聖闘士星矢 9年前から頑張って   作:ニラ

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33話

 

 

 

 

 ワルハラ宮の回廊内を、目まぐるしく駆けまわる俺とロキの二人。

 互いに並みの人間には見ることの出来ない高速戦闘を繰り広げている訳だが、その内容は互角――とは言い難い状況になっていた。

 

「何度同じことを言わせるつもりだ? 貴様の拳など、俺は既に見切っていると言っているのだぞ?」

 

 調子に乗ったようなロキの言葉に、解っていたこととはいえ歯軋りをしてしまう。

 だがそれでもバカの一つ覚えのように

 

「ダイヤモンド・ダスト!!」

 

 と、凍結拳を打ち続けるのだから、俺も相当だろう。

 まぁ、意地に成ってしまっている部分もある。

 放つ凍気を避けられ、同時放っている拳も相手には届かない。

 

 要は、ちょっとした劣勢を強いられている訳だ。

 そんなか、何度目かの『ダイヤモンド・ダスト』を外された隙をついて、ロキが動きを見せる。

 

「同じことを何度も、しつこい小僧めが!! 受けてみよ! 襲撃群狼拳!」

 

 技の打ち終わりを狙ったロキの動きに、俺は数打ちのような拳を数発打ち込む。しかし、それで相手を止めるには威力が弱すぎたらしい。

 

「ぐ、ぬぅ!」

 

 ロキの胴体部分を拳が叩くが、そんな事はお構い無しにロキの腕は俺の首元へと伸ばされてくる。俺はソレを大きく跳躍することで回避するが、ロキは今のやりとりで口元に笑みを浮かべていた。

 

「既に見切った拳だ。打点を逸らしさえすれば、例え正面から受けたとしても然程の傷にもならんわ」

 

 口元を伝う血を拭い、ロキは自慢気に言ってきた。

 ……なんだって、此処(アスガルド)の闘士連中は、こんなにも自信が過剰にテンコ盛りなのだろうか?

 有り得ないことではあるが、一度文化交流とか題して、聖域の黄金聖闘士に揉まれた方が良いんじゃないか?

 

 思わず呆れたような雰囲気に成り、一瞬気を抜いてしまう。

 ロキはそんな俺の気の抜け具合を感じ取ったのか、勢い込んで襲いかかってきた。

 

「襲撃群狼拳!」

 

 颯爽と襲いかかる狼の如く――というと、まるで狼牙風◯拳のようだが、ロキから放たれる拳打が俺の身体を蹂躙していく。

 高速で放たれるその一打一打によって俺の身体は宙を浮き、遥か高く地面から浮き上がっていった。

 

「そしてェ!! ――オーディン・テンペスト!」

 

 最初の連打だけで終わらせるつもりなど無かったのだろう、中へと浮いている俺に追撃を掛けるロキ。同じように跳び上がってくると、空中で死に体を晒していた、俺の胴体へと勢い良くハンマースローを叩きつけてくる。

 

「ぐぁあ!」

 

 思いの外に重いダメージに驚き、口から情けない声を漏らしてしまう。

 重力にプラスして勢い良く床へと叩きつけられた俺の身体は、大きなクレーターを石畳に刻んで深々と沈んでいった。

 

「聖域の聖闘士といえど、この程度か」

 

 ロキは吐き捨てるように言うと、まるで虫ケラでも見るような視線を向けてくる。……因みに言っておくが、俺は本気で戦っているが全力ではない。ロキの動きと、そして能力の多価、そして遠くで感じるジークフリートやハーゲンの小宇宙のゆらぎを確認しながらの戦闘行動。

 

 ……考えながら闘うというのは、思ったよりも簡単じゃないな。

 

 俺は瓦礫に埋まった身体を持ち上げると、ソレに合わせてガラガラといった音が響く。

 

「チッ、まだ生きていたか」

 

 ロキは解りやすいくらいに表情を顰め、舌打ちをしてきた。それは本当に、まるで俺のことなど虫か何かとでも思っているような、そんな侮蔑の篭った視線である。

 

 俺はユックリと深呼吸をすると、目を細めて冷たい視線をロキへと向ける。

 

