聖闘士星矢 9年前から頑張って   作:ニラ

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 今回は獅子座の黄金聖闘士、アイオリアが登場します。
 とは言え、アイオリアが少し残念な人に成ってるかも知れない。

 それでも良いよって人はスクロールして読んでくださいね。






04話

 

 

 

『勝者、クライオス!』

 

 名前も知らないモヒカン刈りの男が、俺の目の前で痙攣しながら倒れ込んでいる。

 奴もこの日の為に相当の準備をしていたのだろうが、相手が俺だったのが運のつきだな。

 

 周りからの喝采を浴びながら悠々と試合場を後にし、教皇の下へと歩いていく。

 

「良くやったな、クライオスよ。お前がこの聖域に来てからまだそう時間も経っていないと言うのに……良くぞ其処まで己を鍛えた」

「いえ、全てはわが師シャカの指導の賜物です」

 

 恭しく頭を垂れて、笑顔を称えながら教皇の言葉に俺は答えていく。

 その間も周りからの歓声はやむ事は無く俺はニヤケだしそうな顔を、必死になって押しとどめていた。

 

 だが、だが……これで俺も晴れて聖闘士として認められるのだ。

 喜ぶなと言う方が無理という物だ。

 

「謙遜する事は無い、お前は自らの力でこの勝利を得たのだからな。――――さてクライオス、お前には神話の時代より受け継がれし聖衣を授ける」

「はっ!」

「受け取るが良い……今日からお前は雷電聖闘士だ」

「…………は?」

 

 妙な言葉に俺は目をパチクリ、パチクリと瞬かせてしまう。当然、さっきの『…………は?』と言うのは返事では無い。

 『何言ってるんですか?』という類のものだ。

 

 だって雷電聖闘士ってなんだよ?

 炎熱とか水晶とかと同じパチモノ? ……俺の仕事は「むぅ……あれはまさしく――――」とかの解説キャラか?

 

 いやいや落ち着け俺。

 幾らなんでも、そんな恐ろしい結末なんて有る筈は無い。世の中は理不尽だらけだとしても、こんな理不尽は認められない。

 

「教皇、その……もう一度良いですか?」

「今日からお前は雷電聖闘士だと言ったのだ」

「えぇっ! 冗談じゃないの!?」

「そして、コッチが今日からお前の上司になるギガース参謀長だ」

 

 俺の言葉を無視するようにして話を進める教皇、そしてその教皇の言葉に従うように目の前に現れた一人の老人(?)

 

「儂がギガースだ、これからしっかりと働くんだぞ」

 

 二カッと悪人のような笑みを浮かべている髭面の人物に、俺は数歩後ず去った。

 

 そ、そんな……そんな馬鹿な。

 なんで? なんでよりにもよってこんな事に? そもそも俺は電気なんて出せないってのに。

 

「うそだーーッ!?」

「嘘ではない」

「本当じゃ」

 

 俺の嘆きに非情にも追い討ちを掛けてくる二人。

 俺には出来るのは涙を堪えて、ただただ拒否の姿勢を見せる事だけだった。

 

「い……いぃ、いや「喧しい」――――ぐぇ!?」

 

 『メシリ…』と

 嫌な音が耳に届き、シャカの足が俺の身体を踏みつけている。

 

 って、シャカ?

 

 俺はガバっと跳ね起きて周囲に視線を巡らした。

 

「……此処は?」

「日も昇らぬ朝のうちから何を騒いでいるのだね、君は?」

 

 見ると周りに教皇など何処にも居ない、勿論ギガースも居ない。

 視界には住み慣れた処女宮の部屋が映っている。

 

「夢?」

 

 オチ?

 

 『何ともベタな』と思わなくも無いが、夢でよかったと本気で安堵の溜息を吐いた。

 

 いや、水晶とか炎熱とかが駄目ってんじゃなくてさ。正直な所、俺としてはそういったのは有り得ないだろ? というか宜しくないと思ってると言うか……

 

 あれ? 結局それって駄目って事なのでは……?

 

 兎も角、こんな悪夢から救い出してくれたシャカには万感の感謝をしなければ。

 

「……うぅ、ありがとうシャカ。貴方は感謝をしてもし足りないよ」

 

 出来うる限り敬いの心を込めて、俺はシャカにそう言ったのだが。

 

「何を今更、そんな解りきった事をわざわざ言っているのだね?」

 

 残念ながらシャカには俺の思いは届かなかった。

 

 

 

 

 第4話 修行の一コマ、取りあえず重りから

 

 

 

 

「何ものをも切り裂く大いなる聖剣――――『エクスカリバー!!』」

 

 バゴォン!!

