はクライオスが動きを見せた。

 

「それで終わりかシリウス? なら次はこちらの番だな」

 

 そう言うと一瞬の事、気が付くとクライオスはシリウスの懐に飛び込んでいて

 

「――――『うろたえるな! 小僧ども!!』」

 

 言いながら両手を振り上げると、シリウスは声を挙げる間もなく吹き飛んでいった。

 しかしそれを見ていた者達は少しだけ疑問に思った事だろう。

 

『小僧……ども?』

 

 と。

 

「アルゲティ!」

「お、おう!」

 

 固まっていた皆を尻目に、クライオスはアルゲティに指事を出した。

 既に気絶してしまっているのか、頭から地面に落下していたシリウスを受け止めるためだ。

 

「ついつい黙って見続けてちまったけど……こいつらはこんな森の奥で何をしてるんだ?」

 

 シャイナは頭を左右に振ってそう呟いたが、するとクライオスがシャイナに向かって顔を向けてくる。

 見ると訝しむように眉間に皺を作っている。

 それにシャイナは「仕方がないか……」と呟いた。

 

「そこで見てるのは誰だ? 用が有るならさっさと――――って……シャイナ?」

「あぁ……」

 

 姿を現したシャイナに、疑問符を浮かべるクライオス――――とその他二名(アルゲティ+カペラ)

 だがそれに構わず、シャイナはツカツカと近づいてきた。

 

 そんなシャイナにカペラが声を掛ける。

 

「……シャイナ、何してるんだこんな所で?」

「それはコッチの台詞だよ、アンタらこそ何してんのさ?」

 

 一応凄みを利かせて言ったのだろうが、カペラのそれにシャイナは気付きもせずに言った。

 するとアルゲティが問に答えるようにして返事を返す。

 

「……模擬戦か? 一応は」

「模擬戦?」

「あぁ、俺達も小宇宙の扱いをわかってきた所だからな」

 

 シャイナはカペラ達の言葉に、視線を気絶してアルゲティに抱かれているシリウスへと向けた。

 そして

 

(模擬戦……と言えるほど、充実した内容には成ってないと思うけどね)

 

 と心中思ったが、口には出さずに 

 

「へぇ……お前らも何かと考えてるんだね?」

 

 と返答を返していた。

 それにしても――――と、シャイナは視線をクライオスに向ける。

 クライオスは一瞬、ビクっと肩を震わせたが、シャイナは取り敢えずそこには触れずに置く。

 現在は先程とは違い、その両眼は開かれている。

 

「なぁ、クライオス。ちょっと聞きたいことがある」

「ん? ……なに?」

「どうしてお前は眼を閉じてるんだい?」

 

 シャイナの質問に、カペラやアルゲティも『あっ……そう言えば』と頷き合っている。

 一瞬『こいつら大丈夫か?』とシャイナだけでなく、クライオスも思ったのだがこれまた口にはしなかった。

 クライオスは一度口元に手を持ってくると、「むぅ……そうだな」と思案を始めた。

 そして2~3秒ほど考えていると、ポンッ!と手を叩いてから頷く。そして「マズイな……」と呟いてからシャイナの方へ視線を向けた。

 

「シャカの教えでな……修業では必ず眼を閉じろって言われてるんだよ。理由は――――秘密だが」

 

 実はこの時、クライオスは何故自分が眼を閉じて居るのか覚えていなかった。

 初めて目を閉じての修業が開始されてから、実は既に1年以上が経過している。

 クライオスはその間、常に修業と言うと『眼を閉じる』――――という事を半ば強制されてきたと言っても過言ではない。

 まぁ……主にシャカの修業に関してはだが。

 流石に『気合を入れるべき時』や『日常』の中では眼を開けるが、それ以外に小宇宙を使うとなるとこうして眼を閉じる癖みたいなものが付いてしまっていたのだ。

 シャイナの言葉で自分に妙な癖が付いてしまっていることを知ったクライオスは、この後それを取り除くために苦労するのだが……。

 まぁ、それは今回では無いので放っておくとしよう。

 

