聖闘士星矢 9年前から頑張って   作:ニラ

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20話

 

 

 ある日突然、気が付くと自分ではない自分を感じることって無いだろうか?

 ……無いよな? そりゃそんな事はそうそう無い。

 でも、まぁ……俺はそんな『そうそうには無い』ことを経験した人間である。

 

 もっとも、元を正せばそれが原因で自分の人生は狂っているのではないか? とそう思えてならない。

 

 俺の名前はクライオス。生粋のギリシア人で、現在は聖域に認められた白銀聖闘士。

 未だ10歳という年齢だが、聖闘士としては別に若すぎるという程でもなく、聖域の中では取り立てて珍しくもない人間の一人である。……まぁ、聖闘士である時点で既に変わっていると言われてしまうと、反論のしようが失くなってしまうのだが。

 まぁ、それはいい。問題なのは俺の職業なんかではなく、前述した自分ではない自分ということだ。

 俺自身が5歳の時、頭部に強い衝撃を受けたショックで思い出された前世? の記憶。今になって思えば、俺の不幸はそれを思い出してからだと思えてならないのだ。

 

 

 

 

 第20話 ムウは常識人?

 

 

 

 中国は五老峰を逃げ出すようにして後にした俺ことクライオスは、現在2つ目のポイントであるチベットの奥地……ジャミールへと向かっている。

 今回の俺の任務は、どうやら聖域にとって『仲良くしておきたい相手』の元への配達が主らしい。

 まぁとは言え、サガの反乱の事を知っている童虎達を何とかしよう――ってのは、正直無茶が過ぎることではなかろうか?

 いやまぁ、サガは自分の所業が誰にもバレてないと思っているからこその行動なのかも知れないがね。

 

 あぁそうそう。

 一応は教皇《サガ》からの手紙は、ちゃんと小屋のテーブルの上に置いてきてある。

 もうこの際、童虎が手紙を受け取るかどうかは別問題でいいだろう。俺としてはかなり頑張ったよ。……一週間のあいだ、畑仕事をしただけだけどさ。

 

 ――で。

 

 周囲を濃密な霧に覆われ、一寸先もまともに見えないような状況に俺はなっている。

 どうやら俺は噂に聞く、聖衣の墓場へと入り込んだらしい。

 一般的に……と言っても聖闘士の間での話だが、俺がコレから向かう先に居るであろう人物は世にも珍しい職種の人間として通っている。

 ……まぁ、聖闘士も一般的には十分に珍しい職種ではあるのだが、その人物の職業は更に珍しいのだ。

 それは聖闘士が闘いのさいに着用する聖衣。その聖衣の修復をすることが出来る、聖衣修復業者である。

 聖闘士の中にもそんな能力を持つ者達が居るらしいのだが、残念なことに俺は未だそんな人物達に出会ったことはない。

 彫刻室座とか彫刻具座……ふむ。

 少し想像してみたが、俺は風鳥座で良かったのかも知れない。

 背中から彫刻刀が飛び出してるような聖衣は勘弁だ。

 

「引き返せ……」

 

 ふと、耳の奥に残るような、こびり着くような声が響いてきた。

 声のした方角は自身の前方向。

 俺はホンの少しだけ眉間に皺を寄せると、その方向を睨むようにして見つめた。

 

「噂の、聖闘士の成れの果てか」

 

 ボソッとそう呟いたのを合図にしたように、辺りには人魂が浮かび始めた。

 ジャミールを目指して半ばで生命を散らした、過去の聖闘士達の亡霊だ。

 

「感じる……感じるぞ。貴様は聖闘士だな?」

「この場所に聖闘士が来る理由はひとつだけ……」

 

 唸るような、怯えるような……どう表現をすれば良いのだろうか?