 

 掛け声と同時に振り下ろした俺の手刀が、目の前にあった岩を粉々に粉砕する。

 一般人や聖闘士候補生から見れば拍手を貰えそうな光景なのだが、俺からすればとても拍手などは送れない。

 何故なら、とてもでは無いがお世辞にも切り裂いているとは言えない状況だからだ。

 

「ふー……コレも駄目か」

 

 そう言いながら、俺は懐からメモ帳を取り出して『エクスカリバー』と書かれているところに斜線を引いていく。

 今日はシャカにしては大変珍しい休日である。

 俺はその休日を利用して『折角小宇宙の燃焼が出来るようになったのだから――――』と、黄金聖闘士の技を真似ている最中だ。

 

 因みに、

 

 グレートホーン、スカーレットニードル、スターダストレボリューション、盧山百龍破等を試してみたのだが……。

 

 グレートホーン→只の押し出し突っ張り。

 

 スカーレットニードル→岩に穴が開くが如何見ても『針の穴ほどではない』

 

 スターダストレヴォリューション→そもそも使えなかった。

 

 盧山百龍破→上に同じ

 

 と言うように燦々たる結果になった。

 まぁ、当たり前といえば当たり前なのだが……。

 

「これは一先ず、流星拳とかライトニング・プラズマみたいな殴る系の技でお茶を濁すか……?」

 

 呟くように俺はそう言ってから、少しばかし考える。

 で――――それでも良いかな、と思う。

 

 正直、小宇宙を燃やせるようになったからって、行き成り黄金聖闘士の真似をするなんてのは調子に乗り過ぎだしな。

 

 一先ずは殴る系の技を鍛えて、将来的にライトニング・プラズマみたいに成る様に日々練習をする。

 んで、後は小宇宙を爆発させて攻撃する技を覚える為に、シャカの使っている『天魔降伏』のやり方でも教えてもらえば良いや。

 

 で、そうやってある程度形が出来たら、少しづつアレンジを加えていくという方向で――――

 

 

 

 

「行こうと思ったので、俺にライトニング・プラズマを教えてくれ」

「…………」

 

 俺は一つ前の宮、獅子宮に居るアイオリアにそう願い出た。

 やはり真似るのなら本物を目にしてから、更に言うのなら本人に教わった方が良いだろう。

 

 さてそのアイオリアだが、何故だかかなり渋い顔をして俺の事を睨んでいる。

 これはあれか? 礼儀がどうこう言う事か?

 

「――――教えてください?」

 

 俺は首を傾げながら言い方を変えて言ってみた。

 

「口調なんてのは、別にさっきのようなのでも構わない。

 ――――構わないが……何故俺に教わろうとする? お前はシャカの弟子なのだろう? だったらシャカに訪ねるのが筋じゃ無いのか?」

 

 と、アイオリアが口元を摩りながら訪ねてきた。

 どうでも良いけど、どうにも仕草が11歳には見えないなコイツも。

 

 俺は一呼吸おいてから、アイオリアの質問に応えるべく口を開いた。

 

「それはほら、シャカは光速拳を使え――――るけど滅多に使わないでしょ?

 技だって『六道輪廻』とか『天魔降伏』とか『天空覇邪魑魅魍魎』とか『天舞宝輪』とか……

 とにかく、直接蹴ったり殴ったりな技って使わないからさ、修行自体がどうしてそっち方面に偏ってる気がするんだよ。

 だから教えてくれって言っても参考に成りにくいんだよね。

 それに黄金聖闘士の中でも、普通に光速拳を技として使用してるのってアイオリアだけでしょ。だから――――」

 

 と、俺はそこ迄言ったところで口を止めた、何故なら目の前に居るアイオリアが眉間に皺を寄せて微妙な顔をしていたからだ。

 

 なんだ一体?

 俺は何か妙な事を言ってしまっただろうか?

 

「お前……良くシャカの技をそこ迄知ってるな? 俺達黄金聖闘士でさえ他の聖闘士の技は知らないことが殆だって言うのに」

 

 そっちか!!

 

 ってか、あれ?

 黄金聖闘士の人達って他の連中の技知らないの?