 クライオスの返答に半分納得、半分意味不明(理由は秘密のあたり)と感じたシャイナだが、

 恐らく聞いても答えてはくれないだろうと考えて「そうか……」とだけ頷いた。

 

「じゃあもう一つ、『うろたえるな! 小僧ども!!』って?」

 

 人差し指を立てながら尋ねてくるシャイナに、クライオスは先程以上に表情を歪る。

 そして「それは……それはな……」視線を泳がせながら返答に窮していた。

 

「……本当はちゃんと技を使おうかと思ったんだよ。ただそこで気がついたんだ――――俺にはまだ『技名が無い』ことに。

「「「はぁ?」」」

「確かに以前、そんな話しが持ち上がったことが有ったけど……結局その時は何も決まらずじまいだったんだ。

 だから技をだそうにも『技名が無い=しまらない』だろ? だから当たり障りの無いところから持って来たんだけど……」

 

 聞いていたカペラもアルゲティもシャイナも……密かに眼を覚ましていたシリウスもだが、

 揃いも揃って『大丈夫か……コイツ』と言いたそうな雰囲気を醸し出している。

 もっともクライオスはその事に気付いていないようだが。

 

「まぁ何処かの誰かが使う、投げ技みたいなもだと思ってくれれば良いよ」

 

 そう言って締めくくったクライオスは「うん」と頷いていて、非常に満足そうだ。

 シャイナは仮面の下で眼を細めて(愛するのと殺すのはどっちが簡単なのだろうか?)と考え始めていた。

 

「……そうだ。シャイナ、お前もクライオスと戦ってみたらどうだ?」

「は?」

「えぇッ!?」

 

 突然のカペラの提案に、シャイナとクライオスは其々声を挙げた。

 因みに「は?」がシャイナで、「えぇッ!?」がクライオスである。

 

「……ちょ、ちょっと待てカペラ! お前は一体何を言っているんだ!?」

 

 クライオスにすれば、戦うだけなら別に構わないのだ。

 ただシャイナには以前、素顔を見たと言う負い目がある。そのため、出来るならばそういった(殺す)機会を与えたくは無かったのだ。

 

 『出来ればそのまま有耶無耶にしておきたい――――』

 

 と言うのが、クライオスの考えだったのだ。

 仮にクライオスが、

 

『女性聖闘士』は顔をみられてはいけないが、現時点のシャイナは『聖闘士候補生』

 

 という結論に至っていれば、このような問題は起きなかったのだろうが。

 だが残念なことに、当のクライオスはそこに行き着いては居なかったのであった。 

 

 慌てるようにして言うクライオスに、カペラはニヤリとイヤラシイ笑みで持って返事を返す。

 

「いや何、シャイナも折角来たんだ……観てるだけでは詰まらないだろ?」

「だったらお前がやれば良いだろうが!」

「強いヤツと戦った方が訓練にもなるだろ? それに、俺達の中で一番強いのはお前だからな」

「いや……だけどそれは――――」

「私は構わないよ」

 

 クライオスが何とか言葉で言いくるめようとしていると、不意にシャイナの方から了承の声が挙がってしまう。

 

「私だって、自分がどの程度の実力が有るのか気になってるところさ。それを試せる機会があるなら活用するべきだろ?」

「だからそれならカペラ達でも――――」

「クライオス、私はお前に『頼む』と言ってるんだよ?」

 

 『頼むとは言ってないだろ!?』とは流石に言うことが出来なかった。

 クライオスは空を見上げると、何故か胸の前で十字を切って「アテナ……」と言うのだった。 

 

 そしてトボトボと歩いてクライオスはシャイナと一定の距離をとった。

 どうやら観念して、シャイナと闘う事を了解したらしい。

 

「――――よし、それじゃあやろうかクライオス。……手加減するんじゃないよ!」

「……あぁ」

 

 構えるシャイナの言葉に、力なく返答するクライオス。

 それを横で見ているカペラは、相変わらずイヤラシイ笑みを浮かべている。

 

 その笑みに気色悪さでも感じたのか、アルゲティに担がれたままのシリウスが問いかけた。

 

「おい、カペラ。何だってそんな……笑い顔? を浮かべてるんだ?」

「ん? 決まってるだろ。思い通りに事が運んだからだよ」

 