 辺り一帯から響いてくるその声は次第にハッキリと聞こえるように成り、宙を漂っていた人魂はその姿を亡霊へと変えた。

 

「此処から先はムウ様のおわす場所。力無き者は通ることまかりならん」

 

 今にも崩れ落ちそうなボロボロの聖衣を纏った、幾数もの骸骨達。

 ムウの放つ幻術なのか、それとも神の御業か超自然現象か。

 シャカの元で修行をつんだ俺にも、この目の前で起きていることを『不思議なこと』としか認識できない。

 ……まだまだ修行が足りないか。

 

 とは言えだ。

 俺はこの場所の通過方法を知っているのでたいして問題はない。

 もし問題が有るとするのなら――

 

「聖衣の墓場について、誰一人俺に教えてはくれなかった――という事実くらいか?」

 

 『ははっ』と思わず苦笑いが漏れる。

 そうなのだ。俺が今回受けた任務について、何かしらの助言をくれた人物は皆無。

 聖衣の墓場なんて、下手したら生命を落としかねない場所であるにも係わらずだ。

 

「もしかして俺……思いの外に嫌われてる?」

 

 首を傾げて自問自答してみるが、当然その事に答えてくれる相手は居ない。

 眼の前の亡霊たちなどは逆に、

 

「ゲッゲッゲッゲ」

「ふはははは」

 

 と、どうやって出しているのかも解らない笑い声を上げている。

 俺は亡霊たちを前に腕組をしてみせ、「ふむ……」と考えるようにしてみせた。

 

「……」

「帰れ、帰れ~」

 

 亡霊たちは俺の前を漂うようにふらついているだけで、特に何かをして来ようとはしない。試しに一歩だけ足を踏み込むと、亡霊たちは一斉に動き出して一列に並んで縦列陣形で俺の前に整列をした。だがそこから俺が動かずに居ると、連中は何をするでもなく動こうとはしない。

 さて……ここで突然だが、俺が現在いる場所である『聖衣の墓場』についての説明をしようと思う。

 チベットの奥地、ジャミール。

 古くから聖衣修復者の育成を行なっている場所であるらしいのだが、そこへ向かうために必ず通らなければならない場所が、この『聖衣の墓場』なのである。

 この場所、目的の場所に到達するには1つだけ守らなくてはならない決まりごとがある。それは、必ず前進以外の事をしてはいけない――ということである。

 例えば横っ飛び、後退などをしようものならば、こうしてこの場に漂う亡霊たちの仲間入りをしてしまうというのである。

 何を馬鹿な! と、そう思う者も居るだろう。

 だが、そう思った者達こそがこうしてフワフワしている亡霊であるのは、紛れも無い事実。

 だが、俺は聖衣の墓場の正体を知っている。

 この場所は、現在は濃密な霧と何らかの超常力(恐らくはムウの小宇宙)によって判断がつかなくなっているものの、実は底を見るのも恐ろしい崖に架かっている細い足場なのだ。

 その為、横っ飛びしようものならば崖下に、後ろに飛び下がろうものならば、足を踏み外して落下する。

 コレこそが、聖衣の墓場の正体なのである。

 

 つまり俺が何を言いたいのか? というと

 

「コレって、元の場所に足を戻す分には問題ないんじゃないか?」

 

 と、言うことだ。

 どうなのだろうか? 出来るのだろうか?

 俺はドキドキとしながら、摺るようにして踏み出した足を元の場所へと戻していった。

 すると

 

「あ」

 

 眼の前で縦列陣形をとっていた亡霊たちが、ワラワラと再び散り始める。

 なので再び一歩前に足を出すと、先程と同用に縦列陣形。

 

 戻す→バラバラ

 前進→縦列陣形

 戻す……

 

「なんか思ったよりも面白いな、コレ」

 

 ネコにネコじゃらしをチラつかせているような感覚――と言えばいいだろうか?

 何と言うか、目の前で良いように動かされている亡霊たちに、少しばかりの嗜虐心を感じてしまう。

 だが俺がそうして遊んでいると

 

『いい加減になさい』

 

 ふと、俺の脳内にそんな言葉が響いてきた。

 最初は気のせいか? とも思ったのだが、まるでそう思ったことさえ解っているかのように

 

『気の所為ではありません。私は貴方の頭に直接語りかけているのです』

 

 と、そんな言葉を続けてきた。

 俺はその言葉に

 

(あぁ……呼んでも居ないのに出てきたよ)

 

 そう、内心で溜息を吐いた。

 

「何処の誰かは知らないが、いい加減にしろとは……早くこの場所を抜けろということか?」

 

 俺は声を上げ、霧の向こうに向って確認するように言った。

 

『あなたにその力が有るのなら』

 