「仲間である神闘士を見殺しにしておきながら、よくもまぁ。それだけ偉そうなことが言えるな? お前は」

「見殺し? ふん、実力的に劣る奴の生命を、この俺が有効的に使ってやったに過ぎん。奴自身も今頃はヴァルハラで、自分の死に様を誇らしく感じているだろうよ」

 

 生きている人間が、死んだ人間の事を勝手にあれこれと――。本当に、何とも嫌なタイプの人間である。

 

「……まったく、無駄に頭が回って力がある奴ってのは、本当に」

「思えば、雪山の時に貴様に付けられた傷……アノ傷の礼がまだだったな?」

 

 呆れたように言った俺の言葉を、ロキは負け惜しみの一つとでも受け取ったのだろうか? ニヤリと口元を吊り上げて踏み込んできた。

 

「そらそら! 攻めてきてみろ! 聖闘士の小僧!」

「調子に乗って!」

 

 迫る攻撃を避けつつ、俺自身も少しづつ、目の前の相手に対する怒りが湧いてくるのを感じていた。

 音速を超える拳を小さな動作で躱しつつ、視線の先に在るロキの顔が少しづつ愉悦に染まる様子に苛立っているのだ。

 

 ……別に、ウルが不憫だ――等と思っているわけではない。

 友好関係を築いていたらどう思っていたかは解らないが、少なくともアイツはロキと同様に敵だったのだ。

 だから、ウルが可愛そうだとか、哀れに思う気持ちは更々無い。

 

 ただ、何と言うのだろうか?

 ロキの、この『してやったり』といったふうな態度や表情。

 それが俺の心に、ゲシゲシと無遠慮に蹴りを入れてくるのだ。

 

「吠えるだけでは、痛くも痒くもないぞ! 喰らえ、襲撃群狼――」

 

 何度目かの拳を避けた所で、ロキは大きく腕を振りかぶると腰を落として構えを取る。また先程と同様に、襲撃群狼拳→オーディンテンペスト……と、技を繋げるつもりなのだろう。

 

 だが、それを態々放っておくほど、流石に俺も優しくはない。

 

「なぁ、お前はさ――」

 

 言いながら、前へと一歩を踏み出して、ロキの拳を躱していく。

 一つ、二つ、三つ――と、実際は数えるのが馬鹿らしいほどの高速拳なのだが、其処はそれ。一般人から半歩程、人外の領域に踏み込んだ俺である。

 

 既にロキの戦闘力の把握も、ある程度は終了しているのだ。

 

「――本気で、世界をどうにかなんて、出来ると思ってるのか?」

「なっ!? くっ!」

 

 ロキの拳を掻い潜りながら、肉薄するほどに接近を果たすと、ロキはその表情を硬化させて驚きの色を浮かべる。

 首を傾げながらの問いかけに、ロキは返答もせずに跳躍をして後退をした。

 

「まぐれだ……」

 

 距離をとったロキは、自身に言い聞かせるように小さく言葉を漏らす。その呟きは当然俺の耳にも届き、思わず溜め息を吐いてしまった。

 

「お前達はさ、確かに小宇宙に目覚めた神闘士なんだろうな。だが、聖域には同じように小宇宙に目覚めた聖闘士が全部で88居て、それぞれが階級分けされてる。下は青銅で、そこから白銀、黄金って具合にな。俺はその中でも中級の、白銀でしか無いんだぞ?」

「何を言っている?」

「……だから、俺ごときに梃子摺っているようで、その上の黄金聖闘士に勝てるつもりなのか? ――と、聞いてるんだけど?」

 

 指を立てて説明口調で続けるのだが、それをされるロキの精神状態は如何程のものだろうか? ピクピクと、瞼を痙攣させるように苛立つロキ。

 とは言え、先程俺が口にした言葉には何ら偽りはない、聖闘士の最高峰である黄金聖闘士に比べれば、今の俺など塵芥と何ら変わらない様な存在だろう。

 もっとも、88人の聖闘士が居ると言うのは大法螺だけどな。話によると、神話の時代から全ての聖闘士が揃ったことはないらしいから。

 

「俺の説明に納得がいかないなら、今度は質問を変えるぞ? さっきの動きが、限界一杯の速度なのか?」

「なに?」

「さっきの動きが限界いっぱいの速度だって言うんなら、時間が勿体無い。さっさと終わらせて、先を急がせてもらうぞ?」

 