 シリウスの問い掛けに、カペラは何てことは無いと言うふうに返事を返した。

 ニヤニヤ笑っているカペラは、その嫌な笑顔のまま言葉を続ける。

 

「お前らだってシャイナ……それに東洋人の魔鈴の事は気に入らないだろ?」

「……まぁ多少はな」

「…………」

 

 シリウスとアルゲティは言葉も少なくカペラの言葉に同意した。

 少し前にも述べたが、神話の時代より続く聖域は基本的に男尊女卑の世界である。

 例え能力があろうとも、女性であるならばそれだけ低く見られがちなのだ。

 当然周囲がそういった風潮では、そこで生活をしている子供達(この場合は聖闘士候補生)にもそんな意識が根付くのは当然と言える。

 

 カペラ、シリウス、アルゲティの3人は、クライオスの手前そういった素振りは見せ無いようにしてはいるのだが、

 内心ではシャイナや魔鈴が女と言うだけで嫌っていたのだ。

 

「だからこうして、上手い具合にクライオスに〆て貰おうと思ってよ」

 

 言葉の端に含み笑いを浮かべながら言うカペラだが、それを見ているシリウスとアルゲティの顔は妙に冷めている。

 

「格好悪いぞ?」

「あぁ……それもかなりだ」

「うるさい! 良いんだよ、結果があれば俺はそれで満足だ」

 

 冷静な突っ込みを受けたカペラはそう言い返したが、却ってシリウス達を落ち着けるだけだった。

 そしてシリウスは腕組をすると、

 

「だが……果たしてそうそう上手く行くか?」

 

 と、落ち着いた口調で言ってくる。

 

「何だよ、クライオスが負けるってのか?」

「いや、幾ら何でも闘ってシャイナが勝てるとは俺も思わないが……」

「じゃあ何だよ?」

 

 シリウスは視線を一度クライオスへ向けると、その後カペラの方へ戻して言った。

 

「クライオスは、女性贔屓なところがあるからな」

「…………」

 

 

 

 

 

 

(どうするか……)

 

 クライオスは悩んでいた。

 目の前で小宇宙を燃やし、構えをとって自分のことを油断なく睨んでくるシャイナ。

 その対応に付いてだ。

 

 この頃のシャイナは9歳。

 単純に考えるのなら、白銀聖闘士になるのは10歳の頃のはずだ(星矢が聖衣を授かった時が16歳で、6年前からカシオスを育てている)。

 ならば、今のシャイナはそれ程強くはないのではないか? ――――と、クライオスは考えているのだ。

 聖闘士に成った後ならば兎も角、幾ら何でも

 

 潔くやられる? 当然有り得ない。クライオスは死にたくない。

 適当に相手をする? 無理、クライオスはデスマスクの様な演技派聖闘士ではない。

 本気でヤル? 論外、クライオスは星矢ではないが女性に全力など出せない。

 ならば

 

(本気で相手をしつつ、全力を出さない……だな)

 

 クライオスはそう結論づけると、視線をシャイナの方へと向けた。

 依然変わらずシャイナからの睨むような視線は続いており、クライオスは内心――――

 

(ここで殺る積りなのかなぁ……)

 

 と、思っていた。

 

 さて、一方シャイナはと言うと。

 

(……どうするかね?)

 

 と、これまた悩んでいた。

 悩む内容は唯一つ、『どうすれば勝つことが出来るか?』という事だ。

 シリウスの攻撃に対して殆んど動く事もせずに避けたクライオスの実力は、恐らく自分よりも一段階……いや、数段階は上のはずだ。

 だったらどうすれば良いのか?

 シャイナは産まれてから9年間しか使っていないその脳細胞を、必死になって回転させて答えを出そうと試みる。

 だが――――

 

(いい策なんて浮かばないか……)

 

 シャイナはため息一つ吐いて、そう答えを出した。

 恐らく、今の自分の実力はシリウス達と同程度の実力だろう。

 ならば何らかの小細工に意味が有るのだろうか? シャイナはそう考えたのだ。

 

 仮に多少はやり合えるだけの実力が有るのなら兎も角、詰まらない小細工ではどうしようも無いのではないか?