 声の主はそう言うと、まるでラジオの電源を切るようにプツッと一方的に言葉をきった。

 俺は大きく溜息を吐くと、自身の目の前に整列を果たした亡霊たちに視線を向ける。

 

「何と言うか……進まなくては駄目らしい」

 

 誰に言うでもなく口にした言葉。そのため亡霊たちが

 

「未熟者如きがムウ様の場所に――」

「我等が蹴散らして――」

「早々に逝――」

 

 何やら喋っていたが、それらは全部無視をした。

 足を更に一歩進ませたことで、亡霊たちは動きを激化させる。

 聖衣の墓場に完全に踏み込んだ俺のことを、排除すべき敵だと判断したらしい。

 

「消えるがいいっ!」

 

 そう言って、駆けこむように迫ってきた亡霊の一体が振りおろしてきた拳は、俺には酷くユックリに感じられた。

 

 ズバァンッ!

 

 周囲に響く打撃音と、空気を叩くような衝撃波。

 マトモな人間ならば、今の一撃で行動不能に陥るであろう……それほどの攻撃だ。

 骨の身体しかない彼の、一体何処にそれだけの力があるのだろうか? 甚だ謎である。

 え? 余裕があるって?

 それは仕方がない、何せ先ほどの攻撃は、俺の手の平で止められているのだから。

 

「お前が生前、どんな聖闘士だったのか? それは知らないが……その程度の攻撃でどうにかなるほど、俺は甘やかされては居ないよ?」

 

 グシャッ!

 

 軽く首を傾げて言った瞬間、俺は残った腕を軽く振るって目の前の亡霊を細切れにする。だが直ぐ様別の亡霊が迫ってくるため、俺はそのまま続けざまに腕を振るい続けた。

 

 ザンッ! グバンッ! ゴンッ! ベギャンッ!

 

 斬り、潰し、叩き、砕き、破壊する。相手が迫るたびにそれらを駆逐していく。

 相手は弱い、大した強さではない。俺が負ける理由はないのだが

 

「数が減らないな」

 

 そう、一向に数が減っているようには見えない。

 それ程に多くの亡霊が存在しただろうか? とも思うが、流石に10や20ではなく100や200もぶっ飛ばして尚も存在し続けるというのは無理があるように感じる。

 俺は視線を僅かに逸らして吹き飛ばした亡霊へと視線を向けると、あろうことか潰れた亡霊は再びその形を元に戻して列の最後尾に並びだしたではないか。

 

「コレは……一気に駆け抜けるか、一瞬で全てを破壊しないといけない……とかいうことなのか?」

 

 バシンっ!

 

 言いながら目の前の亡霊の攻撃を受け止めた俺は、ならばと小宇宙を高め始める。

 そして高めた小宇宙を右の腕に収束させると

 

「一瞬で全てを消し飛ばす! 吹き飛べ! ディバイン・ストライク!!」

 

 瞬間、幾百、幾千、幾万にも達しようかという光線が周囲を満たし、その一つ一つが破壊エネルギーとなって亡霊たちに襲いかかった。

 

「ぐがぁあああああっ!」

 

 眼前に居た亡霊は勿論、その後ろに並んでいた亡霊達も尽く消し飛ばしていく。

 連中は断末魔のような声を上げながらその存在を消滅させ、そして塵のように消し飛んでいく。

 そのうえ

 

 ガラッ!

 

「うぇっ!?」

 

 元から頼りなく繋がっていた細い足場まで、俺の攻撃は吹き飛ばしていった!

 

「な、なんとぉ!」

 

 突然身体に感じた浮遊感に驚き、俺は思いっきり前方へと向って跳躍をはたした。

 

 ズダン!