 挑発も兼ねての言葉だが、急ぐ云々と言うのは俺の本心の部分も関係している。ウルの奴の言葉から、ヒルダはあと半日は大丈夫だろう――と予測を立てたのだが、しかしその事自体には何ら確証など無いのだ。もしかしたら、ヒルダの体力的な問題で、半日も立たずに死んでしまうかもしれない。

 もしかしたら、こうしている間にも気変わりを起こしたドルバルによって、息の根を止められてしまうかもしれないのだから。

 

「ぐ、くぅう! 舐めるな! 偶々俺の拳を避けた程度で調子づきおって! 言ったはずだぞ! 貴様の拳は既に見切ったのだと!」

「……そうかよ」

 

 小さく呟くように、俺はロキの言葉に合わせて言う。

 丁度、その言葉を境にして、俺は気持ちの切り替えを行ったのだ。

 

 呟いた次の瞬間に、俺は離れていた距離を一気に詰め寄っていく。

 ロキは俺の動きに驚き、反応を返そうとするが

 

「な、なに……!? ぐ、離せ!」

 

 身体が動き出した時には、既にその両手首を俺が確りと掴みとっていた。

 

「何処までの事を見越して、今回の行動に出たのかは知らないけどな……諦めたほうが良いんじゃないか? 詰まらない野心なんて捨てて、潔く元の鞘に収まった方がいい」

「黙れ! 今更、そんな情けない真似が出来るか!」

 

 腕を押さえつける俺に対して、無理矢理に振りほどこうとするロキだが、俺はその動きに合わせて立ち位置や姿勢を変化させてその動きを制限する。

 

 まぁ、体重が軽い分、ブンブンと振り回されたように成ってしまっているのだが、一向に離れない俺にロキは苛立を増していった。……ここまで来ると、まるで俺が嫌がらせをしているかのような感覚になってくるな。

 

「サッサと離せ、小僧!!」

「はいよ」

「――ッ!?」

 

 ロキが再び力を込めようとした瞬間に、俺は掴んでいた腕をパッと離す。すると、抵抗が一気になくなったことが原因なのだろうが、ロキは振るった腕に振り回されて姿勢が崩れてしまう。

 

 それに合わせて

 

 ドンッ!!

 

 床石を踏み砕くように一歩進み、その反動をそのまま突進力に変えて拳を叩き込んだ。

 

 ゴボンッ!!!

 

「ヌ、グゥ!?」

 

 その一撃で、足が宙に浮くロキ。

 そこから間髪を入れずに拳の連打を叩きつける。

 

「フンッ!!」

 

 数十に及ぶ拳をロキの身体に見舞ったのだが、しかし――

 

「――く、ふふふはははは! 軽い! この程度の攻撃で!」

 

 僅かに蹈鞴を踏み、口の端から血を流すも、その表情には余裕の色が見て取れる。流石に倒せるとは思わなかったが、思っていた以上に頑丈な造りなようだ。

 

 だが――

 

「思ったよりも頑丈なんだな、アンタ。 結構本気で打ったんだぞ?」

「見切ったと何度言えば――」

「で、見えたのか?」

「なに?」

「俺の攻撃が、ちゃんと見えてたのかよ?」

「フンッ! あの程度の攻撃、見えずとも虫が纏わり付いたのと変わらん!!」

 

 尚も此方を馬鹿にしてくるロキだが、虫が纏わり付くのと変わらない――って。それで口から血を流してるんだから、それじゃ神闘士って脆すぎるだろ。……もっとしっかりと、考えて喋れよ。

 

 そもそも

 

「見えないって時点で、もう詰んでるじゃないか」

 

 軽口を叩きつつ、俺は口の周りをペロリと舐める。

 そして開いた距離を埋めるべく、足に力を込めて急接近をした。

 

「舐めるなぁ!」

 

 ソレを迎え撃とうとするロキは、上から振り下ろしの拳を放つ。とは言え、俺にはそれは『見えて』いる。

 

 懐に入りながら拳を避けると、そのまま腹に一撃――

 

 ドンッ!

 

 更に腰の回転を使って左右の連打――

 

 ドンッ! ドンッ!!