 

 シャイナは一言

 

「考えても仕方が無いか……」

 

 と呟いてから、闘う力――――小宇宙を燃やし始めた。

 自身に出来る最高の、自身に出来る最大の、そして自身に出来る最強の一撃を見舞うために小宇宙を燃やす。

 

 その小宇宙の高まりは、周囲で観戦していたカペラ達が息を飲むほどの激しさを見せている。

 

「行くよ! クライオス!!」

 

 掛け声と同時がそれより速くか、シャイナはクライオスに向かって駆け出すと自身の腕を振るって拳を打った。

 左右の拳を交互に打ち出し、其々を必殺のつもりで繰り出していく。

 クライオスは眉間に皺を寄せながら、渋い顔でそれらの拳を避け続けた。

 

 最初は距離を測るように大きく、

 そこから修正するように動きを小さくして徐々に当たるか当たらないかと言うようなギリギリでの回避運動へと変えて行く。

 基本……強大な力を持つ聖闘士とは言え、その身体は生身である。

 強靭な力や、敵からの攻撃から身を守るために聖衣は存在する。

 如何に今のシャイナが未だ聖闘士候補生という立場とは言え、その攻撃を受ければ唯では済まないだろう。

 それを直撃する危険を省みずにわざわざギリギリで避けているクライオスに、周囲で見ているシリウス達は勿論、

 シャイナも驚きを隠せなかった。

 

 もっとも……当のクライオスは今までのイジメの様な修業の日々と原作の知識から、『聖衣=身を守る防具』というイメージではなく、

 『聖衣=聖闘士の証+見栄え』と、偏った考えを持っていた。

 要は「防御? 小宇宙を高めればどうにでも成るんじゃないの?」――――ということだ。

 

「……クッ! どうしたクライオス! 打ってこないのか!!」

 

 一向に当たる気配の無い攻撃に、シャイナは苛立を感じながらそう言った。

 左右の連打から腕を戻す勢いを其の侭に回し蹴りを放つが、それさえもクライオスには見切られて避けられてしまう。

 シャイナの蹴りを避けたクライオスは、『ポーン……』といった効果音でも付くかのようなゆったりした動きで後方へと退った。

 後方に退ったクライオスに、シャイナは舌打ちをして睨みを聞かせる。

 

 それに対して――――と言う訳でもないのだが、クライオスは先程以上に眉間の皺を深くしていた。

 それは

 

(思ったよりもずっと動きが速いな……)

 

 という事だ。

 『それに小宇宙がちゃんと燃えている』というのもプラスされる。

 捌けない事は全く無いのだが、ここでクライオスは自分の今の状態と周りの状態、そして聖闘士の最低ランクについて考えていた。

 

 一番下の青銅聖闘士……秒間約100発の拳を繰り出す。

 現在のシャイナ……目測でおよそ150発近く。

 

(……聖闘士に成れるんじゃないのか? 俺も、他の連中も。

 少なくとも6年間修業をしたカシオスよりも、現在の俺達が強いことは確実だな。……それにしても)

 

 クライオスはそこまで考えたところで、現在の自分がどの程度のものなのか? という事に興味が湧いてきてしまった。

 そして当初の『やりにくい』といった思いなど何処へやら、眉間に浮かべていた皺を緩めると。

 ニコッと笑ってシャイナの方へ視線を向けた。

 

「クソッ!」

 

 シャイナはそれを挑発と受け取ったのか、一言そう口にすると再びクライオスに襲いかかる。

 最初は同じ様に避けていたクライオスだったが、それが徐々に危うくなっていった。シャイナの速度上がっていったのだ。

 そして何度目かのシャイナの拳を避けたところで、クライオスの頬が切り裂かれ血が飛んだ。

 

 クライオスは「――――へぇ」と呟くと、追い打ちとして放たれたシャイナの拳を腕で外側へと弾いた。

 

 それを境に、クライオスは避けるのではなく攻撃を受け止め始める。

 それを好機と見たのか、避けられていた時以上に力を込めて拳を振るうシャイナは、此処ぞとばかりに攻め立てた。

 

「すゲェ……」

 

 攻防を見ていたアルゲティが呟くように言った。

 その言葉はクライオスを攻め立てるシャイナのことか? それとも徐々に速度を増していくシャイナの攻撃を捌き続けるクライオスの事か?