 

 数m? いや、数十m程は跳んだだろうか? 対岸と思われる場所に着地をした俺は、思わず自分が今まで居たであろう場所へと視線を向けた。

 すると其処には、やはりというか何と言うか……見るのも嫌になるような断崖。

 崖下には剣山のごとく突き出た岩山が並び、そこには昆虫採集の虫のように突き刺さった骸を晒す、聖闘士の成れの果てが数多く存在していた。

 

 もっとも、俺が驚いたのは其処ではない。

 俺が一番に驚いたのは、

 

「あの一本道……俺のせいで細くなったとか無いよな?」

 

 パラパラと破片らしきモノを崖下に散らしながら、聖衣の墓場唯一の通行路は今にも崩れそうに風に晒されている。

 俺はその光景を眼にしながら、将来この場所に来ることに成るだろう人物(紫龍)に

 

「正直、スマン」

 

 と口にするのであった。

 

 さて、十分な謝罪を口にした所で、俺は俺の任務に戻るとしよう。

 そもそも、こんな人里から離れすぎた辺鄙な場所に来たのも、元はといえばそれが理由なのだから。

 

「さてさて、と」

 

 俺はそんな風に口に出しながら、周囲に視線を回してみる。

 先程、俺の脳内に直接テレパスを送ってきた人物が何処かに居るはずなのだが――

 

「――貴方が探しているのは、もしかして私のことですか?」

「っ!!」

 

 不意に背後から声が掛かった。

 そんな馬鹿な! との気持ちを押さえ込み、俺はバッと後方へと振り返ってみせる。

 背後は断崖絶壁、人が立っているわけがないのだ。

 

「……居ない」

 

 あたり前のことだが、俺は自分でそう口にした。

 俺が立っている場所からほんのすこし後ろに下がっただけで、そこに足場など無くなってしまうのだ。いくらこの場所に住んでいる人物が非常識な輩でも、ある程度は常識の通じる――

 

「こっちですよ」

 

 今度は更に背後――つまりは最初に向いていた方から声がする。

 俺は心臓が跳ね上がりそうになったが、それを表情に出すまいと努めて視線を向けた。

 

「良く聖衣の墓場を抜けてきましたね? お疲れ様」

 

 その場に立っていたのは一人の少年。

 シャカやアイオリアと同じ程度の年齢であろう、一人の少年だ。

 紫色の髪、温和そうな表情、だが――やはり普通の人間ではないらしい。

 

「……初めまして。ジャミールのムウ」

「おやおや、私のことを知っているのですか?」

「直接顔を合わせるのは初めてだけど」

 

 登場キャラクターを全部網羅してますか? と聞かれれば、声を大にしてそれはないと答えるだろう。だが少なくとも、黄金聖闘士くらいは普通に解る。

 それにこんな紫色の髪の毛に、麻呂のような眉毛をした特徴的な人物……この世界がいくら変人の巣窟であったとしても、そうそう同じような見た目の人は居ないだろう。

 

 ムウは俺の返答に、ニコッと笑みを浮かべている。

 

「こんな場所で話も何ですから……どうぞ」

 

 ムウはそう言うと踵を返して歩き出した。

 スタスタと進んでいくムウに遅れまいと、俺はその後へ続くように着いて行く。

 すると程なくして、階段と入り口が存在しないというムウの館が見えてくる。

 コレを一体誰が作ったのか非常に気になるが、もしかしたらムウが個人で作った物なのかも知れない。

 確か黄金聖闘士の中でも、随一の超能力の持ち主らしいからな。

 そこら辺の岩を加工したりなんてのは、お手の物だろう。

 

「それで、こんな場所にまで来た理由は何です? 流石に観光と言うわけではないのでしょうが……聖衣の修復でしょうか?」

 

 丁度、館の目の前付近に着いたところで、ムウは俺にそう尋ねてきた。

 まぁ、聖衣修復者であるムウの元に来る人物なんて、普通は壊れた聖衣の修復を頼む聖闘士くらいしか居ないだろう。

 

「いや……俺の聖衣は今のところ問題なくて――俺は聖域から、親書を届けるようにとのことで派遣された。風鳥座・エイパスのクライオスだ」

「ほう、風鳥座ですか? これはまた、随分と珍しい聖衣をお持ちのようですね?」

「あ、やっぱり珍しいんだ」

 

 ムウの言葉に少しだけ優越感を感じる。

 まぁ実際、シャカに教わった内容だと大昔の聖戦の時に頑張った聖衣らしいが、その後はアテナに封印されていたような聖衣らしいし……

 

 なんだか思い返すたびに、自分の聖衣は碌なものではないんじゃないか? と思えてしまう。

 

「親書に関しては確かに受け取りましょう。ただし、それに沿う事が出来るかどうか別問題になりますが」

「いや、それでいいと思いますよ? 俺の仕事は言うことを聴かせるじゃなくて、親書を届けるだから、受け取った本人がどうするかは個人の自由だと思うし」

「……クス」

「何故に笑うのですか?」

 

 今の会話の何処に笑いのツボがあったのか? 黄金聖闘士の感覚は相も変わらず理解不能だ。

 ……アレか? 普段から人と接していないから、箸が転がっても面白い――みたいな状態なのだろうか?