 

 そのまま回転数を上げて連続の突きを打ち込んでいく。

 耐久力は兎も角として、ロキは此方の速度について来られない。

 良いように叩かせてくれる、まるでサンドバッグだ。

 

「だから、軽いと言って――」

「そこ」

 

 此方の攻撃対応するべくロキが動き出した瞬間、俺は軽く跳躍をして顎先に向かって回し蹴りを放つ。

 

「ガッ!?」

 

 衝撃で仰け反るロキ。

 だが、今度はそれだけで済ませることはせず、更に追撃を掛けるべく駆け出した。

 

「舐めるなぁ!!」

 

 ロキは俺が駈け出したのを見えずとも感じ取ったのか、地面を叩くようにアッパーを放って床を抉り飛ばした。

 

 礫と成って飛来する床石。

 俺はそれを避けながら移動をするも、若干のタイムラグが生じてしまう。

 

「チッ――」

 

 思わず漏れた舌打ち。しかし次の瞬間、視界内に捉えていたはずのロキを見失ってしまう。俺は視線をスライドさせながら、消えたロキを探すが――

 

「ここだぁ!!」

 

 丁度、視線を反らした反対側から衝撃が走る。

 ミシミシ――!! といった嫌な音を鳴らしながら、俺の身体は宙を舞い、凄い速度でワルハラ宮の壁へと激突した。

 

「馬鹿正直に突っ込んでくるしか能がないのか? そんな程度の戦術で、よくもまぁ偉そうな事を言ってくれたものだな?」

 

 ロキの動きは戦術――と呼べるほど大した事ではなかったと思うが、しかし成る程。俺よりもしたたかな考え方をしているのは確かなようである。

 

「――っ痛ぅ」

 

 瓦礫の中から起き上がった俺は、自身の脇腹から走った痛みに表情を崩す。意識してみれば、聖衣に罅が入っていた。恐らく、無防備に攻撃を受けたからなのだろう。

 

「流石に、ゲスゲスよりは強いか……」

 

 初めて戦った怪異との戦闘を思い出し、小さく零すように口にする。ダメージ的には大した事はないだろう。この程度の怪我は、聖域に居た頃は日常茶飯事だ。

 

「未だ立ち上がってくるのは褒めてやるが、次の一撃で終いだ。確実に息の根を止めてやる」

「……」

 

 息巻くロキを視界に捉えながら、俺は少しばかり冷静さを取り戻していった。アスガルドに来て……いや、正確には聖域に居る頃から、俺は自分と、黄金聖闘士以外の人間を侮っていたんじゃないか?

 今現在、アスガルドを牛耳ろうとしているドルバルを、並の聖闘士以上の存在だと捉えつつ、それでも黄金聖闘士より下だと楽観的に考え、ドルバル側に付いている神闘士達を星矢ら青銅に負けた連中――と、自分よりも遥かに格下だと馬鹿にして居たんじゃないのか?

 

「……いや、格下なのは事実か」

 

 ロキやウルの実力を思い出すと、俺は先ほどの自分の考えをアッサリと否定した。ドルバルはどうかは知らないが、少なくとも目の前の相手が黄金聖闘士に匹敵する事はない。

 

 が、だからと言って巫山戯ていられる状況でもない――か。

 

「済まなかった、ロキ」

「なんだ? まさか、今更に命乞いか?」

「それこそ『まさか』……だ。そんな事を、する訳が無い」

 

 首を左右に振り、相手を見据えるようにジッと視線を向ける。

 

「どうにも俺は、闘う――ってことに真摯に成り切れてないみたいだ。だからこんな風に、受けなくても良いダメージを受けてしまう」

「受けなくても良い……だと?」

「あぁ」

 

 いい加減に確りとしなくてはいけない。こんな、悪癖みたいなものは、さっさと治してしまうべきなのだ。

 ロキの言葉にハッキリと口にした後で、俺は――

 

「その証拠を、今直ぐに見せる」

 

 今の自分自身に出来ること、つまりは、小宇宙を最大にまで高めてみせた。

 

 身体から、オーラのように立ち昇る小宇宙。

 黄金聖闘士のソレと比べれば弱々しいのかもしれないが、かと言って早々に負けるようなチッポケな小宇宙ではない。

 