 冥王十二宮編でシャカが『既に知っているだろうが、天舞宝輪は――――』って言ってたのに。

 つまり、まだ時期的に知られていないって事か……。

 

 えぇっとフォローフォローと。

 

「それはまぁ――――弟子ですから」

 

 俺は視線をアイオリアから逸らして、遠くを見つめながらそう言った。

 こういう態度は自分で怪しいと思うけどね、まぁアイオリアはこう言っておけば――――

 

「まぁ良いか……」

 

 大丈夫だった。

 

「ところでだ、俺はお前に技を教えるのは正直構わんと思っている。

 だが、その事をシャカは知っているのか?」

「あ、それなら問題ないよ。前に休日の日は好きに過ごせって言ってたから」

「それは少し――――まぁ良いか」

 

 多分一瞬『意味が少し違うのでは無いか?』と思ったのだろうが、元来の性格か再びあっさりと納得してくれた。

 

 コレで良いのか黄金聖闘士?

 

「では今から、お前にライトニング・プラズマを教えてやる」

「はーい」

「……最初にお前の実力の程を知りたい。まずは全力で小宇宙を燃やしてみせろ」

 

 「了解」と一言口に出してから、俺は自身の小宇宙を燃やしていく。

 これがアニメのワンシーンだったら、何かしらの効果音とかBGMが流れるところなのだろうが……。

 残念なことに現実にそんな事が有る訳も無く、俺は無言のまま小宇宙を燃やすことになっている。

 

 そうして小宇宙を燃やして30秒ほどか?

 黙って見ていたアイオリアが徐に口を開いてきた。

 

「クライオス、お前がシャカに師事して一年、その期間でそれだけ小宇宙を燃やせるように成った事……正直驚嘆に値する。

 だが、ハッキリ言おう。

 ……お前ではライトニング・プラズマを使うことは出来ない」

「えぇッ!? どうして!」

 

 俺はその言葉に声を上げてしまった。

 何せ、俺では『連続で突きを放つ技』も使えないと言われたのだから。だが、

 

「今のお前では、光速拳を放つなど不可能だからだ」

「……はぁ?」

 

 続いて言われたアイオリアの言葉に俺は暫し硬直した。

 

 光速拳ですか? しかも今ですか?

 

「良いか? 聖闘士の闘法とは、その内なる小宇宙を燃やすところにある。

 普通の人間が持っている五感、そしてそれを超えたところに有る六感……これが小宇宙だ。

 だが光速の動きを身につけるにはその更に上、第六感を超えた究極の小宇宙、第七感『セブンセンシズ』に目覚めなくてはならない」

「…………」

「自分に何が出来るのかを考え、それを実践に移そうとする心構え……それ自体は評価に値する。

 だが哀しいかな、今のお前ではそれをするだけの『力』が無いのだ」

 

 つまりアイオリアはどういう訳か、俺が『ライトニング・プラズマを教えてくれ』と言った言葉を、

 『ライトニング・プラズマを使えるかどうか見てくれ』と勘違いしたと言うことだ。

 

 ……どう聞いたらそう勘違いするのだろうか?

 俺の発音が悪かったか? 一応、今の俺は生粋のギリシア人なんだが?

 

「アイオリア違う、そうじゃ無いから。

 俺だっていきなり『むぅ……幾つもの閃光が走ったと思えば――――』みたいな事が出来るとは思ってないから」

「……そうなのか?」

「当たり前でしょう。ってか、俺の回想シーンの話を聞いてた?」

 

 そう言うと、アイオリアは「む……」と呻くように言葉を漏らしてから腕組をする。

 

「うむ聞いてはいた。

 要は強くなるために技を見に付けようとしている――――と判断したのだが? 間違ってたか?」

「……いや、まぁそれでも良いけどね」

 

 俺は溜息を付きたい気持ちを必死で押さえ、かろうじてそう言った。

 

「……解った。詰まりは、光速拳を放つことが出来るように成るまで鍛えて欲しいと言うことか?」

「……えぇまぁ(初めからそう言っていたつもりだったんだけど……大丈夫かこの人?)」

「そういう事なら任せておけ。幸いシャカの許しも出ているようだしな。

 しかし――――俺はシャカのように甘くは無いぞ」

「え?(アレよりもキツイの?)」

 

 勘違いや失敗も何のその、アイオリアは笑顔で俺に脅しをかけてきたのだった。

 

 

 

 

「アイオリア……何コレ?」

 

 現在の俺の状況。

 怪しい重りを両腕と両脚に二本づつ巻き付けられており、それがやたらと重過ぎるためまともに動けない。

 