 

「いえ、なに。……ただ随分と面白い人物だな、と」

 

 笑われていたのは俺だった。

 アレだぞ、面と向かって面白いと言われて喜ぶのは、ギャグをかました時か、芸人さんくらいだぞ。

 シャカにそんな事言おうものならば、確実に宙を舞うことに成る。

 

「そういえばクライオス。先程の亡霊達にはなった技ですが、一体誰に師事をして身に付けたのです?」

「技って……ディバイン・ストライク?」

「えぇ」

 

 あぁ、なるほど。

 確かに不可思議に写ったのかも知れないな。

 聖闘士の技は、大抵その星座に関連するようなモノか、もしくは師匠から技を伝授されるかの場合が多い。

 星矢の流星拳だって魔鈴も使えるし、紫龍の廬山昇龍覇、氷河のダイヤモンドダストなんかもそうだ。逆に一輝の鳳翼天翔や瞬のネビュラストームなんかは星座に関連されるような技だといえる。

 そう考えると、俺のディバイン・ストライクは何方にも分類しにくいモノなのかも知れない。

 

 俺は腕組をして、ムーと唸ってみせた。

 

「誰……と聞かれると、直接の師がシャカで、あとアイオリア、カミュ、ミロ、デスマスク、シュラ、アフロディーテ、アルデバラン……か?」

「……それはもしかして、ギャグか何かのつもりで言っているのですか?」

「正真正銘本気で言ってる」

 

 これがギャグならどれだけ良かったことか。

 俺は当時の自分を、『良く生きてるな?』といって、褒めてやりたいくらいなのだ。

 平均睡眠時間が僅か2~3時間とか、どう考えても10歳の子供にする仕打ちとは思えない。

 

「あのシャカの弟子と言うだけでも驚きなのですが……。貴方はその他の黄金聖闘士達にまで師事していたと?」

「そうなるのかな? ……うん、結果的にはそうなる」

 

 俺としては最初は一部の黄金聖闘士にお願いに行っただけなのだが、結果としては聖域在住の黄金聖闘士全員(サガを除く)に目を付けられた。

 ……何と言うか、どう考えてもこうなったのはオレのせいじゃないと思う。

 だがしかし、既に聖闘士となった俺は、もうあのような地獄を経験する必要は何処にもな――

 

「クライオス」

「はぅい?」

 

 今現在の自分の状況とかつての自分の状況とを照らし合わせ、心の底から幸せを噛み締めていた俺だったが、ムウに名前を呼ばれたことで現実へと引き戻される。

 思わず視線を向けたムウの表情……なんだか嫌な予感がする。

 俺はこの手の表情を知っているような気がする。

 

「今から私が、貴方に小宇宙の真髄とは何であるかを、直接教えてあげましょう」

「……はぁ?」

 

 なんで?

 訳がわからない。この人は一体何を言っているのか? 俺はただ単に、聖域から親書を持ってきただけだというのに。もしかして頭が湧いてるのか?

 

「小宇宙の真髄とは第六感を超えた先にある、第七感……セブンセンシズ――」

 

 ムウの行動の意味が解らずフリーズしている最中だというのに、ムウはそんなことはお構いなしだとばかりに、勝手に話を始めていく。

 この行動……少しだけシャカに似たところが有る。というか、シャカとムウが仲がいい理由って、単に似た者同士か?

 そもそも亡霊達に『ムウ様』――とか呼ばせている時点で、この男が普通の人の訳がなかった。

 

「聞いていますか、クライオス?」

「はいっ! 聞いてます!」

 

 ムウの言葉に力一杯に返事を返す俺だが、内心では

 

(俺って……もう聖闘士だよな?)

 

 と、自問自答を繰り返していた。

 

 

 

 

 


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