 シリウスもカペラも口を開けて、その光景をただ呆然と見つめていた。

 

 シャイナの息もつかせない程の攻撃、しかしそれらの攻撃は全てクライオスに防がれ続けている。

 拳を捌き、拳を受け、蹴りを弾き、蹴りを止める。

 クライオスが距離を取るように動けば、逃がさぬように付いて離れず。

 攻撃を掴みとって投げに転じても、空中で身を捻って着地し再びクライオスに詰め寄る。

 

 共に決定打の無い状況が続いていた。

 

 そんな状態の中、クライオスは今のこの状況が少しづつ楽しく感じるようになってきた。

 聖域に連れてこられて既に3年程が経過している。

 その間、シャカ(または他の黄金聖闘士)という強大な師匠によって叩きのめされる事はあったが、

 こうして自身の実力がまともに通用する相手と手合わせをする……といった事は、もしかしたら初めての経験なのかも知れない。

 

 だからこそ……なのだろうが。

 クライオスはシャイナの拳を受けている最中だと言うのに、その顔には笑みを浮かべているのだった。

 

「ハァッ!!」

 

 既に何度目に成るのかも解らないシャイナの攻撃、それがクライオスの防御を超えた。

 

(貰ったッ!)

 

 その拳がクライオスに触れる瞬間、シャイナはそう確信し……次の瞬間驚嘆した。

 

「な……に?」

 

 シャイナは『空を切った』自身の拳を呆然と見つめながら、呟くように言った。

 目の前には拓けた広場が視界に映り、それ以外には特に何も映っていない。

 確かに今しがたまで目の前に居たはずのクライオスが、そこには居なかったのだ。

 

「――――こっちだシャイナ」

「ッ!?」

 

 声のした側……要は真後ろから聞こえてきた声に、シャイナはビクっと反応して一息で飛び上がって距離をとった。

 空中で身体を反転させて声のした方へ視線を向けると、そこには確かにクライオスが立っている。

 

「……何だ、今のは?」

 

 結果を見れば『避けたられた』という事なのだろうが、あのタイミングと間合い、そして状況で避けたというのがシャイナには信じられなかった。

 確かに自分の拳はクライオスを捉えた筈なのに。

 だがそこで先程のシリウスとの一戦がシャイナの脳裏に浮かんだ。

 そして理解したのだ、『ただ只管に速いのだ』と。

 

 シャイナは小さく舌打ちをして、そして歯噛みした。

 『まだまだ全力では無かった』と、暗に言われたようなものだからだ。

 

「流石だねクライオス。正直……此処まで実力の差があるとは思ってなかったよ」

「うん……まぁ、それに関しては俺もある意味同感だけどね」

 

 『ハハハ』乾いた笑いと一緒にそう言ったクライオスは、続けて「俺自身、どの程度の事が出来るのか知らなかったよ」

 と補足した。

 

「しかし――――シャイナ、お前はまだ全力を出し切ってはいないよな?

 俺とは違って、必殺技の一つくらい有るんだろ?」

 

 と、クライオスはシャイナに言った。

 勿論これは『そろそろサンダークロウを覚えているのではないか?」との当てずっぽうで言っただけなのだが、

 当のシャイナにして見れば言い当てられたことは堪ったものではないだろう。

 

「!?……へぇ、良く解ったね。確かに私にはまだ奥の手があるさ」

 

 そう口にすると、シャイナはクライオスとの距離を一定に保ったまま構えをとった。

 シャイナの身体の奥底から、小宇宙が噴き上がるように溢れ出す。

 誘導されたようで余り面白くも無いが、シャイナとしても今しがたのクライオスの動きを見た後では仕方がないと腹を括る。

 そして

 

(集中するんだよ……シャイナ)

 

 自分に言い聞かせるようにシャイナは心のなかで呟いた。

 