「俺が特注で作らせた重りだ。一つ20kgだから、合計…………120kgある」

「160kgだよ……」

「ふむ……まぁ、細かい事は気にするな。100kg以上だと言い直せば同じだ」

「8歳の子供に、腕一本で40kgとか無茶苦茶だと思わないの?」

「俺も昔やったことだ」

「またその理論か……腕が千切れそうなんだけど?」

「安心しろ、俺は千切れ無かった」

 

 俺は小宇宙を高め、何とか身体を支えながら、

 

「……黄金聖闘士ってこんな連中ばっかりなのか?」注:恐らく人選ミス

 

 等と思っていた。

 

「さぁクライオス! 小宇宙を高めて拳を放って見せろ!! お前の拳の速度を俺が見届けてやる!!」

「はいはい……やりますよっと――――そりゃあ!!」

 

 やる気満々なアイオリアに一抹の不安を感じながらも、俺は言われたとおりに拳を繰り出していく。

 

 おぉ!?

 これは結構早いんじゃないか? こんな重りを付けた状態でこんな馬鹿みたいな拳を繰り出せるとは。

 秒間100発以上は確実に出ているぞ!? もしかして俺は、途轍もなく才能溢れる人間なのではないか?

 

 これなら重りを外せば――――

 

 その瞬間、俺の顎先を何かが下から上へと打ち抜いた。

 

「ゴハッ――――!!」

 

 そして訳も解らずに車田落ち(要は頭から地面に落下)を決めてしまっている。勿論、その際に地面砕いて中にめり込む事も忘れない。

 

 何だ? 何が起こった?

 

 突然のことに、俺は訳も解らず混乱していた。

 そして何とか倒れる身体を奮い起こし、めり込んでいた地面からはい出てくると、そこには腕を上に向かって振り上げているアイオリアが立っていた。

 

 結論:アイオリアが俺に一撃を見舞いました。

 

「一秒間に210発……遅い! 遅すぎるぞ!! そんな事ではライトニング・プラズマを身につける事など夢のまた夢だ!!」

 

 との事だ。

 どうやら俺の放った拳の速度に不満があったらしい。

 だが、それには俺の方だって異議ありだ。

 

「い、いや……一秒間に210発ってもの凄く早いでしょ? しかもこんな重りつけてるんだよ?」

 

 と、言う事だ。

 聖闘士として星矢が認められた時、アイツは秒間85発の拳しか繰り出していなかった筈だ。

 それを考えるのなら、俺のこの拳速は決して遅くは無いはずだ。

 

 それ所かむしろ早すぎる位の筈。

 

「確かにお前が目指すものが音速の拳、つまりは青銅レベルであるのならそれでも良いだろう」

 

 えっ秒間200発って青銅レベルなの? 注:既に白銀に片足を突っ込んでます。

 

「だがお前が目指すものは数百や数千ではまだ足りない、秒間億の拳を放てるようにならねば成らぬのだ!」

「いや、確かに光速拳を目指すのならそうだろうけど、今現在は無理だって――――」

「さぁ立てクライオス! 今日一日をかけて、この俺がお前を一人前の聖闘士に育て上げてやる!!」

「一日って……幾ら何でも一日じゃ――――」

「言い訳など聞かんぞ。そんな奴は聖闘士として……いや、男として認めん!!」

「えぇーーーっ!?」

 

 アイオリアの無茶ぶりに、俺の非難めいた声が辺りに木霊した。

 

 その後俺は、休日を丸々一日使ってひたすらに拳を振るっては光速で殴られると言う時間を過ごすことになった。

 顎が痛いよ……。

 

 一応何度か防ごうとは思ったのだが、全くの無意味。気づいた時には既に俺は空を飛んでいるのだから……。

 

 

 今日の成果→拳速が3倍近くに上がった。

 

 今日の教訓→人選の大切さを身を持って知ることが出来た。

          聖闘士にも初等教育が必要だと本気で思った。

 

 

 因みに、アイオリアの扱きが終わった後の彼の台詞

 

「むぅ、今日一日では無理だったか……だが安心しろクライオス。次のお前の休日には、俺がまた直々に稽古をつけてやろう」

 

 ロックオンされた。

 

 更に俺が傷ついた身体を引きずって処女宮に帰った際に、出迎えたシャカが言った台詞。

 

「随分と遅かったな? 既に夕餉を済ませた私は湯浴みに行くが、お前は『食器の片付け』をしておきたまえ」

 

 でした。

 

 


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