「な!? なん……だと。この小宇宙は!?」

「今からが正真正銘、本当の本気だ。覚悟は良いか?」

 

 拳から貫手へと変え、ユラリと腕を動かして構えを取る。

 意識を切り替え、油断をなくし、慢心を捨てる。自分の中で、何か……そう、目に映るモノの価値がこの瞬間に変化していくのを感じた。

 

「覚悟……覚悟だと? この俺に、よくもそんな――舐めるな……舐めるなよ!! 俺はロキだ! 神闘士のロキだ!! 貴様、小僧が……聖域の聖闘士如きに、侮られたままで居られるか!!」

「上等だ。なら、掛かって来い」

 

 ギリッと歯軋りを鳴らし、怒りを込めた瞳を向けて睨んでくるロキ。しかし今の俺には、その動きも一連の中の動作の一つとしてしか映らなくなっていた。

 

「はぁああああああっ!!」

 

 腰を落とし、全身に力を込め、自身の内側から小宇宙を捻り出そうとするロキ。力強い攻撃的な小宇宙が全身を覆い、それが徐々に此方側へと向けられてくる。

 

「襲撃群狼拳ッ!!」

「――ディバイン・ストライクッ!!」

 

 敢えて、遅出しに放った『ディバイン・ストライク』は、ロキの放つ襲撃群狼拳の衝撃を打ち消し、弾き、貫いて突き進んでいく。

 

「な、が、ぐああああああああああああ!」

 

 全身に拳撃を打ち込まれたロキ。

 衝撃により奇妙な踊りを踊るように全身を震わせながら吹き飛ぶと、ロキはワルハラ宮の壁へと吸い込まれるように吹き飛んでいく。

 

 ――ガゴォオオオン!!!

 

 ロキの身に纏う神闘衣を粉砕し、当のロキは壁に大穴が開くほどに強かに打ち付けられる。

 

「ガ、ハァッ!?」

 

 ガラガラと音を立てる瓦礫と共に、ロキは崩れるように倒れこみ、そのまま膝を付いた。

 

「――ば、馬鹿な。な、何だ、何なのだッ、この力は、その技は!?」

「ディバイン・ストライク。コレが、俺の本当の技だ」

「なん、だと?」

「いつ、俺が凍結拳を得意としている――なんて言ったんだ?」

 

 目を細め、眉間に皺を寄せながら、俺はロキに例の事実を伝える。

 

「アレはなぁ、元々、食材保存用に憶えた技なんだ」

「しょ、食材……だと!?」

「強くなって戦闘に使えるようになっただけで、元々は俺の本分じゃ無いんだ。そういう意味では、ウルの奴には可哀想なことをしたかな?」

 

 俺が向ける憐れむような視線の先で、愕然といった表情を浮かべるロキ。いっそ哀れに感じなくもないが、今のダイヤモンドダストは、技として使える程度の威力を有している。其のため完全に食料保存用と言うわけではないのだが――まぁ、其処まで説明をする必要は無いだろう。

 

「巫山戯る……な。俺は、俺はロキ……ロキだ……」

「まだ立ってくるのか?」

 

 プルプルと震える脚に力を込め、怒りの形相をより深くしながらロキは立ち上がってくる。このガッツは、果たして何処から来るのだろうか? 俺のような子供に負けられないという虚栄心か? それとも単純に怒りの感情か? はたまた自身の夢見た支配欲からだろうか?

 

「襲撃……群狼――」

 

 腕を持ち上げ、既に風前の灯とも言える小宇宙を技へと注ごうとするロキ。だが、もう

 

「もう、諦めろ」

 

 ソレをするだけの力は、残されては居なかった。

 無言で放ったディバイン・ストライクに全身を打ち付けられたロキは、神闘衣を粉々に砕かれ空高く宙を舞う。

 ロキはその一撃でこと切れたようで、頭から真っ直ぐに落下をしたのだった。

 

 床に放射状の罅を入れて沈んでいるロキを軽く一瞥した俺は、

 

「ふぅ……ここまでは順調だが、完璧に計画失敗だな」

 

 と、この先に待ち受けているであろうドルバルを思って溜め息を吐くのであった。

 

 

 


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