(確かにクライオスは速かった、それも冗談みたいな速さだ。

 あれが全力だとするなら、今の私では到底勝てそうには無い。けど一撃……そう、一撃与えるくらいなら出来るはずだ)

 

 『自身に出来る最高の一撃を』

 

 シャイナはそれを、目の前に居るクライオスに一撃を叩き込む事だけを頭に入れて集中する。

 

「ヤル気になったか……だったら、俺もそれなりに『役作り』をしないとな」

 

 クライオスの言葉にシリウス達観戦組は首を傾げたが、目の前に居るはずのシャイナには聞こえていない。

 ただクライオスを睨み続けている。

 

 そして

 

「受けな! サンダークロウッ!!」

 

 シャイナの小宇宙が燃焼し、背後に一匹の蛇が見えた瞬間その拳が振るわれた。

 音速を超えた拳、稲妻の如き衝撃を与えるシャイナの必殺の一撃。

 それを受けた相手は、全身に電流が走ったような衝撃さえ感じる技だ。

 

 全ては一瞬の事。

 離れた間合いを詰め、最高に最速の一撃を見舞おうとしたその瞬間……クライオスの小宇宙が爆発する。

 その時、シャイナはクライオスが小さく笑ったように感じた。

 

 耳を劈くような衝撃音が響く。

 

 そして、その現場の光景に皆が眼を丸くした。

 

「ク……うぅぐ…!」

 

 ギリギリと力を込めるシャイナだが、その一撃はクライオスの右手に防がれている。

 腕を伸ばし切ることも出来ずに押さえ込まれているのだ。

 

「どうしたシャイナ……お前の拳とはこの程度のものか? こんなモノで、俺をどうにか出来ると思ったのなら……随分と軽く見られたものだ」

「あ……あぁッ! なんなんだコレは、何か空気の塊のような物が……」

 

 そう、クライオスは『受け止めて』などいない、ただシャイナの拳に対して手を飾しているだけだ。

 それだけだと言うのに、見えない何かに押されるようにシャイナの拳は防がれていたのだ。

 

「そうら、そのままではいずれお前の手の皮が裂け、骨が砕けるぞ。其の次は肉が爆ぜて腕が消し飛ぶ」

「うぅ……あ、ぐぁ――――」

 

 苦悶の声を挙げるシャイナとは対照的に、クライオスは薄く笑みを浮かべ続けている。

 そしてクライオスの言葉を肯定するかのように、シャイナの手の甲に小さな傷が走りだし血が流れだした。

 グッと力を込めるようにクライオスが腕を押すと、圧力が増したかのようにそのまま押し込まれ、押さえ込まれるようにしてシャイナは膝を付く。

 それを見つめるクライオスは喜色満面で――――

 

「フフ、フフフ……ハハハハハ――――ハ……って『ゴッ!!』」

 

 声を出して笑った所で、空いている左手を使って自分の顔を殴りつけた。

 それなりに強い力で殴ったのか、結構な良い音を響かせ口の端からは血が垂れている。

 

 因みに周りの者達はクライオスのその行動に、シャイナを含めて『( ゚д゚)ポカーン』といった、呆気に取られたような表情を向けていた。

 

 クライオスは『ブルブルッ』と頭を左右に振ってから手の甲で口元を拭うと「しっかりしろ、俺」と口に出して言い、

 次いでシャイナの両手を包み込むように握った。

 

「悪い、少しだけ悪ノリが過ぎた、どう考えてもやり過ぎだよな……。シャイナ、手の方は大丈夫か?」

「あ、あぁ……少し血が出た程度だし」

 

 突然の変わり様……と言うか、元に戻ったと言うか……。

 そんなクライオスの変化に面くらい、また顔を覗き込むようにして手を握られたことで(仮面で見えないが)少しばかりシャイナは顔を紅くしてしまう。

 

「何と言うか……本当にスマン」

「だ、だから大した事無いって」

「いやもう……聖域に来てからこんな風に身体を動かすのって初めてだったからさ……つい調子に乗ってしまった」

「え、えーと、初めてって……普段はどんな感じなのさ?」

 

 苦笑を浮かべながら言うクライオスに、シャイナは続きを促すように聞いた。

 因みに、その両手はクライオスに包まれたままだ。

 

「普段? …………普段ね。簡単に言えば『空を飛ばない日が無い』って感じかな。……はぁ」

 

 普段の修業内容が基本『黄金聖闘士にぶっ飛ばされる』なクライオスは、その日常を思い出して気落ちしてしまった。

 ズーン……と落ち込むようにして言うクライオスに、シャイナはマズイ事でも聞いたのか? とは思わず、『空を飛ぶ』と言うところで首を傾げていた。

 もっとも、直ぐに先程のシリウスの姿が脳裏に浮かび、「あぁ、成程」と口にするのだった。

 

「――――オイオイ、もう終わりかよ? 何で良い所で止めちまうんだ?」

 

 クライオスとシャイナが向い合って(見つめ合ってとも言う)話しをしていると、今まで横で見学をしていた3人がゾロゾロとやって来た。

 先頭を歩いてくるカペラが、不機嫌だと言わんばかりの顔で近づいてくる。

 

「何で? って……もう十分だろ? 別に倒すことが目的じゃないんだからな」

「でもよー……」

 

 そう言葉を濁してチラチラとシャイナを見ながら言うカペラに、クライオスはニヤっと笑った。

 

「何だ? シャイナの手を俺が掴んでるのが羨ましいのか?」

「はぁ?」

「なッ――――そうだ、いい加減離せ!」

 

 『ブンッ!!』と振るった拳がクライオスの顎を跳ね上げる。その間にシャイナはクライオスから離れてしまった。

 その際にアルゲティが「あ、当たった」と言っていたが……まぁどうでも良いだろう。

 

 殴られた顎を「いたい……」と摩っているクライオスに、カペラが

 

「あのなぁ……一 言っておくけどな。俺は別にシャイナの手を握ってどうこうとか、羨ましいとかは全く無いからな」

「じゃあ、さっきの視線の意味は何なんだよ?」

「そりゃあ、アレで止められたら俺が頭を使った意味が――――」

「――――頭を使って……何だって?」

「いや! 何でもない!!」

 

 一度言いかけた言葉を引っ込めて否定するカペラに、クライオスは眉を潜めて眼を細める。

 外見は10歳の子供なクライオスだが、中身はずっと年をとっている。

 見た目通りの精神構造なら特に気にもしないようなカペラの態度なのだろうが、クライオスはその言い淀んだ態度が気になってしまった。

 そして

 

「シリウス~……それにアルゲティ~……こっちに来い」

 

 と、普段ならしないような命令口調で二人を呼 寄せた。

 それに対して二人は「うぅ……」「はい……」と素直に従う。因みにその に、

 

「何しやがるシャイナ!!」

「こうして置かないと、アンタ逃げるじゃないか」

 

 カペラはシャイナに腕を捻り挙げられて組み敷かれていた。

 その阿吽の呼吸……とはまた違うのだろうが、兎も角その行動力にクライオスは笑みを向けた。

 

「おぉ、良い行動力だなシャイナ。……さて二人とも、正直に答えるんだ。良いね?」

「了解」

「お、おう」

 

 笑顔で言うクライオスに気圧されて、シリウスとアルゲティが同時に頷いた。

 

「聞く内容は至って単純な事だ……カペラはなんて言ってた?」

「それは……だな、その」

 

 シリウスは言い淀みながら、チラリとカペラの方へと視線を向ける。

 するとカペラは必死な形相をしながら『言うな~言うなよ~……』とでも言いたそうな雰囲気だ。

 それを見た後に、シリウスはクライオスへと視線を戻す。

 

 ……ニコ コ――――

 

 そう形容するしか無いほどに笑っているクライオスが、今のシリウスには怖かった。

 なので

 

「……まぁ要約すると、『クライオスを利用してシャイナをしめよう』と言っていた」

 

 アッサリとその内容を暴露したのだった。

 

「ちょ――――オマッ!? 俺はそんな直接的な表現はしてねーー!!」

「シャイナ」

「はいよ」

「いででででで!!」

 

 騒ぎ出したカペラを、クライオスの言葉で動いたシャイナが締め上げる。

 

「それで? 二人もそれに乗ったんだ?」

 

 と、一転して笑みを消して尋ねるクライオスに、二人は頬を引き攣らせた。

 

「違う!! 俺とシリウスはそんな話しに乗っなんかいない」

「そうだ、俺達は『クライオスは女性贔屓だからそんな事には成ら無い』って言ったんだよ。……な?」

「そうそう」

「……」

「…………」

「そっか……いや、解ってるなお前たちは。そうだよな……俺がそんな事するはずないよな?」

「「勿論だ!!」」

 

 ニコッと微笑んだクライオスは「さて……」と言いながら踵を返すと、その視線をシャイナに押さえつけられているカペラへと向けた。

 一歩一歩近づいてくるクライオスに、カペラは既に涙目に成ってしまっている。

 

「……ちょっと待てよ、何だこのオチは? なんでこんな事になるんだ? 俺は何もしてな――――」

「ホイっと」

 

 『トン』とクライオスがカペラの額を軽く小突くように指で叩くと、

 「ガッ……」と声を挙げたカペラは脱力したようになり地面に突っ伏してしまった。

 

「シャイナ、もう離しても良いぞ」

「あ、あぁ……」

 

 グッタリとしてピクリとも動かないカペラ。

 その様子に、シャイナも些か不安に思ったようだ。

 

「殺したのかい?」

「ぶ――――誰が殺すか!!」

「殺してないのか!?」

 

 とんでも発言をするシャイナに、クライオスは一瞬吹き出して否定した。

 そして思う(聖域関係者の思考回路こんなのばかりか?)と。

 

「お前ね……いや、シャイナに限らずそうだけどそっちの二人も。良く見ろ、良い寝顔をしてるだろうが?」

「良い寝顔?」

「……これがか?」

「これは苦悶の表情と言うんじゃないのか?」

 

 うつ伏せに倒れていたカペラを『ゴロン』と仰向けにすると、そこには白目を剥いて口を半開きにしている顔があった。

 どう見ても『良い寝顔』には程遠い顔をしているように見える。

 

「……いやまぁ。若干の語弊があるように思えるだろうが、今のカペラは『楽しい幻』を見ている最中だ。

 それを考えれば、死ぬことと比べた場合『良い寝顔』と表現しても良い筈だぞ?」

 

 かなり無茶苦茶なことを言うクライオスだが、皆は「そういうものか……」と何故か納得をしてしまう。

 

「まぁ、ちょっとしたお仕置きとしてはこれくらいが妥当な所だろ?」

「そうか……いや、俺はてっきりカペラは殺されたものだとばかり――――」

「それはもう良いから」

 

 胸を撫で下ろして言うアルゲティに、クライオスは手をパタパタと振って言うのだった。

 この時クライオスは

 

(その内、こいつ等の意識改革をしてやらんと危なっかしいな……幾ら何でも直ぐに殺すは無いだろうに……)

 

 と、苦笑いを浮かべながら頭の中で思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後。

 クライオス達は「今日はもう気が削がれたからな……取り敢えず解散にするか」といってバラける事になった。

 一応、怪我をしたシャイナの治療をクライオスが申し出たのだが――――

 

「コレくらい放っておいても平気……と言うかさ、その……あんまり触られると落ち着かないんだけど」

 

 既に血は止まっているが少しばかり痛々しい傷跡が残っているシャイナの手を、

 クライオスはもう一度触れて確認しながら申し出たのだが……それをシャイナは断った。

 まぁクライオスからすれば『自分の所為で怪我をさせた』ため、どうにかしてやりたいと思っただけなのだが。

 

「解った……今日は悪かったなシャイナ。その内、何かお詫びをするからさ」

 

 クライオスはそう言うと、十二宮の方角へ向かって走り出していった。

 その場所に残されたシャイナはというと、自分の手に付いた傷を一撫でしてから

 

「――――……取り敢えず、愛するとかそう言うのは保留だね」

 

 そう呟いてから、自分の住んでいる家へと帰っていくのだった。

 その時、仮面の下の顔が綻んでいたのだが、その事は本人にも解らないことだった。

 

 因みに、一応カペラの事はシリウスやアルゲティが運んで行くことになった。

 

 

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